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(短編集)
フェアウェルの殺人: ハメット傑作集1
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フェアウェルの殺人: ハメット傑作集1の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.33pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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「ハード・ボイルド」作家の代名詞、ダシール・ハメットの「短編全集1」。 「短編全集2」もあるが、惜しむらくは両方ともに絶版。本書にはレビューも なく、収載作品がはっきりしないままに古本(当たり前だが)で取り寄せた。 1972年初版、取り寄せた本は1984年13版とある。表紙はAmazon の登録品とは異なる。「全集2」はAmazonと同じ。増刷したおりに「全集2」の 表紙になったのだろう。(「全集2」は1995年13版)。 収載作品。 「フェアウェルの殺人」 「黒づくめの女」 「うろつくシャム人」 「新任保安官」 「放火罪および…」 「夜の銃声」 「王様稼業」 全て「コンチネンタル・オプ(名無しのオプという異名もある)」が主人公。 最初にエラリー・クイーンの4ページほどの序文、というかハメットの作中の 主人公=コンチネンタル・オプは誰をモデルにしたのかという指摘がある。 ハメット自らがクイーンに語ったことを記載している。ネタバレとなるので詳 しくは書かないが、モデルは通説と同じであった。 この短編集の原題は、「THIS KING BUSINESS AND OTHER STORIES」 となっていて(「王様稼業とその他」)、邦題の「フェアウェルの殺人」から題名 はとっていない。なぜか不思議だ。この点については最後でまた触れる。 「ハードボイルドの定義」通りに言えば、残酷なあるいは暴力的な現実ではあ っても、それをそのまま簡潔な描写で作品をつくること、となるだろう。そして 主人公は情緒的な物言いをしない、そんな作風になる。 まさにハードボイルドの名にふさわしい作品が収載されている。 作品ごとのレビューとナルが、粗筋はなるべく簡略なままで紹介する。 ハードボイルドの典型的作品、「フェアウェルの殺人」。 ハメットの名作=「血の収穫」と同じで、オプは事件のあらましの見当をつけ た後に、少しずつその事件の隠された真実に近づいていく。これが1930年の 作。100年前の作品とは思えないほどに、リアリティのある筋立てとなってい る。オプがどんな人間なのか、直接的な描写は一切ない。ただオプの行動のみが オプを語る。無駄をそぎ落とした文章によって物語は完結する。暴力シーンは実 に残酷、淡々と描写している。 誘拐をモチーフとした「黒づくめの女」。物語最後のオプの言葉がいい。 1923年、大恐慌の前。大金持ちが登場するが、その時代は「金ピカ」の時 代。物語には、浮かれている当時の世相が滲み出ている。 この物語の「オチ」は今では珍しくないだろうが、当時は斬新であったろう。 初出誌(Black Mask)に「ハメット」名義で出した初の作品らしい。 「うろつくシャム人」では、日本では見かけない「ホテル探偵」が登場する。 この作品の重要な登場人物ではないが、アメリカには変わった職業がある、と思 っていた。しかし調べてみると「ホテル探偵」は、「宿泊者の安全、トラブル対 処、コールガールの出入り禁止、などに携わる仕事。ホテルの警備員より上位の セキュリティ担当者」であるらしい。 本作品では、おそらく「メキシコ革命」(1910~1917)に関すること が記されている。時代を感じる。 珍しく、移動中の情景(自然の景観)を細かに描写しているのが「新任保安官」。 乾いた埃だらけの町。100ページ近い作品で、むしろ中編とよんでいいほど。 オプは珍しく「保安官補」の役割であり、暴力が支配する町で淡々としかし確実 に動き回る。 これも「血の収穫」と同系列の作品。むき出しになった残酷さの中で、オプは 策を練る。ハードボイルドそのものの作品。長いがあっという間に読み通せる。 オプはその事件の鍵を最後に述べる。 またこの作品でオプは、あえて狙って人を撃ている。これも珍しい。 ウィンズロウの「カリフォルニアの炎」を思い起こさせる、「放火罪および…」。 「カリフォルニアの炎」はかなり主人公の心の揺れを描いていて、ウィンズロウ も随分とアメリカのこの類いの犯罪に怒りを持っているのが分かった。 火災の調査とは、かなりこれ以外の作品とは傾向が異なる。今でもアメリカの 探偵は火災調査をしているのか。専門知識を持ってオプは行動的な調査を行う。 身体を使うというよりも、理屈で犯人を追い詰める。 「夜の銃声」は、あまり感心できない。ストーリーの根幹に「老い」がある。 「王様の稼業」。現在のセルビアの首都=ベオグラードが登場。1918年ま ではオーストリア・ハンガリー帝国の支配下にあったが、その後は1941年ま でユーゴスラヴィア王国の首都であったらしい(wiki)。本作品は1928年に発 行されていて、ユーゴスラヴィア王国時代となる。ベオグラードから「ムラヴィ ア共和国」が舞台となる。「ムラヴィア」は(おそらく)「モラヴィア」のこと。 チェコの東部地域に該当する。 ハメットは「マルタの鷹」といい、アメリカ人には珍しく東ヨーロッパの片隅 の国をよく知っているなと感心した。 この作品でもむごたらしい暴行シーンがある。感情を交えずに、暴力を描写す るが、さすがにこれは好き嫌いが分かれるだろう。 ストーリーは、小国の政治状況の不安定さを下敷きにしていて、「戦争の犬た ち」の政治版のようだ。「革命」の文字も散見される。 全体を通して。 ハメットの作品を純粋に「推理もの」としての観点から評価すれば、傑作とは 言いがたく、どうにも「ご都合主義」的ストーリーでもある。謎めいた状況から、 コンチネンタル・オプの目的が何であるのかも判然としないままに、一気に終盤 になだれ込む。