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雪
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雪の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.03pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全6件 1~6 1/1ページ
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既に、藤原書店の旧訳(区別の都合上、そう呼ぶことにする)にもレビューを書いたので、 ここでは基本的に、新訳の訳文について記すことにする。 "Mr.T"さんが書かれているように、新訳にはサクサク読み進められるという利点がある反面、 おそらくパムクの原文に本来あったはずの、複雑な陰翳や香気のようなものが、かなりの 程度まで削ぎ落とされてしまっているように思う。 旧訳を読んだ時は、ひたすら降り続く雪のせいで、場末のカルスの街に永遠に閉じ込められた かのような、閉塞感と多幸感が綯交ぜになった独特の感興を覚えたような気がするのだが、 今回はそれがさほど強く感じられなかったのが残念だった。 また、新訳では、本来は間接話法で表現されていたはずのKaの内心の声が、いちいちわかり やすい直接話法に置き換えられているが、会話文にしても、42歳のはずのKaの話しぶりが、 あまりにもナイーブで子供っぽい感じに訳されていて、正直かなり気になってしまった。勿論、 作中でKaがそのようなウブな人物として描かれているのも事実なのだが、殆ど児童文学の 主人公を思わせるような口調に訳すのは、いくら何でもやり過ぎだろう。以下、一例を挙げる。 ”はて、僕は現世とやらでいったい何をしているんだろう? 遠目に見る雪はいかにも みすぼらしくて、僕の人生もまた惨めなもんだ。人間なんて所詮、生きて、摩耗して、 無に帰するだけなのかもな”。(新訳上巻p.166) この世で自分は何をしているのだろうかと考えた、Kaは。雪は遠くからいかにも惨めに見えた。 自分の人生もいかに惨めなことか。人は生きて、疲れ果て、やがて何も残らない。(旧訳p.118) ちなみに旧訳の2文目で、「雪は遠くからいかにも惨めに見えた」となっている部分は、Kaの心情が 投影された描写で、それを見たKaが、「自分の人生もいかに惨めなことか」と続けて考えるわけだが、 新訳はそれらを全て、Kaが直接考えたことにしてしまっているので、やや無理がある訳文になって いる上に、安易な感じがすると個人的には思う。 (下巻のレビューに続く) | ||||
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(上巻のレビューから続く) あと、細かいことだが、一つ誤訳と思えるものを見つけたので、指摘しておく。 宵の口に仕事帰りのハンセンさんがバーンホフ駅まで車で迎えにきてくれたんです。(下巻p.19) 「バーンホフ Bahnhof」というのは固有名詞ではなく、ドイツ語の普通名詞で「駅」のこと なので、これは単に駅と訳すのが正しいはずだ(旧訳p.304ではそうなっている)。ふつうは 先行訳があれば参照するものと思うが、なぜあえて違う訳にしているのだろうか。 最後に、「訳者あとがき」についてだが、近現代トルコの政治史についてかなり詳しく解説 してくれている反面、訳者の態度が、本書の内容や作者に対して妙に厳しいというか、 殆ど断罪のようにすら思える部分があることが気になった。以下、いくつか例を挙げる。 本書は、パムク自身が”政治的メッセージはない”と述べる通り、明確な政治的主張どころか、 社会問題の提起さえ行われないまま終幕を迎えている。(p.410) 「雪の結晶図」はその存在自体が歪である。この芸術的に見れば醜悪な結晶図の存在は、 「真の詩人」であるKaと、「朝も夜も何時間もぶっ続けで働く事務員のような、ひどく単純な 魂しか持たない小説家」である作者パムクの二人が、政治に傾倒し、苦悩する人々のことを 最後まで理解し得なかったということを象徴しているように思われる。(pp.412-413) こうして政治と詩という皮をはぎ取っていくと、本書で最後に残るのはただ一つ、(中略) つまり、人は幸せにならなければならないという結論だ。(pp.413-414) Kaを糾弾した<群青>や、Kaを密告者として蔑むイペキやカルスの人々とは違って、 作者パムクだけはKaをいっさい責めようとはしない。なぜなら、パムクの作品に一貫して 見られる主題めいたものがあるとすれば、それは幸福の追求にほかならないからである。(p.414) これほど否定的な内容の「訳者あとがき」を読んだ覚えはあまりないのだが、上下巻を 読み終えてそれなりの感慨に浸っているところに、何だか出来の悪いレポートを無理やり 読まされたような、後味の悪さを覚えた。(そもそも、作者が明確な政治的主張をしたり、 結局は幸福を得られずに死んだKaを、それ以上責めたりする必要があるのだろうか?) 訳者がいかなる主観的見解を持とうと自由だが、「雪の結晶図」を大した根拠もなく「醜悪」 と決めつける一方で、専ら主人公や作者の倫理的姿勢ばかりを糾弾するかのような文章を、 「訳者あとがき」の形で読者に押し付けるのは、いささか僭越ではないかとすら思う。 | ||||
