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Tetchy さんのレビュー一覧
Tetchyさんのページへレビュー数896件
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薬師寺涼子シリーズも三作目。第二作からその楽しみ方が判ったこともあり、今回も純粋に楽しめた。
第三作目で舞台を海外はフランスに移しての傍若無人ぶりを発揮するというのは田中作品の王道だが、このシリーズの特徴は他のシリーズに比べると描写や手法とに残虐性の色が濃いと云う事。 『創竜伝』とかは特に相手を必要以上に傷つけないという配慮で動いているのに対し、お涼や泉田は結構過激に立ち回り、相手を時には必要以上に痛めつける。他のシリーズはそこに至るまで相手の極悪非道ぶりをこれでもかこれでもかと見せ付けられた上の活劇シーンに移るのだが、このシリーズはその区別無く主人公が痛めつけるのも特徴的である。 また主人公のお涼が途轍もなく金持ちでしかも警視正という地位で権力も持っているのも他のシリーズにはない特徴で、どうにも行き着く所がお互いの権力の張り合いでしかなくなるのが評価としてはマイナスか。 ストーリー、プロットは比較的単純。特に北岡はストーリーの中での扱い方からしてもあの正体は当然でしょう。ハリウッドのアクション映画を意識したような展開、幕切れはちょっと無理しているような気もする。 『銀英伝』が余りにもスケールが大きく、叙情性に溢れているので非常に浅薄な印象を受けるのは仕方ないか。これはこれでよしとしよう。 |
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5編の長短編が含まれた作品集。
順を追って感想を述べると、まず「ハードシェル」。これはクーンツお得意の異形物サスペンス。 次に「子猫たち」。これは奇妙な味の短編とでも云おうか。正直、最後のオチはよう解りません。 「嵐の夜」はこれまたSF。しかしこれは設定が非常に優れている。ロボットが地球の最高知能生存者として生活する未来。二世紀を寿命として作られているため、非常に頑丈でスリルを味わうのを何よりも欲している。そんなロボット達が従来得ている能力を最小限のものとし、山中へ狩に出た際に遭遇する最強の獣“人間”。自分としてはこれがベスト。 作者お気に入りの「黎明」は実は各評論でも評価が高いもの。思っていたよりも後味がすっきりしなかったせいか、私としてはさほどいいとは思えなかった。 最後は長編『夜の終わりに』の改稿版「チェイス」。最初の事件の発端は読んでいて思い出したが、後の展開はほとんど忘却の彼方にあったので実はどう改稿されたのかが解らない。数ある初期作品の中でこの作品を改稿する物として選んだ動機は最後のあとがきに詳しいが、それを読んでも何故この作品を?という疑問は拭えなかった。 この1~3巻までの『ストレンジ・ハイウェイズ』シリーズはそのヴァラエティに富んだ内容からクーンツの作家の資質が全て凝縮されている、という意図で編まれた物だろうと思うが、私としてはどれも不完全燃焼といった感じ。クーンツはやはり長編作家だと思うがどうだろうか? ▼以下、ネタバレ感想 |
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前回セイヤーズの感想で、「推理」小説ではなく推理「小説」を(セイヤーズに)求めているのがよくわかったという感想を書いたが、今回、この公募原稿からなるアンソロジーを読むに際し、奇抜なトリックよりもやはり読ませる短編に興味が自然と行った。特に最初の「犬哭島の惨劇」、終盤の「シャチの住む密室」あたりはかつて私が綾辻作品に触れた時には感じなかった素人のあまりにもいやらしい筆の滑り具合をまざまざと見せつけられ、吐き気に似た嫌悪感を憶えた。思えばあれが大学1年の時の頃だからもう12年以上経っているのだなぁと感慨に耽った。
