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浮世の画家



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【この小説が収録されている参考書籍】
浮世の画家
浮世の画家 (中公文庫)
浮世の画家 (ハヤカワepi文庫)

浮世の画家の評価: 3.98/5点 レビュー 56件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.98pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全56件 41~56 3/3ページ
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No.16:
(4pt)

『日の名残』とも重なる主題が、第二次世界大戦後の日本を舞台に展開されている。

人生の終わり近くに至って、自分の生き方(の少なくとも一部)が間違っていた(ようだ)と気づかされた老人が過去を振り返るという構造は『日の名残』と重なる(執筆されたのは本作が先だが)。
 主人公Ono(訳では「小野」)の述懐はしばしば脇道に逸れ行きつ戻りつするし(作為的なものだろう)、しかもその回想に偏りや偽りがあることは容易に想像できるから「行間を読む」作業が必要になる。そういう点で謎解きに似たスリルがある。
 ただ、舞台が第二次世界大戦後の日本ということもあって、つい「文化人の戦争責任」といった言葉が脳裏をかすめて『日の名残』のように物語を純粋に味わうことができなかった。
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No.15:
(5pt)

戦争責任への沈思

戦争責任の複雑な難問を追求した傑作。不思議な静謐さと相俟って深く心に沁み入ってくる。
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No.14:
(3pt)

やや読むのに苦労した

「日の名残り」に、魅了され、次に手にした。読み進めるのに大変苦労して、われながら驚いた。
英国が舞台の小説で英国人が英語をしゃべっている場面を翻訳日本語で読む時全く気にならな
かったことが、日本が舞台のこれを読む時にはどうしてこうなってしまうのだろう。どこかしらで
ひっかかり、そうしようと思わなくても頭の中で作業が勝手に始まってしまう感じだった。すな
わち、この日本語訳からすると、もとの英語表現はこうだろう、英語でこう言っているからには
さらにそのもと(?)は日本人としてはこう言ったのだろう、A→ A’→A”・・・というような類推
作業。たとえば「おまえの言っている意味がわからない」とか。 
 と言って、これをはじめから日本語で書かれた小説にみえるように訳してしまっては、つまり全
く違和感をなくしてしまっては、意味が無いのだろうと思う。
 英語で読むのがよいのではないか。訳文がよくないとかそういうことを言っているのではない。
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No.13:
(4pt)

戦時中の精神風土が日本人にもたらした苦悩

主人公の小野は戦前に活躍し、第一線を退いた画家である。
はじめは小野が成人君子のように思えるが、一人称での話が進むにつれ俗っぽさが感じられるようになる。
末娘の縁談が破断になったのは自分の過去のせいではないかと考えるが、その過去は明らかにされずに話は進んでいく。
また小野の言動により、同僚が窮地に陥った事件についても、薄々承知しているらしいのだが、その事件も後半まで明らかにされない。
自分にとって不利なことは明らかにしない語り口が、小野の人間性に、決定的ではないにしろ、不誠実なものを感じさせるのである。
小野は、日本が戦争に突き進む中、戦意を高揚させる絵を描いて、政府や軍部の支持を得、画家としての名声を勝ちとっいた。
そうした絵を書き始めたことで、恩師や同僚が離れていき、彼らは落ちぶれていった。
おのは、戦争を引き起こしたという反省から、戦後に自ら命を絶った政治家や軍人と同じ罪があるとは考えていない。
己の生き様を否定したくないという心境で暮らしている。
戦前から戦時中にかけてのいびつな精神風土のなかで、己の進むべき芸術家の道つまり「浮世の画家」としての生き方を捨てたことに、いくばくかの違和感を抱きながら今を生きているのだった。
それは、確固たる意志をもって戦争に対峙したごく一部の人々以外の大方の日本人が、多かれ少なかれ抱いた違和感なのだろう。
この違和感こそが著者が描こうとしたものである。
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No.12:
(2pt)

何度も挫折しそうに・・・。

何だか重大そうに、語り手がエピソードを語るんですが、実際読んでみると大げさな気がします。

史実をよく調べて書いたのかが常に気になっていました。 孫と怪獣映画を観にいく場面があったんですが第二次大戦後数年で、

怪獣映画とか作れたのかとか、日本の標準的な家庭に比べて食事中の会話が多いなとか微妙な違和感を感じ、しっくりこなかったです。
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No.11:
(3pt)

元画家の葛藤

戦時中は、戦争を礼賛し、日本精神を鼓舞する作風で広く知られていましたが、
戦後は世間から身を隠すように暮らしている元画家小野氏の物語です。
小野氏の独白という形で物語は進行します。