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私はトルコ語の勉強のため「雪」の原書を読んでいます。この新訳版では原著が多用する面倒くさい間接話法が読みやすい直接話法に変更され、原著にない単語、注などが追加されているため、堅い文学作品と言うより、あっけらかんとした推理小説のように、ほいほいと読んでいけるのが良い点です。しかし、その利点にかわりパムクの重厚で小難しく個性の強い作風と文章技術、物書きとしての実直さや真面目さ、日本語に近いトルコ語の文章構成と表現の微細さなどについての文学的な情報と雰囲気がほぼ完全に失われているのが、当訳書の欠点だと思います。一方、藤原書店から出ている別の訳書も平行して読んでいますが、それは原文に忠実な訳でトルコ語の勉強には大変役立ちつつ、本訳書の欠点を補っています。それについては当該のレビュー欄で私見を述べました。 | ||||
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翻訳の酷さはみんなが指摘している通り。この翻訳家は恥ずかしいと思わないのだろうか。 地理的歴史的に幸運だった日本人が、西洋と東洋、キリスト教徒イスラム教の間で振りまわされてきたトルコ人を理解するのはなかなか難しい。でもマレーシアでイスラム教徒の家族と親しくした僕の経験では、イスラム教徒も我々とたいした違いはないのである。違いは概ねイスラムの戒律にあり、彼らと接するうちに、彼らがイスラム教に熱心である場合の理由は様々であることがわかってくる。例えば貧困(これは小説の中でイスラム教徒の若者に否定させているが、僕のイスラム教徒の友人は貧しさ故に宗教に熱心だった)、そして特にアイデンティティの問題が大きいように思われる。西洋人が西洋的価値観を押しつけてくるほどに、イスラム教徒はますます熱心に宗教活動に励んで自分たちのアイデンティティを強めていくだろう。マレーシアでは無関心であることで互いの宗教から目を背けているようなところがあったが、無関心は簡単に過激な排斥運動に転換してしまうように思われる。スカーフで髪を覆うか覆わないかが人の生死に関わるのは、不可思議でも異常でもなく、自分がここに今いることの切実な叫びなのである。 でも、そういった宗教上の葛藤や苦悩が、この小説の醸す雰囲気にのまれてしまったような気がしてならない。ぼくには“芝居クーデタ”なるものがとてもリアルに感じられず、そのせいでこの小説世界にいまいち入り込めなかった。果たして今の時代に、こんな突拍子もない、馬鹿げた行動がとられるだろうか。そしてこのクーデタで二十九人も死者が出ているのに、その割にその辺の描写が少ないためか、たいした事件のように感じられなかったのは僕だけだろうか。この小説が例えばカフカの作品のような不条理な世界の中で描かれたものであるならば、イスラムの問題のリアリティもそうした世界の中で薄められてしまっているように思われる。 この小説をリアルに感じられる一番の要素として、恋愛があるが、これは主人公の男があまりに哀れで惨めで、読後には思わずいったいなんだったのだと思ってしまった。宮沢賢治のような純粋な男が普通に狡猾な今どきの若い女に踊らされていい夢を見させられたがとうとう最後に夢からたたき起こされ泣き濡れてひとり町を後にした、といってしまえばそれまでの話である。でも、最後に夢から覚めて現実に戻っていくという展開は、この小説にふさわしいと思う。やはりイスラムの問題は現実なのだから。 | ||||
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半分ぐらいまで読んでいましたが、もういいかという感じで、切り上げるように早読みで読み終えました。もともとが、トルコに行ったことがあったので、興味を持った本です。トルコに行ったときも、この地方はやはりなかなか入れない地域でした。デノミがされ、EUにも微妙な感じで関わり、トルコ語であり、イスラムでありながら政教分離であった、かの国は、まだまだ問題がいろいろとあるのでしょう。クルド人問題もありますし。Kaの行動も不審でしたが、起る出来事も不思議。イスラム教への回帰の考え方も出てきており、日本人には少し分からない問題も多そうです。今思い出すと懐かしい小説ですが、読んでいるときは結構かったるかったです。 | ||||
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イスラム社会の現実感、空気感と共に進行する作品の緊張感は 他の方々の言われる通り素晴らしいと思うのですが、 それにしてもこの(私にとっては愚)訳は苦しかったです。 物語のリアリズムに触れる意味が大きいと思えるだけに残念。 新訳する必要があると思う。 なんか我慢し続けて読んだ、という思いが作品の★8つに対して 訳文がマイナス☆5つ。 | ||||
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