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オリンピックの身代金



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オリンピックの身代金の評価: 4.16/5点 レビュー 178件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.16pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全139件 121~139 7/7ページ
No.19:
(4pt)

直球勝負の大作

昭和39年、オリンピック開催で盛り上がる東京を舞台としたサスペンス。
奥田さんの作品は、伊良部シリーズに代表されるように、ユーモラスなストーリーの中に、ちょっとしたアイロニーが含まれているところが魅力なのですが、この作品はシリアスな作品で、まさしく直球勝負の大作。
あらためて、奥田さんの筆力を知らしめたと言えるのではないでしょうか。
これだけの長編の割には、結末はあっさりとしていて捻りはありませんが、この時代の熱狂は伝わってきます。
特に、最後の数十ページ(開会式前日から当日の部分)の緊迫感とスピード感は見事です。
読んでいて、映像がイメージできました。
ストーリー展開的には、時系列に並んでいないところが、読者の戸惑いを招きます。
奥田作品は、一筋縄ではいきません。
オリンピックの身代金Amazon書評・レビュー:オリンピックの身代金より
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No.18:
(5pt)

あなたは、犯人を助けたいですか

私が小学生の頃ですね。この頃の昭和をはっきり覚えていませんし、自分の住んでいるほかの地方のことは知りませんでしたね。読んでいて、悲しくなりました。落ち込んでしまいました。犯人をいつの間にか応援していました。数日は、あの結末でいいのかと考え込んでいました。
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No.17:
(4pt)

『天国と地獄』を思い出しました。

読みながら黒澤明監督の『天国と地獄』を思い出しました。
プロットもストーリーも全く違いますが。
面白い作品でした。
が、貧しい村の出の主人公が義憤に駆られて犯罪に走るまでの葛藤とか
追い込まれていく様、堕ちていく様・・・の描写が少し弱いように感じました。
激情なのか、クールに神の立場から鉄槌を下そうとするのか、いずれにしても
最後の一歩を踏み出すときは狂気に支配され、疾走していく感じというのが
もう少し前面に出た方が、この時代の若者っぽかったのでは?と思います。
未だ読んでいない方は、少し待って文庫になって読んでもいいかなと思います。
文庫になったら即買いでもいいと思います。
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No.16:
(4pt)

当時の東京の熱さと苦しさが手に取るように伝わる

東京オリンピック目前の、昭和39年の夏。
オリンピック開催のため、ものすごいスピードで開発を進めていく首都東京。
秋田出身の東大生、島崎はそんな中で、オリンピックのために踏み台にされていく人々、さらに広がる地方と東京の格差に憤りを感じて「オリンピックを妨害する」という計画を立てる。
物語は、その島崎の側からと、事件を追う警察(落合警部補が中心)の側からと描かれていく。
筋書きという意味では、多少不満が残った。
切れ者なはずなのに、島崎の計画は行き当たりばったりな気がするし、ラストもやや読後感が悪い。
しかし、当時の社会の描かれ方は、すばらしいと言えよう。
まるで手に取るように、目に浮かぶように、国全体が東京オリンピックに向けて熱くなっている様子がわかる。
そして、そのために過酷な労働を強いられる出稼ぎの人たち。地方から出稼ぎに出てくる彼らとその家族。酷い労働条件。
いろんなもののひずみの上に、今の東京が立っている。知っているようで、知らなかった実態。
そして、また東京でオリンピックを開催しようとしている。
そして、また格差社会になりつつある。
東京は同じ事を繰り返すのか?
今だからこそ、タイムリーなテーマだったのではないだろうか。
オリンピックという華やかな舞台、主人公島崎のイケメンで孤独な東大生という人物像、対する落合警部補の熱血ぶり、どれもビジュアル化がイメージしやすい。
是非、映画化して欲しいものだ。
二回目の東京オリンピックが開催されることになるなら、その前に是非。
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No.15:
(5pt)