剪定した庭木を、自分はよくできたつもりが、
娘から見ると不恰好なものでしかないというエピソードに触れたあたりから
主人公の独善的で自己を正当化する態度が、
独白の裏に隠れているような気がしました。
少し老いも混ざっているように感じられました。

しかし、次女の縁談が結婚寸前で破談になってしまった理由が、
もしかしたら自分の過去に問題があるのではないのだろうかと考えはじめたとき、
自己呵責が始まります。
(何が問題であったのかは、はっきり明かされません。) 

さらに、やっと整った次女のお見合いの席で、
「戦時中の自分の行為に対しては責任を感じている」と明言し、
新しいものの考え方にも理解を示します。

作者は、小野氏の独善を暴きながらも、
自己呵責、その克服に暖かい視線を注ぎます。
後悔の念にさいなまれて自殺する人たちに理解を示しながら、
一方で、自己正当化しなければ生きていけない人間に対する深い哀感を表現します。

ただ、エピソード、過去の回想シーンなどを点在させる仕掛けが、少々うるさく、
読者の想像にゆだねられている部分も、何かすっきりしないような気もいたしました。
自身の独解力不足も否めませんが。
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No.10:
(5pt)

2011年の6月に

なにもかも変わってしまった,そしてなにも変わらなかったと記憶される時の変わり目があるということを私たちはこの3月に経験しました。この小説は戦争が終わり,その虚脱が薄らいだ頃の老画家と家族の物語です。現在の置かれている状況と似通ったところが多い時代を扱っていて,その心の動きが対岸のものと感じられず,大変切実でした。
名声を得ていた画家の引退後の暮らしがモノローグで綴られます。彼はどのようにしてその立つ場所へ導かれたのか,なにを大切にしたかったのかが明かされてゆく構成はイシグロの自家薬籠中のもの,ぐいぐいと緊迫感の中で引っ張られました。

読後,以下は蛇足なのですが,現在「×××村」の住民と非難されている人たちも, 「先生、ぼくの良心は、ぼくがいつまでも〈浮世の研究者〉でいることを許さないのです」との決意の中に村に向かったのかもしれないなぁと思わざるを得ませんでした。本当に蛇足でごめんなさい。
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No.9:
(5pt)

期待を大きく上回るセカンド

端的にゆうと、

戦時中にもてはやされた国家主義の画家が、

戦後の自由主義的な風潮のなかで四苦八苦するという話。

娘の縁談を成功させるために涙ぐましい努力をする主人公の道行きが哀切である。

一種の地獄編、地獄めぐりでもある。

立場や仕事をなくした人が過去を否定されてもしっかり生きてゆくことのメタファーとして機能するだろう作品。

「ものごとは見かけほど単純じゃない、とても複雑なんだ」

というセリフが繰り返されて胸をつく。

イシグロさんはいつもヒカゲの人間を描いてるのかもな〜。

次作「日の名残り」との共通点が多く、 主人公が自分の仕事・過去に疑問を持っている、むしろそれが間違いであったことを知っていること、 政治的な議論、民主主義の是非、が出てくること、 愛する人とのすれ違い、 などは共通している。

イシグロさんのテーマは体制派と反体制の葛藤なのかも。

体制の内部でロラル的に堕落してしまう人間の悲しい姿が描かれる。

それでも自分をなんとか正当化して生きていくしかないのだ、あれは避けられないことだったんだという悲愴な決意、むしろ前向きな生き方が胸にせまる。

「わたしを離さないで」でも先生たちの姿勢が様々で、体制のなかでも色んな葛藤があることが描かれている。

人間が生きる上で出てくる多様な罪ややるせないシステムがあるんだけど、

それでもちゃんと生きてゆく、

愛のために、

というところが読者の共感を呼ぶのだろう。

というか登場人物はあまり死のことは考えないみたいだ。

ってか上手く書けない
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No.8:
(4pt)

主人公は性格が悪いのか?

