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悪霊島
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【この小説が収録されている参考書籍】
悪霊島の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.49pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全37件 1~20 1/2ページ
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<ネタバレ注意> 『病院坂の首縊りの家』終了から9ケ月後、同じく『野生時代』で連載が始まった著者最後の作品。 同作の連載第一回が掲載される前にセッティングされた小林信彦との対談の時点で、次なる作品は『悪霊島』だと語っていて、冒頭のテープレコーダーの件なんかは、すでに構想されていた。 該作品で等々力警部が近況まで言及された【注1】ように、岡山シリーズの掉尾となる本作では、磯川警部の周辺について深堀りされた。この後予定されながら書かれなかった二作の片方は、等々力警部と磯川警部が共演する予定だったというが、本作でもしっかり+αされていたのがステキだ。【注2】 『悪魔の手毬唄』の最後は、磯川警部の心情を慮った金田一耕助の台詞で結ばれていたが、本作で、彼の心情にさらに重みが加わることになった。「いまや磯川警部は完全にズッコケていた」(P.138)なんて一文とはとても結びつかないw ただし、本作で追加された磯川警部周りの設定は、『湖泥』【注3】の記述と矛盾してしまうのだが……。 深堀りされたのは磯川警部だけではない。 金田一耕助が自己顕示欲とは無縁の控えめな性格であることは、シリーズを通じて何度も紹介されてきたが、本作で「相手の強引な勧誘を、断りきれない自分の気の弱さが歯がゆかった」(上P.237)、「その悪癖の出たおのれに対しての自己嫌悪に、背中を丸め~」(上P.238)なんて心情描写までは初めてだと思う。 ほかにも人間味あふれる描写として、「金田一耕助の心理はいま、懶惰の快感を希求する欲望と、自己に課せられた任務を、出来るだけ完全に遂行したいという責任感との板挟みになって、振り子のように揺れ」(下P.109)なんてのもあった。 こういった人間味は、後の新本格ブームで登場した探偵たちの多くに、煎じて飲ませてやりたいw 本作は同じ瀬戸内海に浮かんだ島が舞台ということで、当然ながら、獄門島との関連が思い浮かぶ。 『獄門島』と云えば、耕助との関係で鬼頭早苗が浮かぶものの、著者は彼女のその後を考えるのが面倒だったのかw、耕助の脳裡に一瞬浮かぶキリ【注4】ではあるが、物語構造的には、『獄門島』よりも『八つ墓村』に近い冒険活劇浪漫である。クライマックスにおけるある人物の装束は、田治見要蔵を思いださせるしw また『八つ墓村』以上に、犯人を隠そうとする意図はあまり感じられず、下巻の中盤までくるとほとんど明白になっている。トリックらしいトリックも見当たらない【注5】ので、そちらの原理主義者の観点に立って読めば、本作もひどく物足りない筈だ。 もしかしたらそんな理由から、以前読んだにも関わらずわたしの記憶には残らなかった可能性もないとは言えないw ちなみに、磯川警部の追加設定、土佐犬阿修羅、冒頭のシャム双生児関係の設定は映画ではばっさりカットされている。 読者の中には、またまた洞窟探検かと辟易したり失笑した読者もいただろう。 鍾乳洞ではなく、過去の地震によってできた断層の隙間ではあるが、冒険の舞台としての地下迷宮という機能は変わらない。 しかしこれは「引き出しのなさ」とは違うと感じた。 今回金田一耕助は静養メインで、+αとして人探しを頼まれたという設定だが、それを依頼したのは、アメリカ帰りの富豪越智竜平である。さすがにわたしも「おいおい『蜃気楼島の情熱』と同じパターンじゃねーか」とまずは思ってしまったのだが、越智は向こうで『蜃気楼島の情熱』の志賀泰三から耕助を紹介されたとわざわざ明示されていた。 