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あの本は読まれているか



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あの本は読まれているかの評価: 3.96/5点 レビュー 23件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.96pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全23件 21~23 2/2ページ
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No.3:
(3pt)

『ドクトル・ジバゴ』とCIA女スパイ? 二兎を追う者は・・・

パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』は今ではハリウッド映画版のほうが有名で、原作を読んだ人は少ないだろう。現に、江川卓訳の新潮文庫版は絶版で、Kindle化もされていない。
私自身も映画の印象が強く、彫りの深い顔のオマー・シャリフ(ユーリ役)と意志の強そうなジュリー・クリスティー(ラーラ役)、それからラーラのテーマの美しい音楽を思い出す。
この小説は、『ドクトル・ジバゴ』の出版をめぐるパステルナークと家族らの苦闘と、その出版を対ソ連の重要な武器として暗躍したCIAの活動を並行して描くもので、着眼点は面白いが、読んだ印象としてはいずれも掘り下げ不足で「二兎を追う者は・・・」という感を免れなかった。資料に限界があるのだろうが、小説なのだからもう少し想像力で補ってもよいのではないかと思う。
とはいえ、『ドクトル・ジバゴ』の物語を地で行くパステルナークの妻と愛人との公然たる三角関係と、愛人オリガの視点から語られるその苦悩はよく描かれている。1人の詩人・作家が巨大なソビエト権力に押しつぶされそうになりながら著作を完成させ、それをオリガや妻の意に反して海外出版してしまう、その人間としての弱さと芸術家の矜持との間の動揺は痛々しい。ノーベル賞受賞後の作家協会からの糾弾と友人たちの裏切りは、まるでマタイ福音書のペテロの否認である。
ちなみに、スターリンに批判された作曲家ショスタコーヴィチも同様の苦境に陥ったが、こちらはスターリンと渡り合う狡猾さと強靭な粘り強さを持って、ソビエト体制を生き延びた。
他方、CIAが『ドクトル・ジバゴ』を対ソ連のイデオロギー宣伝の武器と位置づけたのはさもありなんだが、この小説の中でも最初の出版はイタリアであり(この出版の経緯のほうが面白いのでもっと詳しく知りたいところ)、その後は欧米で広く翻訳出版されている。ロシア語版が地下出版でソ連国内に持ち込まれるのは時間の問題だったはずで、CIAの功績がどれだけ大きいかはよくわからない。また、ソ連国内での流通経路や読者の受け止めについてほとんど触れられていないのも物足りない。
なお、この小説では著者の問題関心による創作と思われる女性スパイの同性愛の物語がかなり重要な部分を占めていて、それが原題の“The Secrets We Kept”に関連するのだろうが、これは小説構成上は全く余計なエピソードだと思う(当時のアメリカでは同性愛は犯罪として罰せられたというのは驚きだが)。冷戦を背景としたドクトル・ジバゴ事件と対比するなら、むしろ1950年代にアメリカで吹き荒れたマッカーシズムとチャップリン他の映画人らの大量追放であろう。マッカーシズムの影はこの小説では全くなく、CIAは西部劇の善玉保安官のように描かれている。

〔追記)英語版のレビューを見ると、同じテーマを扱った先行する著作として、“The Zhivago Affair: The Kremlin, the CIA, and the Battle Over a Forbidden Book ”〔2014年)が紹介されている。こちらはノンフィクションのようだが、レビュー評価は高い。新潮文庫版『ドクトル・ジバゴ』のkindle化とあわせ、できればこちらの翻訳・出版も期待したい。
あの本は読まれているかAmazon書評・レビュー:あの本は読まれているかより
4488011020
No.2:
(4pt)

