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AliceinAbyss さんのレビュー一覧

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書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.97pt

レビュー数35

全35件 1~20 1/2ページ
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※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.35: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

アリス・ザ・ワンダーキラー: 少女探偵殺人事件の感想

謎をこよなく愛し名探偵になりたい少女、アリスが10歳の誕生日にプレゼントされたのは、ヴァーチャルリアリティで「不思議の国のアリス」の世界を体験できるVR装置でした。そしてそこで出題される5つの謎をアリスは解き明かすことができるのか?という趣向のミステリー短編集です。
早坂氏らしい端正なロジックが素晴らしいダイイングメッセージものの第三問(“カラスと書き物机はなぜ似ているか?”の原典準拠のなぞなぞの答えも秀逸です)と、ロジックとどんでん返しが見事な第五問がとても好きです。また脱出ハウダニットの第一問もなかなか面白かったです。

ただその一方で、第五問で某キャラが「アンフェアじゃないよ」と主張する点が、個人的にはどう考えてもアンフェアなんじゃないかと。。。前述の通り、第五問自体ロジックの出来もどんでん返しの面白さも見事なもので、あそこがアンフェアでも構わない(本格ミステリとしての作品の評価が下がるものではない)んじゃないかと自分は思うわけですが、著者さんとしては、本格ミステリを指向する以上はすべてにおいてフェアであることに拘らざるを得ないんでしょうか。

▼以下、ネタバレ感想
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アリス・ザ・ワンダーキラー: 少女探偵殺人事件 (光文社文庫 は)
No.34:
(7pt)

故郷は、遠くに在りて思うもの

戦時中にアカ華族の嫌疑によって絶海の孤島に建てられた「パノプティコン(一望監視獄舎)」に収監された天才ショパニスト八重洲清康は、3人の囚人仲間とともにどのように脱獄したのか?を清康の孫にして同じ天才であるイエ先輩が解き明かす、というハウダニットが本作のメインになります。そしてその脱獄方法には「超絶技巧練習曲にすぎますよー」と思う方法が一点含まれているものの、非常にユニークでとても面白いと感じました。

また、このパノプティコンでは脱獄と別の事件も起こるのですが、そのフーダニットやホワイダニットを問う「第二の読者への挑戦状」が含まれているのも面白いところです。フーダニットのロジックはパズラー作家らしい見事なものですし、「人の心は100%論理的ではないので、論理での心理推定は極力避けるべき」を信条とする自分には最も相容れない「ホワイダニットの挑戦状」も、その動機を生み出すにいたった事象が自分にとって非常に共感性が高く、結果動機そのものの合理性にも納得させられてしまいました。だって自分は典型的小市民の「日本人」なんですもの(そして本作で一番好きな箇所はここだったりもします)。

一方で「第一の読者への挑戦状」としてもちろん脱獄のハウダニットが問われるわけですが、挑戦状が無ければ示された回答には特に文句も無く面白いと感じたものの、挑戦状を前提(論理的に指摘可能)とすると、どうしても論理条件との矛盾があると思われるため回答として不適当ではないか、との考えがぬぐえないのが残念なところです。

▼以下、ネタバレ感想
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絶海ジェイル Kの悲劇’94
古野まほろ絶海ジェイル Kの悲劇’94 についてのレビュー
No.33: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

medium 霊媒探偵城塚翡翠の感想

これはすごい。本当は☆10レベルの傑作と思いますが、ヲタクの自分的に可愛い翡翠ちゃんの非常にツボを心得た数々の発言にやられてしまったことが悔しくて☆9です(←器の小ささ
読者のミステリ観をすごく試される気がするので、合う合わないは置いといて多くのミステリー好きに読んでもらいたい作品かも。

▼以下、ネタバレ感想
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medium 霊媒探偵城塚翡翠
相沢沙呼medium 霊媒探偵城塚翡翠 についてのレビュー
No.32: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

謎の館へようこそ 白の感想

コテコテのいわゆる「館もの」から、館がストーリー上のガジェットに過ぎないもの、果ては館関係なくない?というものまで、かなりバラエティに富んだアンソロジー作品集です。そのなかでミステリーとして「ん?」と思うところはあるもののトリックの面白さを感じたのは、青崎有吾氏の「噤ヶ森の硝子屋敷」と周木律氏の「煙突館の実験的殺人」、純粋に予想を超えていて楽しめたのが澤村伊智氏の「わたしのミステリーパレス」でした。

