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(短編集)
或る「小倉日記」伝
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【この小説が収録されている参考書籍】
或る「小倉日記」伝の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.48pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全48件 41~48 3/3ページ
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短編の中で「笛壺」について。小説の内容よりもこの物語は漢字の研究材料として価値がある。白川静ー藤堂明保の漢字論争のことを言っている。試しに白川の「字統」(平凡社)と藤堂の漢和大字典(学研)で、物語中の”はぞう”にあたる漢字を見てみるとよいだろう。結論は、漢字における解字作業というものは、あくまでも状況証拠であるということだ。考古学遺物や文献資料がいかに多くあっても同じこと。その点では清張も同じことである。一蓮托生そう見れば、特定の権威に恐れて自説を躊躇する理由はどこにもない。そこで「宇宙に開かれた光の劇場」上野和男・著という本を読むことをお薦めする。漢字の解字作業を飛躍させれば、そこには西洋絵画の世界だってありうる。あのフェルメールにまでも言及できる。記号やヒエログリフとなった漢字が、この本では絵解きのツールとして採用されている。 | ||||
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松本清張の現代小説「傑作短編集」の第一集。12編が収められているが、そのうち「或る『小倉日記』伝」「笛壺」「赤いくじ」「父系の指」「青のある断層」「喪失」「弱味」が記憶に残った。 その中でも「或る『小倉日記』伝」が飛びぬけて秀逸である。子に対して献身的な母親ふじの心がこの小説の支えとなっている。 「笛壺」は、「その時、この女もおれの伴侶でないと直感した。・・・おれは自分のこの世の孤独にはじめて涙が出た。」という一文が強く残った。 「赤いくじ」は、人間の恐ろしい意識を描いている。 「父系の指」は、妻に馬鹿にされ風采のあがらない父に対する子の微妙な心理が描かれており読み手の同情をひくのではないか。 「青のある断層」は、画家をめざした青年が一流の画商に弄ばされ最後は故郷に帰るさまを描く。快活な妻を配して哀れを際立たせている。 「喪失」は、若い女を落とすため、初老男が用意周到にして遠大な計画を実行するさまが描かれている。何とも大げさなストーリーであり、それゆえ最後は滑稽である。 「弱味」はタイトルのとおり。ストーリー展開が見事で全く飽きさせるところがない。 | ||||
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松本清張最初期の短編集です。 推理小説の趣がややあると言えるのは“火の記憶”くらいで、後は全て現代社会小説です。 強烈な印象を与えるのはやはり“ある小倉日記伝”“菊枕”“断碑”などの、アウトサイダー達の物語でしょうか。 私自身、これらの作品に描かれているような、強烈なキャラクター達に二、三人出会ったことがあり、松本氏の描写の確かさに感心してしまいます。 個人としては決して悪い人達ではないけども、とにかく強烈な自負心のために、周りの人達もプライドを持った同じ人間なのだ−ということにどうしても頭が回らない−。 大抵の場合、恵まれない境遇に生まれたことから来る不安と屈辱感が彼らをその様な傍若無人な振る舞いに走らせるわけで、こういう描写にかけては松本氏の筆は冴に冴えます。 彼自身も己の境涯という点で、こういったキャラクター達に深い共感を寄せていたはずです。 思えばそれまでいくつかの例外を除いて、かなりの高学歴を持ったエリート達によって書かれてきた日本の小説は、埒外の経歴を持つ松本氏の登場によって大きな転換期を迎えました。 “父系の指”という作品には、氏の半自伝“半生の記”に書かれた、自身のめぐまれない生い立ちとそっくりな家族像が描かれています。 この短編集にはそのほかにも、これまでかろうじて地道な生活を送ってきたのに、些細なことから人生のドロップアウトを余儀なくされてしまう人々の作品もたくさん納められています。 それらを二十代の初めのころ読んだ私は、地味で面白くない、と感じたものですが、三十代の半ばになった今、一作一作の持つ怖さが手に取るように分かってしまうようになりました。 どれも暗く、生活の重みがずっしりと伝わってくる短編ばかりです。 最近落ち込むことが多いような社会人の方には薦めていいのかどうかわかりません。 でもまあこの味がわかるようになればアナタも大人の仲間入り−ということなのでしょうか? うれしいような悲しいようなー。 | ||||
