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仮想儀礼



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仮想儀礼の評価: 4.43/5点 レビュー 102件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.43pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全102件 81~100 5/6ページ
No.22:
(2pt)

新興宗教ビジネスはちょろいのか?

篠田節子作品で読ませるのは、私見では一に『女たちのジハード』であり、『夏の災厄』がこれに続く。

高評の嵐のような本作については、途中で退屈して投げ出してしまった。
まず思ったのは、えげつなさも含めて、これよりは新堂冬樹の『カリスマ』のほうが上ではないか? 
この2つは、同じように新興宗教を取り上げてはいるが、なるほどテーマは異なる(過激な新興宗教教祖のパーソナリティを描く新堂作品と普通の人々が新興宗教にはまるお話)。
とは言え、新興宗教群像のエンタメモノとしては、新堂に面白さがあろう。好き好きと言われれば話はおしまいだが。何も別に新堂作品を褒めるわけではないが、篠田の本作を持って「ヒューマニズム」や「社会派」を云々されても困ってしまうのである。

たとえば、ドン・デリーロの『マオ2』のような集団的な宗教的熱狂への描写があるわけではない。ふと顔を出す狂気が支配する恐怖もほとんど描かれないし、描かれても中途半端だ。銭儲けを目的とした落ちぶれた一般人が、新興宗教をビジネスとして始めてしまうという設定なのだから、それでもよいとは言える。それはよいとしても、宗教ビジネスが覗かせる人間のおかしさの描写にしても際立っているところはひとつもない。それに、ビジネスであればもっと過酷な面があると思うがなあ。まずもって、上下2巻は長すぎるのである。

それでも、貫井徳郎あたりのゆるーい因果モノ(『乱反射』など)あたりと較べれば、大人にも読めるものかもしれないので星2つ。大甘ではあろうが。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.21:
(2pt)

新興宗教ビジネスはちょろいのか?

篠田節子作品で読ませるのは、私見では一に『女たちのジハード』であり、『夏の災厄』がこれに続く。
高評の嵐のような本作については、途中で退屈して投げ出してしまった。
まず思ったのは、えげつなさも含めて、これよりは新堂冬樹の『カリスマ』のほうが上ではないか? 
この2つは、同じように新興宗教を取り上げてはいるが、なるほどテーマは異なる(過激な新興宗教教祖のパーソナリティを描く新堂作品と普通の人々が新興宗教にはまるお話)。
とは言え、新興宗教群像のエンタメモノとしては、新堂に面白さがあろう。好き好きと言われれば話はおしまいだが。何も別に新堂作品を褒めるわけではないが、篠田の本作を持って「ヒューマニズム」や「社会派」を云々されても困ってしまうのである。
たとえば、ドン・デリーロの『マオ2』のような集団的な宗教的熱狂への描写があるわけではない。ふと顔を出す狂気が支配する恐怖もほとんど描かれないし、描かれても中途半端だ。銭儲けを目的とした落ちぶれた一般人が、新興宗教をビジネスとして始めてしまうという設定なのだから、それでもよいとは言える。それはよいとしても、宗教ビジネスが覗かせる人間のおかしさの描写にしても際立っているところはひとつもない。それに、ビジネスであればもっと過酷な面があると思うがなあ。まずもって、上下2巻は長すぎるのである。
それでも、貫井徳郎あたりのゆるーい因果モノ(『乱反射』など)あたりと較べれば、大人にも読めるものかもしれないので星2つ。大甘ではあろうが。
仮想儀礼〈上〉Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉より
4103133619
No.20:
(5pt)

虚業のリアル

怖い。

 新興宗教に限らず、宗教というものが全く信用できないウチが、この作品はどうしても読んでみたくなって購入しました。

 公務員だった男が作家になる夢につけ込まれ、気がつくと家族も職も失ってしまう。唆した男を責めながら目撃してしまった9.11、ワールドトレードセンタービルディングが崩壊する中、二人は「宗教」を事業として起こすことにする。

