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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1393件
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現代調査研究所・岡坂シリーズの一作。文庫700ページの大作である。
大手家電メーカーのオーディオ製品のイメージキャラクター探しに関わった岡坂は、無名の女性ギタリスト・香華ハルナを見出し、契約に成功する。しかし、重大な企業秘密であるはずのこの話が、なぜか業界紙に嗅ぎ付けられ、執拗に追いかけられることになる。契約から60日間、秘密を守り通さなければ契約破棄になってしまう。果たして岡坂は、業界紙ゴロ、怪しい調査員、ライバル広告会社の社員、社内にいるかもしれないスパイなど、周囲の不審な人物たちの手から香華ハルナを守りきれるのか? 著者のバックグラウンドである広告業界、クラシックギター、神保町界隈と、著者お得意の舞台装置で繰り広げられる企業&PIミステリーである。登場人物のキャラクターやエピソードは巧く描かれているし、ストーリー展開もテンポがいい。それでもやや不満が残るのは、ヒロイン・香華ハルナのイメージが途中から変化して平凡になってしまうことと、最後に明かされる悪役側の動機に疑問を感じることが原因である。 サスペンス作品というより、ピストルも殺しも出て来ない、日本のハードボイルドらしいエンターテイメント作品としてオススメする。 |
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スノーボードを舞台にした連作短編集。個々の作品がそれぞれに完結していながら、7つの作品がぐるっと一回りして衝撃的(笑劇的?)なオチにつながるという、にやりとさせられる仕掛けが、いかにも東野作品である。
ストーリー展開が早いし、登場人物のキャラクター設定も会話も巧いので、すいすい読める。 スノボファンでなくても面白く読める。暇つぶしにはもってこいである。 |
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釧路の貧民窟のような片隅で頭の狂った母親と暮らしていた影山博人が、釧路の政治経済の闇の支配者になり成功するまでを、彼に関わった女性の物語として描いた8本の連作短編集。
怖いもの、未知なもの、理解できないもの、支配的なものに惹かれていく女性の心理と適度にエロチックな場面が刺激的なレディース・コミックのようなお話である。 語りが上手な作者なので退屈することはないが、熱中するほどでもない。コミック代わりにどうぞ、というところか。 |
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時代に押しつぶされながらも、流されながらも、自分一人の幸せを生ききった女の物語。読んでいる途中で何度も胸にこみ上げて来るものがある、強く情感に訴える物語である。
道東の貧しい開拓地で育った百合江は、看護婦になりたいという夢も叶わず、中学卒業と同時に奉公に出されるが、その町で見た旅芸人一座に心を惹かれ、奉公先を飛び出して一座に加わってしまう。だたひたすら歌うことだけを生き甲斐に、それなりに幸せな日々だったが、座長の病気を機に一座は解散し、百合江は一座の仲間だった宗之介と行動を共にすることになった。宗之介との間で妊娠したとき、故郷へ帰ろうとするのだったが拒絶され、妹・里実が働いていた釧路で生活することにした。しかし、娘・綾子が生まれると、宗之介は姿を消した。ミシンを使った縫製仕事で生きていた百合江と綾子に里実が縁談を持ち込み再婚したのだが、相手は金と女にだらしないマザコン息子だった。夫の借金を返すために温泉旅館で仲居と歌手として働き、借金を返済したのだが、二番目の子供・理恵を出産したとき、綾子を勝手によそにやられたことから、結婚生活が破綻し、再び釧路で暮らし始めることになった。 途中、穏やかに暮らす時期はあるものの、生涯のほとんどは貧困と悲惨な家族関係に翻弄される百合江だったが、本人は自分が選んだ人生だと諦観し、そんな人生にも幸せを見出している。対照的な性格の妹・里実だが、里実には里実の深い悩みがあり、けっして絵に描いたような幸せではない。 桜木作品の例に漏れず、出てくる男たちはほとんどがだらしなく、逆に女性が強すぎるのだが、強い女が持つ脆さ、というか強くならなければいけない流れが、非常に説得力がある。 人間の本当の強さとは何かを考えさせられる小説である。 |
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2006年本屋大賞の第2位にランクされた、痛快なエンターテイメント長編。これまで読んだ、どの奥田英朗作品とも違う面白さで、改めて奥田英朗の幅広さに感服した。
元過激派の両親と暮らす東京・中野の小学6年生が、友だちや周辺の不良たちに揉まれながら自我を確立して行く物語だが、凡百の成長物語とは違って説教臭さが微塵も無いのが心地よい。 映画化されればヒットするのではないかと思う。 |
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道東・釧路の新設高校の図書部で同期だった5人の少女たちが卒業後に歩んだそれぞれの道は、それぞれに悩み多きものだった。誰もが生きづらさを抱えており、平穏な人生ではなかったが、中でも、高校時代に教師に告白して拒絶され、就職先の和菓子店の主人と子供を作って駆け落ちした順子は、本人が「私は幸せ」と言えば言うほど、関わりがある周辺人物の心を波立たせ、不安にさせるのだった。順子が感じていた幸せを、周りが信じきれなかったのは何故か?
