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オリンピックの身代金
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【この小説が収録されている参考書籍】
オリンピックの身代金の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.16pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全139件 101~120 6/7ページ
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すごく平たく言うと、秋田の貧乏村出身の東大生 島崎国男が、種違いの年の離れた兄の死をきっかけに、兄が死ぬまで出稼ぎして働いていた東京オリンピックのための工事現場で働き始め、日本に起こっている経済格差を目の当たりにして、国を相手にテロを起こす話。 島崎国男というのが、容姿端麗で優しくて無欲で貧弱な東大生(ホントいい奴)なのだが、工事現場で働いているうちに日焼けし筋肉がつき逞しくなっていき、頭脳明晰、イケメン、マッチョのスーパーマンになってしまう。工事現場の仲間に覚せい剤を教えられて、変に自信がついてしまい、理想の為にテロを企てていく。 島崎のやっていることは犯罪だけど、貧乏人や弱者のために何かしようと命をかけている姿はつい応援してくなってしまった。何度も危ない橋を渡る度に覚せい剤無しではいられなくてっていき、少しずつ壊れながらも目的を達成しようと懸命に生きる島崎に青春を感じた。 あえて社会派青春小説と言いたい。 これでよかったのか、島崎国男はどうするべきだったんだろう、この小説を読んだあと、僕はずっとそんなことを考えている。 | ||||
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すごく平たく言うと、秋田の貧乏村出身の東大生 島崎国男が、種違いの年の離れた兄の死をきっかけに、兄が死ぬまで出稼ぎして働いていた東京オリンピックのための工事現場で働き始め、日本に起こっている経済格差を目の当たりにして、国を相手にテロを起こす話。 島崎国男というのが、容姿端麗で優しくて無欲で貧弱な東大生(ホントいい奴)なのだが、工事現場で働いているうちに日焼けし筋肉がつき逞しくなっていき、頭脳明晰、イケメン、マッチョのスーパーマンになってしまう。工事現場の仲間に覚せい剤を教えられて、変に自信がついてしまい、理想の為にテロを企てていく。 島崎のやっていることは犯罪だけど、貧乏人や弱者のために何かしようと命をかけている姿はつい応援してくなってしまった。何度も危ない橋を渡る度に覚せい剤無しではいられなくてっていき、少しずつ壊れながらも目的を達成しようと懸命に生きる島崎に青春を感じた。 あえて社会派青春小説と言いたい。 これでよかったのか、島崎国男はどうするべきだったんだろう、この小説を読んだあと、僕はずっとそんなことを考えている。 | ||||
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とにかく読んでる間中ひきこまれ、楽しめました。 ただ、ラストにはちょっと割り切れない部分も感じました。 奥田さんは普通の男女をチャーミングに描くのがものすごく上手なので、 「普通じゃない」島崎がちょっと割を食ってしまった感じもあるのかもですが、 須賀忠や古本屋の娘さんたちの愛すべき日常がこのまま続くんだな〜、 テロなんか起きなくてよかった♪めでたし…刑事さんにも二人目の子が生まれたし♪ と、読解力のない人ならおもってしまいそう。 彼らの明るい未来(=最近まで続いていたイケイケの日本)は、 幾多の犠牲によって成り立っているのに。という部分がテーマなら、ラストもう少しだけダメ押ししてくれてもよかったかも。 でも「社会の最下層からの怨念」を強調しすぎると別の社会派系作家みたいになっちゃうのかもなぁ…このサラリと理性的な感じが奥田さんなのかも? 島崎がヒロポンを使用するのに抵抗があるって人もけっこういましたが、私はプロの犯罪者でもない彼が冷静に大胆に行動できてしまった理由づけとして、アリだと思います。兄を殺した薬物で兄の復讐を果たすという皮肉でもあるのでしょう。 例えば高村薫とかなら、島崎を、薬なんて使用しなくても、無敵で素敵なテロリストとして描くかと思うのですが(そして刑事は捜査に走りつつも、組織の虚しさにどんどん心の闇が深くなる…)(ついでに言うなら、爆薬会社の社長とは多分きっちりHさせてる…笑) 島崎はけっこう慌てふためいたりヌケてたり、ぎりぎり等身大に見れるよう描かれてるのも非常に良かった。 映画化するなら松山ケンイチさんですね。 | ||||
