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充たされざる者



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充たされざる者の評価: 4.09/5点 レビュー 70件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.09pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全70件 21~40 2/4ページ
No.50:
(4pt)

分厚さが、余計、徒労を意識させる

次々と現れる登場人物の止めどない会話と、意外な因果関係。街なかと郊外をぐるぐる回りながら、実はどこにも行っていないような繋がりのある4次元空間のような場所。役に立たない、意味のない情報の垂れ流し。
核心にはいつまでもたどり着かないどころか、周囲の状況に安易に流されて、新しい状況にはまり込み、どんどん曖昧になり目的から遠ざかってしまう主人公。
カフカの一連の作品に比べると本書の主人公は自分からの働き掛けが乏しくて、中途半端なママ、周囲に流されがちだと思えた。主人公はそんな状況に切れて時折感情が爆発してしまうが、すぐに我に返るところも笑いを誘う。
ページ数が多いので最初はためらいもあるが、読み始めると、「いつ核心に近づくのか」が気になる。そのうち「今度はどう、はぐれてしまうのか」という気持ちに変わっていくだろう。そうすれば主人公に付き合っているだけで、読み進むのは苦にならないと思います。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.49:
(5pt)

綺麗な状態で期限内に到着

期待通り期限内にきれいな状態で到着しました。その点で満足です。小説の内容は大変わかりにくいのですが、カフカの『城』に似た構成です。ただ、」不条理の文学ほど<怒って>いないので、日本人的かな?と思いました。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.48:
(3pt)

評価

作者の書き方であろうが、少し読んでいてまどろっかしい所があった。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.47:
(5pt)

イシグロ・フルマラソン

この英語版を読み切った人は日本にいったい何人いるんだろう?
個人的に読了者一人一人と握手して回りたい。マラソン完走後に近くの人とハイタッチするみたいに。
そのくらい忍耐のいる小説です。ゴールがあるのは分かるけど永遠にたどりつけないような悪夢。
イシグロファンの私でも、途中から読むのが修行のように感じました。

話の粗筋は置いといて(粗筋を知ったところでどうにもならない)、
読了後の「朝、目覚めた瞬間の頭の漂流感」みたいな心地が面白いです。
こんなにきちんとしてて、こんなにクリエーティブな小説家は他にいないと思います。
「読むのがつらい」とか言いつつも、彼の小説ではこれが一番お気に入り。
充たされざる者〈上〉Amazon書評・レビュー:充たされざる者〈上〉より
412002704X
No.46:
(2pt)

もっと綺麗な物が届くのかと思っていました。
読むのには支障ないのですが…
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
415120041X
No.45:
(4pt)

不可解

理解しようと思うほど、期待が裏切られ、主人公とともに迷宮に迷い込んで行く感じだった。それでも、このとてつもなく長く抑揚に乏しい物語を最後まで読ませてしまう作者の力に驚嘆する。
おそらく、この物語に説明のできる結末を期待するのは、違うのだろう。ただし、この覚めることのない悪夢、永久に出口にたどり着けない迷路、この恐ろしい閉塞感は、人間がどこかで体験しているものなのかもしれない。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
415120041X
No.44:
(4pt)

未成熟な自分に対する恐怖。私にとってはホラーでした。

なんと言ってもイライラの主な原因は、登場人物が揃いも揃って人間的に未成熟なことです。いかにも対人関係に熟達した者であるかのような過剰な丁寧語は未成熟さをごまかすための見せかけであり、少しの会話ですぐに露呈する未熟さを皮肉るのに効果的に使われています。ボリスですら年齢相応の子供らしさ(素直さや無邪気さみたいなもの)を欠いている〝未成熟な〟子供⁈のように思えます。
怖いのは、ボリスもホフマンもシュテファンもグスタフもブロツキーも皆恐らくライダー自身であるということです。どこまでが現実なのか曖昧な描き方をしていますが、全てライダー自身が見たくないし、認めたくない自分自身の姿なのだと思います。
村上春樹さんの名作短編『鏡』の中の語り手が感じたであろう恐怖に近いものをこの作品から受け取りました。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.43:
(4pt)