ただ古野まほろ氏と青崎氏の両方のファンなら、古野氏の「臨床真実士」シリーズである「文化会館の殺人」も興味深いかもしれません。というのも、その主人公・本多結花には相手の話を“聞く”とその真偽虚実が分かる能力があり、当然このシリーズ作品では、その能力を活かしてロジックを組み上げていくことを特徴とします。ところが「文化会館~」では、特に理由もなく(作中の説明無く)3人の重要関係者の手記を“読んで”真相を推理するという形を取っているため、結花は彼女らの記述内容の真偽虚実を能力で判断できません。しかし、そのことが逆に解決編の述懐やラストの指摘を成立させることになり、それによって強調される本作のテーマが、作品タイトル等を鑑みると特に青崎氏(の某作品)に関するものだ、と個人的に思えるからです。

にしても「臨床真実士」シリーズで手記の記述をメインに(=口話を聞かずに)推理するという『異常性』は、シリーズ読者で無ければ決して分からないことなのに、そんな試みを、シリーズ読者以外も多く読むであろうアンソロジー作品集で何故したしw

▼以下、ネタバレ感想
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謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)
東川篤哉謎の館へようこそ 白 についてのレビュー
No.31:
(7pt)

ダンガンロンパ霧切の感想

5人の探偵たちが、特徴的な形状の建造物(天文台)に集められて・・・
ということで、あれやらこれやら色々な要素てんこもりなミステリを期待してしまいますが、本作は、とあるミステリ要素の一本勝負と言う非常に漢らしい一作です。
そしてそれがシンプルなものながら非常に良くできており、またシンプルゆえに読みやすく良作だと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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ダンガンロンパ霧切 1 (星海社FICTIONS)
北山猛邦ダンガンロンパ霧切 についてのレビュー
No.30:
(7pt)

絶望系 閉じられた世界の感想

「封印された奇書。圧巻の暗黒ミステリ」
との惹句に引かれ読んでみましたけど、本作は暗黒ミステリではなく暗黒神話(世界の成り立ちに関する物語)ですね。
要はミステリ要素は0です。
ただ非常に衒学的に作り上げられたと思われる物語なので、アンチミステリではない(そもそもミステリではないので)けれど、確かに「奇書」と言える出来で、その衒学的意図・趣向に面白さがある作品だと思います。

ところで本作の「俺の部屋に天使と悪魔と死神と幽霊がいる」という物語のはじまりは、同氏の代表作中の「この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい」のセルフオマージュでしょうか。そう考えると両者は「明朗(萌え)神話」と「暗黒(エロ)神話」という裏表の関係で、本作中で天使と死神が「萌えとエロの違い」について延々と議論する描写があるのも必然かもと思ったり思わなかったり。


▼以下、ネタバレ感想
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絶望系 (新潮文庫nex(ネックス))
谷川流絶望系 閉じられた世界 についてのレビュー
No.29:
(6pt)

妖霧の舌の感想

扉に長編本格推理と銘打たれていますが、自分のものさしでは本作はサスペンスだと思います。
なのでミステリ的な感想を書くことが難しく、それ以外の本作の感想、ただし完全にファンダム目線の感想を書きたいと思います。

竹本氏は文字の選択(意味内容だけでなく文字のビジュアルも考慮した選択)や文節間のリズム、文章の展開のしかたなどがとにかく巧みで、特に情景描写ではその光景がまるで眼前に広がるかのような錯覚を覚えます。そして竹本作品では曇天や雨、夜の闇、本作では濃い霧を舞台のシチュエーションとし読者の前にリアルに幻出させることで、作中の謎すらその眼前の濃霧などに吸い込まれまったく見通せないかのような幻惑感を生み出し、それにより登場人物たちの切迫感や焦燥感をも読者に共有させる効果を生み出しています。

また本作の特筆点として、パソコン通信の時代に電子ネットワーク上を伝播する悪意を予見している点が挙げられます。そしてそのネット上を伝播する悪意と、作中現実世界の深い霧の中で拡散していく悪意をシンメトリーに描き、さらに知っている人にとっては疫病を広める悪魔である「パズズ」のイメージを重ね合わせることで、得体の知れない悪意の広がりを多層的かつ幻惑的に描き出しています。