ラーラ・プレスコットが最近まれな面白い本を出してくれた

COVID-19で外出も控えて生活しているときに購入した、B・パステルナークの「ドクトル・ジバゴ」をCIAがソ連に持ち込んでソ連への武器として戦おうとする、フィクションである。「あの本は読まれているか」の題名はいまいちの感があるが。
CIAの極秘文書をタイプする女性タイピストたちが登場する自由なアメリカCIA場面を西として、パステルナークとオリガ・イヴィンスカヤの動きを中心とするソ連の場面を東とする章分けでストーリを展開する方式と、ほぼ一人称形式で文章を書いて読者をフィクションの当事者の目から入り込んで行く方式を取っている。
 記述方式は軽く見えるが、パステルナークの悲劇と「ドクトル・ジバゴ」の悲劇(不倫恋愛物語と思われているが、戦争と革命の中で歴史に翻弄されるユーリとラーラ、トーニャの物語である)が上手くラップされて、深い内容を数多く盛り込んでいるのが分かる。「ドクトル・ジバゴ」を読んでいる人や映画「ドクトル・ジバゴ」を観ている人は、更に深く理解され、考えさせながら読ませる。
フィクションであるがゆえに、パステルナーク、オリガ、ジナイダなど、いきいきとした考えと動きがまるで映画をみているような印象。これは映画化を意図した書籍であると思える。。
パステルナーク最後の作品で未完の戯曲「盲目の美女」の記述が興味がわいた。

ここ最近読んだ中で一番面白く読めた、東京創元社最新作である。
あの本は読まれているかAmazon書評・レビュー:あの本は読まれているかより
4488011020
No.1:
(5pt)

今でもラーラのテーマが鳴り続けている

予備知識なく「あの本は読まれているか "The Secrets We Kept"」(ラーラ・プレスコット 東京創元社)を読みました。途中から、モーリス・ジャールによる「ラーラのテーマ」が鳴り続けます。
 CIA黎明期のタイピストたちを描くウキウキするプロローグから、くるりと1950年代のソヴィエトへと世界が暗転します。
 物語は、あの「ドクトル・ジバゴ」の作者ボリス・パステルナークの半生が、主にその愛人・オリガの視点から語られていきます。スターリンによる粛清、強制収容所、言論統制。一方、この物語のとてもユニークなところでもありますが、冷戦の頃、亡命ロシア人の母を持ち、CIAにタイピストとして雇われながら、密かにもうひとつの「仕事」を得るようになるイリーナが動き出し、もう一人の諜報員・サリーとそのタイピストの「仲間たち」の側のストーリーが、東と西、交互に語られていきます。1950~60年代のアメリカ、ワシントンD.C.。男社会。その当時の、もしかすると一番綺麗だった頃のアメリカの風俗。女性ファッション。多くの出来事。スプートニク。IVYリーグの男たちはどこへ行った(笑)
 そして、その二つのストーリーが、後に「ノーベル文学賞」をもたらす「ドクトル・ジバゴ」を西側に紹介するというCIA側の「ドクトル・ジバゴ」作戦へと収斂していきます。詳細は、お読みいただければと思います。
 歴史的事実に裏打ちされていますが、虚実皮膜、読者はその歴史を確かめつつ、時にその当時の女性たちの迸るような「存在感」にため息をつきながら読み進めることができると思います。また、作者の尽きない想像力は、東側のボリスとその妻・ジナイダ、愛人・オリガのトライアングルに注がれていて、その関係が「ドクトル・ジバゴ」のユーリーとトーニャ、ラーラのトライアングルを呼び覚まし、尚且つ、ここでは「秘密」にすべきCIA側の諜報員たちの関係へとオーヴァーラップしていくところにあり、作者はそのとてもスリリングな構造を繊細に、伝わるように描き切っていますね。そういう意味では、作者を含む、3人のラーラによって花開いた「女性たちのエスピオナージュ」、"HUMINT"の物語が、氷雪に閉ざされた別荘(ダーチャ)へ向かう映画「ドクトル・ジバゴ」の過酷で、哀切で、強い愛の道行へと導かれていくことになります。

 数年前、ある女性と映画「ドクトル・ジバゴ」をDVDで鑑賞しました。私がラーラ(ジュリー・クリスティ)がひときわ綺麗だったと言ったところ、一緒に見ていた人は、あっさりと「私は、ラーラよりもトーニャ(ジェラルディン・チャップリン)が良かった」と言っていました。私たちに夢々"The Secrets We Kept"は、ない(笑)
あの本は読まれているかAmazon書評・レビュー:あの本は読まれているかより
4488011020

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