(短編集)

清談 佛々堂先生



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    初公開日(参考)2004年03月
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    短編集

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    清談 佛々堂先生 (講談社文庫)

    2007年09月14日 清談 佛々堂先生 (講談社文庫)

    いつもブツブツ文句をいうから、笑った顔が仏のようだから、「佛々堂先生」。平成の魯山人とも呼ばれる美の達人が東奔西走、降ってわいた難事を人知れず解決する心躍るミステリー。書画、骨董、季節の室礼、現代美術に美食まで…和のトリビア満載の、欲張りで心癒されるエンターテインメント!ご堪能あれ。(「BOOK」データベースより)




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    No.1:
    (10pt)

    一級の工芸品のような作品集

    稀代の目利きと名高い、通称“佛々堂先生”に纏わる古美術をテーマにした連作短編集。

    まず「八百比丘尼」は椿画で一躍名の売れた関屋次郎という画家のエピソード。
    彼の代表作“八十八椿図屏風”は彼の代表作であり、まだ在野の素人画家であった関屋次郎の許に訪れた画商によって頼まれて製作した作品だった。一躍その大作で世に知られるようになった関屋は今や京阪神の女将連中が訪れては作品をたくさん頼まれるほどの人気画家となっていたが、関屋はある絶望を抱えていた。
    元々“八十八椿図屏風”は百椿図として頼まれたが依頼人からの知り合いの米寿のお祝いに送りたいという突然の変更により、八十八になった経緯があった。そのことに不満を覚えた関屋は当時内縁の妻であり、送られてきた椿を生けて絵のモデルに仕立て上げていた可津子と別れてしまった。そしてそれ以来彼は同じ椿を構図を変えて書いているだけなのだと告白する。そして最後に書かれた白寿という椿は依頼人だった佛々堂先生への当て付けの意味を込めて書いたのだと、品評会に来た美術雑誌の記者、木島直子に話すのだった。
    その話をそのまま佛々堂先生に伝えると先生はある一計を案じる。

    続く「雛辻占」はある離島の小さな和菓子屋で幕が開く。
    とある神社の門前町で和菓子屋を営んでいた「もろたや」は数年前の火事で店を焼失し、漁師町のある離島で小さな店舗を開いては細々と商いを続けていた。
    そんなある日古いワンボックス・カーで訪れた客が店の看板商品である蛤辻占3/1~4にかけて一日200袋収めてほしいと奇妙な依頼があった。既に老境に入った父が焼く蛤の最中は以前の店でも好評だったが、島に移ってからは火事のショックで気力も萎え、一日売れる分だけを焼くのみだったが、その父の後押しで引き受けることにした。
    一方新進気鋭の陶芸家小布施千紗子は父親であり高名な陶芸家でもある康介の2世だと云われることに嫌気が差していた。その満ち溢れるエネルギーは創作意欲を沸々と滾らせるほどに十分なのにその作品はどこか父親の作風に似てしまうのだった。
    そんな矢先友人で彫金をしている小松啓子から3/1に大阪のとある某所へ一緒に行かないかと誘われる。しかもきちんとした和装で来るようにと念を押されてしまった。
    当日駅で待ち合わせをしていると、続々と和装の女性の姿が行き交っているのに千紗子は気付く。駅にいた一人の男に何があるのかと尋ねると佛々堂先生という風流人の家が3/1~4の間、一般開放され、がらくたフェアが開かれているのだという。これらはみなそこに向かう人波だった。


    飛騨高山で料亭を営む「かみむら」は店を切り盛りしていた兄の死で急遽東京の会社を辞め、店を引き継ぐようになった上村寛之。3編目の「遠あかり」では佛々堂先生によってこの料亭が盛り返す。
    店を引き継いだものの、右も左も解らぬ独身者である寛之は父と兄が遺した数々の工芸品や着物をどのように活用したらよいか解らない。そんな折、店を訪れた上客が寛之に着物の着付の指南を買って出る。
    客の云われるままに和装をしたため、蔵に眠る飾り物の印籠を身につけられるうちに寛之は垢抜けた粋な料理人に早変わりする。その後も手紙や電話で客のアドバイスを訊いては店の調度品や自身の着こなしが洗練されるにつれ、口コミで客が増え、「かみむら」は危難を脱出することが出来た。
    寛之は客にお礼をしたいと申し出るが、決してその客は受け取らず、強引に品物を送っても、それ以上の高価な物で還ってくるのだった。
    そんなある日、客から着付けをした時の印籠を貸してほしいと依頼される。寛之はすぐさま送るが、それはまたすぐに送り返されるのだった。年に一回、そんなことが幾年か続いた後、今度は寛之に印籠をつけてこちらに来てほしいと云われるのだった。