東京オリンピック開催に舞い上がっている時代の臨場感や喧騒がリアルに伝わってきた

東京オリンピック開催を目前にして起きた爆弾事件を現在進行形で捜査する警察の視点と、一人の若者が東京と地方の豊かさの違いに疑問を抱きながら変貌していき、東京オリンピックの開催を妨害するために身代金を要求するまでの視点。それが時間差で描かれながら最後に交じり合う様子は最後まで目が離せなかった。昭和39年の東京オリンピックの時代、まだ僕は生まれていなかったのだが、誰もが東京オリンピック開催に舞い上がっている時代の臨場感や喧騒がリアルに伝わってきた。また、刑事部と公安部の足の引っ張り合い、過酷な労働や人間扱いされない地方労働者の苦しみ等、事件の裏側についてもきちんと描かれていてとても読み応えがあった。
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No.14:
(5pt)

力作です!

昭和39年
東京オリンピック開催間近の東京
秋田の貧しい村出身でノンポリ東大院生・島崎国男は警察を狙った爆破事件を起こす
島崎国男の行動はアカと呼ばれる学生達の行動とは源を全く異にするもの
高度成長時代の始まり、日々姿を変えていく東京
その変貌を支えていたのは、地方からの出稼ぎ労働者達
出稼ぎ先で急死した兄の代わりに夏休み中飯場でアルバイトを始めた国男
今まで自分の知らなかった「底辺」の世界、そこで一生懸命働き、家族に仕送りをし、しかし決して裕福にはなれない人々との関わりを通して国男の中で価値観が変化していく
「おい、おめえ東大生なんだってな。そんな頭のいい野郎が、なんでまたお上に楯突こうと思った」
「それは、オリンピックが急造で見せかけの繁栄の上に行われようとしているからです。この国のプロレタリアートは完全に踏み台として扱われています。貧しい者は貧しいままです。これを許したら、国家はますます資本家を優遇するでしょう。誰かが反旗を翻さないと人民は今後ずっと権利を剥奪されたままなんです。」
テロリストvs警視庁・公安
テロが成功しなかったのは歴史上の事実、実際に同じような事件があったとしても公にはされず闇に葬り去られたはず
国男と仲間には何処かに逃げ延びて欲しい
これほどテロリスト側に思い入れが強くなった作品は初めてのような気がします
ナンセンス!
ナンセンス!
終盤で東大生が繰り返し叫びますが、何の意味も無い言葉に思えます
国男の東大の同級生、須賀忠
警察官僚の父、外務省勤務の兄、華族出身の母
そんな中でテレビ局に就職し異端視されている彼も結局は富裕層の人間だった
読み終わってとてもやるせない気持ちが残りました
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No.13:
(4pt)

高度成長期の裏面物語

読み始めるととめられなくなって、一気に読んでしまいました。昭和39年のオリンピック前夜の様子が手に取るように感じられました。ただ、設定のためでしょうが、全体に印象が暗いのは否めません。一般の人たちの興奮とは一線を画した、最底辺の労働者や被差別者はこういう気持ちだったのかもしれない、とも感じます。
主人公は東大大学院に籍を置くエリートですが、事情があってオリンピックの工事現場に人夫として働くことになります。この経験を通じて考える日本の労働構造の歪みなどは、そのまま現在の派遣労働者の様子にも通じます。
本書のなかに何度も登場した「世界の一等国」というフレーズは、今を生きる私にはなんだか気恥ずかしい言葉でした。何等国だって関係ない、という気がしますけど、これは豊かになった日本しか知らないから言える傲慢さなんでしょう、きっと。
ちなみにこれを読んでいる間、光クラブを思い出していました。
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No.12:
(4pt)

貧しく、必死に生き抜いている時代でした。

奥田英朗の新作。空中ブランコや最悪とは異なり、シリアス
な物語。「こんな作品も書けるんだ」と正直びっくりしまし
た。物語は、オリンピック開催に向けて激変している東京を
背景に、優秀な東大の院生が社会の矛盾を感じ、東京オリン
ピックの阻止をかかげて警察に”オリンピックの身代金”を
要求していく過程を丹念に描く、エンターテイメント小説で
す。
でも、この本の本骨頂は、ノンフィクションを読んでいるか
のような、当時の東京や地方の臨場感。地方の貧しさ、オリ
ンピックを迎えることができる日本国民の高揚感や優越感、
学生運動に対する実際に底辺の人々のあきらめ、東京の庶
民の”明日はもっといい日だ”と心から信じられる希望。
丹念に調べたであろう”時代”が目の当たりにされます。
エンターテイメントとしては普通の出来と思いますが、時代
のガイドとして楽しめ、かつ、衝撃的だった一冊です。
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No.11:
(5pt)