あの頃の私は寧ろ綾辻作品のミステリマニアの手による本格物というテイストを好んでおり、書評子がかなり手厳しい評価を下していたのに首を傾げていたのだが、この歳まで来るとその気持ちがよく解る。 おっと閑話休題。本題に戻ろう。 さて今回、最も印象に残ったのは「クロノスの罠」、「黒い白鳥」、「鳶と鷹」の3作品。「クロノスの罠」は本格推理に相応しい大トリックで綾辻氏の『時計館の殺人』の本歌取りともいえる作品で見事に消化していた。 また実作家の手による「黒い白鳥」、そして公募による「鳶と鷹」は本格のトリック、驚愕の真相はもとより、その登場人物に血が通っていること、また特に「鳶と鷹」は小説を読ませる事を素人とは思えないほど熟知している構成の確かさを感じた。まさか素人の短編で落ちぶれた刑事の復活劇が読めるとは思わなかった。 前々巻の「マグリットの幻影」のような新たなる知識を与えてくれるほどの傑作は無かったにせよ、まずは及第点のアンソロジーであった。 |
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作家というのは長編タイプと短編タイプという2種類に分かれるとよく云われる。勿論、どちらも得意―というかどちらも読ませる作品を書く―作家というのもいるが、セイヤーズに関して云えば、私は彼女は長編向きの作家だという結論を出す。
だからといって本作に収められた作品が駄作というわけでは全然無く、寧ろ佳作ばかりだといっても過言ではない。 特に作中に自作のクロスワードパズルを盛り込んだ「因業じじいの遺言」などは短編にするのが勿体無いくらいアイデアを積み込んでいる感じがする。また約30ページの作品の中に15人もの人物が登場する「白のクイーン」も仮装パーティという特殊な状況を活かした好品でアイデアが抜群である。 しかし、それでもやはりセイヤーズは長編向きだと思う。たった1つの単純な事件に300ページ、そして『学寮祭の夜』に至っては700ページと膨大な原稿を費やすことにシリーズを読み始めた当初は無駄が多いのではないかと思っていたが『学寮祭の夜』まで読むに至り、これだけの原稿を費やして描く事件やそれに纏わる人間たちの機微がたまらなく面白く、物語のエッセンスとなっていることに気付かされた。 短編では同じワンアイデアで勝負しているのだがそこら辺の小説部分が省略され、何か物足りない。私が「推理」小説ではなく推理「小説」をセイヤーズに求めているのが今回よくわかった次第である。 |
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今回のトリックは事件が起こっている最中で解読できた。だから列車ジャックの顛末がひどく冗漫に感じられ、島田氏自身も何だか早く書きたいところに行きたいのを持て余しつつ書いているような思いが行間から感じられた。だから途中までは駄作だなと思っていたのだが、やはり島田荘司、ただでは終わらなかった!!
恐らく今回はまず水晶特急の消失の謎が最初に浮かび、これに列車ジャックを絡ませ、そして誘拐事件を後付けのスパイスとして考えたのだろうが、いやぁ、なかなかに面白かった。御手洗シリーズのみならずこの吉敷シリーズにも幻想味を持たせるなど、島田荘司主義は誠に揺るぎない。また、今回吉敷を軸にした三人称描写ではなく、事件の当事者である雑誌記者の蓬田とその親友である島丘を軸に物語を進める事で、吉敷が事件に関わるものに対し、どのように映るのかを改めて描写することでマンネリに陥りがちなシリーズ物に新味を加えた。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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いやに密室物、館物が多い短編集だった。初版が1994年8月10日となっているから、正に新本格が熱を帯び、二階堂黎人氏や芦辺拓氏ら第二世代が続々と誕生してきた頃とマッチングしている。つまり、本格好きが第2の綾辻行人氏、法月綸太郎氏を我こそがと目指していた時期であったのだろう。
しかし、今回は前回に比べ、突出した物が無かったように思う。前作の感想に書いたが、目から鱗が落ちるような快感や新しい知識を得たような知的好奇心を満たす物、謎解き以外にも心に残る何かがある物、つまり理のみに走らず、情にも訴えかける物が無かった。 おまけに今回はトリックやプロットが途中で解る物も多く―それはそれで面白いのだけれど―レベル的には低かったのかもしれない。 いや、本格推理は読書を重ねる毎に利口になっていく分、多少の事には驚かなくなってくるという不利な特性を持つ。哀しい事だが、シリーズが進むにつれ、興味は薄れていくのではないだろうか? |
