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モーダルな事象



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モーダルな事象の評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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(8pt)

モーダルな事象の感想

先に「桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」を読んでいる。こちらは爆笑ミステリだったが、このモーダルな事象は、また違った色合いのミステリだった。クワコーの脱線ぶりは同じだけれど、起きる事件は本格ミステリのように
謎めいている。そして探偵として活躍する北川アキと元夫の諸橋倫敦のコンビが動き出す、第二章のミステリーへの実践的アプローチから二人の謎への挑戦を読者も一緒に追うことになる。この二人の行動がいろいろ調べまわる合間に飲んだり
食ったりするわけだけれど、その辺の描写というか書き方が、さすが芥川賞作家だけあって上手い。下手なグルメレポーターのコメントよりよほど伝わる。読んでいて咽喉が渇いたり腹がへって何かつまみたくなってしまう。飲み食いしながらの推理と閃きなどが二人を突き動かし真相へと導くわけだけれど、合間に入るクワコーの行動と妄想じみた話の流れが実は最後の方で交差する仕掛けになっている。文章は確かに深い語彙をさらりと使って上品な感じで読ませるが、くだけたクワコーの
生活の様子や下品なところも適切な言葉で笑いを誘うなどその筆力は本物で、かなりの長編であるが読み疲れなどは感じない。ミステリ部分は結局人の繋がりで、この部分を解していけば真相に至るわけだ。事件はやはり痴情のもつれ、怨恨、物取りなんだね。100%通り魔の犯行ならば探偵の出る幕はないわけだ。手にしたとき予想外の厚さで驚いたが、そう時間もとらずに読み終えた。もと夫婦の探偵コンビが面白かった所為でしょう。本文の一節に、なるほどと、クワコーは頷き、いわゆるマルチというやつですねと、余計な世辞を口にすると、女と新城が声を合わせて笑い出したのは、マルチなる言葉の時代遅れ感に反応したからだったが、クワコーは笑いの意味がよく分からず、特に悪い気もしなかったので、一緒になって笑った。〔なるほどと〕以下はクワコー視点寄りの記述ですが、そこに〔余計な〕といういわば神の視点からの形容詞がはいり、続いて〔マルチなる言葉の時代遅れ感に反応した〕は女と新城の視点、続いて〔笑いの意味がよく分からず、特に悪い気もしなかった〕はまたクワコー視点、というふうに一文で目まぐるしく焦点化のピント合わせがやり直されます。等筆者の解説がありますが、これは読ませる側が意図して書くテクニックでしょうが、読む側はなんの違和感もなく読み進むので、これは読ませる側と読む側がシンクロしているといえると思います。本を読むという行為はこういったことなのだと今さらながら感じました。このあたりがすれ違うと苦手な作家という認識になるのでしょう。

ニコラス刑事
25MT9OHA

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