あまり器用とは言えない一人の女の25年の歳月を、時代を追いながら彼女に関係する6人の女の視点から描いた連作短編集である。しかも、それぞれの短編の主人公になる女性たちの生き方も鮮やかに描き出した、見事な展開力に驚嘆した。 ストーリーにも、情景描写にも、会話にも、心理描写にも、ぐんぐん迫ってくるリアリティがある、力強い作品である。 |
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前作「秘密」で日本での人気を確立したオーストラリアの女性作家の最新作。1930年代と現在を行き来しながら謎を解く、ゴシック風味のミステリーで、「大人のお伽噺」という訳者あとがきに出てきた言葉が、本作品の本質を的確に表現している。
母親に置き去りにされ、一週間、部屋に閉じ込められていた少女が発見された事件で、「育児疲れの母親が家出した」という結論での捜査打ち切りに納得できなかった刑事セイディは、新聞記者に内部情報を漏らすというタブーを犯し、上司から強制的に休暇を取らされた。傷心のセイディが訪れたのは、育ての親である祖父が引退して暮らしているコーンウォールの海沿いの小さな街だった。そこでセイディはジョギング中に迷い込んだ森で、打ち捨てられた古い屋敷を発見する。その屋敷「湖畔荘」は、70年前に一歳を迎える直前の男の子セオが行方不明になるという悲劇に見舞われ、その後、放置されたままだった。事件に興味を持ったセイディは古い記録を探し出し、事件の真相を解明しようとする・・・。 息子を亡くした両親から「湖畔荘」を受け継いだアリスは著名な推理小説家でロンドンに在住し、「湖畔荘」を訪れることはなかったのだが、弟であるセオの失踪事件に密かに責任を感じていた。アリスの姉デボラは、第一次世界大戦でPTSDを煩った父がセオを殺害したのではと疑い、そのきっかけを作ったのは自分ではないかと罪の意識に苛まれていた。さまざまに秘密を抱えた関係者が作り出す、複雑なストーリーが解き明かされたとき、その真相は思いがけない結末を迎えるのだった。 最後の最後のエピソードが、「おや、まあ、そう来ましたか」という感じで、まさにお伽噺である。ただ、そこまではきっちりした謎解きミステリーであり、読み応えがある。昔話と現在の諸事情が入り交じり、全体像を把握するまでは読みづらいのだが、下巻になる辺りからはテンポよく物語が展開し、納得がいく結末に治まって行く。 あまり血腥くない、派手なアクションが無い、落ち着いたミステリーを読みたいという読者には、絶対のオススメだ。 |
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2007年の柴田錬三郎賞を受賞した短編集。どこにでもいそうな現代人の「家族としての自分」を考えさせる、6作品である。
6作品とも主人公は30代(おそらく)の家庭人。主婦であったり、主夫であったり、夫であり妻である、ごく平凡な平均的な人々である。その日常に、ちょっとした変化が起きたとき、人は思いがけない心境になり、ちょっとドラマチックな出来事が起きたりする。けれども、瞬間的な興奮が冷めると、日常は案外力強く元の状態を取り戻していく。そんな小さな波風を、面白いエンターテイメントに仕上げて読ませてくれる作者の力量は、さすがである。 ユーモラスでハートウォーミングで、しかもちょっとだけ常識を外れたファンタジーを求めている読者には120%のオススメだ。 |
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アメリカではニューヨークタイムズのベストセラーリストの1位を数ヶ月も続け、映画化もされた、大ヒット作。人間が持つ「嫌な部分」をあえてあぶり出した、気分を悪くするけど目が離せなくなるサイコ・ミステリーである。
ニューヨークで雑誌のライターをしていたニックとエイミーの夫妻は、30代半ばにも関わらずネット社会の動きに着いて行けずに失職し、ニックの生まれ故郷であるミズーリ州に引っ越すことになった。ニューヨーク育ちのお嬢様であるエイミーは中西部の田舎暮らしになじめず、不満を募らせているようだった。結婚5周年の記念日に、突然エイミーが行方不明となった。室内に争ったあとがあったことなどから、ニックが重要参考人として追求されることになる。確たるアリバイが無く、疑惑を招くような言動も多いニックは、どんどん追い込まれて行くのだが・・・。 事件の様相は、警察の捜査によってではなく、ニックの告白とエイミーが残した日記によって読者に提示されるのだが、その二つのストーリーにはかなりの違いがあり、真相がまったく見えて来なくなる。夫婦それぞれの主張のどちらが真実なのか? どちらも真実ではないのか? ストーリーが進むほど、読者は真実と虚構の闇に迷い込むことになる。まさに予測不能で、スリリングでサスペンスフルな物語である。 サイコ・ミステリーの一種ではあるが残酷な描写で恐怖感を煽ることは無く、人間が普遍的に持つ心理的な怖さにスリルを覚える作品であり、いわゆる「イヤミス」ファンはもちろん、残酷ではないサイコ・ミステリーのファンにはオススメだ。 |
