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仮想儀礼
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仮想儀礼の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.43pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全88件 81~88 5/5ページ
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9・11同時多発テロのニュースは、生放送で見ていた我々には、余りにも衝撃的で、生々しいものであった。そのニュースを見ながら「第四次産業=虚業としての宗教」を商売として思いつく。しかも、教団名は、「聖泉」:昔の彼女の出身校、「真法」:司法試験を目指したゼミの名から命名するといった、ふざけた出発。 以下、成功に至るまでは、中島らもの『ガダラの豚』のように、時々吹き出しながら、楽しく読める。篠田節子の長編はすべて読んだが、こんなにユーモアのセンスあったっけ?と思うほど、似非宗教が戯画的に描かれる。 時に心の傷を生の意味として、トラウマ乗りの「生きづらい系の若者」と、教団をワンダーランドのように転々とする「おばさん連中」との女同士の対立や、ユーザー主導型の宗教が、急展開する成功談より面白く読める。 なぜなら、似非宗教をインチキ商売としてやるには、主人公は余りにも、「良心的過ぎる」のだ。彼の内的葛藤も、相棒の女に甘すぎる優しさも面白い。「永遠のマザコンである日本人」ときっぱり言い切ってしまう所もさすが。 かけこみ寺のように入信する者、近親相姦によるトラウマを引き摺る者など、五人の女性の過去が丁寧に描かれる。虐待の記憶が現実なのか捏造なのか、ひいては、過去と現在の我々の存在の在り方に一石を投じてくれる問い、等々。900ページに及ぶ必然性も肯ける。 闇の政治家やマスコミとの戦いも去ることながら、教祖の教えを深化、血肉化させる女性たちが、一気にラストへと収斂していく系譜が、私は一番楽しんで読めた。 新興宗教団体をカルトと危険視する精神構造(正直、私にもある)は、実は、マスメディアや偏った教育によって洗脳されたものであり、「西洋的合理主義の行き詰まりから、機能不全に陥った現代社会」において、何を心の拠り所として生きていくか、極めて大きな問題提起をしてくれている。 | ||||
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9・11同時多発テロのニュースは、生放送で見ていた我々には、余りにも衝撃的で、生々しいものであった。そのニュースを見ながら「第四次産業=虚業としての宗教」を商売として思いつく。しかも、教団名は、「聖泉」:昔の彼女の出身校、「真法」:司法試験を目指したゼミの名から命名するといった、ふざけた出発。 以下、成功に至るまでは、中島らもの『ガダラの豚』のように、時々吹き出しながら、楽しく読める。篠田節子の長編はすべて読んだが、こんなにユーモアのセンスあったっけ?と思うほど、似非宗教が戯画的に描かれる。 時に心の傷を生の意味として、トラウマ乗りの「生きづらい系の若者」と、教団をワンダーランドのように転々とする「おばさん連中」との女同士の対立や、ユーザー主導型の宗教が、急展開する成功談より面白く読める。 なぜなら、似非宗教をインチキ商売としてやるには、主人公は余りにも、「良心的過ぎる」のだ。彼の内的葛藤も、相棒の女に甘すぎる優しさも面白い。「永遠のマザコンである日本人」ときっぱり言い切ってしまう所もさすが。 かけこみ寺のように入信する者、近親相姦によるトラウマを引き摺る者など、五人の女性の過去が丁寧に描かれる。虐待の記憶が現実なのか捏造なのか、ひいては、過去と現在の我々の存在の在り方に一石を投じてくれる問い、等々。900ページに及ぶ必然性も肯ける。 闇の政治家やマスコミとの戦いも去ることながら、教祖の教えを深化、血肉化させる女性たちが、一気にラストへと収斂していく系譜が、私は一番楽しんで読めた。 新興宗教団体をカルトと危険視する精神構造(正直、私にもある)は、実は、マスメディアや偏った教育によって洗脳されたものであり、「西洋的合理主義の行き詰まりから、機能不全に陥った現代社会」において、何を心の拠り所として生きていくか、極めて大きな問題提起をしてくれている。 | ||||
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この下巻はすごい。「ゲーム」として捏造された「宗教」が、迫害されたコアな女性信者たちの間で完全な実体と化し、やがてその「教祖」の心身をも支配していく過程を刺激的なストーリー展開にのせ、説得的に描き出している。苦痛すぎる現実的な不幸からの逃走と狂気じみた妄想に、それらしい「教義」と「儀礼」が形を与え、やがて暴走していくとき、何が起るのか、その実情を著者は巧みに小説化した。 そうした息を呑むような「仮想現実」のなかで、しかしなお現実と虚構のはざまを行き来しつつ苦悩する主人公の姿が、誠に立派であった。自分の軽率な思いつきにより精神を呪縛され破滅していく人々を、最後まで引き受けるという責任の自覚が、ついには心底からの敬虔な「祈り」を彼に自然に行わせるに至る。あくまでも人間としての「常識」をまっとうしようとする誠実な態度が、結果として「常識」を超えた信心の次元を切り開く。 「宗教」とは何か。エンターテイメント小説という体裁でその真実に肉迫しようと試みかなり成功した、これは稀有な傑作である。 | ||||
