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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数147件
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女子大生の「私」が日常で遭遇する他愛ない謎を、落語家の円紫師匠が見事に解決していく、所謂”日常の謎”ジャンルの先駆け的存在の連作短編シリーズの第一弾。
女子大生の私小説的な形式で話が進み、ミステリというよりも純文学のような雰囲気が漂います。 また直接物語の本筋とは絡まない、落語や文学の薀蓄や衒学的記述が目立つ作品です。 いろんな理由で人を選ぶ作品だと思いますが、私は合わなかった人間です。 まさに上で挙げたようなこの作品の特徴であり、好きな人はそこが好きであろう魅力の部分が私にとっては好みではなかったからです。 女子大生の他愛ない日常も、落語や文学の薀蓄も正直興味が沸きません。 その点でまず、私のような読む本がミステリに偏りすぎているような人間には、面白くないミステリでした。 また、当時は「殺人事件だけがミステリではない、それどころか犯罪ですらない他愛ない日常に潜んだ謎の解決もミステリになる」という、日本のミステリにおける所謂”日常の謎”ジャンルの先駆けでもあることが名作と評価されている一因だと思いますが、それだけに逆に言えば今読んでそこまで特別の斬新さ、出来の良さは感じませんでした。 さらに身も蓋もないことを言ってしまえば、私はこの作品に限らずそもそも”日常の謎”というミステリジャンル自体があまり好きではありません。 やはりミステリは人がぶっ殺されて、いろんな人間のまさに”人生”がかかった物語だからこそ、登場人物も読者も真剣になれて面白いと感じ、”日常の謎”作品に出てくるような他愛ない謎はどうしても「どうでもいい」と感じてしまいます。 ”日常の謎”というジャンルはまさにその、誰かの人生がかかっているわけでもない「どうでもいい」謎に純粋な知的好奇心で挑むことが魅力なのだろうと思うので、魅力そのものを否定してしまう私のような人間とはそもそもの感性が合わないのでしょう。 |
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説明不要の大御所作家、エラリー・クイーンの処女作であり、作者と同名の名探偵クイーンの初登場作品であり、『国名シリーズ』の第一作目でもある記念すべき作品。
デビュー作である今作から「犯人が特別に策を弄したトリックなどを仕掛けるわけではなく、探偵側も物証などを必死に探して証拠として提示するわけでもなく、判明している事実から導き出されるロジックに基づき犯人にたどり着く」というクイーン作品の黄金パターンはこの時点で確立されている極めて「らしい」作品です。 しかし、後に発表される名作に比べればまだ作品として洗練されていない部分や物足りなさを感じる部分が多々あり、名作・傑作と呼べるほどのものではないですね。 今作は後のシリーズでは完全に息子の引き立て役で、お世辞にも有能な警察官とは言いがたいクイーン警視が、息子の推理力に全幅の信頼を置き、彼が能力を十分に発揮できるように自分の役割を果たしている、有能で大物感溢れる人物に描かれていたのが意外でした。 今作に見られる父子それぞれ役割・能力が異なる二人のクイーンが犯人を追い詰める姿は、卓越したプロット構成力と、秀逸な文章構成力をそれぞれ持つ二人の男が合作することで数多くの名作を世に残したクイーンという作家を象徴するスタイルだったのではないかと思うのですが、やはり名探偵の相方は少し抜けていて頼りないワトソン君の方が向いているということなのでしょうか。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『S&Mシリーズ』のスピンオフ的作品で、主人公のSMコンビを食ってしまう魅力を持つ、真賀田四季博士の過去を書いた四部作の一作目。
年齢一桁の幼女の頃から別格の天才性を発揮する彼女の姿が見られます。 作中で密室殺人事件も発生しますが、正直本格ミステリ要素を無理矢理絡ませたようで、物語上の必要性をあまり感じません。 四季の徹底して「天才」として描かれるキャラ造詣は人によっては陳腐と評するかもしれませんが、私のような厨二趣味の凡人はこのような天才キャラにやはり惹かれてしまうのです。 |
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雪に閉ざされた山荘で一人の女子大生が毒殺され、それぞれが動機を持つ、残り4人の大学生たちは犯人を探し出す「検討」を行う……といったシンプルな構成ながら、複雑に入り組んだ真相が用意されている作品です。