切なくも力強く

久々の奥田節の一点の迷いもない力強さに心地よく引きつけられながら最後まで。途中これはどうかとつっかかるところもなく、資料も見事に揃え、完膚無き戦いをこの1冊でし尽くしたかのよう。お見事でありました。
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No.10:
(4pt)

力作!傑作?

力作だと思います。
かなりのボリュームであるにもかかわらず、よどみのない流れで、緊張感を持続したまま話が進んでいき、どんどん引き込まれていきます。時間が行ったり来たりするので、何度も読み戻しましたが。
但し、この犯人の性格で(薬が後押ししたとはいえ)ここまで"おおごと"になるものなのか、とか、これだけの捜査体制なら普通途中で捕まるのでは、とか、何でエピローグに犯人のくだりが無いのか、等いくつか?がありましたので、この評価にしました。
でも、映画にしたら面白いだろうなとか考えたりして、やはり犯人はジャニーズ系(松潤?)かな、とか、ニールは谷原章介かな、とか、いろいろ想像をめぐらしたりしていました。
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No.9:
(5pt)

10年に1度の傑作

犯罪サスペンス小説として最高傑作の部類に入ると思います。
犯罪計画の大胆さと緻密さに加え、時代背景を活写している点がすばらしく、ぐいぐい引き込まれました。
主人公の痛々しいほどの若い純粋さが上手に描かれ、全編を通じて緊張感が張り詰めていて、読んでいると息苦しさを覚えるほどです。
クライマックスはフォーサイスのジャッカルの日を彷彿とさせますね。
10年に1度の傑作だと思いました。
文句無くお勧めします。
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No.8:
(4pt)

『最悪』『邪魔』の奥田英朗シリアス路線。熱い「昭和」を活写した傑作

『最悪』『邪魔』の奥田英朗が帰ってきた。’04年の第131回直木賞受賞作の『空中ブランコ』をはじめとするユーモア路線の作品もそれなりに良いが、やはり私はシリアスな奥田英朗を待っていた。本書は期待を裏切らない、1400枚にも及ぶ社会派サスペンス大長編であった。
昭和39年夏、アジアで初開催の東京オリンピックに沸き返る東京で、警察を狙ったテロリストによる爆破事件が連続して起こり、脅迫状が届いた。事件はオリンピックという大事業を目前にひかえて、国民にいらぬ動揺を与えないよう事実報道は伏せられ、極秘に、しかし大量に捜査員が動員されて大がかりな国家の威信をかけた捜査が始められる。公安警察も独自に動き始める。
これは、プロレタリアート革命を信じるひとりの東大大学院生が、オリンピック開催に際しての、支配層と被支配層の矛盾に怒りを覚えて、東京オリンピックそのものを人質にとって8000万円の身代金を要求して国家に挑んだ反逆ののろしだったのである。
物語は主に犯人側の島崎国男の章と警察の捜査側の章が、時間をさかのぼったり戻ったりして交互に描かれる。読みどころは、捜査側の刑事課と公安課との綱引きとか、徒手空拳の島崎が大それた犯罪を思いついて実行するに至る経過とか、警察対島崎の戦いとか、色々あるが、やはりなんと言っても一番は、敗戦後19年、この東京オリンピックを契機に高度経済成長期へと突き進む直前の「昭和」を、この小説が圧倒的なスケールと緻密な描写で活写していることだろう。
オリンピックの身代金Amazon書評・レビュー:オリンピックの身代金より
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No.7:
(5pt)