そして最後に、(オプがたの登場人物に説明する、という設定で) 会話文で謎解きがある。この典型的な起承転結も、ややもすれば興ざめとなる。 ただ「ハードボイルド」としては、主人公オプの感情を極力出さずに、情景描 写も必要最小限。過剰な形容もない。そんな文体で書かれていて、さすがはハメ ットという印象を受ける。 「訳者あとがき」で、「このアンソロジーじは四巻で、一、三、四巻にはコン チネンタル・オプものを、第三巻にはサム・スペードものその他を、そして随所 に、ごく初期の掌編ふうのものを挟んで編集していくつもり」とある。 前述したが、本書扉にある英文のクレジットには異なり、また第三、四巻は発 行されていない(検索してもヒットしない。古本もないもよう)。 どうにも不思議だ。 古本(それもかなり安価に)を購入するしかないが、十分に取り寄せる価値がある。 ハメットだからではないが、お勧めできる。 | ||||
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1972年に出版されて以来、何度か装丁が変わっている。 またタイトルも、最初は「傑作集」だったけど、現在は「短編全集」に変わっている。 当初は4冊の予定だったようだけど、結局刊行されたのは2冊のみ。今や「短編全集」って名前に変わったから4冊以上になる予定があるのやら。傑作集で4冊の予定だったから、短編全集になったら冊数ももっと増えるはずなんだけどな。 第一巻はコンチネンタル・オプものを収録。 ・フェアウェルの殺人/The Farewell Murder 1930年 ・黒ずくめの女/Crooked Souls 1923年 →初めてハメット名義で発表した作品 ・うろつくシャム人/The Creeping Siamese 1926年 ・新任保安官/Corkscrew 1926年 →「血の収穫(赤い収穫)」の原型 ・放火罪および・・・/Arson Plus 1923年 →ピーター・コリンソン名義で発表されたオプものの第一作目 ・夜の銃声/Night Shots 1924年 ・王様稼業/This King Business 1928年 第二巻にもコンチネンタル・オプものが収録されているが、残念なのはオプの(ひいてはスペイド等のハメット作品に登場する主人公達の)道徳規範が語られた「カウフィグナル島の略奪」がいずれにも収録されていないこと(もしかしたら第三巻に入る予定だったのかもしれないけど)。ロバート・B・パーカーやウィリアム・ノーランが重要な作品として取り上げていたのに。 なお「王様稼業」の翻訳文で気になった個所が一つ。オプが材木の山に隠れていた時に、身を潜めてじっと待っていた時の表現として「二週間たった」という文章があったが、この原文は何だろう?実際二週間もたっていない場面なので。それとも何かの隠語か慣用句? | ||||
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ハードボイルド御三家(他の二人は、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルド)の一人ダシール・ハメットの短編集『フェアウェルの殺人』(1998年版)を、本棚から取り出し再読してみることにした。(御三家と言っても時代が限られているが) 本書には、1923年から1930年までに書かれた七編が収録されている。 本書のタイトルにもなっている『フェアウェルの殺人』が本書の最初に登場する。 『フェアウェルの殺人』(1930年)は、コンチネンタル探偵者サンフランシスコ事務所所属の通称「オプ」が遺産を狙った殺人事件を解決するありきたりな探偵ものである。(本書の短編では、本名不明の通称オプが解決する物語で構成されている) タイトルに使うほどの作品とは思えない作品であったが、1930年(昭和5年)という時代を考えると、その頃には斬新的な探偵ものとして評価されていたのかもしれない。 『黒ずくめの女』(1923年)は、短い話で読み始めてすぐ誘拐犯がだれか分ってしまう平凡な作品。 『うろつくシャム人』(1926年)は、第一次大戦後の山師(宝石鉱山探し)の因縁話ショートショート。 『新任保安官』(1925年)は、ニ十世紀に入ったアメリカでも起こりうるような西部劇である。 今なおメキシコから不法移民が絶えないことおを考えさせられてしまった一遍であり、前の三作品より楽しく読ませてくれた。 『放火罪および・・・・・』(1923年)は、ありきたりな放火による保険詐欺の話であるが、やはりその当時には新しい犯罪だったと考えれば評価も異なってくる作品だろう。 『夜の銃声』(1924年)は、数ページ読んで犯人が分ってしまったが、動機については意外性もあり読ませてくれた佳作。 『王様稼業』(1928年)は、本書一番の傑作ではないかと、一気に読んでしまった。 ・・・ベオグラード発の汽車は、正午を過ぎて間もないころ、ムラヴィア共和国の首府、ステファニアで私を降ろしたーよどんだ午後のことだった。・・・と冒頭で始まるが、ムラヴィア共和国なんて聞いたこともないから、架空の国だと判る。 ありそうもない荒唐無稽な物語だと思いながら読み始めたが、ページを繰るのが早くなり一気読みしてしまった。 まぁ、ハリウッド映画を観ているような楽しさといったほうが、この物語にふさわしい感想だろうか。 評者は、ハードボイルド御三家が好みではないが、この『王様稼業』などを読了し、やはりハードボイルドというジャンルでは、ハメットが第一人者だとの感を深くした。 同世代の作家パーシヴァル・ワイルドの『検死審問―インクエスト』『検死審問ふたたび』などが時代性を超えた普遍的な面白さ(人間描写や会話の諧謔など)を味あわせてくれるから、御三家より評者の好みにあっているなぁ、と思いながら本書を読み進んでしまった。 「事実は小説より奇なり」を、地で行くようなダシール・ハメットの生涯を小説にしたら、さぞかし面白かろうと思っているのは評者だけだろうか。 『新任保安官』『王様稼業』が読ませてくれたから星4ヶ進呈。 | ||||
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