そもそも志賀泰三の設定が、耕助の最初のパトロンである久保銀蔵に類似しているわけだが、そんな設定の使いまわしを隠すことなく、むしろ前に出して目立たせている。これは岡山ものの集大成を狙ったということではないか。 神楽太夫や神の矢なんてガジェットからも、著者の戦後初期の作品を連想することは容易い。 牽強付会を承知で加えるならば、本作のキーパーソン三津木五郎が、由利麟太郎シリーズの三津木俊助(あるいはそのオマージュ元であろう三津木春影)と、著者の次兄の五郎から名づけられてるのも、集大成を狙ったことと同様の感慨から生じたものと云えるのではないだろうか。【注6】 そうなると、「由紀子」が登場していないのはおかしいようにも思うが、やたらに登場機会の多かった「由紀子」は、著者がコントロールしてのものではなかったのだろう。だからそのことに本人が気づいたならば、むしろ避けたというのが自然という解釈はいかがかw というわけで、今回シリーズの集大成として読んだわたしはとても面白かったし、執筆後著者も満足していたらしい。しかし豊かなドラマの影で、少しだけ不満なこともあった。 捜査側の心情描写に比較して、犯人側の心情はほとんど描かれない。 コントラストをつけるのに有効だとはわかっちゃいるのだが……。 巴御寮人は、かなり行っちゃってる人だが、普段の人付き合いに特に異常性は見受けられなかった。 定期的なアレ、及び吉太郎との関係で精神の安定を図っていた上で、夫の守衛と越智竜平の裏取引を知って、最後のタガが外れたのだろうが、はたして長年一つ屋根の下で暮らしてきた家族にまで異常性を悟られずにおれるものか? まぁ巴の異常性の昂進と夫の守衛の愛人二人構成はどちらが先かわからない――というか、負のスパイラル効果と考えるべきだろう――し、片帆は三年間の高校生活の間に、玉島の御寮人から様々な毒を吹き込まれたうえに、自分でも母からなにがしかの異常性を感じていたからこその行動と悲劇でもあるだろう。 しかし「あんたはほんとにええ性格やわなあ。あることをあるがままに受け取って、現状に満足しておいでんさる」(上P.230)という故に母の異常に気づいていなかった真帆が、負ってしまった心のどデカい傷のケアは? 父と双子の妹が狂った母に殺害され、しかも地下迷宮であの作品群を見てしまった真帆は、地下迷宮の中で一旦気を失った後、「極度の恐怖とショックが彼女から正常の意識を奪ってしまっていた~彼女の双眸からはもう生の輝きは失われていた」(下P.270)となって退場する。 彼女がその後回復したのか、完全に壊れきってしまったのか、杳として知れない。 個人的には、巴御寮人の生死よりもよほど気になる……。 『毒の矢』【注7】ではボンちゃんの行く末を心配した金田一耕助も、まぁ公平にみてそれどころでない磯川警部wにも、島でのビジネスを進める越智竜平にも、刑部真帆の精神を慮る描写はない。 個人的には、そこが残念なところか。 | ||||
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複雑な事件の背景を描写するのに必要ではあるんでしょうけど、数は多いが魅力のない登場人物や舞台となる土地の説明などが冗長で、退屈だなと思うところが多かった。 これといって気の利いたトリックがあるわけでもないし、横溝作品に慣れていれば犯人の目星がすぐついてしまう。おどろおどろしい横溝世界を楽しむだけの雰囲気ミステリー。 | ||||
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横溝作品としては登場人物が多くなく、その血縁姻戚関係も複雑過ぎもしないので、読み易い小説だ。ただし、雑誌(角川書店『野性時代』)に長期連載されたものであり、冗長さは否めない。「横溝先生。引っ張り過ぎですよ」と言いたくなる(笑)。 感慨をもう1つ。事件は昭和42年に設定されており、金田一耕助も磯川警部も50才がらみの年齢になっている。磯川の驚くべきプライバシーの秘密も出てくる。「時が経ったんだなぁ」と思った。 さらにもう1つ。昭和56年(1981年)の角川映画化作品は原作に大幅な改変が加えられていたことが分かった。岩下志麻(巴御寮人)や佐分利信(刑部大膳)のキャラクターへの配慮か或いはライター(清水邦夫)の思いか。とにかく、ビートルズの”Let it be”とマッチするような原作ではないと思った。 閑話休題。探偵小説の巨匠。その最晩年の長編力作です。薦めます。 | ||||