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東京オリンピックが開催された昭和39年10月10日。華々しい開催の裏には労働者の大きな犠牲があった。古き良き時代かと思えば、苦しい時代でもあった。昭和30年代の世界が読むにつれ目の前にはっきりと浮かんできます。主人公の一人、島崎国男の視点でストーリーは主に進んでいきます。二つの時系列で語られていくサスペンスは緊迫感を備えていて面白いです。 | ||||
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久米宏さんのラジオでの紹介で興味を持ち読みました。 東京オリンピックを間近に控えた時代の描写にリアル感があり、この当時近くに生まれた自分としては頭に絵が浮かび、緊迫感を持ち読み終えました。 主人公の国男のイメージが仮面ライダーWに出演していた君沢ユウキさんであり、この時代を再現するのは難しいかも知れないがぜひ映画化を期待します。 百夜行と同じくらい面白い作品でした。 | ||||
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東南アジア初のオリンピック開催。 これを契機に『敗戦国』という不名誉なイメージを払拭し、世界進出を目指していた日本という国。 美しく近代的な首都・東京。そこに住むほんの一握りの裕福層と、それがどれだけ裕福であるか。 その首都を作り上げるために、実際に汗水流し体を使っている出稼ぎ労働者。それがどれだけ評価されていないか。 日本=東京だとでも言わんばかりに、置き去りにされ戦時中と変わらない悲惨な暮らしをしていながら、 東京を夢の国だと憧れている地方。それがどれだけ惨めなことであるか。 あまりにも緻密に、如実に描かれる「光」と「影」に、息が詰まるような思いで読み進めました。 オリンピック妨害を目論むテロリストと、それを食い止めるために奔走する刑事達。 それ自体は意外とお粗末なものです。これは犯罪小説ではないと思います。 貧富の差に対する正当な疑問を持った東大生に、心を惹かれたのは私だけではないでしょう。 爆弾を作り犯行声明のようなものを送りつけたりしながら、 どこまでも真面目で、知的で静かな東大生に、興味・魅力・共感を感じてしまいました。 奥田さんの人物描写にはいつも感心させられます。 そして、まさに自分がその場にいるかのような映像がありありと浮かんでくる舞台描写もお見事でした。 21世紀になり、世界でも大国といわれるようになった現在でも、飢餓は消滅していないのです。 作者はこの時代に焦点を合わせ、訴えかけているのではないでしょうか。 本当の意味での『平等』など無いと。それでも、人は希望を持って生きていけるということを。 重いテーマです。正しい答えはない。 しかし、疑問を持ち続けることが大切で、決して忘れてはならないことだと思いました。 この時代に生きていない私にとって、この作品は衝撃的でした。 | ||||
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東南アジア初のオリンピック開催。 これを契機に『敗戦国』という不名誉なイメージを払拭し、世界進出を目指していた日本という国。 美しく近代的な首都・東京。そこに住むほんの一握りの裕福層と、それがどれだけ裕福であるか。 その首都を作り上げるために、実際に汗水流し体を使っている出稼ぎ労働者。それがどれだけ評価されていないか。 日本=東京だとでも言わんばかりに、置き去りにされ戦時中と変わらない悲惨な暮らしをしていながら、 東京を夢の国だと憧れている地方。それがどれだけ惨めなことであるか。 あまりにも緻密に、如実に描かれる「光」と「影」に、息が詰まるような思いで読み進めました。 