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歓喜の島



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【この小説が収録されている参考書籍】
歓喜の島 (角川文庫)

歓喜の島の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

ハードボイルドなウィンズロウ

ウィンズロウのノンシリーズ物の長編だが、本書の主人公ウォルター・ウィザーズは実はニール・ケアリーシリーズの『ウォータースライドをのぼれ』に登場した落ち目の探偵。
あの時の凋落振りからは想像も出来ないほどのやり手の調査員として登場。なにしろ腕利きの元CIA工作員であり、調査会社に転職しても、FBI、イタリアンマフィア、その他アメリカの暗部に顔が利く人物たちにも対等に渡り合うほどの人物なのだ。

そして文体も1950年代の夜霧の雰囲気漂うハードボイルド調と、またしてもウィンズロウの新たな一面に触れられる作品である。古き良きアメリカ。まだ夢が夢として存在し、誰もが成功する可能性を秘めていた時代がセピア色の文体で語られる。行間には常にジャズが流れ、男と女は本心を揺蕩わせながらその日を生きるムードが漂っている。

そして事件はやはり男と女の間で起きる。マルタ・マールンドという女優で上院議員の浮気相手を軸に上院議員婦人のマデリーンはもとより、ウォルターの恋人アンまでもが関わっていることを知らされる。
魔性のような男には抗い難い女の周りで起こる不協和音。そして次期大統領候補を落としいれようとするスキャンダルの渦。
探偵ニール・ケアリーシリーズならばニールの減らず口をメロディに軽快に語られていた同種の事件が、ウォルターが主人公の本書では哀切と退廃を伴って語られる。

レイモンド・チャンドラーを意識しているのか、物語はウィンズロウの作品らしく常に核心に触れながら展開するのではなく、色んな登場人物をウォルターが渡り歩き、なすべきことが明確になってもそこに急進していかない。寧ろ彼は自らの恋人アンとのことが気がかりで、仕事よりも彼女との関係に腐心することが多い。
そして物語のアクセントとして使われるのが酒。夜の酒場をウォルターは彷徨する。

しかしそんな回り道も全てが一連の事件に収束していくのが最後の方で判明する。いやあ、この手際にはちょっと驚いた。

また折に触れ、ところどころに挿入されるウォルターの父親からの警句がまた実に効いている。豊かな人生経験に裏打ちされた含蓄溢れるその言葉はいちいち頷くことしきり。
全てノートにメモって自身の人生の教訓、または道標にしたいくらいだ。

やがてウォルターは次期大統領候補をスキャンダルの汚辱にまみれる決定的な証拠を摑むがゆえに、敵味方から襲われる存在になる。この絶対的な状況を打破する最後のカードが実に巧妙。
これはまさにエドガー・フーヴァーなるFBI長官という影の大物の脅威に50年代のアメリカが包まれていたことを示すわけだが、いやあ、本当に最後までどうなるんだろうと思いました。

そんなウィンズロウの新境地を切り開く作品だが、それでもやはり今までの作品と同様に政治家のスキャンダルが物語の要素だというのもそろそろ飽きてきた。
思えば第1作の『ストリート・キッズ』もこの次期大統領候補と目される上院議員の、スキャンダルを未然に防ぐだめに不肖の娘を確保するという内容だった。この政治的スキャンダルはウィンズロウ作品にはけっこう取り扱われているテーマであり、純粋にスラップスティック・アクションに徹した『砂漠で溺れるわけにはいかない』からウィンズロウの新境地への幕開けと思っていただけに本書のプロットは期待とは違ってしまった。

しかしこれは私の捻くれた感想であることを忘れないでいただきたい。本書はそんな政治的策略が巧妙に絡んだ、ハードボイルドを主体とした優れた作品であることは間違いない。ただこちらが期待した物が違ったというだけなのだ。

ウィスキー片手に50年代の煙る街ニューヨークを舞台にジャズが漂う男と女が交錯するハードボイルド小説を読んで、浸りたい方にはお勧めの1作だ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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