■スポンサードリンク
悪魔が唾棄する街
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
悪魔が唾棄する街の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.67pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
1970年代のスコットランド、グラスゴーを舞台にした警察小説シリーズ第三作。本シリーズはノミネートされながらも受賞を逃してきたようだが、本作でついにエドガー賞優秀ペーパーバック賞を射止めたとのこと。シリーズのファンとしてはかなり気に入って読んでいるだけに嬉しいことこの上ない。また素晴らしいスピードで翻訳を進めてくれている吉野弘人氏にも感謝しかない。 70年代中期のグラスゴーの混乱、その中で起きる捜査のでたらめさ、犯罪の暗黒っぷり、など小説の舞台としては文句なしのシチュエーションを切り抜いて見せてくれるこの作家の目の付けどころにも感嘆するしかないのだが、何と言ってもジェイムズ・エルロイを思わせるような警察小説という形での暗黒史をシリーズでぐいぐいと切り開いて見せてくれる作家の筆の冴えには驚嘆を感じざるを得ない。 本作では前二作とがらりと状況が転換している。まず上司のマレー警部が任を解かれ休暇中であること。もう一人、これも超重要人物である暗黒街のドンの一人にして主人公ハリー・マッコイ刑事の孤児時代からの幼馴染であるスティービー・クーパーが体調を崩し寝たきり状態になっていることである。本作のほとんどでシリーズ一の強面が退場しているというのも寂しい限りだが、その分、独力で苦労する主人公の喘ぎ声が全編に響き渡るっているのはそれはそれで別の味わい。マレーの不在も重ねれば、マッコイはいつも以上に孤独に見える。その代わり強烈な悪役キャラ部長刑事レイバーンという胡散臭さたっぷりの登場とあいなるから、さらにビターは効いているという具合だ。 さて以上のマッコイにとっては踏んだり蹴ったりの状況のなか、ロック・スターであり本書タイトルを飾ってもいるボビー・マーチが殺害される。またマレーの姪が同じ時期に失踪。さらに銀行強盗事件と、実は本書はマッコイが複数事件を同時に解決しなければならないモジュラー型ミステリーと言える。ただでさえばたばたする小説シリーズであるのに、本作はさらに忙しい限りのマッコイが見られる。そして酒と美女に酩酊する一匹狼刑事の正義でありながらけっこうダーティなマイペースぶりも楽しめるところだ。 そして強烈な脇役連も。相棒のワッティーは強権刑事レイバーンに連れ出されて影が薄い本作だが、女性陣は負けていない。検屍長フィリス・ギルロイ、写真家ミラ、新聞記者メアリー・ウェブスター、バーテンダーのアイリスと元妻アンジェラ。よくも食えない美女たちがこうも並んだものである。 またこの作品でのエポックは、アイルランドに渡るシーンだろう。エイドリアン・マッキンティのアイルランド警察シリーズは1981年に幕開けのシリーズであるがその時期でもIRAによる爆弾テロに警戒する主人公刑事の姿が描かれているから、1973年を舞台にした本シリーズではアイルランドはさらに激化したテロの時代だろう。ジャック・ヒギンズの描いたテロリストたちが大いに暗躍していた時代だろう。そこに乗り込むマッコイはやはり予想通りの危険に曝される。 などなど犯罪と暴力と謀略てんこ盛りの時代と街とを、あくまで自分のペースで孤軍奮闘してゆく食わせ者主人公ハリー・マッコイのデンジャラスな日々を読み、たっぷりと効かせたビターな作品を味わって頂きたく思う。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