オリンピック妨害を目論むテロリストと、それを食い止めるために奔走する刑事達。 それ自体は意外とお粗末なものです。これは犯罪小説ではないと思います。 貧富の差に対する正当な疑問を持った東大生に、心を惹かれたのは私だけではないでしょう。 爆弾を作り犯行声明のようなものを送りつけたりしながら、 どこまでも真面目で、知的で静かな東大生に、興味・魅力・共感を感じてしまいました。 奥田さんの人物描写にはいつも感心させられます。 そして、まさに自分がその場にいるかのような映像がありありと浮かんでくる舞台描写もお見事でした。 21世紀になり、世界でも大国といわれるようになった現在でも、飢餓は消滅していないのです。 作者はこの時代に焦点を合わせ、訴えかけているのではないでしょうか。 本当の意味での『平等』など無いと。それでも、人は希望を持って生きていけるということを。 重いテーマです。正しい答えはない。 しかし、疑問を持ち続けることが大切で、決して忘れてはならないことだと思いました。 この時代に生きていない私にとって、この作品は衝撃的でした。 | ||||
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昭和39年夏、オリンピック開催に沸きかえる東京で、オリンピックを人質にひとりの学生がテロを仕掛けた。 オリンピック熱に湧く日本。 どこか国全体が見栄を張ろうとしている。 P393「近頃のオリンピック熱は戦前の国家総動員体制を彷彿とさせる」 誰もかれもが、オリンピックのためならばと私利私欲を捨てて行動する。 オリンピックを楽しみにしている国民。 そのオリンピックを無事成功させようと、奮闘する警察。 そんな中、たった一人で国家権力にテロを目論む学生。 その裏で搾取される労働者たち。 さまざまな視点から、オリンピックを描いていく。 特に、格差というか繁栄の裏側にいる人たちの描写が強烈。 この時代の影を、すべて浮き彫りにするかのような書き方だ。 そして、主人公「島崎国男」。 なんだこの男は。 彼の異質さに、ただただ惹きつけられた。 前途洋洋だったインテリ東大生が、いかにしてテロを仕掛けるに至ったか。 格差を知り、矛盾に憤る。 彼の憤りが切々と描かれているわけではない。 むしろ彼は淡々と、行動を起こすだけだ。一見すると地味だ。 だが、この淡々とした感じが、異質さを際立てている。 最低限の描写のみで、読者の想像を掻き立てる。 しっかりと時間をかけて読む必要があるでしょう。 感情移入は出来なかった。 でも別のなにかを感じた。とにかく惹きつけられた。 捜査側と、犯人。 時系列をずらし、各視点を交互に見せる。 サスペンスとしても素晴らしい出来。 だが、それ以上にこの作品に含まれている社会性が強い、強い。 古き良き時代として昭和を描く作品とは、対極にある。 もはや戦後ではないのは、ごく一部なのだ。 島崎国男という男に、やられた。 | ||||
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奥田英朗さんの小説を読んでいるといつも,言葉を巧みに操るというのはこういうことだよな, と感心する。奥田さんの小説で好きなところはいろいろとあるが,何といっても魅力的なのは 登場人物同士の会話だ。江戸の落語を聞いているようで実に小気味好い。 軽口の掛け合いを書かせたら奥田さんの右に出るものはいないのでは,と思うほどだ。たとえば― 「おい,オチ。アイエムエフてえのはなんだい」 会議が終わると,森拓朗が首を伸ばして聞いてきた。 「ええと,国際通貨ナントカです。経済関係です」 「ふうん。おれの東京もえらくなったもんだ」腕を組み うなずいている。 「タンクローさん,えらくなったのは上野より西ですよ。 浅草じゃ香具師の集会があるくらいでしょう」仁井薫が, 櫛で髪を整えながら言った。 「やい,ニール。いつから山の手気取りだ。おまえが生ま れた世田谷なんざ,ちょっと前までは筍狩りに行ってた もんだぞ」 「それは戦前でしょう。今はなんてったて駒沢競技場が ありますからね。オリンピック会場。商店街でくじを引い たら入場券が当たりましたよ。よかったら先輩方にも分けて あげましょうか」 「おい,くだらねえおしゃべりしてるんじゃねえ」宮下が 大きな顔を突っ込んだ。「そのオリンピックが危機なんだ。 万が一妨害でもされたら,入場券もくそもないぞ」そう言い, 顎をしゃくるので,五係の全員でぞろぞろとついていった。 ・・こういう細部をにやにやしながら楽しむというのが,奥田さんの小説の楽しみ方のひとつだと思う。 今回の小説ではいつもの東京弁での会話に加えて秋田弁のやりとりまで加わっていていっそう楽しめた。 ぜひこの落語的快速会話をご堪能あれ。 | ||||
