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沈黙の少女
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沈黙の少女の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点2.89pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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「わたし」「君」「彼ら」の設定が最後に集約される、素晴らしい結末に読後感最高。 | ||||
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ベルリンに暮らす13歳のルチアは弟とともにある日拉致される。2週間後に彼女だけが保護されたが、以来6年間一言も口をきかずにきた。その一方、教師のミカ・シュテラーはある計画を胸に4人の男たちとパブで友人関係を結ぼうとする。 ルチアは何を見たのか? その弟はどうなってしまったのか? そしてミカはどんな計画を秘めているのか……? -------------------- クロアチア移民で今はドイツで執筆活動をしているゾラン・ドヴェンカーのミステリー小説です。 物語は「わたし」、「きみ」そして「彼ら」の視点が小刻みに入れ替わりながら進みます。「わたし」はどうやらミカ、「きみ」はおそらくルチア、そして「彼ら」はなかなか実相を明らかにされない陰惨な事件の首謀者たちと思われます。一人称、二人称、そして三人称で展開する特異な小説は、なかなかその関係が見いだせず、ミカの目指すところがおぼろげに見えてくるあたりから、子どもたちをめぐる猟奇的な事件が立ち現れてくるのです。 500頁に喃々とするこの長編小説の終盤100頁は怒涛の展開を見せます。その仮借ない残虐描写は、心臓の弱い読者には耐えがたいものであるかもしれないことをあらかじめ警告しておこうと思います。 そして最後の最後に、ミカのみならず読者までもが、大きく欺かれていたことが明らかになり、思わず言葉を失うことになるでしょう。作劇の巧みさにうならされます。 さらに言えば、すべての事件の源がドイツを大きく揺るがした大戦にあることが描かれるに至って、地続きであるヨーロッパの東部の小村が強いられた戦火の哀しみが物語の底辺にあることを思わずにはいられません。 その結末にはどこか釈然としないものを感じながらも、作者の<企み>には感心するところもあります。訳者の小津薫氏の訳業に触れるのはこれが初めてですが、その卓抜たる翻訳手腕にも助けられて、私はこのドイツ製ミステリーを大いに楽しみました。 --------------------- *31頁:パブで「誰かがヴェスターハーゲンの『自由』を歌い出し」たという文章がありますが、「自由」をヒットさせた実在のドイツ人ロック歌手は「ヴェスターハーゲン」ではなく、「(マリウス・ミュラー=)ヴェスターンハーゲン」(Marius Müller-Westernhagen)です。「Wester(ヴェスター)」と「Hagen(ハーゲン)」の間にある「n」を見落として訳してしまったようです。 --------------------- このミステリーから連想して、以下の小説を紹介しておきたいと思います。 ◆トム・ロブ・スミス『チャイルド44』(新潮文庫) :1950年代のスターリン体制下のソ連国家保安省の捜査官レオは田舎町の民警へと左遷されてしまう。そこで起きた児童惨殺事件が実は広範囲にわたる連続殺人であることを確信したレオは犯人を追うことにするのだが、同僚の策略と妨害を前に、その捜査は命を賭したものになっていく…。 優れた物語とは、主人公がわずかであっても成長を遂げていく物語のことだと強く思います。この小説は、共産党一党独裁のソビエトの厳しい閉塞感を実に見事に表現し、そのやりきれない逆境の中でレオが人として、また夫として、確実に良き方向へと変わりいく姿が描かれ、それが胸に強く迫ってきます。 主人公レオの物語は『グラーグ57』『エージェント6』へと続きます。 . | ||||
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読み終えた途端に、「彼ら」に関する叙述をすべて読み返した。これまで読んでいたものは自分の読んだと思っていたものと全く違っていたことを知る。それが終盤になってわかる。いわゆるどんでん返し。トリック。叙述と構成がもたらすストーリー・テリングの奇妙に捻じれた世界。 饒舌な小説ではない。ある緊張感が全編を満たす。日常生活からアウトランドにはみ出した者たち。自由意志であろうと、強制された形であろうと、登場人物のほぼすべてがそのようにカテゴライズできる。 非日常生活を象徴するのが、冬という季節、凍りついた湖と、その周囲に広がる森、そして古びた小屋。小屋には狭い地下蔵が用意されている。 小説を緊張させる重要な要素は、誘拐される子供たち。彼らは地下蔵に収容され、一人一人が髪の毛をつかまれて持ち上げられてどこかへ消えてゆく。雪の森の中での異常な世界。何が起きているのか? 緊張感が高まるというより、全編子供とその父親の復讐をめぐる張り詰めた時間を物語が進む。そう、最初から最後まで。気が休まることのない張り詰めたプロットが。 世界中で今、書かれ、また読まれているミステリのあまり珍しくなくなった素材としての小児性愛、小児虐待、を材料にした小説と見える全体を覆う重苦しさ。しかし「彼ら」も、本作全体も、実は見た目通りではなく、物語はもっと巨きな時の歯車に推されて動く、とても見えにくい暴力装置を描いたものである。その象徴とされるのが、凍りついた湖であり、閉ざされた冬という季節なのだ。 狩人として森に散ってゆく大人たち、子どもたち。父親としての復讐に燃えた主人公は、単独で秘密のグループに潜入を開始する。読者は主として彼の叙述する「わたし」と生存した被害者少女の「きみ」の章につきあってゆくことになるのだが、登場人物たちには見えていない「彼ら」を含め、複数人称かつ複数時制によるトリッキーな仕掛けが小説全体を覆っていることが、本作の一番の読みどころとなる。 張り詰めた品格のある文体に、ドイツらしい生活風景と、北ヨーロッパの冷たい冬。独特の音楽的味わい。極めて稀有で印象深いミステリー作品である。 | ||||
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