 ゲームブックと各種宗教の組み合わせた事業としての癒し、宗教を求める様々な人、どんどんと大きくなっていく宗教団体、そして小さな綻びからの転落。宗教の持つ胡乱さと、それをどうしても求めてしまう人の思い。
 ステロタイプな登場人物が、逆に作り物じゃなく思えてしまえて、とんでもなく怖い。

 上下巻900ページにも及ぶ長編は、グッと鷲づかみにされるほどの強烈さで一気に読み進められて、教団がふくらんでいくと過程に高揚し、転げ落ちていく過程に恐怖を覚えてしまう。ジェットコースターのように揺さぶられ続けて読み終えてしまった。
 穏やかそうに見えるラストでも、信者に潜む心の内がやっぱり怖い。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.19:
(5pt)

虚業のリアル

 怖い。
 新興宗教に限らず、宗教というものが全く信用できないウチが、この作品はどうしても読んでみたくなって購入しました。
 公務員だった男が作家になる夢につけ込まれ、気がつくと家族も職も失ってしまう。唆した男を責めながら目撃してしまった9.11、ワールドトレードセンタービルディングが崩壊する中、二人は「宗教」を事業として起こすことにする。
 ゲームブックと各種宗教の組み合わせた事業としての癒し、宗教を求める様々な人、どんどんと大きくなっていく宗教団体、そして小さな綻びからの転落。宗教の持つ胡乱さと、それをどうしても求めてしまう人の思い。 ステロタイプな登場人物が、逆に作り物じゃなく思えてしまえて、とんでもなく怖い。
 上下巻900ページにも及ぶ長編は、グッと鷲づかみにされるほどの強烈さで一気に読み進められて、教団がふくらんでいくと過程に高揚し、転げ落ちていく過程に恐怖を覚えてしまう。ジェットコースターのように揺さぶられ続けて読み終えてしまった。
 穏やかそうに見えるラストでも、信者に潜む心の内がやっぱり怖い。
仮想儀礼〈上〉Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉より
4103133619
No.18:
(5pt)

宗教はこころをもてあそぶのか、それとも、心を救うのか

環境にメスを入れるのが工学技術
心のメスを入れるのが宗教
工学技術が環境を改善する一方では、破壊もする。
宗教も心を癒し育てる一方では、心を破壊もする。
宗教の2面性を見事に描ききった好著

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.17:
(5pt)

宗教はこころをもてあそぶのか、それとも、心を救うのか

環境にメスを入れるのが工学技術
心のメスを入れるのが宗教
工学技術が環境を改善する一方では、破壊もする。
宗教も心を癒し育てる一方では、心を破壊もする。
宗教の2面性を見事に描ききった好著
仮想儀礼〈上〉Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉より
4103133619
No.16:
(3pt)

お薦めです

本書の構成は、俗の敗者が、聖を利用して俗に反撃を試みたところ、一旦は勝利するもののまたたくまに反撃をくらって、再び一敗地にまみれるという単純なものです。少なくともエピローグの前までは。しかし、最後の数頁で勝負は逆転します。聖中の俗、転じて俗中の聖が忽然として立ち現れるのです。
 掉尾の一文字を書き下した時、本作家の脳裡には一体どのような感慨がよぎったのでしょうか?もうひともうけできるという欲でしょうか?あるいはどういった批評が下されるのかといった不安なのでしょうか?
 そうではないと思います。おそらくは、人として普通に生きるということの尊さといったものが特別の光に彩られるというわけではないにしても、何かしら言葉で掌握できる範囲を遥かに超えた深いたなびきのようなものを帯びつつ静かに流れてゆくのを茫然として見送っていたのではないでしょうか。私にはそう感じられます。
 久しぶりに「文学とはヒューマニズムである」という言葉を思い出すことができました。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.15:
(3pt)