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経済学を学ぶ東大の純朴な学生が、次第に東北寒村や出稼ぎ労働者の怨念を吸い込んで変貌していく。刑事の視点が先行し、学生・島崎の描写がそれを時間差で追う。 最初は爆破事件と島崎がつながらず、別に真犯人がいるかのように感じられていく。徐々に時間差が縮まり、刑事たちの怒号が飛び交う。そして無声映画のように淡々とクライマックス場面が訪れ、場違いにのどかな光景で物語り全体を俯瞰する。工事現場の生々しさをリアルに感じた。覚醒剤のヒロポンが労働者たちに蔓延しているようすも実写のように映像が浮かんだ。 実に読みごたえがあった。 | ||||
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東京オリンピックに沸く60年代の"光"と"陰"にスポットを当て、 当時の理不尽な格差社会を如実に描き出した本格社会派サスペンス。 まるでその時代へとタイムスリップしたかのように物語に入り込め、 何も知らないその当時のことに自分も主人公と共に怒ったり、疑問を感じたり、 色々な感情を抱きながらも最後はテロを成功させて欲しいと願って読んだ。 実際に東京オリンピックが開催されているということは結末はもう分かっているわけで、 そういう意味ではオチを楽しみに読む作品ではない。 主人公の企みが成功するか否かよりも、 彼がそのような考えに至った背景に描かれる物語が訴えるものにこそ、 この作品で奥田さんが描きたかったことだろうと思う。 繁栄の陰には必ず犠牲がある。 東京は潤っていても、取り残された地方では貧困にあえぐ人間もいる。 オリンピックを開催し世界への体面を保つよりも、 もっと先にやるべきことがあるはずだと考える者達の無念さが痛いほど伝わってきた。 そして、それらの問題は決して過去のものではなく、 現代にも通じるものがあるからこそとても切実なものに感じた。 奥田さんの作品にま毎度色々なことを考えさせられ、そして勉強させられる。 とにかく長いが、読んで絶対に損はない作品。 | ||||
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この作品が吉川英治文学賞を受賞した時の記事(毎日新聞)を読んでいたら奥田英朗さんの「キャラクターに頼らず、ストーリーでページをめくらせようという気持ちで始めました」との発言が載っていました。 でも、ストーリーの面白さに加えて、やっぱりキャラクターもとてもよかったと思います。 東大のマルクス経済学の研究室に籍を置きながら過酷な肉体労働を実践する青年(大物)と、ひょんなことから彼につきまとうことになるスリで生計を立てている初老の男(自身曰く小物)の、島崎と村田の犯行側のコンビ。 奥田キャラというと何といっても伊良部の印象が強いですが(『サウスバウンド』の親父もインパクトありました)、ラストのこともあり、このコンビも忘れがたい強い印象を残しました。一人だとそうでもないと思うんですけど、補完し合うコンビの魅力ですね。 警察側と犯行側の2つの視点でかつ時間軸がズレている構成も、最近ではこの類のミステリでは同系のものが標準装備されていることが多いですが、奥田さんらしく堅牢な作りで、最後まで飽きさせません。 奥田色があまりないような印象も受けましたが、正統派のサスペンス・エンターテインメントとして純粋に楽しめました。 | ||||