クローズド・サークルでありながら、これ以上の殺人の心配はなく、警察抜きで存分に事件の「検討」を行うという展開。 被害者の女が殺されてもしょうがないような糞みたいな性格ですが、容疑者たちも好きになれないような性格の登場人物たち。 なんだか岡島二人氏の『そして扉は閉ざされた』を思い出しました。 純粋にシンプルに「推理小説」としての内容、結末だけならもっと高評価でも良かったのですが、登場人物の無駄な自己主張がハナについてしまい、少し減点です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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誰でも名前ぐらいは、というか映画版でのジャック・ニコルソンの狂気の笑顔のシーンは知っているだろう有名作の原作小説を読みました。
コロラド州ロッキー山中にある、冬季はその厳寒と積雪のため閉鎖されるホテルに、その間の維持・管理を目的として雇われた男ジャック。 そんなジャックと彼の妻ウィンディ、そして五歳になる息子ダニーは、雪に閉ざされたホテルの中、家族三人だけで数ヶ月を過ごすことになる。 しかし、このホテルは過去、ジャック同様やはり家族揃って住み込みで働いていた管理人の男が発狂し、自身の妻と子供を殺害したといういわくを持っていた。 そしてジャックもまた、次第に狂気に取り付かれ、やがて彼の魔手が妻と息子に伸びようとしていた…… そんなクローズドサークルシチュエーションのホラー作品ですが、単に「深い雪に閉ざされた空間」という物理的状況だけでなく、「家族」という、その輪から出ることも入ることも容易ではない、ある意味二重のクローズドサークル状況を描いた作品なのではないかと思いました この作品は、本来あらゆる意味で子供を庇護してくれる存在であるはずの「父親」が逆に家族を襲う、悪意・脅威になってしまうという恐怖が描かれています。 この怖さは単に大好きなパパが豹変してしまうという点のみならず、父親を愛し尊敬していても、一方で誰しもが多かれ少なかれ家庭の中で強大で支配的な力を持つ父親という存在へ抱く、リアルな恐怖を呼び起こさせるものではないかと感じました。 (私の父は温厚で、家庭内で怒鳴ったり、暴力を振るった記憶など一切ないのですが、そんな家庭に育った私でも、少年期父親をどこかで恐れる気持ちが0だったわけではないです) また父親側も、一番大切なモノであるはずの家族を、自分が傷つけてしまうのではないかという不安や恐怖は誰しもが持っているのではないでしょうか。 ジャックは癇癪癖やアルコール依存などを持ち、仕事をクビになったりダニーを怪我させた過去があり、元々決して完璧な父親ではありません。 しかし同時に過去を悔やみ、アルコールを断つ努力をし、確かに家族を愛している、決して悪い父親でもありません。 ジャックが最初から完全な悪人あるいは善人として書かれていたら、感情移入という面でも怖さという面でも作品の魅力は下がったでしょう。 さらにこの作品の怖さや深さは、ジャックが狂気にかられたのは、ホテルの持つ魔力のせいか、ジャック自身が元々持つ狂気のせいか途中まで読んだ時点ではどちらとも取れ、読者にとって「より怖いと感じる方」を意識してしまう点にあるのではないかと感じました。 そんな父の日にふさわしいようなふさわしくないような作品のレビューでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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密室の帝王・カーの、カーター・ディクスン名義での代表作。
例によって密室ものですが、怪奇趣味成分はなく、法廷ミステリの側面強しな作品です。 一見名探偵には見えない、周囲が少し心配になるようなおじいちゃんなHM卿のキャラがいいですね。 (威風堂々と立ち上がろうとしたが、服が引っかかって破れて台無しになった。ってとこで笑いました) 最初はどうしても密室トリックに焦点を当てて読んでしまったので、そのあまりの古典的さ(もっとはっきり言えばショボさ)に 一度目に読み終えた時は「当時は名作だったかもしれないけど、今読んだら全然大したことない凡作!」と断じてしまったのですが この作品の本領は、偽りの証言だらけの法廷で、真実にたどり着くためにチェスのような筋道を立てた謎解きを行う点にあることを、他の人の感想などを見て気づきました。 正直カーは今のミステリ読者の予備知識として抱くイメージが「密室の人」と定着しすぎて、作者も読者も損をしているところがあるかもしれないですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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推理作家の枠にとどまらないからくりを作品に施し、読者を驚かせ楽しませてくれる泡坂氏の代表作ということで期待して読んだのですが