お薦めです

 本書の構成は、俗の敗者が、聖を利用して俗に反撃を試みたところ、一旦は勝利するもののまたたくまに反撃をくらって、再び一敗地にまみれるという単純なものです。少なくともエピローグの前までは。しかし、最後の数頁で勝負は逆転します。聖中の俗、転じて俗中の聖が忽然として立ち現れるのです。
 掉尾の一文字を書き下した時、本作家の脳裡には一体どのような感慨がよぎったのでしょうか?もうひともうけできるという欲でしょうか?あるいはどういった批評が下されるのかといった不安なのでしょうか?
 そうではないと思います。おそらくは、人として普通に生きるということの尊さといったものが特別の光に彩られるというわけではないにしても、何かしら言葉で掌握できる範囲を遥かに超えた深いたなびきのようなものを帯びつつ静かに流れてゆくのを茫然として見送っていたのではないでしょうか。私にはそう感じられます。
 久しぶりに「文学とはヒューマニズムである」という言葉を思い出すことができました。
仮想儀礼〈上〉Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉より
4103133619
No.14:
(5pt)

ビジネスとしての宗教は成り立ちうるのか

本書は「読み始めたら止められない」極めて優れた娯楽小説であり、読後感も決して悪くない。
支払った「お代」以上のものを返してくれる、ちゃんとしたエンターテインメントだ。

しかし、本書を読み終わった読者は、それぞれに考え込むことになる。
この「豊かなあまりに人と人との関係が薄くなった世の中」で、「サービス業としての宗教」というものが成り立つのか?という問いに対するひとつの回答を著者は本書で示したと言える。

著者による回答は極めて説得的だが、人によっては違う回答もあるだろう。
少なくとも本書の主人公が言うように、現代は過去とは違う。
「昔の宗教は確かに存在理由があった」「家は貧乏、嫁ぎ先じゃいびられる、子供は病気で死んじまう。そういう女なんかに、神様が憑いた。」「しかし今じゃ、退屈した人間が自分の精神を玩具にして、宗教はそのためのワンダーランドだ。笑わせてくれるなよ。」(上巻93頁)

本書は、そういう時代の宗教とは何なのかについての、思考実験であるとも言える。

本書を読んで高橋和巳の「邪宗門〈上〉 (朝日文芸文庫)を猛烈に読み返したくなった。「宗教が宗教らしかった時代」、日本が貧乏にまみれていた時代の新興宗教の物語である。実に残念なことに絶版となっているが、図書館には必ずある本なので借り行くつもりだ。戦前の日本の想像を絶する貧苦の中から立ち上がってくる宗教のパワーを、これほど迫真性に満ちて描いた作品は、他にはない。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.13:
(5pt)

ビジネスとしての宗教は成り立ちうるのか

本書は「読み始めたら止められない」極めて優れた娯楽小説であり、読後感も決して悪くない。
支払った「お代」以上のものを返してくれる、ちゃんとしたエンターテインメントだ。
しかし、本書を読み終わった読者は、それぞれに考え込むことになる。
この「豊かなあまりに人と人との関係が薄くなった世の中」で、「サービス業としての宗教」というものが成り立つのか?という問いに対するひとつの回答を著者は本書で示したと言える。
著者による回答は極めて説得的だが、人によっては違う回答もあるだろう。
少なくとも本書の主人公が言うように、現代は過去とは違う。
「昔の宗教は確かに存在理由があった」「家は貧乏、嫁ぎ先じゃいびられる、子供は病気で死んじまう。そういう女なんかに、神様が憑いた。」「しかし今じゃ、退屈した人間が自分の精神を玩具にして、宗教はそのためのワンダーランドだ。笑わせてくれるなよ。」(上巻93頁)
本書は、そういう時代の宗教とは何なのかについての、思考実験であるとも言える。
本書を読んで高橋和巳の「邪宗門〈上〉 (朝日文芸文庫)を猛烈に読み返したくなった。「宗教が宗教らしかった時代」、日本が貧乏にまみれていた時代の新興宗教の物語である。実に残念なことに絶版となっているが、図書館には必ずある本なので借り行くつもりだ。戦前の日本の想像を絶する貧苦の中から立ち上がってくる宗教のパワーを、これほど迫真性に満ちて描いた作品は、他にはない。
仮想儀礼〈上〉Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉より
4103133619
No.12:
(5pt)