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こんな傑作を読まずにいた自分が悔しい。奥田英郎のファンを自称していたが、「真夜中のマーチ」「サウスバウンド」と駄作が続いて、単行本を買ってはずれると悔しさが倍増してしばらくは奥田英郎の名前を見るたびに「彼ももう終わりだ」と思っていた。「無理」が出て、「最悪」「邪魔」のシリーズだと期待して購入。今度は裏切られなかったので、奥田節の復活を喜んでいた。偶然「オリンピックの身代金」を思い出して、期待半分で読んだら、これまでの最高傑作だった。内容についてはほかの方が書いているので触れないが、ひたすら「島崎国男」に感情移入して読めた。それにしても僕より10歳も若い奥田英郎にあの昭和30年代が描けるとは、やはりプロはすごいと戦慄した。奥田英郎さん、見くびって申し訳ない。もう一度ファンになります。これからも期待しています。 | ||||
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戦後の秋田からの出稼ぎ者の話は、いまの格差社会を見つめ直すきっかけとなる。 地方と東京、エリートと人夫、キャリアとノンキャリ、表社会と裏社会。 高校時代に、早稲田出身の教師に「大学は東京に行くのだろうから標準語を話せ」と言われた東大生の優男の主人公には、秋田の方言や土着性は消えており、この物語で、彼を東京と地方をはじめとする、富めるものとそうでないものの間を自由に往来させることで、格差をクローズアップしている。 刑事と警察官僚を父に持つテレビ局員、そして主人公の物語を時差をあえて設けて日誌風に展開する。 ある場面では先の状況を知りつつ、この物語を読むことになり、展開を考慮しつつ登場人物の心理を推し量ることを楽しみことができる。 | ||||
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輝かしいオリンピック開会式に向けて、各所急ピッチで準備が進められる中、2件の爆破事件が起こる。身代金は8000万、人質はオリンピック。だがこれはいわゆる謎解きミステリーではない。犯人も、その動機もかなり早く明らかにされる。今年になって「警官の血」を読んだこともあり、戦後と現代の間に、自分の知らないもう一つの時代というか、段階があったんだということを、今回も思い知らされた。これはオリンピック当時の社会情勢を壁紙にした犯罪絵巻である。歴史的には、戦後は現代と一くくりにされがちである。自分の産まれた頃の写真を見ても、電化製品や洋服の流行り廃りを除けば、今と同じ時代に属していると思う。だが、そのほんの少し前、昭和40年頃までは、日本もかなりの格差社会であったことを、今回ほとんど初めて思い知らされた気がする。特に、冬の間雪に閉ざされる東北は、かなり貧しかった。もちろん「出稼ぎ」のことは教科書にも載っていたが、その実体は何も知らなかった。登場人物の中の一人がこうつぶやく。「今は多少不公平でも石を高く積み上げる時期なのとちがうか。横に積むのはもう少し先だ」まさに、その不公平でも石を高く積み上げた時期の話。ずっしりと読み応えがあった。だが小説として、事件の終わりが見えてからの展開が、ゆっくり過ぎというか、吸引力に欠けるというか、終わりにかけてしぼんで行く感じなのが、残念。それはさておいても、この時代を知らない30歳代以下の方には、是非読んで頂きたい。 | ||||
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当時の日本は華やかな東京オリンピック開催の裏で虐げられた人々が存在した。 それなのに映画「三丁目の夕日」のように、あのころの日本は良かった という単純な考えに作者は激しく反発している。 3丁目の夕日は当時の日本を描いたものではない。あれは東京物語だ。 あの映画のせいで今と違って昔はいい時代だったと勘違いする人が増えた。 当時の日本は急成長するために、中央集権の道を選択し「東京」だけに力を注いできた。 そしてそのひずみが「地方」に押し寄せた。 3丁目の夕日が、昔の日本の光の部分のみにスポットライトを当てた物語ならば 本作は日本の陰の部分にスポットライトを当てた物語であり その陰というのが、当時の日本の本質である。 島崎という男は、3丁目の夕日を観て泣きながら感動している観客の前に突然現れて 「みなさんが見ている日本は本当の日本ではありません!」 「あなたたちは日本ではなく、東京を見ているだけです!」 と叫んでいる。 中央集権によって夢と希望のあふれる都に成長した東京。 しかしその反動で信じられない貧しさの中で苦しんでいる地方の現状。 そして「昭和30年代の日本=東京」 という見せ方をして、懐古主義を煽る3丁目の夕日的な世間の風潮─。 おそらく作者は真実を知らせたいと思ったのだろう。 そういう気持ちが原動力となって 「オリンピックの身代金」という名作は生まれたのではないだろうか。 | ||||