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横溝作品としては登場人物が多くなく、その血縁姻戚関係も複雑過ぎもしないので、読み易い小説だ。ただし、雑誌(角川書店『野性時代』)に長期連載されたものであり、冗長さは否めない。「横溝先生。引っ張り過ぎですよ」と言いたくなる(笑)。 感慨をもう1つ。事件は昭和42年に設定されており、金田一耕助も磯川警部も50才がらみの年齢になっている。磯川の驚くべきプライバシーの秘密も出てくる。「時が経ったんだなぁ」と思った。 さらにもう1つ。昭和56年(1981年)の角川映画化作品は原作に大幅な改変が加えられていたことが分かった。岩下志麻(巴御寮人)や佐分利信(刑部大膳)のキャラクターへの配慮か或いはライター(清水邦夫)の思いか。とにかく、ビートルズの”Let it be”とマッチするような原作ではないと思った。 閑話休題。探偵小説の巨匠。その最晩年の長編力作です。薦めます。 | ||||
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商品を早くに受け取ったのに、今頃に申し訳ありません。 多少のヤケはありましたが、読む分には支障無しです! ありがとうございました。 | ||||
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横溝正史といえばファンも多いのだから、作者すでに老境に至りしといえど新作長編出るとなれば歓喜の声大にして迎えられるは当然であったろうが、それをのぞけば別に存在していなくてもいい作品である。特にトリックといったものもなく、犯人の意外性もなく、総決算作品として何かの決着をつけたような作品でもない(むしろ前作の『病院坂』のほうがそれであった。金田一耕助の行方を決着づけた作品として)。老年による筆の衰えは明らかで時系列描写も分かりづらい。この作品のもっとも印象深いところとして残るであろうシャム双生児の話もグロテスクで、今となってはほとんど人権問題的ですらある。双子の少女のひとりを殺した理由が何も説明されてないのはちょっとビックリした。『病院坂』もそうだったが巨匠と言えどお年を召されると全体的にメリハリがなくなって冗長になるのは避けられないのだろう。出版者のほうが出したがったんだろうけど。 | ||||
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「悪霊島」は横溝正史の長編推理小説。昭和54年1月から翌年5月まで「野性時代」に連載された作品で、「鵺のなく夜に気をつけろ」という不気味なダイイング・メッセージで知られている。名探偵・金田一耕助最後の事件は「病院坂の首縊りの家」だが、横溝正史によって最後に書かれた作品はこの「悪霊島」である。 昭和42年6月。アメリカで成功を収めた大富豪・越智竜平から依頼を受け、金田一耕助は久しぶりに岡山を訪れていた。竜平は出身地である刑部島の土地を買い占め、一大レジャーランドを建設する計画を進めていたが、調査のため島へ派遣した部下の青木修三が消息不明のため探してほしいというのだった。 ところが、旧友の磯川警部を訪ねた金田一は不思議なテープを聞かされることになる。それは青木らしき人物がどこかの崖から滑落し、瀬戸内海を漂っていたところ漁船に助けられ、船上で亡くなる直前にテープに残した言葉だった。 > ……あいつは体のくっついたふたごなんだ…… > ……あいつは腰のところで骨と骨とがくっついたふたごなんだ…… > ……あいつは歩くとき蟹のように横に這う…… > ……あいつは平家蟹だ……平家蟹の子孫なんだ…… > ……あの島には悪霊がとりついている、悪霊が……悪霊が…… > ……鵺のなく夜に気をつけろ…… > ……その島の名は……その島の名は……その島の名は…… 金田一耕助が竜平に事の顛末を報告したところ、引き続き青木の死について調査するよう依頼される。そこで金田一は刑部島へ渡ることを決意し、磯川警部に連絡を取ってみたところ、彼は浅井はるという産婆殺しを捜査していた。彼女は死ぬ前に磯川警部へ助けを求める手紙を送っており、遺品からは刑部神社との繋がりを示すものが発見されるのだった。 そもそも刑部島は平家の落人の末裔である刑部家が支配しており、もともと島にいた網元の越智家とは対立関係が続いている。22年前、越智本家の跡取りだった竜平は、刑部神社の家付き娘である巴と駆け落ちしたことがあった。網元とはいえ漁師の息子である竜平との仲は認められず、連れ戻された二人は仲を裂かれ、竜平は島を出てアメリカに渡ったのだという。 最近は工業化の煽りで漁業ができなくなり、寂れる一方だった刑部島。今でも神々しい美しさを誇る巴御寮人は、入り婿である守衛との間に真帆と片帆という双児の娘をもうけている。アメリカで資産家となり日本に戻った竜平が、故郷に錦を飾るかのごとく刑部島の開発に熱心に取り組み、刑部神社に莫大な寄進を行っているのは、巴御寮人が目当てと考えるものも少なくなかった。 そんななか、7月7日に行われる祭礼を前に刑部島はいつにない賑わいを見せている。島を訪れる者の中には、刑部島で消息を絶った神楽太夫・妹尾松若の遺児や、置き薬行商人で失踪した父を探している荒木定吉、そして浅井はるの殺害現場で目撃されたヒッピーに似た青年・三津木五郎も含まれていた。 祭の日、金田一耕助は刑部大膳の案内により島を舟で一周し、死者を火葬にする隠亡谷や、多くの蟹が棲息する水蓮洞の存在を知る。その夜、金田一は五郎が竜平に向かって叫んだ「お父さん!」という言葉の意味を考えていた。五郎はいったい誰の子供なのか。さまざまな思惑が行き交うなか、とうとう事件が発生する。刑部神社の神主である守衛が、竜平の寄進した黄金の矢で刺し殺されていたのであった……。 ミステリというよりはホラー要素が強く、繰り返しも目立つため冗長な印象を受けるが、瀬戸内の孤島、平家の落人、不可解なメッセージ、隠された血縁の秘密、シャム双生児、地下洞窟での対決など、金田一シリーズの醍醐味は味わえる作品になっている。特に、磯川警部の驚くべき過去を事件にからませた点が素晴らしく、結末も味わい深いものとなっていた。 「鵺の鳴く夜は恐ろしい…」というキャッチコピーを使用した角川映画で本作を知った方もいるのではないだろうか。原作発表の年に発生したジョン・レノン暗殺事件を本編に盛り込むため、重要な登場人物である三津木五郎が回想するという形式に変更されており、主題歌もビートルズの「Let It Be」が使われていた。鹿賀丈史が金田一を演じたのはこの映画のみだが、楽曲の使用権が切れたために、近年DVD化されたものはカバー版に差し替えられているとのこと。入手困難となっているオリジナルを観てみたいものだ。 <登場人物> 刑部大膳 … 刑部島の最高権力者。島唯一の旅館・錨屋を経営。 刑部天膳 … 大膳の双子の兄。巴の祖父。海難事故で死亡した。 刑部瑠璃 … 刑部神社の娘。天膳を婿養子に迎える。巴の祖母。 刑部珊瑚 … 瑠璃の娘。宮司を養子に迎え巴を生む。 刑部巴 … 大膳の姪。巴御寮人と呼ばれる別嬪。 刑部守衛 … 刑部神社の神主。巴の婿養子。天神ヒゲ。 刑部真帆 … 守衛と巴の娘。双子の姉。高校時代は島外で生活。 刑部片帆 … 守衛と巴の娘。双子の妹。高校時代は島外で生活。 刑部辰馬 … 刑部島の村長。大膳の甥。 越智竜平 … アメリカ帰りの大富豪。刑部島出身。 越智多年子 … 竜平の叔母。刑部島出身。 越智吉太郎 … 竜平の従兄弟。大膳の手下。巴に忠誠を誓う。 青木修三 … 竜平の部下。死ぬ直前、テープに謎の遺言を残す。 松本克子 … 竜平の秘書。 妹尾四郎兵衛 … 備中神楽の巨匠。神社の祭礼に招聘される。 妹尾松若 … 神楽太夫。四郎兵衛の息子。昭和23年に失踪。 妹尾誠 … 神楽太夫。