人々が宗教に求めるもの

宗教団体設立の理由がそれぞれ異なるように
信者がその宗教に求めるものもそれぞれだろうし
信者が増え、組織が大きくなればその方向性も変わっていく。

主人公が遊び半分で始めた宗教団体もどきが
あらぬ方向に暴走していく展開となっています。

随所に見られるシニカルな常識人の主人公の
教祖らしくない俗世的で現実的な判断がけっこう笑えます。

いやはや、信者の人生を引き受けるのは並大抵のことではないですね。
結末は哀しいけれど、不思議な爽快感がありました。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.11:
(5pt)

人々が宗教に求めるもの

宗教団体設立の理由がそれぞれ異なるように
信者がその宗教に求めるものもそれぞれだろうし
信者が増え、組織が大きくなればその方向性も変わっていく。
主人公が遊び半分で始めた宗教団体もどきが
あらぬ方向に暴走していく展開となっています。
随所に見られるシニカルな常識人の主人公の
教祖らしくない俗世的で現実的な判断がけっこう笑えます。
いやはや、信者の人生を引き受けるのは並大抵のことではないですね。
結末は哀しいけれど、不思議な爽快感がありました。
仮想儀礼〈上〉Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉より
4103133619
No.10:
(5pt)

テーマに気遅れするより、読書の醍醐味を取るべき

「信仰は金を産む」の帯が印象的な上巻469頁は、ネットから始めた新興宗教が大教団になってゆこうとする過程が着々と描かれてどうにも引いてしまう。
それは宗教という実体の無い所から金を産もうとする人模様を、如何わしく思ってしまうからかもしれない。
「自分たちで作り、立ち上げた宗教だから、その神は自分の手の内にある。しかしそれを信じた人々の感情や行動は、決して自分の手の内にはない。人の心は得体が知れず、制御もできない。」168頁の正彦の胸の内は、この作品をも表現している。
人間の心の脆さと宗教の関係を正彦が冷めた視線で見ながら布教していく始まりは面白く読めるのだが、教団が大きくなり破綻の幕開けのような事件で終わるこの上巻から下巻に手を伸ばすには気力が必要な内容だ。
だが、上下巻読み終わった状況から上巻の紹介となると、ここまでの作品を読まずに終わるのはもったいないと思う。読み応えある力量作品を読書の醍醐味として味わったことがある人ならば、昨今の作品には無い重量感あるこの作品に手を出して損は無い。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.9:
(5pt)

篠田節子に称賛

下巻の帯には「狂信が常識を食い破る」と太字で刷られている通り、狂気が下巻に充満している。が。その狂気が宗教だけに留まらない所に篠田節子の筆力が光る。
正直まやかしで作られた宗教が破綻していく展開は、教祖である鈴木正彦が逃げだいと切に願う心情に共感出来るくらい教団の内も外も崩壊してゆく。
怪しい宗教団体と世間から見なされた時、社会からの弾圧はここにも狂気が生まれるという恐怖が見事に描かれているのだ。
「空疎だからこそ、それを心底必要とする者が、まるで自らの鏡像と対峙するようにして、強固な中身を作り出していった」404頁の正彦が見た宗教の本質。
帯に書かれた正彦の叫び「もう勘弁してくれ、目を覚ましてくれ」は、読んでいる間私にも生じた感情になったくらいこの作品は重いしキツイ。
それでも読み終わった後評価が下がらなかったのは、締めである最後の一行で戦慄が走り、読んでいた間の嫌悪をも打ち消したからだ。
人間がいかに脆く弱い側面を持つのか私たちは知っている。
そこに読み応えある重量感ある作品を読む醍醐味を味わったことがある人なら、この作品を描ききった篠田節子に称賛を称えずにはいられない作品だと思う。

仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.8:
(5pt)

あなたにとって心の拠り所は?