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正直、20代の自分には時代背景は判らない。 ただ、あの時代の熱気は十分伝わって来た。 オリンピックに対する、いわゆる庶民とそれ以下の人々、そしてその上に立つ人、 それぞれの視点からの描写が細やかに描かれていて、 あの時代、もっと言うと高度経済成長期を知らない自分にとっては 新鮮な感覚で読み進められた。 でも、これはサスペンスなのか?時系列は入り組んでいるが、内容は淡々と進んでいく。 盛り上がるべきところも淡々と。 犯人、警察の捜査の進み具合、そして事件。 全てが予想通り、それ以上でも、それ以下でもなく。 でも、自分にはそも淡々とした進み方が妙に合った。納得しながら話は進んでいく。 「最悪」「邪魔」のしんどさ具合と、 「インザプール」に代表される作品の軽快さ。 その中間に位置するのが今作かな、と。 読後感は悪い訳でもなく、爽快な訳でもなく。 ただ、心地は良かった。 純粋に面白かった。 それは、けしてサスペンスと言う枠ではなく1つの作品として。 最後に一つ。 奥田さんはいわゆる「アカ」をどう捕らえているんだろう。 憧れなのか、冷ややかなのか。 そこが妙に気になった。 | ||||
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520ページの長編ですが、一気に読ませてくれます。 もう止まれません。爆弾犯と友人、負う警察、それぞれの視点から、 かつ、時間を行ったり来たりしながら、物語が進みます。やや混乱しますが、 頭の中にバラバラの映像を残しながら、それらが少しずつ、ひとつにまとまって行く過程で 読者は常に新たな発見をしながら、緊張感を維持しながら読み進めることができます。 そして、時代背景がまたいいんです。高速道路が、空港が、モノレールが、 次々と建設され、地方の貧しい出稼ぎ労働者を飲み込みながら、 東京が立ち上がって行く。そんな熱い昭和の時代の空気を 生き生きと描き出してくれます。 日本の裏社会の様子、公安と警察の微妙な関係など、社会派的な要素を ふんだんに盛り込み、面白いだけでなく、読後にいろんな余韻を残してくれます。 | ||||
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率直に面白かった。 というのもこれは勝手な想起だが、 『太陽を盗んだ男』や『強奪箱根駅伝』といった フェイバリット作に通じるからだ。 クライムサスペンスと言えばいいのか、 この種の話はそのリアリティーの再構築が肝と思う。 その点さすがの著者のてなれば、外してない。 硬質な映像で見てみたい。 | ||||
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東京オリンピックが開催されようとするときに、警察を狙った爆破事件が起こった。これは、国民に伝わることはなかった。最後には、オリンピックを妨害するという。内密に捜査している警察側と東大生島崎国男との攻防は見ものだ。これは、長編大作で社会派サスペンスなんだろう。物語は節ごとに、島崎国男、警察官僚を父にもつテレビ局勤務の須賀忠、警察側が交互に話が展開される。 昭和39年は、貧富の差が激しい時代だなと感じます。島崎国男が夏休み中飯場でアルバイトを始めてから、周りの働いている人がぜんぜん報われない姿を見て、この社会をどうにかしたいという気持ちから犯行を決意するまでの姿といいますか心の動きはわかるところがあります。警察側との攻防で島崎国男がつかまってほしくないなあという風に思いましたから。 警察が嫌いなわけではないが島崎国男を犯罪へと駆り立てた社会背景はわからないではない。学生の島崎国男が警察に何かをやってやろうと思った動機背景を探るのもいいと思うし、警察側と東大生島崎国男との攻防を楽しむのもいいと思う。 | ||||
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