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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数699

全699件 601~620 31/35ページ

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No.99:
(7pt)

前作のヒーローの凋落ぶりが痛々しくてショック!

前作『推定無罪』で主人公サビッチの弁護人として快刀乱麻の活躍ぶりを見せたスターンが今回の主人公だが、前作とは打って変わって妻の自殺で始まる冒頭から肉欲に溺れていく凋落ぶり、はたまた長男ピーターに鼻で笑われるダメ親父ぶりをこれでもかこれでもかと見せつけ、結局スターンも“人”に過ぎないのだなと思わせる。
人間ドラマとして本書は最高の部類に入るだろう。それは人物描写の緻密性、物語としての結構を見ても間違いない。
しかし、私は今回求めたのは“切れ味”だった。前作『推定無罪』に九ツ星を付けさせる原動力となったスターンの、弁護士としてのそれ、物語としてのそれである。
ディクスンの、スターンに対する羨望は中盤で判った。だからその点では胸を打つものは無かった。ただ、解説の北上次郎の云うように、私が初老の域に達した時に本書を読み返せばまた全く違った感慨を抱き、採点も(良い方向に)変わるであろうことは想像に難くない。
立証責任〈上〉 (文春文庫)
スコット・トゥロー立証責任 についてのレビュー
No.98:
(7pt)

異国情緒とロマンスと。

光文社による裏表紙の紹介文によると本書は「異色の旅行推理集」となっている。確かに“異色”である。収録された3編全てにおいて主人公は名前すらない男で、しかも「早見優」、「カトリーヌ・ドヌーブ」といった実在の人物が出てくるあたり、実話のような錯覚を憶える。
だが“推理集”というのは些か大袈裟だろう。確かに各編において謎はある。しかし本書は異国での恋を主体にした短編集であると私は認識した。恋愛にはある程度謎はつきものである。ここに収められている謎はその範疇を超えるものではないし、ミステリへと昇華しているものでもない。従って私は「異色の旅行恋愛集」と呼びたい。
翻って内容について述べると、ほとんど実体験に基づいたエッセイに近く、それに現地女性との交流を絡めた恋愛短編集といった感。3編全てに共通するのは『異邦の騎士』に脈絡するある種の喪失感。この作家、根っからのロマンティストらしい。

見えない女 (光文社文庫)
島田荘司見えない女 についてのレビュー
No.97:
(7pt)

ウェクスフォード物の短編が秀逸。

短編集とは云えど、いまや絶版となった角川文庫の短編集から選りすぐりを選んで編まれた物で、全くさらの作品集でないところが残念。前半7編がノン・シリーズ物で後半4編がウェクスフォード物。率直に云えば、順番は逆の方が読後感は良かったように思うし、評価も星1つ上がっただろう。
ウェクスフォード物については措くとして、ノン・シリーズ物について云うと、長編におけるそれは、砂の一粒一粒までを描くような木目細やかな心理描写を幾度となく畳み掛ける“重量感”があり、時にはそのために辟易してしまう所があるが短編のそれはほぼ20ページ前後の長さに集約された“切れ味”が際立っており、心地良い。久々にレンデルを読むならば長編だろうが、レンデル漬けになるとこういった短編が息抜きとなってちょうどいい。
女を脅した男―英米短編ミステリー名人選集〈1〉 (光文社文庫)
ルース・レンデル女を脅した男 についてのレビュー
No.96:
(7pt)

古書狂たちのラプソディ

ミステリとしての骨格はごく普通で謎はあるが、その一点のみで読者の興味を魅いていくものではない。寧ろ明らかにわざとらしい演出で犯人を露呈してしまっているだけだ。
この本の魅力は前作『古本屋探偵の事件簿』同様、古書に纏わる人達の各々の個性を軸にしたエピソードにあるのだ。
本に歴史を見出す者や純然たる収集欲を満足させる者、又はそういった人達を金蔓に単なる金の成る木として扱う者。
前作のインパクトよりは劣るものの、やはり捨て難い一品。
古本街の殺人 (創元推理文庫)
紀田順一郎古本街の殺人(鹿の幻影) についてのレビュー
No.95:
(7pt)

奇術師泡坂の独壇場

大傑作『11枚のとらんぷ』でもそうだが、奇術をミステリに絡ませた泡坂作品は、やはり物語自体に躍動感があって、しかも形式美に溢れている。
今回7作品中、表題作が最も優れていた。そのあまりにもシンプルな題名から連想される内容は、正に連想通りの展開を見せるのだが、結末はG・K・チェスタトンばりの逆説で鮮やかに決めてみせる。
あとは「虚像実像」の犯人消失ネタも捨て難いが、これはある程度の水準の奇術の知識が必要なのが残念な所だった。
花火と銃声 (講談社文庫)
泡坂妻夫花火と銃声 についてのレビュー
No.94:
(7pt)