ひょっとして、今読んだら分かるかも

10年以上前、英語の勉強をしていた時に頑張ってなんとか通読しました。主人公が自分の意思に関係なく、訪れた町のなんだかわからない問題を背負わされたり、他人の家族の問題を自分の事のように受け止めなければならなかったりする状況に、読んでいていらいらし、更に描かれてる場面が夢なのか回想なのか今現実に起きている事なのかもはっきりせず、ただただ辛いだけの読書でした。当時は、内容が楽しめず理解できなかったのは英語力不足と、高尚な文学的テーマに馴染みがなかったせいだと思っていました。
その後、精神世界に興味を持ちスピリチュアル系の本を読むようになったのですが、最近ホ・オポノポノの本を読んだ時、あれっ?と思い当たりました。カズオ イシグロのあの小説はひょっとしてホ・オポノポノの説く、自分と他の人、自分と世の中の出来事は分けられないひとつのものであるという世界観を描いているのではないか?そう考えると、この物語が不条理ではない、意味に満ちた世界として立ち上がってくるのではないか?
そう気づいてから、いつか読み返そうと密かに楽しみにしています。
充たされざる者〈上〉Amazon書評・レビュー:充たされざる者〈上〉より
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No.42:
(5pt)

冒頭の数章でカフカの「城」と同質のテイストを嗅ぎ取った。

数年前にカフカの「城」を読み、摩訶不思議な小説があるものだ、と感心したことがある。小説世界が主人公を拒絶しているのだ。「不条理」のキーワードで記憶に新しいのだが、内心はドタバタ喜劇を見ているようで抱腹絶倒したものだ。邦訳がレトリック過多(原文に忠実なのかな?)に思えて読み進めるには随分と難渋したのを覚えている。さて本作、ノーベル賞受賞で沸く書店の平積みの中から、一冊を選ぶのに迷った挙句「一番分厚い」だけの理由で購入。内容はカフカの夢魔・迷宮世界に比肩。登場人物すべてが主人公に独善的、高圧的な要求を慇懃無礼な言動で突きつける。それらが累積した主人公は、彼の地に訪れた目的(それ自体も怪しいが)に辿り着くどころか、岸辺から外海への漂流を余儀なくされる。それが何と900頁以上に及ぶのだ。未解決の展開は予測したが、いよいよ終盤では頁を繰る手が早くなった。ふ~、途切れ途切れではあるが読了に一か月以上を要した。読書中はマゾヒストの中毒的快感、苦痛だが読まずにいられなかった。言うまでもないが、決して万人受けする本ではないぞ。世の中にはストーリーテリングてんこ盛りな本が幾らでもある。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.41:
(5pt)

幻想世界

昨年のノーベル文学賞受賞で初めてその名を知りました。
いつも村上春樹の名前が出てくるだけに。
で、
読んでいて、村上春樹の「大人な絵本」的な世界的な同じ、ある意味部類な気もしました。
イシグロ氏のこの作品はもっと村上春樹氏よりもある意味おおざっぱな幻想世界。
いい意味で比較対象できそうな作家さんだと思いました。
イシグロ氏はこの作品しか読んでいませんが・・・
で、
内容はとても現実的なテーマだったり疑問や理不尽やら不条理やら、コミュニティとか、感情だったり。。。
哲学的というよりは、なんだろう・・・
ヒューマン的、答えのない、出ない、生きるテーマがあちこちに散りばめられている感じです。
共感もした部分もあるし、アドヴァイスとして受け止めた事もあるし。。。反省的に読んでいて思った事もあるし・・・ユーモアもありでおもしろい部分もある。

登場人物が多い!
メモしながら読んだら、名前のある人で、ざっと100人以上!

ただ主要人物は10人ぐらいかな?

実働日数3日。(小説世界で)

長編なだけにあの人だれだったかな?っていう事もあるから軽くメモするといいと思うけども、なくてもいいような気もする。
でも一回しか出ない名前でも混乱する不安あるならメモはおススメかな!

約1000ページではあるけども、読みやすい。

幻想世界小説。

夢にような、死後の世界の回想のような世界だったような気もする。永遠に繰り返される。ある人の魂の回想みたいな・・・

そんな読書後の感想です。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.40:
(4pt)

もしかして、今なら分かるかも!