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今回の導入部はかつてのクーンツ作品の中でも群を抜く素晴らしさだろう。「命綱(ライフライン)」というキーワードが頭に捻出されると自らの意志とは別の意志が働いて、どんな方法をとってでもそこに失われる命があるならば駆けつけ、救出する男、こんな設定、見たことがない。これが非常に魅力的で一気に物語世界に没入させられた。
上巻はその救出劇のオンパレードでもう巻措く能わずといった状態。しかし、上巻の最後の航空機墜落のエピソードから少し勝手が変わってくる。主人公ジムが想定していた人物以上の救出が可能とされたからだ。 ここから下巻に至るわけだが、これが非常に残念な展開になる。これについてはネタバレ欄で述べよう。 『バッド・プレース』は世評の低さが不思議でならなかったが、今回はそれもかくあらんと得心した次第だ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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島田氏の短編集としては珍しく吉敷も御手洗も出てこないノンシリーズ物ばかりだった。短編集とは云え、一番短いのが冒頭の「ドアX」の70ページでその他2編はどれも100ページを超える作品で、どちらかと云えば中編集といった方が正しいだろう。
ハリウッド女優を夢見る女性のあまりに出来すぎた世界が語られる「ドアX」はその明かされた真相からして長編『眩暈』の変調のような味わいがある。最後に志賀直哉の短編「出来事」を髣髴させるところは作者の手腕だが、「ドアX」の正体が途中で判るのが災いして却って蛇足になった感がある。 次の「首都高速の亡霊」はタランティーノの映画に触発されたような内容で、ある一点から語られる凶事がそれぞれ登場人物の視点、立場で語られることでからくり仕掛けのおもちゃを見ているようで結末の恐ろしさが強調されるというより物語進行のユニークさが印象に残った。最後の死体が首都高速の外灯に持たれるように偶然腰掛けるような姿勢になるというのがどうしても想像できず、これさえもっと簡潔であればすっきりした好編になったのだが。 最後の「天国からの銃弾」は島田的ロス・マクドナルド調綺譚といった感じで、結構好きな一編。定年退職した老人の富士山を撮り続ける趣味を発端として息子のソープランドの屋上での首吊り死が起き、その事件の真相を調べていくうちに息子夫婦の知られざる暗黒が次第に明かされていく。 しかしこれには一点、大きく物語のリアリティに欠ける部分がある。主人公の老人がプロ級の射撃を持つ、その事ではない。毎週射撃の練習を神奈川県のど真ん中でやる、これも瑕疵ではない。その一点についてはネタバレの欄に記載しておこう。 以上3編、どれも佳作だがそれぞれに弱点や瑕疵を備えているので今回は7ツ星とする。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今回もクーンツは非常に魅力的な導入部を演出してくれる。
ふと目が醒めると知らない所にいる男、フランク。最初は簡単な依頼かと思われたあるコンピュータ会社の仕事で危機一髪の危難に見舞われる夫婦探偵。このフランクの、見知らぬ場所で目覚めるという設定のオチがテレポートだったとき、『ライトニング』など散々使い古された手の亜流でしかないのかと思われたが、最後に明かされるフランク、キャンディらポラード一族の血縁のおぞましさにはかなりガツンと来た。 これほどの真相はかの名作『ウィスパーズ』に勝るとも劣らない。しかし、ここまでやると次はどんな手が残されているのだろうか? しかし、往々にして苦労して手に入れた小説というものはその希少さゆえ駄作であるというのがパターンとして多い―売れないから重版されない、つまり手に入れにくい―のだが、今回は違った。寧ろ世評が低いのが不思議である。着地も突飛ながら私的には許せる範囲だし、結末もボビーとジュリーのエピローグもあって纏められている。 