■スポンサードリンク
ふぉん・しいほるとの娘
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
ふぉん・しいほるとの娘の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.20pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全46件 41~46 3/3ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
こんなに面白い歴史小説は久しぶりに読みました。とにかくグイグイと引き込まれます。三代にわたる女性の生きざま、我が国の医学の歴史、そして政治史。この作者にはもっと早くに出逢いたかった、そう思わせる大作でした。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ナポレオン戦争後、オランダ政府は国を立て直す必要があった。将来の発展を期して対日貿易に糸口をつかもうと、ドイツ人医師のシーボルト(当時27歳)を調査員として日本へ送り込んだ。 彼は、医学で日本に大いに貢献したが、一方で彼の弟子たちの論文から日本の国情を探り、江戸参府の折には念願の日本地図を入手した。シーボルトはそのあと国外永久追放となってしまうが、丸山遊郭の遊女、其扇(お滝)とのあいだに愛娘のイネを設けていた。が、イネがまだ生後2歳半のときに日本を去ってしまった。 イネは、学問、特にオランダ語の習得に熱心で、13歳のとき伊予へ赴き、シーボルトの愛弟子だった二宮敬作にオランダ語と医学を学び、その後、岡山の石井宗謙のもとで産科を学んだ。 一方、シーボルト。彼は、再び来日することを切に願い、ペリー来日の折には、派日使節の顧問をペリーに掛け合ったりするなどしていたようだ。が、実現できなかった。このころ、イネは、二宮の薦めで宇和島藩主伊達宗城の下にいた蘭学者の村田蔵八(後の大村益次郎)からオランダ語を学んだりしていた。 シーボルトは、30年後に再来日を果たした。日本の国情も変わったので、彼は幕府の外交顧問となって活躍した。長くは続かず再び帰国してしまうが、イネのほうは、このころ、父の取り成しでオランダ医官ポンペから最新の医学を学んだ。 時はながれ、明治の治世を迎える。彼女は、44歳。東京へ出て産科医として宮内庁の御用係となった。日本初の女医として一躍世間から注目を浴び、福沢諭吉らとも交流を持ち、新時代の具現者として見られるようになっていた。 この小説は、シーボルトの息を受けた“あいのこ”イネがその特殊な境遇にあって激動の時代を生きた姿を大河ドラマ仕立てで描く。イネの行動半径が広がるにつれ、長崎や宇和島、その他その時々の日本国内の動向や世界情勢に沿って話が展開していき、坂本竜馬や西郷隆盛らも登場するなど、幕末から明治維新に至る歴史が一通り学べてしまうという優れ物の歴史小説であり、是非お勧めしたい本のひとつである。 ちなみに、大村益次郎は後に長州軍の総司令官となった人物だが、彼とイネとの間に男女関係があったらしく、また、彼が出世コースをたどるきっかけもイネとの出会いにあったという。・・・こちらは、司馬遼太郎の「花神」で確認してほしい。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ひたすら日本にあこがれ、国籍を偽って入国したシーボルト。好奇心と探究心に突き動かされ、多くの向学心あふれる日本人学生を従え、研究や教育にはげんだ。その影響は極めて大きく、多くの優秀や人材を輩出した。そして何より、お稲という女性を残した。 シーボルトはその好奇心がたたり、国外退去となる。ここに親子数代にわたる壮大な大河ドラマが始まる。吉村昭の作品でも最長の、見ごたえのある作品である。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ヨーロッパに帰ったシーボルトはその資料をもとに精力的に活動し、日本を開国させようとする欧米諸国の力添えとなる。 そしてついに日本は開国し、再びシーボルトは来日する。しかしお稲達を囲む状況はあまりに変化しすぎていた。すでにシーボルトの知識は最先端のものではなく、男としても衰えを見せていた。また稲やその娘たちも、医家としての志と女としての壁のはざまで悩む。 激動の時代を荒波にもまれながら必死に生きた彼ら、彼女たちの姿はわれわれの胸を打たずにおかない。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
吉村昭の著作はあらゆる資料を丹念に調べ上げ,正確を期さなければ書かないという徹底した執筆態度で貫かれています。熱情を抑えつつ終始冷徹な筆致で統一されており,どの作品も読後感が非常に良いのが特徴です。この「ふぉん しいほるとの娘」は吉川英治文学賞を受賞しており,吉村文学の中で最も長い著作で,代表作の1つと言えるでしょう。 鎖国政策下の江戸時代末期にオランダ人医官として長崎に来日したシーボルト。鳴滝塾での西洋医学の伝授において功績は大きいが,オランダ政府から別の役割(日本の情勢研究)が課せられていたことはあまり知られていない。また,シーボルトの野心家の一面も描かれており,シーボールト事件の舞台裏まで詳細に描かれていて読者を飽きさせない。 物語は長崎丸山遊郭の遊女其扇(お滝),シーボルトとの間に生まれたお稲とその娘タダの三代の女性を軸に描かれ,幕末から明治に至る大きな時代変化や庶民の暮らし,長崎の風情を巧みに絡ませながら展開していく。 久しぶりに読み応えのある本に出会い(長い長い映画を見終り,程よく疲れたという感覚でしょうか),心から感動するという体験を味わえました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
シーボルトというと、小学生の時の社会(歴史)の授業で、幕末の日本に西洋医学をもたらし、大変尊敬を集めた人という形で教えられることが多いと思いますが(少なくとも私はそうでした)、この本では、まず前半部分でシーボルトを、一歩引いた冷静かつ客観的立場からその人となりを描いていきます。長崎・出島でのオランダ商館員の生活、西洋医学の伝授を通じてなされるシーボルトと日本人弟子達の交流、江戸参府の折の国禁ものである(伊能忠敬作による)日本地図入手の経緯。そうした事柄が時代背景とともに、淡々とした筆致の中にも生き生きと描かれ、読者を幕末の世界へ力強く引き込んでいきます。中盤以降は、シーボルトと長崎の遊女であったお滝、そしてその二人の間に生まれたハーフの娘のお稲の生き様に重点が移ります。シーボルトが日本を追放された後に、自分は「あいのこ」であり、周りの日本人女性とは違う、というidentityを強く意識するお稲。そのidentityをエネルギーに、初めはオランダ語を、そして次には西洋医学(特に産科学)を学ぶことを志し、ついに日本人女性として初の産科医として活躍するまでになる。しかし、望まぬ娘を生み、父にも会えず、母は元遊女だったというばらばらな「家族」のありように、お稲は苦悩する。そして物語は静かに最後のクライマックスへ。いつしか時は移り、明治維新・文明開化の時代に。西洋の制度にならい、医師になるための国家試験が導入されるが、それに対してお稲は...そしてその娘のタダは...幕末から明治の激動の時代を一途に生きたお稲の生き様を核に、当時の世相や事件をふんだんに盛り込んだ、大河ドラマ(黒船来航、安政の大獄、桜田門外の変等も巧みに織り込まれていきます)。日本史の教科書の副読本にしたいくらい、素晴らしい作品に仕上がっています。丹念にかつ緻密に歴史的事実を掘り起こし、記録していく「吉村昭流記録文学」はここでも存分にその真価を発揮。文体もきわめて平易、明快でよどみなく、読者を飽きさせません。シーボルトにご興味のある方や、幕末・維新時代の日本の歴史にご興味ある方には大変お勧めです。文句なく5つ星としたいと思います。また、この本の時代を数十年遡った時代、「解体新書」の翻訳作業を通して、その翻訳者・出版者である前野良沢・杉田玄白の生き様を描いた「冬の鷹」もあわせてお読み下さいませ。 | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!