10年以上前、英語の勉強のためにペーパーバック版をなんとか通読しました。主人公が自分の意思に関係なく、訪れた町のなんだかわからない問題を背負わされたり、知らない人の個人的問題を自分の事のように受け止めなければならなかったりする状況に読んでいていらいらし、更に描かれてる場面が夢なのか回想なのか今現実に起きている事なのかもわからず、ただただ辛い読書でした。当時は、内容が楽しめず理解できなかったのは英語力不足と、高尚な文学的テーマに馴染みがなかったせいだと思っていました。
その後、精神世界に興味を持ちスピリチュアル系の本を読むようになったのですが、最近ホ・オポノポノの本を読んだ時、あれっ?と思い当たりました。カズオ イシグロのあの小説はひょっとしてホ・オポノポノの説く、人と人との見えない結びつき、人と世界との見えない結びつきがテーマなのではないか?そう考えると、この小説が意味のある納得できる世界として立ち上がってくるのではないか?
そう思ってから「The Unconsoled」をいつか読み返そうと密かに楽しみにしています。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.39:
(5pt)

英語版

今、こちらの邦題「充たされざる者」読んでいます。
こちら英語ですが。

登場人物多い!

文庫本は約1000ページですが、英語版は一ページが文字数多いのか500ページぐらいでおさまっていますね。
しかし表紙はなるほど!って感じのイメージですね!
日本の文庫本のイメージよりいい感じですね!
充たされざる者〈上〉Amazon書評・レビュー:充たされざる者〈上〉より
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No.38:
(5pt)

読者も一緒に"unconsoled”を体感するも読後にはきっと♡

イシグロ作品の中で最も手強いとの前評判を知らずに手に取りました。世界的なピアニストの主人公がある街に招かれるが。。
登場人物たちが語りかける"unconsoled"な物語が何層ものレイヤーになって主人公を包み込み、
ついには主人公の物語とつながります。何度も挫折しそうになりながらも、終盤の章にたどり着いてみると、
あれっ?私の語学力が足りないのか?と思わず読み返すほど予想外の展開。
読者もリアルに"unconsoled"を満喫することに。でも読後は幸福感に包まれる不思議な本。
イシグロ氏のブリティッシュイングリッシュも美しいです。
充たされざる者〈上〉Amazon書評・レビュー:充たされざる者〈上〉より
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No.37:
(4pt)

充たされざる者

登場人物がややこしくて、メモを取りながら、理解して読みました。欧州の話なので、難しいでした。ノーベル賞受賞者だけあって複雑でした。もう一度読むといいと思います。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.36:
(3pt)

面白い、でもイライラします。

イライラしながら、でもきっと最後はなんとか前向きに終わることを期待して、いっきに読みました。面白かったです。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.35:
(4pt)

大作でした

奇妙な空間に出会った感じです。石黒作品をもっと読みたくなりました。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.34:
(5pt)

カズオ イシグロの意外な世界

カズオ イシグロ作品は、「私を離さないで」「日の名残り」と読んでますが、この作品は、今までの作品とは全く異なった、新たな世界を見せてくれました。
ページ数も1000頁ありますが、私は、先が読みたくて、2~3日であっという間に読みました。
とにかく、先の読めない新たな展開が次々と登場して、毎度、ハラハラ、やきもき、させられ、
ある場面では、ミスタービーンを思わせる展開で、大笑いさせて頂き、悲しい場面では、涙させらるシーンもあります。
さすがノーベル賞のカズオイシグロさんですね!
秋の夜長にお勧めの作品です
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.33:
(4pt)

カズオ・イシグロの最長編作

架空の欧州の都市(と、思っているのだが)へ到着した有名音楽家と、そこで出会う人々が織りなす、長い夢のような物語。『日の名残り』も同様なのだが、「職業」「名誉」「家族」への人間のこだわりと、そこから生み出される希望・失望・使命感が走馬灯のように儚く、不整合に、不条理に、現れては消えていく。

カズオ・イシグロは何を読んでも自己の無意識へ働きかけられる気持ちになって仕方ない。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
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No.32:
(5pt)

嘔吐する読書

本をサカナにして語る会、というのをやった。酔狂を気取ったわけではなく、この本を読んで壊れてしまった自分の一部を修復するためにやむにやまれず人に会ったという感じ。一種のセラピーというか。問題の本は、カズオ・イシグロの『充たされざる者』だ。私の師匠の一人がブログで絶賛していたので、おお、これは読まねば……と思って早速とりよせたのだが、読破するまでに3ヶ月弱かかった。一度に10ページ以上読むと乗り物酔いのような状態になるので、なかなか進まない。原書で500ページ(翻訳版だと上下で900ぺージ)あるから、大著ではあるのだけれども、それにしても時間がかかった。読んでいるうちに体重が5キロ落ちて……というのはウソだけど、そのくらいの消耗度。読み終わったのは昨年の大晦日のことだった。ひたすら「この本を来年まで持ち越したくない」という一心で、読み進んだ。読み終わったあと、原稿用紙20枚分くらいの文章を書いた。内容は、要約とも感想とも文句ともつかないようなぐちゃぐちゃしたもの。誰かに見せることを想定して書いたものでもなく、ただ「出さないと」気持ちがおさまらなかったので、なにかを吐き出すように書いた。