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2017年、86歳になったル・カレが発表した新作長編。なんと、「スマイリー三部作」に決着をつける後日談という、大胆な作品である。
フランスの田舎で隠遁生活を送っていたスマイリーの愛弟子ピーター・ギラムは、英国情報部からロンドンに呼び寄せられ、冷戦時代の作戦で死亡した情報員の遺族から訴訟を起こされようとしていると知らされる。しかも、情報部だけでなく、スマイリーとギラムの個人的な責任も問われるおそれがあるという。作戦の詳細について、情報部から厳しく問いただされたギラムはやむなく、かつて隠しておいた作戦の資料を情報部に渡すことになった。資料に残されていた記録、ギラムや関係者の記憶が重なりあったとき、作戦に秘められていた真実が明らかになった。 手に汗握る情報戦が展開されたスマイリー三部作の裏に、何が隠されていたのか。巨匠は、大昔の作品のプロットや登場人物を巧みに動かしながら、冷戦時代とはまったく異なるスパイ小説を完成させた。情報戦のスリルとは異なる、冷酷で厳しいスパイの哀しみが胸を打つヒューマンドラマである。 スマイリー三部作時代からのファンはもちろん、ル・カレは初めてという読者も十分満足できるだろう。オススメだ。 |
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1987年のオール読物推理小説新人賞を受賞した表題作を始め、5作品を納めた初期短編集。どれも荒削りながら、のちの宮部みゆき作品に通じる「芽」を感じる個性的な作品揃いである。
5本の中では、表題作の「我らが隣人の犯罪」がミステリーとしての完成度が一番高くて面白い。他の4作品も、それぞれにアイデアや構成の妙があり、新人離れした巧さを感じさせる作品ばかりである。 |
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本国ドイツはもちろん、日本でも人気が高いオリヴァー&ピアシリーズの第5作。日本では、これまで3、4、1、2の順で翻訳刊行されてきたのが、ようやく順番通りになった。
風力発電施設建設会社で夜警が侵入者に殺され、さらに、社長の机の上にハムスターの死骸が置かれているのが発見された。捜査に乗り出した警察に対し、会社の経営陣は非協力的で、何かを隠したがっているようだった。さらに、この会社が計画中の風力発電プロジェクトに対しては、地元で反対運動が繰り広げられていた。ところが、反対派の中も複雑で、仲間内での対立が起きていた。そんな中、プロジェクト予定地を所有する老人が殺害される事件が発生し、老人との喧嘩を目撃された市民運動家の男が犯人ではないかと目された。関係者の誰もが警察に非協力的で何かを隠している中、オリヴァーとピアは地道な聞き込みと心理を読む捜査でじりじりと真相に迫って行く・・・。 風力発電という巨大な利権に群がる政財界、官僚の汚職や陰謀、施設建設がもたらす巨額に目がくらむ関係者の欲望が重なりあい、事件を生み出して行く。という意味では社会派ミステリーだが、本作の力点は親子や家族、恋人関係の複雑さとどうしようもなさにおかれており、オーソドックスなヒューマンドラマである。中でも、捜査を指揮するはずのオリヴァーが女性関係の悩みからほとんど役立たずになって行くのが衝撃的で、事件捜査の展開より、そっちの方が気になった。 主要登場人物たちの変化が興味深く、シリーズ読者には絶対のオススメ。シリーズ未読の方には、ぜひ第1作から順に読むことをオススメする。 |
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アメリカでは既に10作が発表されているという人気シリーズの第1作で、本邦デビュー作。凄腕のCIA秘密工作員が主役ながら、最初から最後まで笑わせてくれる、傑作ユーモアミステリーである。