このように本作(というか竹本作品全般)の魅力は、巧みな文章や設定、構成の妙によって肌感覚すら錯覚させる幻惑の体験にあると思います。

▼以下、ネタバレ感想
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妖霧の舌 (光文社文庫)
竹本健治妖霧の舌 についてのレビュー
No.28: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

メルカトルかく語りきの感想

非常にユニークなプロットで統一された5つ短編を収録した作品集。
そしてそのプロットは麻耶氏らしくミステリに対する挑戦的なものでありながら比較的理解しやすいもので、かつ「答えのない絵本」ではそのプロットを成立させるため、これまた麻耶氏らしい非常に緻密なロジックが構築されており、本書は同氏の作風が自分に合うか判断するリトマス紙として最適ではないかと思います。

個人的ベストは、やはり挑戦的なプロットと緻密なロジックの両立が美しい「答えのない絵本」。
また初読時には引っかかりませんでしたが、再読で、実は作中作の無駄遣いという構成に面白さを感じた「九州旅行」もなかなかの佳作です。

▼以下、ネタバレ感想
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メルカトルかく語りき (講談社文庫)
麻耶雄嵩メルカトルかく語りき についてのレビュー
No.27: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ノックス・マシンの感想

本書収録の四作品のなかで、特に「論理蒸発-ノックス・マシン2」におけるセンスと発想の爆発は、すごいの一言。
ただ、この作品はミステリではなくSFを軸とする物語なので、サイト内での評価の低さも致し方ないところでしょう。
しかも本作の面白さはSF部分にあるわけでもなく、SF要素を成立させるためのミステリ的なガジェットにあるため、おそらくSFファンも評価しづらいのではないかと個人的には思います。

多分この作品を楽しめるのは、SFとミステリが重なる部分を、科学的厳密性もミステリ作法も度外視して受け入れられるタイプの読者だけかもしれません(ネタバレなしなので、どうしても抽象的な表現になります)。

▼以下、ネタバレ感想
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ノックス・マシン (角川文庫)
法月綸太郎ノックス・マシン についてのレビュー
No.26: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

真実の10メートル手前の感想

ジャーナリストの太刀洗万智が、報道されている事件の表からは見えない真実を持ち前の推理力をいかして浮かび上がらせ、その悲劇的な、残酷な、あるいは重いがゆえに滑稽な真実と向き合う姿を描いたミステリ短編集。
とはいえ本作の謎解き要素は太刀洗のキャラを印象付けるためや真実の悲劇性などを深めるための手段にすぎず比較的小粒なものが多く、本作の最大の魅力は、最後に明かされる真実によって読者にもたらされる深い余韻にあると思います。
同作者の「儚い羊たちの祝宴」に軽く謎解き要素を加味した作品集、というのが一番わかりやすいでしょうか。

個人的なベストは、表題作の「真実の10メートル手前」とラストの「綱渡りの成功例」。
特にこの2作品は内容もさることながらタイトルが秀逸で、最後にこのタイトルの意味を知ることで物語の余韻をより深く感じさせる見事な効果を生み出しています。

▼以下、ネタバレ感想
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真実の10メートル手前 (創元推理文庫)
米澤穂信真実の10メートル手前 についてのレビュー
No.25: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

死と砂時計の感想

明日になれば刑が執行され死ぬ運命の確定死刑囚が、なぜその執行前夜に独房で殺されたのか?
とか、なぜ女囚は男のいない女子監獄内で妊娠したのか?
といった終末監獄で起きた事件の、主に逆説的な動機の謎を、牢名主の老人と新入り囚人のコンビが解き明かしていく短編集。
「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」が個人的ベストで、また掉尾の「確定囚アラン・イシダの真実」で明かされる、とある強烈な動機も面白かったです。

そう、この2作品はとても面白かったのですが。
残りのいくつかではその謎が解かれることで別の謎が生じてしまっているのが残念で、高評価には出来ませんでした。

▼以下、ネタバレ感想
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死と砂時計 (創元推理文庫)
鳥飼否宇死と砂時計 についてのレビュー
No.24:
(6pt)