松若の息子。勇の兄。 妹尾勇 … 神楽太夫。松若の息子。誠の弟。 妹尾平作 … 神楽太夫。四郎兵衛とは一番古いつきあい。 妹尾徳右衛門 … 神楽太夫。 妹尾嘉六 … 神楽太夫。 妹尾弥之助 … 神楽太夫。四郎兵衛の妹の孫。 三津木五郎 … ヒッピー青年。本当の父親を探し刑部島へ来た。 三津木秀吉 … 五郎の父。三新証券元社長。癌で亡くなる。 三津木貞子 … 秀吉の妻。肺炎で夫の後を追う。 荒木定吉 … 置き薬行商人。失踪した父を探している。 荒木清吉 … 置き薬行商人だった定吉の父。昭和33年に失踪。 山城太市 … 淡路の人形遣い。昭和36年に失踪。 浅井はる … 市子。殺される直前、磯川警部に手紙を送る。 川島ミヨ … はるの近所に住む婦人。 山下亀吉 … 学生服卸販売業者。金田一に島のことを語る。 田中静恵 … クラブ「モナミ」の女将。守衛に女を世話する。 澄子 … 倉敷の御寮人。守衛の妾。一時、真帆を預かる。 玉江 … 玉島の御寮人。守衛の妾。一時、片帆を預かる。 広瀬警部補 … 児島署の捜査主任。 藤田刑事 … 児島署の刑事。 山崎巡査 … 児島署刑部島駐在所の巡査。 原田巡査 … 児島署下津井駐在所の巡査。 木下医師 … 下津井署の嘱託医。 磯川警部 … 岡山県警の古狸。金田一とは旧知の仲。 磯川糸子 … 磯川警部の妻。元来が蒲柳の質で過労により死去。 磯川平太郎 … 磯川警部の7つ上の兄。応召し上海で散華した。 磯川八重 … 平太郎の妻。磯川警部は八重の家に寄寓している。 磯川健一 … 平太郎の息子。医者。磯川警部が学費を援助した。 磯川清子 … 健一の気だてのよい妻。2児の母。 金田一耕助 … 越智竜平から青木の調査を依頼された私立探偵。 | ||||
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「悪霊島」は横溝正史の長編推理小説。昭和54年1月から翌年5月まで「野性時代」に連載された作品で、「鵺のなく夜に気をつけろ」という不気味なダイイング・メッセージで知られている。名探偵・金田一耕助最後の事件は「病院坂の首縊りの家」だが、横溝正史によって最後に書かれた作品はこの「悪霊島」である。 昭和42年6月。アメリカで成功を収めた大富豪・越智竜平から依頼を受け、金田一耕助は久しぶりに岡山を訪れていた。竜平は出身地である刑部島の土地を買い占め、一大レジャーランドを建設する計画を進めていたが、調査のため島へ派遣した部下の青木修三が消息不明のため探してほしいというのだった。 ところが、旧友の磯川警部を訪ねた金田一は不思議なテープを聞かされることになる。それは青木らしき人物がどこかの崖から滑落し、瀬戸内海を漂っていたところ漁船に助けられ、船上で亡くなる直前にテープに残した言葉だった。 ……あいつは体のくっついたふたごなんだ…… ……あいつは腰のところで骨と骨とがくっついたふたごなんだ…… ……あいつは歩くとき蟹のように横に這う…… ……あいつは平家蟹だ……平家蟹の子孫なんだ…… ……あの島には悪霊がとりついている、悪霊が……悪霊が…… ……鵺のなく夜に気をつけろ…… ……その島の名は……その島の名は……その島の名は…… 金田一耕助が竜平に事の顛末を報告したところ、引き続き青木の死について調査するよう依頼される。そこで金田一は刑部島へ渡ることを決意し、磯川警部に連絡を取ってみたところ、彼は浅井はるという産婆殺しを捜査していた。彼女は死ぬ前に磯川警部へ助けを求める手紙を送っており、遺品からは刑部神社との繋がりを示すものが発見されるのだった。 そもそも刑部島は平家の落人の末裔である刑部家が支配しており、もともと島にいた網元の越智家とは対立関係が続いている。22年前、越智本家の跡取りだった竜平は、刑部神社の家付き娘である巴と駆け落ちしたことがあった。網元とはいえ漁師の息子である竜平との仲は認められず、連れ戻された二人は仲を裂かれ、竜平は島を出てアメリカに渡ったのだという。 最近は工業化の煽りで漁業ができなくなり、寂れる一方だった刑部島。今でも神々しい美しさを誇る巴御寮人は、入り婿である守衛との間に真帆と片帆という双児の娘をもうけている。