中東で暴れて武器マフィアから命を狙われることになってしまったCIA秘密工作員のフォーチュンは、CIA長官の配慮で長官の姪に身分を偽ってルイジアナ州の田舎町シンフルに身を潜めることになった。小さな田舎町で静かに暮らすはずだったのだが、到着早々、保安官助手には目をつけられ、隠れ家の裏で人骨が発見されたことから、地元の殺人事件に巻き込まれてしまう・・・。 物語のメインは殺人事件の真相解明で、それなりに筋が通ったストーリー展開で楽しめる。しかし、最大の読みどころは、事件解明に積極的に関与してくる2人の老婦人との掛け合いである。とにかく元気いっぱいで、頭も腕も立つ老人たちと凄腕工作員のハチャメチャな活躍が楽しい。 犯人探しとは言え、警察小説ではなく、私立探偵ものの一種、ユーモア系のPI小説である。さらに、女性が主人公のPIものだが、ウォーショウスキーやキンジーなどとは異なり、アクション場面もユーモラスである。 笑えるミステリーが好きな人、例えばカール・ハイアセンのファンなどには絶対のオススメだ。 |
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ノルウェーの女性作家の人気シリーズの第3作。第2作「湖のほとりで」がガラスの鍵賞を受賞し、本作もノルウェー書籍販売業者協会の大賞(本屋大賞みたいなもの?)を受賞したという、王道を行く北欧警察小説である。
深い森の奥に一人で住む老女が殺害され、近くで目撃された精神に障害がある青年・エリケが有力容疑者とされた。ところが、エリケは同じ日に起きた銀行強盗事件で人質にされ、強盗犯人と一緒に行動していることが判明した。セイエル警部は、エリケを犯人と決めつける周囲とは異なり、冷静沈着に事実を追求し、事件の真相に迫って行くのだった。 老女殺害事件の犯人探しの物語だが、銀行強盗と精神障害者の逃避行のエピソードにも力点が置かれている。というか、殺人事件の犯人探しは「えっ?」という展開であっさり決着がつけられるのに対し、逃避行とエリケの思考や行動の解析はじっくり時間をかけ、丁寧に追いかけられており、こちらの方が本筋かと思わされる。しかも、その描写が重くて、なかなかページが進まない。 社会的な問題を取り上げ、ストーリー展開が遅く、読者を憂鬱にさせるというのは、北欧ミステリーにはよくあることだが、それにしても本作は辛気くさ過ぎる。銀行強盗とエリケのやり取りにはユーモラスな部分もあるのだが。 ゴシック風味というか、多少のオカルト的な重苦しさを苦にしない読者にしか、おススメしない。 |
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新聞連載された長編作品。文庫の裏表紙に「傑作サスペンス長編」とあるので手に取ったのだが、サスペンスでもミステリーでもない、狂気をはらんだ恋愛小説である。
実業家の年上妻に先立たれ、関与していた事業から追放されて故郷の新潟を離れざるを得なくなり、東京で仕事を見つけた54歳の男・伊澤。美少女コンテストで入賞したことからタレントを夢見て釧路から上京したものの成功せず、10年間所属した芸能事務所を首になった29歳の沙希。沙希のバイト先である銀座のキャバレーで出会った二人は、それぞれの事情を抱えたまま、伊澤が販売をまかされて赴任した北海道のリゾートマンションで再会する。バブル時代に投機目的で建設されたものの失敗した、荒れ果てたリゾートマンションはまったく買い手がつかず、伊澤は鬱屈した日々を過ごしていた。そこを訪れた沙希も、釧路の実家へ帰る足取りは重く、ぐずぐずと時間を浪費していた。そこに現われたのが、20年も前にマンションを5部屋購入し、所有し続けている小木田と名乗る男だった。荒廃した夢のあとと舞台に、寄る辺ない三人が繰り広げた奇妙な物語は、思いも寄らない事態へ転がって行くことになった。 夢が壊れたとき、人は何を頼りに生きて行く力を得るのか? 乱暴に言えば、人は「愛」を頼りに再生して行くのだろうが、では、その「愛」とは何なのか?を追求した作品である。従って、ラブストーリーとして読むことも可能だが、それにしてはヒーロー、ヒロインに感情移入するのが難しい。 はっきり言って、読後感が良くない作品である。この作者は、もっとミステリー寄りの作品の方が楽しめる。 |