9・11同時多発テロのニュースは、生放送で見ていた我々には、余りにも衝撃的で、生々しいものであった。そのニュースを見ながら「第四次産業=虚業としての宗教」を商売として思いつく。しかも、教団名は、「聖泉」:昔の彼女の出身校、「真法」:司法試験を目指したゼミの名から命名するといった、ふざけた出発。
 以下、成功に至るまでは、中島らもの『ガダラの豚』のように、時々吹き出しながら、楽しく読める。篠田節子の長編はすべて読んだが、こんなにユーモアのセンスあったっけ?と思うほど、似非宗教が戯画的に描かれる。
 時に心の傷を生の意味として、トラウマ乗りの「生きづらい系の若者」と、教団をワンダーランドのように転々とする「おばさん連中」との女同士の対立や、ユーザー主導型の宗教が、急展開する成功談より面白く読める。
 なぜなら、似非宗教をインチキ商売としてやるには、主人公は余りにも、「良心的過ぎる」のだ。彼の内的葛藤も、相棒の女に甘すぎる優しさも面白い。「永遠のマザコンである日本人」ときっぱり言い切ってしまう所もさすが。
 かけこみ寺のように入信する者、近親相姦によるトラウマを引き摺る者など、五人の女性の過去が丁寧に描かれる。虐待の記憶が現実なのか捏造なのか、ひいては、過去と現在の我々の存在の在り方に一石を投じてくれる問い、等々。900ページに及ぶ必然性も肯ける。
 闇の政治家やマスコミとの戦いも去ることながら、教祖の教えを深化、血肉化させる女性たちが、一気にラストへと収斂していく系譜が、私は一番楽しんで読めた。
 新興宗教団体をカルトと危険視する精神構造(正直、私にもある)は、実は、マスメディアや偏った教育によって洗脳されたものであり、「西洋的合理主義の行き詰まりから、機能不全に陥った現代社会」において、何を心の拠り所として生きていくか、極めて大きな問題提起をしてくれている。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.7:
(5pt)

あなたにとって心の拠り所は?

 9・11同時多発テロのニュースは、生放送で見ていた我々には、余りにも衝撃的で、生々しいものであった。そのニュースを見ながら「第四次産業=虚業としての宗教」を商売として思いつく。しかも、教団名は、「聖泉」:昔の彼女の出身校、「真法」:司法試験を目指したゼミの名から命名するといった、ふざけた出発。
 以下、成功に至るまでは、中島らもの『ガダラの豚』のように、時々吹き出しながら、楽しく読める。篠田節子の長編はすべて読んだが、こんなにユーモアのセンスあったっけ?と思うほど、似非宗教が戯画的に描かれる。
 時に心の傷を生の意味として、トラウマ乗りの「生きづらい系の若者」と、教団をワンダーランドのように転々とする「おばさん連中」との女同士の対立や、ユーザー主導型の宗教が、急展開する成功談より面白く読める。
 なぜなら、似非宗教をインチキ商売としてやるには、主人公は余りにも、「良心的過ぎる」のだ。彼の内的葛藤も、相棒の女に甘すぎる優しさも面白い。「永遠のマザコンである日本人」ときっぱり言い切ってしまう所もさすが。
 かけこみ寺のように入信する者、近親相姦によるトラウマを引き摺る者など、五人の女性の過去が丁寧に描かれる。虐待の記憶が現実なのか捏造なのか、ひいては、過去と現在の我々の存在の在り方に一石を投じてくれる問い、等々。900ページに及ぶ必然性も肯ける。
 闇の政治家やマスコミとの戦いも去ることながら、教祖の教えを深化、血肉化させる女性たちが、一気にラストへと収斂していく系譜が、私は一番楽しんで読めた。
 新興宗教団体をカルトと危険視する精神構造(正直、私にもある)は、実は、マスメディアや偏った教育によって洗脳されたものであり、「西洋的合理主義の行き詰まりから、機能不全に陥った現代社会」において、何を心の拠り所として生きていくか、極めて大きな問題提起をしてくれている。
仮想儀礼〈上〉Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉より
4103133619
No.6:
(5pt)