    最後を飾る「寝釈迦」は実に気持ちのいい作品だ。
    和田家は信州の旧家角筈家が所有する山の手入れを任されている山守りで民宿も経営している。和田克明は脱サラをして親の手伝いをするうちにこの山守りという仕事にのめり込んでいった。
    そんなある時、角筈家の当主が土地の一部を手放して家を美術館に改装するという噂が立っており、その中にどうやら謂れのある山が入っているというのだった。その山は克明の父が1人で手入れをしている山だったが、昔松茸が取れると云われて買わされた不毛の土地だった。しかしその噂が立ってから克明の父は腰が悪いと云って急に母親と湯治に出たまま、なかなか帰ってこなかった。
    そしてなぜか佛々堂先生がこの土地に乗り込んできた。どうやら角筈家が美術館に改装するのに一肌脱ぎに来たらしいのだが…。


    服部真澄氏と云えば国際謀略小説やコン・ゲーム小説、そしてビジネスの世界に焦点を当てたエンタテインメント小説のジャンヌ・ダルク的存在だが、古美術や骨董品の目利きとして名高い通称“佛々堂先生”が登場する連作短編集はそれまでの彼女の作風を180°覆す、日本情緒溢れる古式ゆかしい物語だ。

    佛々堂の由来は仏のような人だから佛の字をあてたとも、いつもぶつぶつと文句を云っているからと2つの説があり、どちらが正しいかは先生と関わった人によって違うだろう。

    扱われる題材は日本画、和菓子、焼き物、和食に山守りと日本に昔から伝わる伝統の物や仕事。そしてそれらが抱える問題は先細りする産業であることだ。
    いい腕やセンスを持っているのにそれに気付かない製作者がいる、才能はあるのに一皮剥け切れない芸術家がいる、止むを得ない事情で店をたたまざるを得ない名店がある、
    佛々堂先生はその本質を見極める目を持って、彼ら自身ではどうしようもできない見えない壁を突き抜けるお手伝いをする。
    ある意味再生の物語であると云えるだろう。

    そして話中に挟まれる名品の数々に目が奪われる。殊更に贅を尽くしているわけでもないのに、手に入れるのさえ難しいとされる名品が実にさりげなく佛々堂の広大な自宅には配置されており、その筋の目を持った人でないと気付かないほどの自然さだ。
    しかもきちんとそれらが使われていることがこの佛々堂先生が粋人である証拠だ。元々使われることを目的に生み出された工芸品や陶芸品が、いつの間にか目の保養とばかりに飾られ、触るのさえ憚れるようになり、それを鼻高々で己の権力の具現化した物のようにしたり顔で来客に見せびらかすような厭味ったらしいことは一切しない。道具は使われることが本望であり、素晴らしいものは使われてこそ活きることを知っている物事の本質を見極めた人物なのだ。

    そして各話に挟まれる薀蓄がこれまた面白い。椿が品種改良しやすく、1万を超える品種があるとは初めて知ったし、木の実を指で潰して残った香りと共に盃の日本酒を飲むという飲み方のなんと粋なことか。

    しかしこれほどまで作風がガラリと変わるものだろうか?
    作者名を知らずに読むと、例えば泡坂妻夫氏あたりの作品だと思う読者がいることだろう。

    元々作者には海外を舞台にした作品が多いため、作品にはカタカナが多用されているが、本書ではそれらを封印するかの如く、漢字とひらがなで表記することで情緒やわびさびと云った粋な世界を感じさせる。