痛々しくも予想通りでした。

読み始めてから200ページ辺りまでは前六作までに強いられた状況理解の困難さが全くなく、加速する物語に狂喜していたが、それ以降中だるみを憶え、そのまま終末を迎えたような感じだ。
犯人は予想外ではあるが真相は半ばで自らが仮説した通り。そのせいで物語に失速感を感じたのかもしれない。
人前では現実を直視しない素封家として振舞っていた彼女が実は常に過酷な現実に対峙せざるを得なかったために起こった憎悪が招いた悲劇。嗚呼、痛々しい。
ドルの向こう側 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-10)
ロス・マクドナルドドルの向こう側 についてのレビュー
No.93:
(7pt)

小道具の使い方に唸ります。

メインの被害者となるチャーリー・ハットンの、周囲の人々に与える嫌悪感がレンデルにしては描き込みが足りず、薄味だったように思われる。
今回感心したのは、キングズマーカム署に備え付けられたエレヴェーターの使い方。この小道具をコミカルに、そして有意義に活用している手際は見事。

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死を望まれた男 (創元推理文庫)
No.92:
(7pt)

再読が必要かと。

実家、列車内と、凡そ読書するには劣悪な環境の中、また父親の危篤とそれによる心労とで、最早、読書とは呼べない、書かれた活字だけを追うことも屡だったそんな中、頭に入っていないと思いながら最後で明かされる真相がピタピタと頭の中で当て嵌まっていくというその作者の手腕にただひたすら平伏。
今回は本当に作者に対して申し訳ないと思った。
ただ題名は、その内容とあまり合致していないのでは?
人の死に行く道 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-6)
ロス・マクドナルド人の死に行く道 についてのレビュー
No.91:
(7pt)

映画ほど派手ではない。

P.D.ジェイムズにしては全く異色の、子供の生まれない未来の地球を舞台にした物語。何故子供が生まれないかの謎を解明するとか、その設定でしか成立し得ない事件の解明というようなシチュエーション型ミステリではなく、あくまで世界を設定した上で繰り広げられるヒューマン・ドラマを描いている。
迎える結末はこういった設定で容易に予想されるものであるが、ジェイムズが敢えてこのような母性に満ちた物語を紡いだことに興味を覚える。
人類の子供たち (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.90:
(7pt)

キオスクミステリですな。

御手洗シリーズと違って一般大衆を購読ターゲットにしているせいか、吉敷シリーズは読みやすさを重視した文体を採用しており、平板な印象を受ける。
今回の死体受け渡しのトリックは判ったがやはり時刻表のトリックはパズル遊びをしているきらいがあり、のめり込めなかった。
水準はクリアしている。しかし物足りない。

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出雲伝説7/8の殺人 (光文社文庫)
島田荘司出雲伝説7/8の殺人 についてのレビュー
No.89:
(7pt)

睡魔を吹き飛ばす面白さ

押し寄せる睡魔に半ば勝ち、半ば負けながらの読書だったため、ほとんどストーリーを把握しないまま読み進んでいったにも拘らず、最後の章でバタバタ、と不明だったピースが嵌め込まれ、全体像が浮かび上がる所が凄い。
今回は終わってみれば実はサイコ・サスペンスでロス・マクドナルドの心理学への興趣が色濃く表れている。
また、最後の章の盲目の母の何気ない一幕で、無力だと思われていた存在が実は絶大なる支配力を持っていたという畏怖を表す所もまた印象深い。
別れの顔 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-5)
ロス・マクドナルド別れの顔 についてのレビュー
No.88:
(7pt)

ウェクスフォードは他者からはこう映るのね。

ウェクスフォードを外側から描く、ウェクスフォード物の異色作でどちらかと云えばノン・シリーズに近い。しかし、ウェクスフォードが登場人物の目にどのように映っているのかが垣間見れて面白かった。これほど影響力の強い人物だとは思わなかった。
主人公の牧師、アーチェリーをして「あの男は神の権化」とまで云わしめるのは過剰なる賛辞だと思うが。結局、「事実」はなんら変わらなかった。ただ「真実」が無機質な人間2人を変えた。
レンデル物では珍しい、爽やかな読後感だ。
死が二人を別つまで ウェクスフォード警部シリーズ (創元推理文庫)
ルース・レンデル死が二人を別つまで についてのレビュー
No.87:
(7pt)

もう少し!