ミステリとしての出来の面でも、単純に話の面白さの面でも、正直評価されているほどとは思えませんでした。 作者のからくりに対する愛が溢れているのはいいのですが、本筋を完全に離れたレベルで垂れ流される薀蓄が正直読んでて疲れます。 もっと自然に話の流れの中に説明を組み込んでくれればまだいいのですが、明らかに不自然な流れで延々と講義になるのはやめてほしいです。 途中主人公たちが記念館に話を聞きにいったパートなんか完全に謎解きおよびストーリーの構成としては不自然な上に無駄。作者が趣味について語りたいから入れただけって感じでうんざりでした。 あと舞子の嵌められて警察を追われることになった過去の決着がつかなかったり、敏夫のボクサー崩れという設定の意味や研究会に来ることになった経緯などが不明だったり 肝心の主人公二人の設定に意味がなかったり、決着がついてないのは話の構成としてどうなのかなと思いました。 本来は続き物シリーズにする予定で、その辺は続編でじっくり掘り下げて解決する予定だったんでしょうかね? ▼以下、ネタバレ感想 |
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飛行中の旅客機内という、言わば究極の密室・クローズドサークル状況で殺人事件が発生するという話は、現代では本格ミステリの一つのパターンになっているかと思いますが、旅客機がようやく世間に一般浸透しだした当時においてはおそらく先例のない試みであり、その点はさすがクリスティと感じます。
しかし、正直それだけの作品だな、という感想でした。 機上での殺人と言う(当時としては)物珍しい状況を抜きにすれば、全体的にストーリーもトリックもこじんまりとしており、ぶっちゃけ長編にするほどの内容ではなかったと思います。 またせっかくの機上での殺人という題材ですが、殺人が起きた後の捜査、解決パートは全て地上なのがもったいないというか肩透かしでした。 これでは別に飛行機じゃなくても、不特定多数の人間が集まってしばらく座席についてるような状況であれば、舞台は電車でも劇場でも成立してしまうようなストーリーとトリックですね。 どうせなら『オリエント急行殺人事件』のように、事件の捜査から解決に至るまで全て機内で行われたほうが作品のテーマ的にもエンタメ的にも良かったのではないでしょうか? (私がクローズドサークル大好き人間だからそう思うだけかもしれませんが) また今回はなぜか、実際に登場はしないにもかかわらず、『ゴルフ場殺人事件』でポワロと推理対決をしたジロー刑事の名前が、急に思い出したかのようにポワロの口から何度も出てきます。 『ゴルフ場殺人事件』のレビューでも書きましたが、犬のように地面に這いつくばって証拠を探すと言う捜査スタイルの、某世界的超有名探偵を皮肉ったようなキャラである彼は、正直最初からかませ犬感しかなく、ポワロのライバルになるほどの魅力も器量も感じないキャラだったのですが、そんな彼をポワロが皮肉る様子は、逆にポワロの方も少なからず向こうを意識して対抗意識を燃やしているようで、ポワロまで小物に見えるだけな気がしてしまいます。 そのジロー刑事に加え、作中のコカイン常習者を蔑む台詞といい、吹き矢という殺害方法へのディスりといい、この作品はなんだか随所にホームズシリーズへのあてつけ感があるのですが、クリスティ女史に「ドイルの小説なんか今読んだら全然面白くもないし出来もよくねーよ」的な意図がこめられていたならば、この作品もまた、時代的な価値抜きに今読むと面白いとも出来が良いとも感じない作品になってしまっていることに皮肉を感じますね。 (余談ですが当時の旅客機は客が通気口から外に物を捨てられたと言うのが驚きで、少し面白い薀蓄でした) ▼以下、ネタバレ感想 |
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『御手洗潔シリーズ』の長編第6弾。
まず冒頭からいきなり大きなフォントで全てひらがなのページが拡がり、びっくりさせられます。 幼児の書いたようなその文章からさらに読み進めると、徐々に成長を感じさせる高度な文章になっていくのですが、その内容は病的なまでの食物汚染へのこだわりや、まるで夢の中のような荒唐無稽、支離滅裂な出来事や世界の描写。果てはかの『占星術殺人事件』に影響を受け、記述者は複数の死体をバラバラにして結合させ一人の完璧な人間として蘇らせる”アゾート”の作成を試みるなど、まさに狂人が書いたとしか思えないような手記が延々100ページ以上に渡って続く……という冒頭部分から異様な作品です。 そしてその奇妙な手記の謎に御手洗が挑んだ時、そこに隠された事件が紐解かれていくというストーリーです。 今回も700ページ近い大作ですが、手記部分の重複を考えると実質そこから100ページ減でしょうか。 