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このごろの芥川賞作品に「鈴の音」が聞こえるか? 少なくとも私には「non」である。そのようなこきおろしをするために暇はつぶせない。 比喩的な意味ではなく、ずばり「鈴の音」が聞こえる小説がある。 松本清張の芥川賞受賞作品「或る『小倉日記』伝」である。 先に「あらすじ」を紹介した方がよかろうか。 小倉に住む田上耕作は、神経系の障害で子供の頃から言葉がはっきりせず、 片足をひきずっていた。 学校の成績は優秀だったが、免れない孤独感から、文学書を好んで読むようになる。 彼には甘くさびしい記憶があった。 「でんびんや」の記憶が耕作と森鴎外とを結びつけることになる。 鴎外3年間の日記が散逸されていることを知った耕作は、自分の足でそれを突き止めようと する。 この名作の誉れ高い一因に次の一節「耕作の六歳頃の思い出」がある。 じいさんは手に柄のついた大きな鈴をもっていて、歩きながらそれを鳴らすのである… 女の子は、お末ちゃんといったが、他に遊び友だちのない彼にとって唯一の相手だった… 言ってみれば、彼が最初にほのかに愛した子であった… 耕作はこの鈴の音が、かぼそく消えるまでを聞くのが好きだった。 でんびんやの一家は一年ばかりいて、とつぜん夜逃げをしてしまった。 知らぬ遠い土地で、あの鈴を鳴らしているかもしれないと思うと、ひとりで、その土地の… 「ちりん、ちりん、ちりん」鈴の音を物語の中で三回響かせることで、一人の男の艱難辛苦 の人生を、そのまま救い出す。 まったく見事なしかけである。 私は「鈴」をテーマとした文学作品、特に詩歌にその結晶と哀韻をたどってきたのだが、 社会派推理作家に、このような珠玉の短編があったことに気が付き、矢も楯もたまらず、 ここにその思いを綴ってみた。 すぐれた文学作品には(象徴的に言って) 「作品から鈴の音が聞こえなければ、人の心に哀韻を響かせない」と確信するものである。 | ||||
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第28回芥川賞受賞作の表題作ほか10篇の短編集。表題作は、実在の人物をモデルに、作者らしいプロットで物語を薦めており、力強さを感じた。その他、「菊枕」、「断碑」、「石の骨」なども、同じように実在の人物をモデルにかかれているという。これと、自身の私小説的な作品「父系の指」も面白い。その他の作品は、比較的軽い作品で、それほど強い印象は、残さない。 | ||||
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清張といえば推理小説、事件の真相を追跡する、というイメージがあるかもしれません。 でも実際には創作の幅は広かったようです。いわゆる純文学という感じの現代小説も書いていて、しかも表題作『或る「小倉日記」伝』では芥川賞も受賞しています。 主人公は鴎外の「小倉日記」を情熱を持って追求します。男の生き様です。カッコイイです。途中、ちょっと色気を出す場面があるのですが、その時は上手くいきません。そんなもんでしょ。やはり己の一筋の道をまっすぐ進むのが漢です。 作品自体は、事実に基づいた創作なのか、あるいは完全なフィクションなのか、一見しただけでは分かりません。それだけ筆が巧みということです。 あと、さりげない小倉や柳川の風景描写がいい味出しています。 さすが松本清張、といった風格すら漂う作品です。 | ||||
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「砂の器」のTVドラマ化までしばらく清張は読書会では沈潜していた。 理由の一つは国内旅行が日常化してしまったこともあると思う。実に 清張作品はトリックや社会批判を云々する以前に、いずれも舞台となる 土地について鮮明なイメージを与えてくれる。それが昭和30年代過ぎて 消えてしまったものであり、今日は非常に観光地として派手になって しまったにせよ。むしろそういう今こそ清張はゆっくり読まれるべき 作品を残したのではないだろうか? 「或る『小倉日記』伝」も追跡がテーマであり、土地が鮮明に描かれるが、 独特の哀しみもある。清張作品の原点であろう。 | ||||
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とある邂逅が人生を一変させる。そして人はそこに没入してゆく。その時その人の心中は、人生の目標を得た喜びかそれともこの出会いを逃すまいとすがるような気持ちなのか。いずれにせよそのあとに待ち受ける人生のゴールが気になるだろう。明確な目標のある人生はおそらく幸せだろうが、そこに世俗的な成功という思惑が絡むところに人間のもの悲しさを感じる。自分の人生の"オチ"は笑えるのか泣けるのか、誰しも楽しみでありながら大いに不安なところである。表題作の芥川賞受賞作を含む傑作短編集。 | ||||
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