仮面(ペルソナ)の感想

本作は、とあるクラブの閉店パーティに集まった7人の男女の描写から幕を開けます。ところが次の章では事件の終盤と警察の事情聴取に場面が飛び、そこで二人の人物による別々の犯人指摘が行われます。そして続く章では、探偵の依頼で当事者である客の一人が事件の経緯をまとめた手記と、事件後の当日夜に探偵に起こった出来事が交互に描かれていきます。

この特異なストーリー構成を見ても分かるように、本作は発生した事件の謎を解明する単なるミステリではなく、メタミステリあるいはアンチミステリ的な企みに満ちた作品に仕上げられています。そしてその企み自体は非常に面白く、その作り方も上手いと思えるのですが・・・土台となるべき事件の謎があまりにも突拍子もなく、結果土台(ミステリ)の上に立つべきそのアンチまたはメタ的企みも微妙に感じられてしまうのが残念です。

▼以下、ネタバレ感想
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仮面(ペルソナ) (幻冬舎文庫)
山田正紀仮面(ペルソナ) についてのレビュー
No.23: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

虚構推理 鋼人七瀬の感想

はたして本作はミステリなのか?

広義のミステリを「謎が提示され、それが解明される物語」とするならば、本作は鋼人七瀬の正体という謎があるもののその解明をメインとする物語ではなく、広い意味でもミステリとは言い難いと思えます。
一方で本格と呼称される狭義のミステリにおいて「ロジックによる謎の解明」を至上とする流れがあります。そして本作は、謎の解明こそありませんが、不可思議への対抗手段として非常に精緻で巧妙な「ロジックの積み重ね」を用いる物語です。だから自分は、本作を見事な本格あるいは変格ミステリであると考えます(言葉のニュアンスの話で、詭弁的論法っぽいですが)。

なのでミステリの魅力を謎の解明によるカタルシスにあると考える向きには薦められませんが、ミステリにおける精緻なロジックの組み立てやその応酬の妙に魅力を感じる向きであれば、かなりお薦めできる作品です。

▼以下、ネタバレ感想
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虚構推理 (講談社タイガ)
城平京虚構推理 鋼人七瀬 についてのレビュー
No.22:
(6pt)

倒叙の四季 破られたトリックの感想

春夏秋冬4つの倒叙ミステリ短編を収録した連作集。
犯人たちはネット上の「完全犯罪完全指南」という裏マニュアル本を参考に完全犯罪を目論み、探偵役と熱い攻防を繰り広げます。
深水氏は作中で持論を登場人物に語らせる傾向がありますが、本作でも「物証も無いのに論理的追求だけで犯人が自白するミステリ」への苦言があり、したがって読者は特に犯人の偽装工作の中にどのような物証が残され、犯人を追い詰めるのかに注目しながら読むことになると思います。
その観点で春と夏の事件は非常に面白く読めたのですが、個人的には、正直秋と冬の事件は疑問符のつく内容でした。

▼以下、ネタバレ感想
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倒叙の四季 破られた完全犯罪 (講談社文庫)
深水黎一郎倒叙の四季 破られたトリック についてのレビュー
No.21:
(9pt)

クラインの壷の感想

ゲームブックのシナリオコンテストに応募した、という導入から時代を感じさせます。
「14(パラグラフ:ゲームブックのシーン番号)へ行け」
閑話休題。
そんな昔の作品でありながら、描かれるのは仮想現実という現在の科学技術とその技術が生み出す幻惑的なプロットで、
「クラインの壷」というタイトルが非常に秀逸です。
大オチも、この展開ならこれ以外ないだろうというもので好みです。

▼以下、ネタバレ感想
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クラインの壺 (講談社文庫)
岡嶋二人クラインの壷 についてのレビュー
No.20: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

魔眼の匣の殺人の感想

真の予知と予言がある(かもしれない)という世界観を背景に、その特殊設定を前作同様うまく事件に組み込んでミステリに仕上げていると思います。

ただ、前作の特殊設定が作中世界に確かに存在するものとして描かれ、ゆえに様々なミステリ要素に影響を与えているのに対し、本作では予言や予知が真であるか厳密には不明のため、登場人物たちの心理的要素(選択基準や行動基準)にしか影響を与えていないのが「特殊設定ミステリ」としてみると少し残念ではあります(例えば予言が100%実現する世界では「予言で人を殺すこと(ハウダニット)」も推理の要素となりえますが、本作ではなりえません)。