罪なことに、私はこの本を、まだ読みもしないうちから軽い気持ちで人にすすめてしまっていた。「これ、いいらしいよ」と。自分が読み始めて、「うわー、とんでもないものすすめちゃったな」と、後悔。すすめた以上、ますます途中で放り出すわけにはいかなくなった。読み終わってからおそるおそる友人に電話してみたら、彼女も大晦日まで読んでいたという。「この本は今年限りにしたいと心から思ったよ」。同感だ。私もあのような本だとは思わなかった、安易にすすめてゴメンナサイ。そう陳謝した後、この本がいかに「ムカムカする」性格のものであるか、主人公がいかに優柔不断で偽善的か、登場人物がいかに身勝手で、話の展開がいかに支離滅裂か、そしてイシグロ文学はいかにダークか……という話でひとしきりもりあがり、少し気が晴れた。

それでもなにか癒されないものが残った。涙が溢れて仕方がありませんでした、という類の感動でもなければ、血湧き肉踊るような興奮でもなく、超絶的文章表現から受ける小気味よい刺激でもなく、なんかこう、説明のつかない気持ちの悪さがいつまでも残る読書体験。タイトルの『充たされざる者』というのは、この本を最後まで読んでしまった私のことだろう。なぜ途中でやめなかったのかが不思議なくらいだ。イシグロの筆力……といえばそれまでなのだろうが、「わけのわからなさ、気持ちの悪さ」にとまどいながらもしだいに執着していく人間の業みたいなものを感じてしまった。

本の内容は、ある音楽家が演奏旅行で訪れた町で遭遇するさまざまな出来事、とだけ言っておけば十分だろう。この本においては、話の筋は大した意味を持たない。登場人物の大半は、上品で良心的な人々だ。その人たちが織り成す物語は、エログロとは無縁でありながら、読む者の心をザラつかせる。自己と他者、偽善と善意、反発と従順、過去と未来、此処と彼処、期待と諦念、現実と幻想。それらはことごとく表裏一体であるということが、このいびつな物語の中から浮かび上がってくると同時に、ふだんは押し込めている潜在的不安が顕在化してくる悪夢のような本なのだ。

カフカに親しんでいる人なら、こういう感覚には慣れているのかもしれない。松岡正剛が『誰も知らない世界と日本の間違い』という本のなかで、カフカについてこう書いている。「カフカが描いたことは、『世界とのかかわり』は説明できないということです。『世界の枠組み』なんてあやしいものだということです」。イシグロの後遺症からまだ立ち直っていないときにこの文章に出会い、ひどく納得した。そうだ。私たちはいかに、自己を持った主人公が物理的法則にのっとった世界で、起承転結のある物語を紡ぐという小説のスタイルに慣れきってしまっていることか。カフカは有名な『変身』のほかにも、変てこな話をたくさん書いている。身に覚えがないのに突然逮捕されて裁判にかけられて処刑されてしまう話(『審判』)とか、絶対にたどり着かない目的地を目指して延々と進み続ける話(『城』)とか。私も『審判』を読んでみたが、『充たされざる者』のあとだったせいか、こちらは苦もなく読めた。奇妙にして奇怪で、ありえない展開満載の話だったけど全然オッケー。物語に物語を求めなければ、もっと自由な読書ができる。これは人間同士のつきあいでも同じで、自分と同じ枠組みとか、自分に理解できる物語を相手に求めるからやりきれない気持ちになるわけであって、「世界は私に都合のいいようにできているわけではない」という、ある種の諦めから入れば、たいていのことは「そういうこともあるかもしれん」でやりすごせるような気がする。まあ、そう簡単にはいかないから、各種の修行が存在するのだろう。