いやあ、東京、横浜、博多と探し当てた甲斐があったよ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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素人の手遊びという印象が読書前にあった。実際、最初の方は変に凝ったペンネームの人や、無闇に捏ね繰り回した表現を使う文体が散見され、やれやれといった感じだったのだが、後半の数編にはこれは!!と瞠目させられる物もあり、結果的には満足した次第。しかし、館物、山荘物、密室物が非常に多く、食傷気味である。また40ページ前後の作品にもかかわらず連続殺人が起きたりと贅沢に盛り込みすぎた作品もあり、この辺が逆に素人ぽさを醸し出しているのが皮肉だ。
しかし、現在ミステリ作家として活躍している柄刀氏の短編は、最後に人情のスパイスを仕込むなど、他の作品にないサムシング・エルスがあり、感心した。 最も驚いたのは新麻氏の「マグリットの幻影」。何よりも実体験的にトリックを実証する趣向が抜群で、正直度肝を抜かれた。正に「目から鱗」である。 今後このシリーズは更なる深化を遂げるのか、はたまたマンネリに陥るのか、期待と不安が入り混じっている。 |
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A・E・W・メースン!!大学生の時に『矢の家』を読んだくらいで、その作品も詳細はもはや定かではないが、秘密の通路をメイントリックにしていたのにとてもガッカリした記憶が鮮明に残っている。
そのメースンの作品を再び読むことになろうとは全く思ってもいなかった!!しかも映画原作というから二重の驚きである。よくもまあ100年以上も前の作品を映画化しようと思ったものだ。 で、前述のように『矢の家』では大変失望させられたメースンのこの作品、予想以上に面白かったというのが正直な感想。 「臆病者」の烙印を押された元将校の主人公が自らの誇りを取り戻すため、かつて「臆病者」呼ばわりした同僚を危難から単独救出に向かう。要約すればこれだけの話で、至極単純な構成なのだが、今回は婚約者の女性も同様に主人公を「臆病者」呼ばわりするのがミソ。しかも結構きつい性格をしており、おいおい、ここまで云うかとばかり主人公を貶める。だって周囲を誤魔化すためのダンスでようやく終わりが見えた時に、「何で私がこんなに苦しまなきゃならないの!」なんて云うか、普通!?ここらへんの容赦なさといい、更にこの女性―エスネという名前―を苦しめる盲目になった主人公の登場といい、作者はかなりの小道具を要して物語を盛り上げる。 最初の同僚の救出劇は同僚の口から元恋人に告白されるだけだったので、迫力に欠け、物語の主題は専らこのエスネの揺れる恋心を綴った先駆的ハーレクイン・ロマンス物かと心配したが、やはりトレンチ救出の顛末はもう迫力もので、いつ計画が破綻するものかと緊張感に満ちており、非常に堪能できた。 とにかく、100年以上も前に書かれた作品とは思えぬほど、中東戦争の描写の丹念さや物語の登場人物が織り成す心の綾などが非常に丁寧に描かれ、はっきり云って21世紀に残る作品といっても過言ではないだろう。メースンの評価を改める必要があると本統に痛感させられた。 |
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クーンツ初の本格冒険小説は、やはり他の作品と変わらず、実にクーンツらしかった。
欧米の水不足を北極の氷山の欠片を持ってくることで解消しようという田中芳樹の冒険小説を髣髴とさせる大胆な設定を皮切りに、いきなりの海底地震によって寸断された氷山に取り残されたプロジェクト・チーム、彼らを襲うのは皮肉にも自らが仕掛けた爆弾だった。しかも途轍もない嵐によってあらゆる救助は不可能。そして正体不明の殺人鬼がメンバーの中にいる。 どこまでも読者を飽きさせないこのサービス旺盛さ。あいかわらずメンバーの個性は類型的だが、読んでいる最中は気にならない。アリステア・マクリーンに敬意を表した作品だというが、私は彼の小説を読んでいないので正当な判断はつかないけれど、どうもその域には達していないように思われる。 この過剰なるサービス精神が名作を残すのを妨げているように思われるのだが、どうだろうか? |