浅い、と思った。
ブラッドショーの苦悩、トム・マギーの苦渋、ドロシー・マギーの狂気、そのどれもが響かなかった。
最後の4ページで一気呵成に暴かれる真相に唖然とさせられたせいで、まだ頭の中が整理されていないのかもしれない。だが結末で憶えた戦慄は『象牙色の嘲笑』の方が上。
今回はドロシー・マギーの失踪に始まった人物相関が完全に遊離してしまったのが残念。マクドナルドは、ロイ・ブラッドショーをテリー・レノックスにしたかったのかもしれない。
さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)
ロス・マクドナルドさむけ についてのレビュー
No.86:
(7pt)

被害者は何を見て嘲笑う?

今回も彼は完膚なきまでに質問する。読んでいるこちらが当惑するほどに、個人の領域に立入る。そのあまりある執拗さは、終いには犯人が「なぜきみはおれを苦しめるのだ」と身震いさせられるくらいまでにもなる。
だがしかし、そこまで行いながらも彼の影は見えない。犯人は最後、足枷のように影を引き摺るのに、彼には影すら見えない。「質問者」である以上に「傍観者」である所以だ。
真相は戦慄を憶えた。しかし、未だに謎なのは、被害者は何を「嘲笑」っていたのだろうか?
象牙色の嘲笑〔新訳版〕(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ロス・マクドナルド象牙色の嘲笑 についてのレビュー
No.85: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

あっちの方がよかった

日本推理小説史上に於いて名作と冠される本書は、しかし、上のような評価に納まった。迷路、隠し洞窟といった道具立ても胸踊らすほどではなかった。
『11枚のとらんぷ』よりは落ちる。そう、ショートショートを内包した、贅沢な一品、『11枚のとらんぷ』。この作品と比べるからこそ、七ツ星なんだろう。

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乱れからくり【新装版】 (創元推理文庫)
泡坂妻夫乱れからくり についてのレビュー
No.84:
(7pt)

ロマンティシズムある佳作

古き良き時代の冒険活劇を匂わせ、また主人公を活発で美しい女性に設定したことで、その万能さもあざとく映らず、快い。それは自分に女性崇拝の精神が宿っていることに起因するのかもしれないが…。
採点は微妙だ。元来ならば五ツ星クラスだが、新訳版であったがための読みやすさ、さらに上記にある理由、それと二世紀を隔てて各国から信じ難い遺言を便りに再開するという展開が私の胸を打った。そういった理由で七ツ星とさせていただく。
綱渡りのドロテ (創元推理文庫)
モーリス・ルブラン綱渡りのドロテ についてのレビュー
No.83:
(7pt)

邦題がイケてません。

タイトルは全然意味を成してないよ。原題『屠殺場に向かう狼』の方が最後に明かされる謎を髣髴させる点で断然勝っている。

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運命のチェスボード ウェクスフォード警部シリーズ 創元推理文庫
ルース・レンデル運命のチェスボード についてのレビュー
No.82:
(7pt)

連続殺人鬼物として異色なのだが。

連続殺人鬼の登場をメインの殺人事件の単なる小道具として扱う辺り、やはり大作家の構成力は只ならぬものがあるなと感心したが、終わってみれば犯人は予想外だったけど、動機としては単純なもの。いや寧ろ深くまで語られなかったため、抽象的であり浅薄だ。
今回、読んでいて気付いたのはアダム・ダルグリッシュという存在を作者は暗鬱な日常性から解放する導き手に想定しているのではないかということ。悲劇が繙かれた後、関係者それぞれに変化が扉を叩いた。
策謀と欲望〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
P・D・ジェイムズ策謀と欲望 についてのレビュー
No.81:
(7pt)

この胸に残るのは何なのか。

歪んだ愛情が織成す悲劇、いや正直な気持ちを押し殺したゆえの反動と云った方が正解か。
現象はあまりにも単純。2人の男と1人の女の死。犯人はしかも1人。しかし、その1人を炙り出すための炎は関係者各々の魂を苦く焦がし、また探偵自身も自らを焦がす。だが、あくまで彼は傍観者の立場を貫く。だから慮る事もせず、また望むのであれば自害の手助けをもする。
現時点では7点だが、我が胸に徐々に立ち上る感慨は治まりそうにない。
ウィチャリー家の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-1)
ロス・マクドナルドウィチャリー家の女 についてのレビュー
No.80:
(7pt)

ちょっと仮説が足りない。

一般読者向けを意識した島田初のトラヴェル・ミステリという事で、『占星術殺人事件』から始まる御手洗シリ-ズとは趣を変えて、現実味を過分に加えた、比較的地味なシリーズ、所謂吉敷シリーズであるが、千鶴子の列車での存在を幽霊として仕立て上げるような、幻想性を加えることも忘れない所が面白い。

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寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁 (光文社文庫)
島田荘司寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁 についてのレビュー