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この部分で、まずビックリ…。 信仰心など全くなく、金儲けのためだけに宗教団体を作る。 ニセ宗教が、どうやって金儲けをしていくか。 仏像を手作りしたり、安い材料で何となくそれらしく見せたり…と、地味な二人の作業。 こんなので儲かるの?と思いつつ読み進めると、徐々にではあるが様々な人々をひきつけて、団体は発展していく。 この上巻の過程は、なかなか面白く読みました。 | ||||
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発展を遂げた団体が、今度は破滅していく様を描いた下巻。 教祖の正彦の思いとは違う方向に、どんどん堕ちていく。 ここが凄い…。 いったいどうやって結末を迎えるのかと、ページを捲る手が止まりません。 信者からも見放され、落ちぶれて、また一文無しになる正彦を予想していましたが、そんな簡単には終わってくれませんでした。 正彦の思惑からどんどん離れ、信者の中でどんどんと違うものに成長し暴走していく。 想像以上に悲惨な最後でした。 新興宗教の様々な事件が起こるたび、感じていた疑問。 何故、人が宗教に頼り、落ち、狂っていくのか。 その様子がありありと描かれ、疑問の一部を解いてくれました。 本書に描かれた様々な信者たちの姿が非常にリアルに感じられたのは、著者の取材力と描写力の為せる技でしょう。 とにかく凄い作品でした。 上下巻、900ページ超ですが全く飽きることなく、一気に読みました。 | ||||
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ほとんど思いつきで創作した宗教団体が、その「教祖」の思いもよらないような力や出来事に導かれるかたちで飛躍的に発展し、やがて危機に陥っていく様を描いた力作小説である。架空の宗教の創作、そしてその維持と展開の際に、既存の宗教の教理や教団の運営システムなどが豊富に参照され、主人公、というか著者がよく勉強していることを窺わせる。実名が出てくる場合もあるので、これは現代における宗教事情の勉強にもつながる有益な本だなと思った。 しかしそれ以上に興味ぶかいのが、この宗教団体を拡大させていく、信者たちの姿である。「生きづらい」系の若者たち、現世利益を求める中高年、他の新宗教団体やカルトから脱会してきた人々、超能力の獲得を希求する少年、精神の安定と金儲けの一挙両得を願う経営者やビジネスマン、人生の無常に目覚めた資産家、落ち目になり宗教に活路を見出す文学者、等々、ややステレオタイプ的ながら、しかし誠にリアリティあふれる人間たちが次々に登場し、それぞれのスタイルでこの宗教団体にかかわり、時に大問題を起す。 この人間たちの言動が実に身近に感じられるからこそ、本書はあくまでも「仮想」の現実を記述した作品でありながら、非常に説得力があり、そこに現代社会を生きる我々の偽らざる心情を発見してしまうのである。 | ||||
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新興宗教団体の虚実を描き切った力作。 ただただ金儲けのためだけに作られた宗教団体が、いかにして発展し、かつ、崩壊してゆくのか、教祖の心の動きを中心に描いている。 作られた虚構でしかない団体が、信者を集め、その信者の盲信のゆえに、教祖の手を離れて暴走してゆく‥‥。 これと並行して、この団体を取り込もうとしたり取り潰そうとする外部の暗躍が。 非常にスリリングな展開が綴られてゆく。 宗教法人の会計のしくみなどを十分に取材していなければ意外と描けないような、そういった場面も出てくる。 また、行政の福祉関係の職員だった作者の体験が活かされているのではないか、という場面も、ところどろに効果的にちりばめられている。 いわば、社会的弱者がいかにして新興宗教団体に取り込まれてゆくか、ということをも描いているのだ。 むしろ、そこが本書の言わんとしているところなのかもしれない。 一気に読ませるだけの力がある。 いわゆる「カルト宗教団体」はこのように作られてゆくのかもしれないな、と思わせる、そんなリアルさにも満ちた作品となっている。 | ||||
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作られた虚構でしかない新興宗教団体。 しかし、そこで人間の営みが行なわれれば、虚構だったはずのものが否応なく現実となって、ひとりひとりを苦しめてゆく。 信者の盲信と暴走、それを止められずにどんどん追いつめられてゆく教祖。そして、ついには最悪の結末が‥‥。 心が壊れてゆく。 団体そのものが壊れる、ということ以上に、そこにかかわるすべての者の心が壊れてゆく。 それを深く描いた小説である。心理描写が非常に巧みであった。 ひとりひとりの登場人物の、リアルな描写も際立っている。 小説そのものも虚構ではあるが、すぐ目の前で現実にその場面が繰り広げられているような、ある意味で「ぞっ」とするような凄みのある小説だ。 | ||||
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