前々作の『暗闇坂の人喰いの木』、前作の『水晶のピラミッド』同様、エンタメとして面白いか面白くないかで言えば間違いなく面白いのですが、本格ミステリとしては物申したい部分が多すぎる作品でした。 それに加えて今作はキャラクター描写に関しても納得の行かない部分が多く、長所と短所が相殺し合いこの点数といった所です。 不満な点をあげるとます、探偵役を賢く見せるために、周囲の人間を愚鈍に書くというのは本格ミステリではよくあることですが、手記に書かれた内容は真実だと言う御手洗に対し「こんな手記は妄想に決まってる!」一辺倒の古井教授の描写がしつこくイライラさせられます。 これがこのシリーズによく出てくる、御手洗と敵対し、聞く耳を持たない傲慢な警察関係者とかならともかく、御手洗とお互い認め合っているような、その分野の第一人者であるとされる優秀な教授が、なぜこんなに頭が固く、察しが悪いんでしょう。 そもそも、この手記を御手洗の元に持ってきたのがこの教授なのに、御手洗の言うことを常に否定し「単なる異常者の妄想」と決め付けているのが意味不明です。 最初からこの教授はこの手記をただの異常者が書いただけの取るに足らないものと思ってるなら、これをわざわざ持ってきて知的なゲームの題材にしようとすること自体が不自然と言うか、何がしたいんだよこのおっさんって感じです。 教授はこの手記をただの狂人の書いたものとは思えないのだが、どうしても合理的な解答が見出せないために、御手洗を見込んで彼の知恵を借りにきたというのではダメだったんでしょうか。 あと今作は石岡くんをまるで奴隷のように扱う、御手洗の言動がはっきり言って不快です。 これまでの彼は変人であり、他人を振り回すことはあっても、友情には厚い男で、相手の方に敵意や傲慢さが無ければ、誰とでも親しくなれるような人物だったと思うのですが、今回の石岡くんを散々顎で使い、犯罪行為まで示唆した挙句「役立たず」呼ばわりするのは酷すぎます。 「他人は僕を変人呼ばわりするが、それは現代日本というごく狭い視野での話だ」という旨の発言もこれまでの作品の彼が言ったなら説得力がありますが、今回の彼の言動は、何時の時代のどこの国の価値観でも「対等の友人」に取る態度じゃないですね。 最後に『占星術殺人事件』は結局あまり真相には関係しませんので、『占星術殺人事件2』みたいな感じを期待すると肩透かしを食らいます。(私は食らいました) ……批判ばかりになりましたが、面白いことは面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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80分しか記憶が持たない数学博士と、そんな博士の世話係として家政婦に雇われた”私”。そして彼女の小学生の息子。
そんな三人の交流の日々が描かれるお話。 数学と言うミステリと相性のいい題材の作品ですがミステリではなく、ハートウォーミングなストーリーです。 切ない場面や悲しい場面もありますが、あまりお涙頂戴な印象は受けませんでした。 語り手の”私”が少し蚊帳の外で可哀想感を覚えるほどの、博士と少年の相思相愛っぷりに癒されました。 博士の記憶は80分しか持ちませんが、博士がたびたび教えてくれる、何気なく日常に潜んだ数字の相関や法則が、彼らの永遠不変の絆となると感じられました。 私は基本的に、性格の悪い奴がいっぱい出てきて、憎しみあい、騙しあい、殺しあうような作品が好きなのですが、たまにはこういう話で心を洗うのもいいですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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十字型という奇妙な形をした屋敷で発生する殺人事件。持ち主に不幸を招くという呪われたピエロ人形というオカルト要素。そしてそのピエロの視点から物語が描かれるという奇抜な構成。そんな設定を料理するのは安定して良作を量産し、どんでん返しにも定評のある東野圭吾氏。
という否が応でも期待せざるを得ない要素が揃っていた作品でしたが、やや期待はずれでした。 それなりに面白く、それなりに斬新で、それなりに良く出来ており、決して悪い作品ではないとは思うのですが、ハードルを上げすぎてしまいましたかね。 仮に東野圭吾氏の作品ではなく、知らない作者の作品を設定に惹かれて読んだならば「なかなかの掘り出し物だった」と満足していたかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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・本格ミステリ大賞(第5回 (2005)小説部門 大賞)