たいしたモンだべ

言わずと知れたトンデモ精神科医伊良部シリーズの作者による、社会派サスペンスである。これがとんでもなく、いい。
昭和30年代半ば、日本は高度成長のきっかけを東京オリンピックに見出そうとしていた。
秋田県の貧農出身の東大生島崎国男が、出稼ぎ労働者の兄の死を乗り越えられずに怨念を東京オリンピックに収斂させていく。彼を取り巻くように、警視庁の刑事、相棒となる老スリ師(「師」というのもなんだかなぁ)、東大で同期だったテレビマンなど登場人物が、当時の様々な社会の断面にはめ込まれていく描写は、さすがである。
特にラスト、オリンピック開会式が整然と進行している最中、観客席の下では、落合警部補と島崎の対決に向けて臨場感あふれる描写で、まるで映画監督マイケル・マン(「ヒート」や「ローニン」など)の映画を観るようなスピード感と臨場感で一気に読ませる。
また、対決が終わった後で、落合警部補の子供が無事生まれた知らせを受ける場面では、思わず涙腺がゆるんだものだった。
丹念な時代考証を経て、昭和30年代の熱気がいっぱいに詰まっている快作である。スポットライトの当たらない側面で、文字通り命がけで働く出稼ぎ労働者や在日問題、左翼運動、警察機構の縦割り社会の様子など、当時の様々な要素を織り込みながら、東京オリンピックの闇と光を凝縮した一冊である。
織田裕二(落合警部補役)主演で、ぜひ映画化して欲しいと思うのであるがいかがか。
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No.6:
(4pt)

今回もおもしろく読めた

 登場人物ごとに場面を分けて話を進める独特の書き方で、奥田氏の小説を読みなれている者にとっては、たいへん読みやすい描き方である。ストーリー展開のテンポもよく、いつもながらうまさを感じる。
 時代背景が東京オリンピックのころで、競技場やその周辺の突貫工事(ちょうど北京五輪のような)に携わる出稼ぎ労務者の過酷な労働がストーリーの大部分を占めている。折りしもプロレタリア文学の『蟹工船』がブームとなっている今、作者はきっとそれを意識しているに違いないだろう。昭和の『蟹工船』を描きたかったのだとすれば、時流に迎合しているようで、ちょっと興ざめした。その分★1つ減。
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No.5:
(4pt)

あいかわらずウマイと思う。

国家の威信をかけたオリンピックといえば、08年の北京オリンピックもそうだが、奥田英朗がこの作品を執筆する動機にこの北京オリンピックの存在があったのだろう。
彼の作品を読んでいつも感じるのは、物語が佳境に入ったときのスピード感、後味の良さ、職人的な上手さ、そして読者に決して損はさせないというコストパフォーマンスの高さだが、この作品にもそれを感じる。
正直、中盤までは読んでいてかったるい感じがしたのと同時に、登場人物(主人公の島崎も含めて)のキャラクター設定もこの時代を象徴する人物像のような気がして、いまいちのめり込むができず、ページがなかなか進まなかったのだが、もう一人の主人公といえる村田と島崎の行動が表に出始めてからの展開以降からはイッキに読み終えた。
突飛なストーリーでもなく、ぶっ飛んだキャラクターも登場しないのに、時間軸を微妙に前後させる巧みな構成とわかりやすい文章で、誰でも楽しむことができる質の高いエンタメ作品に仕上げてしまう奥田英朗という作家はやはり実力がある。
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No.4:
(5pt)

著者稀な社会派サスペンスだが、文句なくお薦め!