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クーンツがベストセラー作家として確立されているだけに、ストーリーが定型化しすぎていると痛感させられた。映画にすれば各々の登場人物の演じる俳優のイメージが固定化される思いもした。
導入部はいつもながら物凄い。いきなりクライマックスを迎える。それから膨らむ主人公の周囲を取り巻くエピソードも興味深く、これを貫けばある意味、小説の大家としての地位も確立できるであろうと思うのだが、やっぱりクーンツは怪物や宇宙人が好きなんですねぇ~! 得体の知れない怪物の話は今までになく幻想的で想像力膨らむが、無敵度を強くしすぎたせいか、最後の対決は何ともしぼんだ内容になっている。ここがいつもながら作家としての脆弱さを露呈させているのだ。ベストセラー作家というのが必ずしも良い意味に採られない典型でしょう。 あと、主人公以外の登場人物の使い捨て癖が顕著だった。エドゥアルド・フェルナンデスはプロット上、死ぬことは必要だとしても、獣医のトラヴィス・ポター、弁護士のポール・ヤングブラッドなどは単なる怪異の証言者の1人でしかない。この辺の使い方が書き殴っているようでどうもいけ好かないのだ。 ともあれ、重傷を負った警官とその家族を主人公に、殺人鬼が実はカルト的人気を誇る映画監督だったことから起因する主人公達への冷たい世間の仕打ち、怪異にストイックに立ち向かう朴訥な老人、カウボーイスタイルが似合う老弁護士、宇宙人の来襲を疑問もなく受け入れる男、恐怖や死を知らず憎悪のみを糧に生物を征服しようとする地球外生命体など、エピソードや人物設定などを取り上げれば面白くなる要素ばかりなのだが、それらを十全に活かしきれないクーンツ。 しかし時々『ウォッチャーズ』みたいな傑作が生まれるから目が離せないんだよな~。 |
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またもセイヤーズ、恐るべし、と手放しで歓びたい所だが、今回はどうもそうは行かない。
まず賞賛の方から。岸壁で1人のロシア人が殺されている、このたった1つの事件について600ページ弱もの費やし、さらにだれる事なく、最後まで読ませたその手腕たるや、途轍もないものである。事件がシンプルなだけにその不可能性が高まり、今回ほど本当に真相解明できるのか、危ぶまれた事件は(今までの所)ない。しかも最後の章でまたも驚きの一手を示してくれるサービスぶりはまさに拍手喝采ものである。あの1点でトリックが全てストンと落ち着くのが非常に気持ちよかった。 しかし―ここからが批判である―、腑に落ちないのは結局動機が何なのか判らなかった事。意外な犯人という点では今回は申し分ないだろうが、動機が判らない。 しかしポーの『黄金虫』ばりの暗号解読といい、バークリーばりの推理の連続といい、かなり本格推理小説を意識した作品であるとみた。動機の問題さえなければ星10だったのになぁ。 余談だが、今回は表紙の装画に非常に助けられた。この装画がなければ現場の状況を克明にイメージできなかっただろう。イラストを描いた西村敦子氏に感謝。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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上下合わせて1000ページ強の超大作でしかもクーンツにしては文字のぎっしり詰まった作品で、なんと読むのに3週間弱を費やしてしまった。とにかくクーンツは冒頭が素晴らしく、今回もその例に漏れない。夢遊病の作家、突然遁走の危機に見舞われる若き女医、神を信じられなくなった神父、暗闇恐怖症のモーテル経営者など、一見何の関係もない彼ら・彼女らがある1つの場所に収斂していく手並みは流石。
ただ、なんかシドニー・シェルダンの作品を読んでいるような各登場人物のエピソードが非常に長く感じたのは確か。彼らの抱える悩みがある1点に収束していくのをクーンツ特有の「出し惜しみ文体」でちくりちくりと小出しにしていくのだが、とにかくくどい(まあ、その内容は結構面白いのだけれど)。 冒頭はサイコ・サスペンス、続いて軍事スリラーに、そして最後はSFと、かなり贅沢な作品であるのは間違いなく、当時としてはクーンツの集大成的作品だったのかもしれない。しかし、最後がいやにメルヘンチックな締め括り方をしていたのと、やはりどうにも無駄に長いという感が拭えず、総合的には平均的な佳作だと結論に至った。面白くないわけではないんだけどねぇ…。 |