1973年のイギリスグラスゴーを舞台とした警察小説の第三弾。 少女の行方不明事件で町全体が盛り上がる中、手掛かりの少ない銀行強盗事件と、ロックスターの変死事件を任されたマッコイ刑事。さらに、上司の姪を探す任務にも就くことに。 相棒のワッティーもいない中で、孤軍奮闘しつつ事件の真相に迫る。しかし、その真相は恐ろしいほど、危険で醜悪だった、という話。 4つの事件が同時並行で進み、ボリューム満載で進むマッコイシリーズの最新作だが、回を追うごとに面白くなっていると思います。 1970年台のIRAが大暴れしているイギリスを舞台にしたノワール色の強い刑事物で、非常に面白かったです。 本シリーズは、題名に英語での「月」の名前が入っており、今回は3作目なので、3月のMarchが含まれています。今まで翻訳された2作は、そのまま1月・2月と邦題にも月名が入っていました。 今回は、マーチ(3月)が入っていないな、と思ったら、唾棄する「街」と「マーチ」がかかっていたんですね。驚きました。 次回作の「The April Dead」も楽しみです。 一方で、同じイギリスを舞台にした名作、ショーン・ダフィーシリーズは2024年3月になって翻訳すら始まっていない様子。7作目の「The Detective Up Late」を死ぬほど楽しみにしていますが、非常に残念です。殺人者、KGB、IRAの暗殺チーム、2重スパイなどが絡む非常にサスペンスフルな大作っぽいので、早く読みたくて仕方ないですが、今年中に刊行されることもなさそうですし、最悪翻訳されないで終わる可能性さえあります。6作目まで出して、残り3冊が出ないとなると愕然とするほど落胆しますね。 是非、早めに刊行して欲しいものですが・・・。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
シリーズ前作「闇夜に惑う二月」を読んだのは、2023/10月。翻訳、リリースのペースが早いことに驚きました。主人公は、勿論ハリー・マッコイ。 1973年7月、グラスゴーで発生する一人の少女の失踪事件。セントラル署全体で捜査にあたる中、マッコイだけが外されています。捜査の指揮を執るのはマッコイの天敵でもあるレイバーン。マッコイはレイバーンの操作により捜査に進捗が見られない銀行強盗事件をあてがわれます。そんな折、ロック・スター、ボビー・マーチの不審死事件が発生しますが、麻薬のオーバードウズによる死が検死の結果、殺人事件へと発展します。加えて、マッコイは上司のマレー警部から家出した姪のローラの捜索を秘密裏に依頼されることになります。時折、1964年のボビーに纏わる時系列がインサートされますが、果たしてそれは一体どこへ向かうのか? マッコイの幼馴染み、クーパーはギャング王としての地位を確立していましたが、前作で負った背中の傷による苦難から逃れるためにヘロインの依存症となっていました。刑事がギャング王を救済する物語だって。 ストーリーはうねりながら進行し、どこへ向かうのか予断を許さない展開の中、マッコイは常に満身創痍、クーパー以外誰も信じることができない暗闇の世界を渡り歩くことになります。「きみが最初に学ばなければならないことは、人生はフェアじゃないってことだ・・・」(p.291)未来永劫、フェアであったためしはない。 蠱惑的な三人の女性たちが登場します。もぐり酒場の女主人、アイリス。写真家のミラ。そして、マッコイの元妻、アンジェラ。そう、アンジェラに至っては、もはや誰も太刀打ちできない悪魔が唾棄する<菩薩>と言ってもいい(笑)。 全体を通してストーンズをはじめ、60年代、70年代のブリティッシュ・ロックが通奏低音の如く響き渡ります。キース・リチャーズを愛し、マーティン・スコセッシによるストーンズ映画”Shine a Light”が最上のドキュメンタリーだと信じている私にとっては、もはやこの物語に触れることがこの世界を生き抜くことに等しい(笑)。 マッコイは己が霊性を守護するために<悪>の力を借りることすら厭いません。それはこの酷薄な世界を生き抜くための唯一のセオリーと言ってもいい。 スリラーとしてどうだったのか?という話を忘れていました。1964年のボビーに纏わる時系列が、1973年に見事に蘇ります。そして、すべての答えを収斂させるべく仕掛けられたラストの死闘もまたすこぶるエキサイティングでした。 □「悪魔が唾棄する街 刑事ハリー・マッコイ “Bobby March will Live Forever”」(アラン・パークス 早川書房) 2024/3/25。 | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!