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スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビによる「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第2作。2005年に刊行され、日本では2009年に翻訳されたた作品が2017年に再文庫化された作品である。
ストックホルムの病院で、激しい暴行を受けて救急搬送されてきたリトアニア人娼婦・リディアが医師と学生を人質に遺体安置所に立てこもるという事件が起きた。別の殺人事件捜査で病院にいて事件に出くわし、現場を指揮することになったエーヴェルト警部は、リディアの要求で同僚のベングト刑事を交渉役として派遣した。ところが、リディアはベングトを射殺し、自らも拳銃自殺してしまう。リディアはなぜ、なんの勝算もない立てこもり事件を引き起こしたのか? 捜査を進めたエーヴェルト警部は衝撃的な事実に直面する・・・。 立てこもり事件と並行して、エーヴェルトの運命を決めることになった凶悪犯・ラングによる暴行殺人の捜査が展開され、二つが微妙に重なりあってエーヴェルトの苦悩は深まって行く。社会的正義とは何か、警察の役割りはどこにあるのか、エーヴェルトは厳しい決断を迫られることになる。 立てこもり事件の終結までの展開はサスペンスがあり、ラングを追い詰める捜査も真に迫ってはらはらさせる。だが、両方の事件が一定の結果を出してからのエーヴェルトの苦悩の部分になると「なんだかなぁ〜」と肩すかしをくらったような気分になった。前に読んだ同じコンビの作品「三秒間の死角」があまりにもレベルが高かったので、期待し過ぎたのかもしれない。 シリーズ作品ではあるが、シリーズとしての骨格がまだ決まっていない感じで、単独で読んでも何の支障もない。北欧警察小説、社会派ミステリーのファンにはオススメだ。 |
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1993年から94年にかけて新聞連載された長編ミステリー。93年の殺人事件捜査と69年の青春時代の懐古とが入り交じった、青春小説ミステリーである。
1993年、サンディエゴの公園で北海道余市で果樹園を営む男が射殺された。農業視察団の一行としてアメリカを訪れ、途中から単独行動でサンディエゴにに来たらしい彼は、なぜ人気のない夜の公園で殺されたのか。市警のマルチネス刑事が捜査を担当することになった。一方、被害者の側は、残された妻とアメリカ留学中だった娘だけでなく、高校時代からの親友という3人の男が日本から駆けつけてきた。マルチネス刑事は、被害者の関係者に聞き取りを始めたのだが、妻も友人たちも何かを隠しているようで、全面的に協力的な態度ではなかった。彼らが非協力的だった理由は、1969年のサイゴンでの日本人の爆死事件が絡む、彼らの青春の出来事にあった。 物語は、殺人事件の捜査と青春の懐古の二つの大きな流れで構成されており、それぞれに読みどころがあり、良くできた作品である。ただ、どちらも中途半端になってしまった感は否めない。それでもエンターテイメントとしては十分に成立しており、評価に値する作品である。 北海道の大地が生み出す開放感とベトナム戦争という時代が作った陰が、当時の若者たちに様々な影響を与えたことが窺える。 佐々木譲ファンであれば、失望することはない作品であり、ファンでなくても時代感覚が分かる50代以上の読者にはオススメできる。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第12作。現代社会の盲点を突いた犯罪の怖さを見せつけて日常生活に恐怖を覚えさせる、ある意味ホラーなサスペンス大作である。
NY市警のコンサルタントを辞めたライムのもとに持ち込まれたのは、ショッピングセンターでエスカレーター事故に巻き込まれた被害者遺族の損害賠償訴訟への協力だった。これは実は、殺人事件の犯人追跡中に事故現場に居合わせたアメリア・サックスからの依頼だった。安全なはずのエスカレーターで、なぜ予想もしない事故が起きたのか? ライムのチームが原因を探ってみると、これは事故ではなく、仕組まれたものではないか、殺人ではないかとの疑いが濃くなってきた。一方、事故現場で犯人を取り逃がしたサックスの捜査は行き詰まり、それをあざ笑うかのように、同じ犯人による殺人事件が引き起こされた。しかも、エスカレーターによる殺人も同一犯によるものではないかと思われた。日常生活に普通に使われている電子機器を凶器に変える犯行の動機は何か、犯人の意図するものは何か? 