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正直な話、SFでこれをやるかという驚嘆がまず最初だった。本編はユリアンがイゼルローンに移住してからヤン艦隊が初出動するまでの約4ヶ月間を日記形式で綴っているのだが、問題はそこ。
よくもまあ、これほど多種多様な内容を描いた物だと感心する。しかも所謂我々が住む日常的空間を想定した小説ならば作家という職業上、4ヶ月分の日記を考えるのはつまり自分の日常生活と照らし合わせて使えるものをピックアップしていけばよいのだが、これをSFでやるとなると世界観が作者の頭で描いた仮想空間であるため、迂闊な事を書いてしまうと矛盾や決してありえない事が生じ、収拾つかなくなると思われる。 しかし、そこを危なげなく処理している辺り、見事としか云いようがない。確かに各登場人物とのやり取り、日常生活のエピソードなどはSFとは関係ない部分も案外あったが、やはりイゼルローンからハイネセンへ捕虜を運ぶエピソードを物語の核に持ってきて、作者はいささかも恐れず、真っ向から勝負してきている。また膨大な登場人物が登場する本シリーズにおいて実はほとんど名のみでしか紹介されていない人物、特にリンツ、イワン・コーネフなどは如何に人間くさい人物かも記されていて、物語、いや彼らに深みが増した。 しかし、本作はいつもの10星よりもランクを下げて8ツ星とする。理由は本書にも書かれているが、物語の構成上、ユリアンの1人称叙述であるのはともかくとして、ユリアンの妄信的なまでのヤン崇拝の様がちょっとくどかった。 作者としては彼の親愛の度合いを伝えたかったのと、ヤンとユリアンの絆の強さを示したかったという意図があったのだろうが、ちょっと食傷気味。 |
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奥付の日付を見ると「平成五年十二月十日 初版発行」とある。この年限り行われた「角川ミステリコンペ」に出展された文庫書下ろしで装丁も当時のものであり、かなり貴重な一冊である。
古書的趣味はそれぐらいにして内容であるが、これが実に折原らしい。事実上のデビュー作である『倒錯のロンド』の系統に連なる作家志望の主人公が織り成す虚実入り混じった叙述ミステリで、本作も縦横無尽に現実と虚構との間を練り歩く。 前半は若手美人作家南野はるかを中心にしたドタバタミステリだが後半は彼女の存在を架空の者としながらも現実の者と肯定するメタミステリの様相を呈していく。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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クーンツにしては、という云い方は失礼かもしれないが、複雑なプロットの物語でかなり読むのも苦労をした。タイムトラベル物の一つなのだが、とにかく複雑な構成。パラドックスに関してかなりの時間を費やして考察を行った節があるのだが、最後の敵クライトマンがクリーゲルのチャーチルとヒトラーに対して行った工作が成功した後にも存在していたのは何故?などという疑問もある。
先に読んだ『奇妙な道』にアイデアは似ていると思う。特に防戦に失敗して主人公が死亡した後に、別の手段でやり直しが効くところは正にそっくりだ―まあ『奇妙な道』の方は何度も何度も繰り返され、アンフェアな印象があったのだが―。 しかし、いつものクーンツ作品と違い、事件解決後の後日談があるのも珍しい。ここまでするのならもう一つサプライズがあっても良かったかなとも思ったが。しかしローラの半生を丹念に描くところなんかはシドニー・シェルダンの小説を読んでいるかの如くで、特に『ゲームの達人』が発表された年とこの作品が発表された年とを比較してみるのもまた一興だろう。 |
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