    泡坂作品を例に挙げたのは2編目の三角籤に関するトリックが披露されたマジシャンでもあった泡坂氏の作風そのものに感じたからだ。

    ただ違う点があるとすれば、泡坂氏が江戸の粋を描いたならば、服部氏は上方の粋を描いたところだ。

    この違いは例えば泡坂氏の描く登場人物はどこか衰退しつつある職人の道を愚直なまでに突き通し、それが女性に対する思いを正直に伝えらない不器用さに繋がっているような、いわば熱き思いを胸に秘めた人物が特徴的に語られるように思えるが、本書の佛々堂先生は古びれたワンボックス・カーに道具や資材を積み込んで、とにかく「これは!」と思った物を手に入れ、または廃れさせぬよう自ら動いて後押しする、能動的で行動的なところが特徴的だ。最後の1編では自分が守ろうとしている場所に立ち入ろうとする悪徳鑑定人を一喝するほどの気負いをみせるほどだ。

    そして作者が本書のような作品を綴ったのには恐らく佛々堂先生が溢す言葉にもあるように、昔なら常識とされたことが世代間の伝達が途切れてしまったために、物事を知らない人が多すぎることに危機感を抱いたからだろう。私も実は年配の方が常識と思っていることを知らないことに気付かされ、失笑を買うことがある。日本人が古来、その知恵によって生み出した機能美を21世紀に残すため、伝えるためにこの作品を著したと私は思ってしまうのである。

    服部作品では約260ページと最も分量が少ないのに、実に濃厚で深みを感じさせる短編集。そして今まで服部作品で弱みとされていたキャラクターの薄さが本書の佛々堂先生で一気に払拭されてしまった。

    これはまさに掘り出し物の逸品だ。
    作家服部真澄氏が扱う主題からストーリー、プロットを丹精込めて練り込んだそれこそ一級の工芸品のような物語の数々である。

    正直に告白しよう。
    私は本書が服部作品の中で一番好きな作品である。既に手元にある続編を読むのが非常に愉しみだ。


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    No.2:
    (5pt)

    細工は流々、あとは仕上げをごろうじろ。てな先生の洒落た遊びに、堪能させられましたぁ

    関西きっての粋なおっちゃん、芸術百般の目利き、佛々堂(ぶつぶつどう)先生が活躍する連作短篇集。佛々堂先生の、細工は流々、あとは仕上げをごろうじろ、とでもいった企みごとの仕掛けの巧妙さ、オチの清々しさに、これはよいなあと堪能させられました。
     登場人物のひとりが、「なんときれいな遊びだろう。とても、普通のおっちゃんの出来ることではない」と感心しているとおり、佛々堂先生の企みごとの洒落ていること、ほうっと息を呑むものがあります。粋な動きをするからくり人形の所作に見とれてしまうみたいな、なんとも雅やかで深みのある魔法のような味わい。趣向を凝らした佛々堂先生の企みが、話のおしまいのほうで見えてくる、その華麗な彩りの絵模様に、毎度、うならされてしまいましたよ。
     「八十八椿図屏風」の絵にまつわる謎のからくりがひもとかれてゆく「八百比丘尼」。桃の節句の雛祭り、佛々堂先生の洒落た心遊びを描いた「雛辻占(ひなつじうら)」。秋草の風景と、江戸の印籠の風流とが重なり合い、やがて夢幻の宴が蜃気楼のように立ち現れる「遠あかり」。山の恵みの素晴らしきこと、まさに秋の葛籠(つづら)の如し、とでもいった風情の「寝釈迦(ねじゃか)」。四つの短篇それぞれが、馥郁として香ばしい旨味にあふれた名品でしたねぇ。
     文庫表紙カバーに採られた「鳥獣人物戯画」(部分)の装画がまた、本篇の雅味にふさわしく、洒落ているんだなあ。さほど期待しないで出かけた骨董市で、素晴らしい逸品を見つけた気分。
    清談 仏々堂先生Amazon書評・レビュー:清談 仏々堂先生より
    4062123541
    No.1:
    (4pt)

    服部真澄の新境地展開

    綿密なリサーチをベースとした服部真澄女史の要素はないが、ストーリー展開は正に服部タッチで、服部真澄ファンなら安心して読むことができよう。今回は短編集だが、全ての物語に佛々堂先生が随所に絡んでおり、楽しめた。描写は相変わらず細かくイメージが沸々と湧き出るが、軽く読めると思う。
    清談 仏々堂先生Amazon書評・レビュー:清談 仏々堂先生より
    4062123541



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