じつは読み終わってから、この本をすすめた人がいる。この人なら大丈夫かもしれない、いやむしろ好きかもしれない、と直感でそう思ったのである。誰にでも薦めることができる本ではないが、自分があれだけ苦労して読んだ本なので、その体験を共有できる人を探していたのかもしれない。忘れた頃にメールが来た。「あまりにハマってしまい、2日間で半分読んでしまったが、読み終わるのはもったいないから前に戻ったりして、ぐずぐず読むようにしむけている……」という内容だった。結局、物語の進行と同じペースで、4日間で読み終えてしまったという。私が悶絶しながら3ヶ月かかったところを、たった4日で読んだというのだから驚いた。私は物語の外側をぐるぐるまわりながら、なんとか中に入ろうとしつつ入りきれなかったのに対し、この友人は、完全に主人公と一体化して「狂人の世界につき合っているうちに、その世界にどっぷり入っていく感覚」を得たという。とはいっても、そこには感動や共感があったわけではなく、読んでいるときは頭の中で釈迦の「一切皆苦」という言葉がぐるぐる巡り、この小説の「胸くそ悪い」リズムに飲み込まれていったのだそうだ。じつに面白い(ここ、「ガリレオ」の湯川先生風にお願いします)。お互い、読み方こそ異なるが、同じ「気持ちの悪い何か」に辿り着いたのである。冒頭の「本をサカナに語る会」で確認したことは、お互い「変なアプリケーション」をインストールされてしまったということ。何か考え始めると、自動的にこの新しいアプリケーションが起動してしまう。それはどんな状態なのかと問われても、読んだ人にしかわからない、としか答えようがない。世の中すべてをイシグロ・フィルターを通して見るようになった自分たちの異常な状況を嘆く一方で、それが奇妙に心地よいという感覚も共有した。しかしこのアプリケーション、どうやったらアンインストールできるのか。

読書という体験は実に多様だ。仕事においては、最近流行っているフォト・リーディングやレバレッジ・リーディングといった速読系のスキルは非常に役に立つけれども、そういう読み方ができる本は、世の中に存在する本のなかではごく一部にすぎない。人によっては、人生が変わるような読書体験もある。人生が変わらないまでも、非常に強い影響を受ける本もある。それは、読み始めた動機が何であったにしろ、勉強のための読書ではなく、娯楽のための読書でもなく、あるひとつの出会いなのだ。しかし私にとって『充たされざる者』はそういう類の本でさえもなかった。読んだからといって人生は変わらないけど、人生感は変わる、いや、人生感も別にかわらないけど、人生感についての見方が少し変わったかもしれない。もう、自分でも何を言ってるんだか、全然わかりませんね。

なんというか、カテゴライズすることができない読書体験であった。しいていえば「嘔吐する読書」あるいは「バッド・トリップ・リーディング」。読了直後の原稿用紙20枚書いたのとは別に、またブログでも10枚近く「吐き出して」しまった……。バッド・トリップで思い出したけど、気持ち悪さでいえば阿部和重の『シンセミア』も相当きてるけど、エンディングはむしろ爽快感さえおぼえたので、後には引かなかった。『充たされざる者』も、最後まで読みきった読者には救いがあるのかもしれない、という淡い期待がどこかにあったが、それはみごとに裏切られた。残ったのは、封じ込めていた不安の扉を開け放されたことに対する怒りにも似た感情。それでも読む前と読んだ後を比べると、自分の世界は格段に豊かになった気はしている。

そんなバッド・トリップ・リーディング。これっぽっちも仕事の役にはたちませんが(むしろ弊害という説も)、こんな世の中だからこそ、あえておすすめしたいと思います。

(2008年blogで書いたレビュー再掲)
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
415120041X
No.31:
(5pt)

1000頁、そろそろ読むか。

手元に「充たされざる者」の文庫の初版がある。
安く古本で購入したのに新刊書店の店頭売りよりもピカピカだ。
ネットで粗筋を読んで面白そうなので買ったのだが、
届いた時に約1000頁もあったのに驚いて長く冬眠させてしまった。

とっくにノーベル賞作家だと勘違いしていたので、
ニュースで作家の受賞インタビューを見て知ると正直かなり驚いた。

そして、何か冬眠させてないで読んで下さいよ、と言われてる感じがした。
粗筋しか読んでないのに感想を言うのもおかしいが、
この小説は、カフカの「城」のような小説なのだろうか。

何十年も前に、カフカの「城」を読んだが分厚いし
どの頁を開いても陰鬱な雰囲気なので正直読み飛ばしたが、
イシグロの「充たされざる者」は陰鬱さが感じられないので
きっと読めるだろう。
充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)より
415120041X

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