年末も押し迫った折、奥田英朗、満を辞しての登場である。今回はなんとサスペンス、しかも読み進めてみれば、これがかなり本格的な社会派なのだ。
いきなりオリンピック直前に沸く60年代の東京の街並みが活写され、その時代考証ぶりに幼心が甦るが、物語はこの後、東京と秋田、千駄ヶ谷周辺と飯場ニコヨンと、まるで正反対の“世界”が交互に描かれ、正に、富む者と貧しき者、繁栄する側と取り残される側、高度経済成長期に於ける光と影が照射される展開となる。
選ばれた存在でありながら、社会の不平等と一極集中する富の理不尽さに怒り、孤高の闘いを挑む犯人。粗悪なヒロポンの打ちすぎで命を落とした人夫仲間の葬儀に郷里の貧村から出てきた女性の「東京は祝福を独り占めしている」との諦感の言葉に、「そんな事はさせない」と語るその確信的思い。
犯罪を実行していく者と検挙に奔走する者、タイムラグを保ちながら進んでいく両者の攻防が、クライマックスを迎えるに連れ狭まり、ついに合致、対峙する構成がスリリングでお見事。
戦争の傷痕も窺わせながら、世紀のイベント開催に自信と希望を湧き起たせる庶民の高揚感と、その陰で取り残されていく者たちの無念さ、これが奥田なりの高度成長期の昭和史の風景なのか。
ジャンルは違うが、映画「天国と地獄」や「新幹線大爆破」を想起させる面白さだが、それでいて、いかにも奥田らしいユーモアのセンスはここでも健在。
様々な要素が盛り込まれ、読了後も幾多の思いが胸をよぎる力作、奥田ファンならずとも文句なくお薦め。
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No.3:
(4pt)

奥田流の昭和史はどこか楽天的だ

『サウスバウンド』で見られた昭和への憧憬は本作にも引き継がれ、高度成長期の闇の部分をも活力に転換して描写する、熱いドラマになっています。犯人側と刑事側の両者の視点で描きこんでいるのですが、時系列をずらしたことにより、展開の一部分が読者に隠されたまま推移して、それがミステリ的な謎としても機能しています。だから次から次へとページを繰る手が止まらない。
全体のトーンとしては、例えば黒澤明のモノクロ映画を見るようなかっちりしたリアリズムというより、『三丁目の夕日』タイプの、現代からの視点で再構築したノスタルジー香る筆致で、そこに奥田英朗の持ち味が出ていると思います。
しかしながら、細部の流れ、特に犯人に有利に働く展開が、昔の話だからというご都合主義に甘えておらず、ちゃんと納得できるだけの人物なり環境なりの描き込みがしっかりなされている、そこは本当に凄いと思いました。スリのおっさんがまたいいキャラなんですよねぇ。
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No.2:
(4pt)

「日常」と「非日常」の対比によるサスペンス。

 昭和39年の東京。
 オリンピックに間に合わせるための突貫工事で、出稼ぎに来ていた兄を
失った東大大学院生の島崎は、遺骨を受け取りに兄が暮らしていた飯場を
訪れた。
 マルクスを専攻していた島崎は、わずかな賃金で働き、明日への希望の
見えない末端の労働者の現実を目の当たりにして、自分も出稼ぎの人々と
一緒に働く決心をする。
 過酷な労働を続けるうち、オリンピックに疑問を抱いた島崎はひとつの
解決方法を見出すのだった。
 島崎の視点と、彼を取り巻く普通の人びとの視点を交互に描き、日常を
描くほどに島崎の視点がきわだってくる、という手法が面白い。
 あの時代、戦後はもう終わったといいながら出稼ぎに明け暮れる貧困が
あり、ニコヨンと言われた現場労働者の生活は当時も変わりなく引きずっ
ていた。
 確かに、ビルが建ち高速道路はでき、国産自動車が走るようになったが、
社会が変わったわけではなかったのかもしれない。
 それを言い出すと、人の営みは未来永劫変わらないことにはなるのだが。
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No.1:
(5pt)

一番じゃないかなぁ。

奥田作品で一番いいと思います。私は東京オリンピック以降に生まれたため、当時を知りません。この作品により当時の雰囲気を少し味わうことが出来ました。ストーリーに関しては、驚くような展開があったわけではありません。しかし、場面ごとに感動や憤りなどを感じることが出来る構成を気に入っています。そして、著名人や名車などの小ネタなども効いていて読み易く感じました。ラスト、物足りなさも感じるかもしれません。が、犯人側と警察側の心情もラストを迎えるまでにしっかり描かれていると思いますし、国が一つとなってオリンピック開催に向かった圧倒的な力を表現したのではないかと思いました。
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