アメリカで資産家となり日本に戻った竜平が、故郷に錦を飾るかのごとく刑部島の開発に熱心に取り組み、刑部神社に莫大な寄進を行っているのは、巴御寮人が目当てと考えるものも少なくなかった。 そんななか、7月7日に行われる祭礼を前に刑部島はいつにない賑わいを見せている。島を訪れる者の中には、刑部島で消息を絶った神楽太夫・妹尾松若の遺児や、置き薬行商人で失踪した父を探している荒木定吉、そして浅井はるの殺害現場で目撃されたヒッピーに似た青年・三津木五郎も含まれていた。 祭の日、金田一耕助は刑部大膳の案内により島を舟で一周し、死者を火葬にする隠亡谷や、多くの蟹が棲息する水蓮洞の存在を知る。その夜、金田一は五郎が竜平に向かって叫んだ「お父さん!」という言葉の意味を考えていた。五郎はいったい誰の子供なのか。さまざまな思惑が行き交うなか、とうとう事件が発生する。刑部神社の神主である守衛が、竜平の寄進した黄金の矢で刺し殺されていたのであった……。 ミステリというよりはホラー要素が強く、繰り返しも目立つため冗長な印象を受けるが、瀬戸内の孤島、平家の落人、不可解なメッセージ、隠された血縁の秘密、シャム双生児、地下洞窟での対決など、金田一シリーズの醍醐味は味わえる作品になっている。特に、磯川警部の驚くべき過去を事件にからませた点が素晴らしく、結末も味わい深いものとなっていた。 「鵺の鳴く夜は恐ろしい…」というキャッチコピーを使用した角川映画で本作を知った方もいるのではないだろうか。原作発表の年に発生したジョン・レノン暗殺事件を本編に盛り込むため、重要な登場人物である三津木五郎が回想するという形式に変更されており、主題歌もビートルズの「Let It Be」が使われていた。鹿賀丈史が金田一を演じたのはこの映画のみだが、楽曲の使用権が切れたために、近年DVD化されたものはカバー版に差し替えられているとのこと。入手困難となっているオリジナルを観てみたいものだ。 <登場人物> 刑部大膳 … 刑部島の最高権力者。島唯一の旅館・錨屋を経営。 刑部天膳 … 大膳の双子の兄。巴の祖父。海難事故で死亡した。 刑部瑠璃 … 刑部神社の娘。天膳を婿養子に迎える。巴の祖母。 刑部珊瑚 … 瑠璃の娘。宮司を養子に迎え巴を生む。 刑部巴 … 大膳の姪。巴御寮人と呼ばれる別嬪。 刑部守衛 … 刑部神社の神主。巴の婿養子。天神ヒゲ。 刑部真帆 … 守衛と巴の娘。双子の姉。高校時代は島外で生活。 刑部片帆 … 守衛と巴の娘。双子の妹。高校時代は島外で生活。 刑部辰馬 … 刑部島の村長。大膳の甥。 越智竜平 … アメリカ帰りの大富豪。刑部島出身。 越智多年子 … 竜平の叔母。刑部島出身。 越智吉太郎 … 竜平の従兄弟。大膳の手下。巴に忠誠を誓う。 青木修三 … 竜平の部下。死ぬ直前、テープに謎の遺言を残す。 松本克子 … 竜平の秘書。 妹尾四郎兵衛 … 備中神楽の巨匠。神社の祭礼に招聘される。 妹尾松若 … 神楽太夫。四郎兵衛の息子。昭和23年に失踪。 妹尾誠 … 神楽太夫。松若の息子。勇の兄。 妹尾勇 … 神楽太夫。松若の息子。誠の弟。 妹尾平作 … 神楽太夫。四郎兵衛とは一番古いつきあい。 妹尾徳右衛門 … 神楽太夫。 妹尾嘉六 … 神楽太夫。 妹尾弥之助 … 神楽太夫。四郎兵衛の妹の孫。 三津木五郎 … ヒッピー青年。本当の父親を探し刑部島へ来た。 三津木秀吉 … 五郎の父。三新証券元社長。癌で亡くなる。 三津木貞子 … 秀吉の妻。肺炎で夫の後を追う。 荒木定吉 … 置き薬行商人。失踪した父を探している。 荒木清吉 … 置き薬行商人だった定吉の父。昭和33年に失踪。 山城太市 … 淡路の人形遣い。昭和36年に失踪。 浅井はる … 市子。殺される直前、磯川警部に手紙を送る。 川島ミヨ … はるの近所に住む婦人。 山下亀吉 … 学生服卸販売業者。金田一に島のことを語る。 田中静恵 … クラブ「モナミ」の女将。守衛に女を世話する。 澄子 … 倉敷の御寮人。守衛の妾。一時、真帆を預かる。 玉江 … 玉島の御寮人。守衛の妾。一時、片帆を預かる。 広瀬警部補 … 児島署の捜査主任。 