もっとも、それはあくまでミステリ四冠にふさわしい傑作だった前作との比較の話で、予言や予知に翻弄される形で各登場人物が取る行動はそれぞれユニークで、特に探偵側の行動は論理性を備えつつ類を見ないもので非常に面白く、また特殊設定を離れたオーソドックスなミステリーとしてみるとフーダニットのロジックが良く出来ており、十分面白く読み応えのある本格ミステリー小説だと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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魔眼の匣の殺人
今村昌弘魔眼の匣の殺人 についてのレビュー
No.19: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

匣の中の感想

タイトルや目次の構成を見れば明らかなように、本作は四大奇書の一にして孤高の傑作「匣の中の失楽」へのオマージュとして描かれた作品です。
一方で原典が推理合戦や衒学趣味、暗号に密室トリックとミステリのさまざまな要素を濃厚に横断しつつ、その構造的な特性から幻想小説としての側面を強くしそれが大きな魅力となっているのに対し、本作もそれを踏襲しながら、とある仕掛けによって幻想小説ではなく本格ミステリとして成立させている点が非常に素晴らしいと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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匣の中 (講談社文庫)
乾くるみ匣の中 についてのレビュー
No.18:
(4pt)

あぶない叔父さんの感想

これはなかなかの問題作ですね。
ちゃんとミステリ作品ではあるんですけど、はたしてこれを「本格」ミステリと呼んでもいいものかどうか。

主人公の高校生優斗の持ち込む事件の謎を、便利屋を営む叔父さんが解き明かすという連作集なのですが・・・

もともと麻耶氏の作品の魅力は、非常に精緻な「ロジック」に軸足をのせることで本格ミステリの形を保ちつつ、本格ミステリの概念を破壊する挑戦的な「プロット」を見せるところにあると思います。
ところが本作では、謎の解明において表面上ロジックをほぼ放棄しているように見えるため、健在の挑戦的なプロットも不発気味に感じてしまいました。



▼以下、ネタバレ感想
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あぶない叔父さん (新潮文庫)
麻耶雄嵩あぶない叔父さん についてのレビュー
No.17: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

夏と冬の奏鳴曲の感想

間違いなくマイベスト3に入る一冊。
美術手法の「キュビズム」と音楽手法の「無調性」を物語のベースに、過去に真宮和音という女優の魅力にとりつかれ孤島で共同生活を送っていた人々が20年後に再び孤島に集うことで起こる崩壊(と、おそらく再生)を描いた物語で、ラストの大崩壊からのメルカトルの一言によるカタルシス(謎が一つ明かされただけなのに!)は、唯一無二の得がたい読書体験です。

また事件の大枠はなんとなく、フワっとモヤっと分かった気にはなるものの、いまだに細かい点、例えば黒猫や鈴の意味、同一人物に対するゴルゴンの印象の相違、あるいは作中で詳述されるキュビズムと異なり説明がほぼない無調音楽の作中での役割(音楽用語の和音(わおん)に関連するものだと思うのですが)など不明な点も多く、何度も読み返してしまう魅力があります。

ついに新装改訂版が刊行。
といっても今回の改訂で「無調音楽」の説明の追加等を期待していたのですが、そういう大幅改訂は別の一箇所くらいしかなく謎の解明に直接的に繋がるようなものはない印象です。気になる細かい改訂はちょこちょこありましたけどね。その代わりになのか、法月綸太郎氏が新たな解説で「無調音楽」の説明をざっくりして下さってますが、やっぱり自分に音楽的な基礎知識がないせいか本作品に落とし込める形でそれを理解する事はできませんでした。

▼以下、ネタバレ感想
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夏と冬の奏鳴曲 新装改訂版 (講談社文庫)
麻耶雄嵩夏と冬の奏鳴曲 についてのレビュー
No.16: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

化石少女の感想


▼以下、ネタバレ感想
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化石少女 (徳間文庫 ま)
麻耶雄嵩化石少女 についてのレビュー


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