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鷲の驕り



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【この小説が収録されている参考書籍】
鷲の驕り
鷲の驕り (ノン・ポシェット)

鷲の驕りの評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(8pt)
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先見性に優れたからこその見誤ることの哀しさ

1997年の香港返還に向けて日本、中国、アメリカの策謀ゲームについて新人離れした筆致で颯爽とデビューした服部真澄氏が次作の題材として選んだのは複雑怪奇な特許の世界だ。

特に秘密主義であるアメリカの特許の世界に微に入り細を穿った綿密な内容で特許に群がる人々の策略を描いていく。

読中、この物語はどこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションなのだろうかと、戦慄を覚えた。

正直『龍の契り』は力作とは感じながらも1997年の香港返還に纏わる密約とそれに関する陰謀というスケールの大きなテーマが話題となって先行したせいか、緻密な取材に裏付けられた膨大な情報には感心させられたものの、それらを上手く消化できずにどこか実の無さを感じたが、2作目の本書では当時の特許に纏わる各国の暗躍ぶりと各組織の情報が、前作以上の量でありながらもごく整然と整理され物語に溶け込み、実に理解しやすくなっている。その筆致はどこか海外の謀略小説家のそれを髣髴させ、落ち着きや余裕さえ感じされられる。
2作目でこれほどまでに成熟するとはこの作者の技巧に素直に驚かされた。

特徴的なのは実在する企業や商品の固有名詞を多用しており、それがこの作品で描かれるフィクションとの境目を曖昧にし、どこまでが実話でどこからが作り話なのかが解らなくなっていくところだ。つまり実にリアルなのである。
そのリアルさゆえにアメリカの最先端技術の独占しようとする秘密主義的な特許システムの特異さが異常に際立って読者の頭に刻み込まれていく。この技法が私をして先述の想いを抱かせたのである。

物語はある「石」に関するアメリカの秘密特許を軸に実に多彩な組織や人物が関わる形で繰り広げられる。

まず主人公であるコンピュータ・セキュリティのエキスパート、笹生勁史は図らずも通商産業省の機械情報産業局局員、鍛代温子の依頼でアメリカの特許王エリス・クレイソンが所有する日本の企業を食い物にしている『サブマリン特許』を無効にすべくその素性を洗うことで関わっていく。

その特許王エリス・クレイソンは渦中の特許を所有する謎めいた人物である。

かつて笹生によって逮捕された伝説のハッカー、ケビン・マクガイアは出所後、マフィア上がりの実業家ロッコ・オラルフォに飼われる形で彼が不法にアメリカの特許商標庁から手に入れた件の特許をシュレッダーから再生することで核心に迫っていく。

ケビンを利用してアメリカの秘密特許を手に入れ、ひと儲けを企むロッコ・オラルフォはやがてその中にあった人工ダイヤモンドに関する特許を、アメリカを代表する巨大複合企業体ユナイテッド・エレクトリック(UE)の会長兼CEOのジョン・エイカーズに売ると共に以降も秘密特許を手に入れるビジネス・パートナーとなる。

ジョン・エイカーズは世界のダイヤモンド市場を牛耳るダイヤモンド・コンソリデーテッド(DC)の総帥トマス・リッポルト卿と組み、数兆ドル規模の利益を得ようと画策する。

そして世界に公表されない数々の秘密特許を所有するアメリカでもエリス・クレイトンを巡ってCIAと国防省がしのぎを削り合う。

とこのように非常に複雑な構図と関係性でそれぞれが有機的に結び合い、謎の特許王エリス・クレイトンと巨万の富をもたらす一大ビジネスの種となるある「石」に関する特許を巡ってパワーゲームが繰り広げられる。

しかし哀しいかな、本書のような国際謀略小説、特に最先端技術を扱った謀略小説では作者の先見性が問われる物となるが、その予測を見誤ると今回のように刊行から十数年経って読むようになると、現在との乖離に苦笑いをしてしまうしかなくなってくる(なんせウィンドウズ95の頃の時代だ!)。

しかしそれは単なる瑕疵に過ぎないだけの読み応えと一級のプロットがこの作品には内包されている。まさに世界に比肩する国際謀略小説がここに誕生したのだ。
デビュー2作目でこのクオリティと、色々な組織や産業スパイなどの手駒を交えながらもきちんと整理された情報の数々の手際の良さに読みにくいと感じる読者は皆無に等しいだろう。
私は読み終わった時にまた一つ新たな知見を拡げてくれる作品こそが読書の醍醐味であると思っているが、本書はまさにその願望を叶えてくれる一冊であった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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