藤田刑事 … 児島署の刑事。 山崎巡査 … 児島署刑部島駐在所の巡査。 原田巡査 … 児島署下津井駐在所の巡査。 木下医師 … 下津井署の嘱託医。 磯川警部 … 岡山県警の古狸。金田一とは旧知の仲。 磯川糸子 … 磯川警部の妻。元来が蒲柳の質で過労により死去。 磯川平太郎 … 磯川警部の7つ上の兄。応召し上海で散華した。 磯川八重 … 平太郎の妻。磯川警部は八重の家に寄寓している。 磯川健一 … 平太郎の息子。医者。磯川警部が学費を援助した。 磯川清子 … 健一の気だてのよい妻。2児の母。 金田一耕助 … 越智竜平から青木の調査を依頼された私立探偵。 | ||||
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下巻は上巻以上にあっという間に読み終えてしまいました。本作品に限らず、この〈金田一耕助ファイル〉シリーズは全てそんな感じで、私にとっては本当に楽しい作品集になっています。 謎解きについては上巻で書評させていただいた通り、さほど意外性はありませんでした。ただ、これも上巻を読み終えた時点で予想した通り、そもそも横溝先生が本作で描きたい主題はそこには無い、と感じていたので、むしろ登場人物の人間関係の「謎解き」に興味が集中しました。そしてそっちの「謎解き」については、私の予想はいくつも外れていました。 いつもと同じく、大満足の一冊でした。でも、本作品のエンディングを読み終え、やはり本シリーズは終わりを迎えるのだな、という実感が湧きました。Everything that has a beginning has an end. 本シリーズの最終作品、ファイル20『病院坂の首縊りの家』を注文しようと思っています。 | ||||
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角川文庫の〈金田一耕助ファイル〉シリーズの第19弾。シリーズ1作目から順番に読んできたのですが、〈ファイル20〉でこのシリーズはおしまいなので、いよいよ終わりがみえてきました。本シリーズに手を掛けてから、横溝正史先生の金田一耕助モノが大好きになった者としては、終わりが見えてきたことに一抹の寂しさを覚えるとともに、期待を込めて読み始めました。 登場人物の相関関係がさほど複雑でなく、また素直なストーリー展開から、真犯人像は割と直ぐに思い浮かびました(下巻から登場する人物が真犯人であるなら、私の推理は全くの的外れということになりますが)。上下巻で完結するお話ですが、上巻の半分ぐらい読むと、なんとなく犯人像が浮かんできます。私の犯人像が当たっているか否かは別として、直感的に「この『悪霊島』の主題は謎解きには無い」と感じました。「横溝先生は、殺人事件を介して何か別のことを語ろうとしているのではないだろうか?」という思いです。 本作品は推理小説としてのトリックについては、技巧を凝らしたものではないかもしれません。しかしながら、上巻に登場してきた人物たちが下巻ではどういう結末を辿るのか、ドキドキします。シリーズ物を読み続け、大きな期待を持って読んでも、“期待はずれ”になることはありませんでした。上巻を読み終えたその日のうちに、下巻に手が伸びました。 | ||||
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品物を頂きました。大変ありがとうございました。 | ||||
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品物を頂きました。大変ありがとうございました。 | ||||
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横溝正史さんの小説では定番の岡山県を舞台にした長編です。伝奇作品のようにおどろおどろしい描写がてんこ盛りのエンタメ側に寄った内容です。一方で、金田一の推理や作中の人々の関係がご都合的であり、後半で駆け足のように物語が進むなど、推理小説としてはバランスが悪いところが目につきます。 | ||||