・週刊文春ミステリーベスト10 2004年版(2位) ・本格ミステリベスト10 2005年版(1位) ・このミステリーがすごい! ベスト10 2005年版(1位) という堂々たる受賞暦を持ちながら、どうもみなさんの評価は芳しくない模様なこの作品。 かくいう自分もあまり面白いと思えなかった口です。 元来このシリーズは比較的短めでテンポ良く話が進む作品が多いだけに、シリーズ10作目に当たる500ページ超のこの作品はさぞスケールが大きく盛りだくさんな大作だろうと嫌でも期待してしまったのですが、実際にメインの首斬り殺人が起こるまでが長く、その後第二の殺人が起こるわけでもなく、間延び感がありました。 それにも関わらず、人物描写も特に丁寧とも思えず、ラストはカタルシスもなくあっさり終わってしまい、総じて見ると小粒な事件という印象です。 読み返せば序盤から沢山伏線が張られていたことが判るようですが、正直わざわざもう一度読み返す気がおきません。 300ページくらいにコンパクトにまとまっていればまた評価も違った気がするのですが。 文庫版のあとがきの対談で貴志裕介氏がその出来の良さを解説してくれているように、本格ミステリのプロットとしてはよく出来た作品なのかもしれませんが、単純に話としてあまり面白くないのが我々一般読者に評価されない要因でしょうか。 あるいはなまじ賞などを取っているからこそ「期待はずれ」と辛い評価を貰うことになってしまうのかもしれませんね。 あと『なめくじに聞いてみろ』とかけた結果なのでしょうが、タイトルや表紙がおどろおどろしい割には内容に合っていないのも読者の期待を裏切ってしまったかもしれません。 最初からもうちょっと芸術性や論理性を前面に押し出したタイトルであれば誤解も生じなかったのではないでしょうか。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイトルから最初は江戸時代あたりが舞台のホラー作品なのか?などと想像してしまいましたが、現代日本を舞台にした、シュールな中にどこかリアルさを感じさせるホラー短編集です。
作中で明確に主人公に悪意を向けたり危害を加えてくる人物はいないのですが、どこか胡散臭くて、本当に身を任せても大丈夫なのだろうかと思ってしまう病院の不気味さは、現代日本に住む人間なら誰もが多かれ少なかれ共感できるのではないでしょうか。 独特の世界観や、読みやすさは抜群な点は評価できますが、全体的にただわけがわからないだけで、正直全然怖いと思いませんでした。 ホラーに論理的な理屈や答えは求めませんが、オチぐらいはちゃんとつけてほしいです。 (それゆえこの本の中でもしっかりオチがついてた『開けるな』は面白いと思いました) 綾辻氏は「推理作家」としては国内では私の中で一番と言っていい作家なのだけれど「ホラー作家」として見るとどうも相性が良くないようです。(『Another』は好きですけど) さらに言えば、私のような本格ミステリに趣向が偏りがちな人間は、何もかもに理屈や説明を求めすぎてホラーというジャンルそのものと相性が悪くなってしまうのかもしれませんね。(ホラーテイストな本格ミステリは大好物なのですが) |
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安楽椅子探偵ものの古典の名作短編集。
表題作の何気ない短い文章から推理(推測?)が進み、展開していくストーリーは印象深かったのですが 正直どの話もニッキイの理屈がイマイチ納得できないものばかりに感じ、あまり面白いと思えませんでした。 シャーロック・ホームズの人物観察からの推理がこじつけとしか思えないのに近いものを感じます。 それ抜きにしても短編でありながら読みづらく、正直表題作以外はどんな話だったか殆ど印象に残りませんでした。 なので個別感想は書けないです。 |
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物語の時系列、ナンバリング上は『病院坂の首括りの木』が金田一耕助最後の事件とされていますが、実際に執筆、発表がされたのはこの作品が金田一耕助シリーズ最後の作品にして、横溝作品の長編としても最後となる、実質的な”遺作”とも言える作品です。
物語の舞台、雰囲気は『獄門島』。展開、仕掛けは『八つ墓村』を髣髴させる部分が多く、まさにシリーズの集大成感があります。 しかし正直前半部分があまりに冗長です。 『獄門島』や『八つ墓村』などのシリーズ初期の大人気作は、読者を飽きさせない無駄のない構成、テンポの良さも名作たる理由の一つだったと思うのですが、今作は内容そのものがそれらの作品より決して濃いわけでもないのに、不要に引き伸ばされ、結果薄められているような印象でした。 後半になるとテンポがよくなり、緊迫感のある展開の連続でストーリーとしては面白かったですが、今度は本格ミステリとしてはかなりお粗末かつ物足りない真相、結末でした。 横溝氏はこの作品完成当時すでに78歳という高齢。そしてその翌年にはお亡くなりになられているという事実を踏まえると、これほどの長編を執筆したこと自体が驚異的であり、賞賛に値するのですが、あくまで作品としての評価はオマケしてこの点数ですかね。 とはいえリアルタイムで横溝作品を追いかけてきたファンにとっては、約10年の休筆の後に、このような往年の名作を彷彿とさせる作品を読めたのは、それだけで感無量の、横溝氏が亡くなってから生まれた自分のような読者には理解できない思いがあったのだろうなと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『名探偵信濃譲二シリーズ』の二作目。