「宗教」の真相へ

この下巻はすごい。「ゲーム」として捏造された「宗教」が、迫害されたコアな女性信者たちの間で完全な実体と化し、やがてその「教祖」の心身をも支配していく過程を刺激的なストーリー展開にのせ、説得的に描き出している。苦痛すぎる現実的な不幸からの逃走と狂気じみた妄想に、それらしい「教義」と「儀礼」が形を与え、やがて暴走していくとき、何が起るのか、その実情を著者は巧みに小説化した。
そうした息を呑むような「仮想現実」のなかで、しかしなお現実と虚構のはざまを行き来しつつ苦悩する主人公の姿が、誠に立派であった。自分の軽率な思いつきにより精神を呪縛され破滅していく人々を、最後まで引き受けるという責任の自覚が、ついには心底からの敬虔な「祈り」を彼に自然に行わせるに至る。あくまでも人間としての「常識」をまっとうしようとする誠実な態度が、結果として「常識」を超えた信心の次元を切り開く。
「宗教」とは何か。エンターテイメント小説という体裁でその真実に肉迫しようと試みかなり成功した、これは稀有な傑作である。

仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.5:
(5pt)

信仰という商品を売る第四次産業、それが宗教だ!

この部分で、まずビックリ…。
信仰心など全くなく、金儲けのためだけに宗教団体を作る。
ニセ宗教が、どうやって金儲けをしていくか。
仏像を手作りしたり、安い材料で何となくそれらしく見せたり…と、地味な二人の作業。
こんなので儲かるの?と思いつつ読み進めると、徐々にではあるが様々な人々をひきつけて、団体は発展していく。
この上巻の過程は、なかなか面白く読みました。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.4:
(5pt)

ページを捲る手が止まらない!

発展を遂げた団体が、今度は破滅していく様を描いた下巻。
教祖の正彦の思いとは違う方向に、どんどん堕ちていく。
ここが凄い…。

いったいどうやって結末を迎えるのかと、ページを捲る手が止まりません。
信者からも見放され、落ちぶれて、また一文無しになる正彦を予想していましたが、そんな簡単には終わってくれませんでした。
正彦の思惑からどんどん離れ、信者の中でどんどんと違うものに成長し暴走していく。
想像以上に悲惨な最後でした。

新興宗教の様々な事件が起こるたび、感じていた疑問。
何故、人が宗教に頼り、落ち、狂っていくのか。
その様子がありありと描かれ、疑問の一部を解いてくれました。
本書に描かれた様々な信者たちの姿が非常にリアルに感じられたのは、著者の取材力と描写力の為せる技でしょう。

とにかく凄い作品でした。
上下巻、900ページ超ですが全く飽きることなく、一気に読みました。
仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.3:
(5pt)

仮想宗教のリアル

ほとんど思いつきで創作した宗教団体が、その「教祖」の思いもよらないような力や出来事に導かれるかたちで飛躍的に発展し、やがて危機に陥っていく様を描いた力作小説である。架空の宗教の創作、そしてその維持と展開の際に、既存の宗教の教理や教団の運営システムなどが豊富に参照され、主人公、というか著者がよく勉強していることを窺わせる。実名が出てくる場合もあるので、これは現代における宗教事情の勉強にもつながる有益な本だなと思った。
しかしそれ以上に興味ぶかいのが、この宗教団体を拡大させていく、信者たちの姿である。「生きづらい」系の若者たち、現世利益を求める中高年、他の新宗教団体やカルトから脱会してきた人々、超能力の獲得を希求する少年、精神の安定と金儲けの一挙両得を願う経営者やビジネスマン、人生の無常に目覚めた資産家、落ち目になり宗教に活路を見出す文学者、等々、ややステレオタイプ的ながら、しかし誠にリアリティあふれる人間たちが次々に登場し、それぞれのスタイルでこの宗教団体にかかわり、時に大問題を起す。
この人間たちの言動が実に身近に感じられるからこそ、本書はあくまでも「仮想」の現実を記述した作品でありながら、非常に説得力があり、そこに現代社会を生きる我々の偽らざる心情を発見してしまうのである。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163

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