毎日使っている装置や道具に、こんな危険が潜んでいるのかと、読んでいる途中で怖くなる。まさに、作者の意図通りの反応をしてしまうサスペンスフルな作品で、いつも通りのどんでん返しもたっぷり仕掛けられており、ハラハラドキドキの度合いは期待通りと言える。ただ、今回は犯人の狂気というか、ねじれ具合がイマイチ。こういうサイコな作品は悪人次第という点から言うと、やや小粒な作品である。 いつものメンバーに、新たに魅力的なキャラクターの新人が加わったし、ライムとサックスの関係にも変化が訪れそうで、次作へ期待を持たせるのも、いつも通り。期待以上ではないが、期待通りに面白い、安定した作品である。シリーズのファンにも、単発で読む読者にもオススメできる。 |
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2016年度英国推理作家協会の新人賞と最優秀長編賞をダブルで受賞した、アメリカの作家のデビュー作。クライムノベルであり、ロードノベルであり、成長物語であるという解説文の通りの力強いエンターテイメント作品である。
ロサンゼルスのギャングの末端で働いていた15歳のイーストは、組織のボスである叔父から、組織に不利な証言をする予定の証人を殺害するように命じられた。証人がいるのはLAから2000マイル離れたウィスコンシン州で、そこまで車で行けという。組織が同行メンバーに選んだのは、20歳、17歳の少年とイーストの弟で13歳のタイだった。組織と叔父に忠実なイーストは、バラバラな仲間たちに手を焼きながら必死で任務を果たそうとするのだが、思いがけない事態の連続で、心身ともに疲れ果ててしまう。苦労に苦労を重ねた末に任務を果たしたイーストたちだったが、帰り道はさらに過酷な物だった・・・。 ギャングが証人を消すというクライムの部分、2000マイルをドライブするロードの部分、そして15歳のイーストが世の中を知って行く成長物語の部分が様々に重なり、入れ替わり、入り交じり、実に多彩な顔を見せる作品である。最後も「少年は立派に成長しました」という単純なハッピーエンドではなく、作品の深さをあとからじわじわと感じることになる。 三つの側面を持つ作品だが、クライムノベルというより、ロードノベル、成長物語と思って読むことをオススメする。 |
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カーソン・ライダー刑事シリーズの第9作。邦訳ではシリーズの6作と8作が抜かされているので、7冊目になる。前作「髑髏の檻」がちょっとダレてきたように感じて心配だったのだが、本作は元のシリーズに戻ったような緊張感溢れる作品で安心した。それにしても第6作と8作が何故抜かされたのか?、シリーズ愛読者としては気になるところである。
自転車に乗っていた女子大生、車いすの黒人少年、若い白人男性の介護士が、相次いで殺害された。被害者の社会的属性に共通点は無く、犯行に使われた凶器もバラバラの事件だったが、これは犯人がライダー刑事に挑戦するための犯罪だったことが判明する。市警本部長を始めとする上層部や被害者家族からも「事件を引き起こした』として、いわれなき非難を浴びながら、ライダー刑事は相棒ハリーとともに犯人探しに奔走するのだが、犯人の手がかりはまったく掴むことができなかった・・・。 本作では、これまでのライダー刑事の一人称での語りだけでなく、随所に犯人グレゴリーの語りが挿入されており、犯人探しではなく、警察による捜査と犯行の背景の解明がメインストーリーとなっている。さらに、ライダー刑事の恋愛エピソードが花を添え、サスペンス一辺倒ではないエンターテイメント作品に仕上がっている。また、カーソン・ライダー自身に大きな変化が訪れそうな幕切れになっているのも見逃せない。 犯人の凶悪さが際立っているという点では、サスペンス小説として高ポイントだが、犯人の生い立ちを知ると暗くて重い気分になってしまう。残酷なシーンや嫌悪感を招きかねない描写がいくつもあるので、小説の描写に影響を受けやすい方にはおススメできない作品であり、ことに犯人グレゴリーのパートを読むときは気持ちを強く持って対応することをオススメする。 シリーズの流れに大きく影響しそうな作品だけに、できれば第1作から読むことをオススメしたいが、本作だけでも十分に楽しめることは確かである。 |
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