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横溝作品を昔から小説で読んでいる諸先輩方の評価は辛いが、私には結構面白かった。人物もわかりやすい。 映画版はいまいちわかりにくく、岩下志麻のすばらしさだけ印象にのこったが、陰惨さは小説の方が増し増しだし、磯川警部についてのお話があるのが良い。エピローグも気に入った。今じゃサイコパスや二重人格などが当たり前に出てくるけど、当時としては新しかったんじゃないかと。ところで、出てくる台詞のイメージは金田一は石坂、磯川は若山だった。台詞が誰のイメージになるかは読者次第で見つけるといい。 | ||||
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本格物としてみれば、戦後直ぐの作品に比べれば物足りないであろうが、私はそこには拘らない これは怪異譚である。乱歩に比べれば狂気が足りないし長めだが、熟練のストーリーテラー横溝正史節を楽しめた。最晩期の作品としててはまあまあではないか「病院坂」が金田一耕助、「悪霊島」が磯川警部、 予定されていた「女の墓を洗え」「千社札殺人事件」のどちらか判らないが等々力警部の、そして東京と岡山に跨がる事件で大団円となったのだろう。クリスティは「カーテン」を用意していたが、最晩年で書く機会を与えられたら自分の創造した世界の決着を着けたくなるものなのか | ||||
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金田一耕助は日本の三大探偵の1人だという。 しかし、被害者を救うことが出来たのは極少数。 金田一シリーズ全巻を読むのは何度目かになるが、事件を解明出来ても人の命を救えない探偵にジレンマが。 特にこの悪霊島はそれを感じる。 金田一が好きなだけに、そのジレンマは大きいのだと思う。 | ||||
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横溝ブームに乗って復活した氏の長編作のなかではただ一つのオリジナル作品。 他の長編はかつての中短編の引き延ばしやら中絶作品を再構築して書き直したリライト作品。 金田一耕助最後の事件の後にさらに書かれた作家本人の手による同人作のようなものです。 設定とキャラクターだけで読ませてしまうために、ミステリーなんだかサスペンスなんだかオカルトなんだかわけがわからない。それこそ「ヌエ」のようになってしまった作品。 ともあれ盟友、磯川警部の物語に決着をつけた作品として大切したいものです。 磯川警部の晩年に興味のある方だけ必は読です。 | ||||
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舞台、登場人物達はよさげなのに・・・・生かしきれていない。 あきらかに筆の衰えが感じられる。 推理小説の醍醐味は無く、淡々と描いている。 全体の70%くらいのページで犯人が明かされる(と言っても犯人に驚きもなし) うーーーん、映画同様、残念。 | ||||
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他のレビュワーの言うとおり、横溝全盛の頃の勢いは無く、ただ長いだけで金田一の代表作とは言い難いですね。 それにカバーの絵面だけで、犯人のアタリがついちゃうのはどうかと・・・。まぁ犯人の意外性を売りにはしていないんだろうけど。 | ||||
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巴御寮人によって殺された人のなかで何故自分の娘の一人を殺さなければならなかったのだろう?その辺の経緯が不足。あとは読者を怖がらせる描写の語り口は流石である。犯人を女性にしてしまっているけども殺害方法は女性としては馬鹿力を出しているようなところがあり、現実離れを思わせた。 | ||||
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