トリックが超見え見えだった前作『長い家の殺人』に比べれば、ミステリ作品としての完成度は上がったかもしれませんが、人物やストーリーはまだ前作の方が見るものがあったかなぁという印象です。 ”雪の山荘もの”であり奇妙な建物を扱った”館もの”でもあるという、ベタだけれどそれだけで魅力的な題材を扱っている作品なのですが、クローズドサークルというわけでもなく、せっかくのそのシチュエーションゆえの魅力が全く感じられない作品でした。 トリックは正直つまらないですし、探偵役を賢く見せるためなのか、登場人物がみんな大人とは思えない幼稚な言動なのが不愉快でした。 作者の歌野氏は私の好きな作家の一人なのですが、正直このシリーズに関しては初期の作品のためかお世辞にも出来が良いとは言えず、かといって若さゆえのパワーとか、光るものも特に感じられないです。 何よりこのシリーズだけの「売り」というものが特になく、正直あんま褒めるところがないシリーズですね…… ▼以下、ネタバレ感想 |
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雪深い山奥の古城を舞台に発生する連続殺人事件を扱った作品ですが、作中の年代が18世紀というのが特徴的です。
当然科学捜査はおろか、まともな警察組織が成立していないので、城から全く出入りできない所謂クローズドサークル作品ではないのですが、それに近いような素人探偵による単独調査によって事件の真相を追うような形式となります。 またそのような時代背景なので、なかなか真相にたどり着かない探偵に業を煮やした城内の権力者が、平気で魔女裁判のようなことも行ってしまうといった展開も特殊でした。 そのように、題材としては面白いものだったと思うのですが、ミステリの内容としてはお世辞にも出来がいいとは言えず、文章や人物にも魅力を感じませんでした。 キャラクターがみな記号的で(”盲目の少女”とか設定を付けたはいいけれど、何一つ活かせていないし必然性もない)、この表現はあまり好きじゃないのですが典型的な「人物が書けていない」作品と言う感想です。 探偵役とワトソン役が無駄に反目しあったりするのもなんだか見ていてイライラしました。 |
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売れない物書きで、明日も知れない貧乏生活の傍ら、空想の中に自分の理想郷を描く日々を送る主人公の男。
彼はある日、自分に瓜二つの大金持ちの知り合いの死を知り、彼に成り代わる計画を立て、それを実行する。 莫大な資力を手に入れることになった彼は、自分の夢に描いていた光景を現実のものとするため、とある小島に理想郷の建設を始める…… 形式としては一応倒叙ミステリに分類されるのでしょうが、物語の本質はあまりミステリ寄りではないかもしれません。 この物語を楽しめるかどうかは、日々現実逃避とも言える己だけの空想にふけりながら、それをとうとう実現させた主人公にどれだけ感情移入できるか。 そして、文章によって情景が描かれる、パノラマ島の光景をいかに自分の中に描けるかだと思います。 どちらをとっても、読者各々の想像力が問われていると言える作品なのではないでしょうか。 しかし作品発表当時はともかく、それから100年近くが経った現在。 ディズニーランドやUSJなどの大規模テーマパークを現実に目にしてしまっている現代人の我々にとって、いくら想像力と芸術センスのある男が金に物を言わせて作った理想郷といっても、所詮個人が作った人工物であるパノラマ島の光景を、仮に100%脳内に思い描けたところで感動を覚えることは難しいのではないかと感じてしまいます。 あるいはここで想像すべきなのは、作中のパノラマ島の光景よりも、主人公を自分の立場に置き換えた時、どのような自分の空想の中の理想郷を作成し、隣にいる魅力的な異性にそれを見せるだろうかということかもしれません。 低評価になったのは自身の想像力の乏しさのせいもありますが、それ以上に終盤の主人公の行動への反感からになります。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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