私はこの作品を原文で読み、主人公に共感した。
多少頼りなげで流されやすい性格ではあるが、悪い性格の人物ではない。
一方、この作品を和訳で読んだ母は、主人公を「傲慢で自分勝手な人」と感じたらしい。
おかげで、主人公に共感できないままで、ストーリーも楽しめなかったそうだ。

原文と和訳でそんなに人物像が変わってしまうというのは、カズオ・イシグロの繊細な文章はプロの翻訳家にもなかなか再現できるものではないということなのかもしれない。
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No.7:
(3pt)

浮き世で、、

最初、浮世絵作家の話かと思って読み出した。
そうではなくて、、浮き世に流されて暮らしている画家、、というような意味らしい。
戦争中は、戦争を礼賛するような絵を描いて大家と言われるようになり、
戦後はその過去のため、やや世から身を隠すようにくらしている、画家 小野。
次女の縁談が決まらないのも、自分のせいかなあ、、と思ってみたり、
いろいろと頭の中も迷走してしまう、、。

こういうときに、いつも思うのは、世に逆らって自分の信念を貫いた人は、
大変に素晴らしいと思うけれど、それができた人はどのくらいいるのだろうか。
大部分が、まさに、浮き世で、時代に流されて生きているのではないだろうか。
影響力が大きかったから、、、といって、流れに、本当に逆らう事ができただろうか?
逆らわなかったからといって、責める事ができるのだろうか?

そして、、
逆らえなかった事、逆らわなかった事と、どのように向き合って生きていくか、
自分の傷をどう覆っていくか、、が、贖罪ではないだろうか。
自死する事ではなくて、、。

初期の作品だけあって、少し話しがもたつくのが気になる。
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No.6:
(3pt)

しかして彼はなにものぞ?

何とも不可思議な気分にさせられる作品。

もし、これが、ロバート・ウィリアムズという生粋の英国人で、日本の文化と歴史に造詣の深い作家だったとしたら…?
その人物はこういう作品を書くだろうか?
これを書いたのが「英国籍の作家」であり、今ここで私の読む言葉は「翻訳された日本語」なのだということが、ストーリー以前にとてもフシギだ。
イシグロの他の作品にはあまり感じない種類のものだ。

テーマは「文化人の戦争犯罪」とでも言おうか。軍人、政治家のように実権こそ持っていなかったけれど、国威発揚の軍国主義に与するような作品を造り出した人々のことだ。実際にレオ・フジタなどはそれを行い、結果として後に日本を脱出することになる。

本書の主人公は、自分の行為を素直に認めながら、同時にその内容を肯定している。しょせん自分は「浮世の画家」にしか過ぎない。それ以上でも以下でもないのだ、というある種の理念をもって。
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No.5:
(4pt)

カズオ・イシグロ入門編

カズオ・イシグロがどういう作家かを手っ取り早く知りたい人には、
本書と『日の名残り』をお勧めする。

イシグロが得意とするのは一人称による語りである。
一見、近代日本文学得意の私小説の感を受けるのだが、
作者はそこに一つの仕掛けをする。
この語り手、実は相当な曲者なのである。

視点人物が固定されているということは、
読者もまた、物語をその人物を通してしか
眺められないということを意味する。
彼が語る出来事は事実そのものではない。
彼が解釈した、言ってみれば歪められた事実なのである。

イシグロは主人公に私たちを同化させておいて、突然突き放す。
その時受ける衝撃は、現実崩壊の感覚とでも呼べばいいだろうか。
読者が憑依していた主人公の肉体から突如追い出され、
空中を浮遊する霊となって、彼の姿を目にするような感覚、
一瞬前まで現実と思って生きていた世界が、
実は夢であったと知らされるような衝撃を想像してほしい。
それを読者に感受させる、イシグロの手腕は見事というほかない。

カズオ・イシグロ。この端整な文章を紡ぐ作家は
実は、恐ろしい怪物なのである。
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No.4:
(3pt)

傷を「自分のもの」として受け入れて生きていく

カズオ・イシグロの物語に出てくるのは、何かしら傷を抱えた人たち。「時代のせい」と言い切ることもできるのに、そうはしない。過去を振り返り、見つめた上で、その傷を受け入れて生きていくことを決意した人たち。この作品にも、例によりそんな画家が出てくる。

初期の作品(らしい)ゆえ、最近の作に比べると、その「傷」が何だったのか明かされていく過程がそこまでドラマティックではないけれども、抑えめの文体が、非常に心地よかった。
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No.3:
(5pt)

名作です

ほんっとうまい。「陽の名残り」でもそうだったが、信用ならざる語り手なんですよね、これも。時代を回顧する形式なんですが、この作品でも主人公がとにかく自分を弁護しまくるんです。自分を正当化しまくって、でも語り口がうまいもんですからああそうなのか、と思っちゃうんですが、そこでもう一度主人公を疑ってほしい。

 事実も何も本当は違うかもしれなくて、たんなる思いこみかもしれない。字面をそのまま取ればいい話だなあとじーんと来るんですが、そうじゃなくて、妄想電波小説みたいに読んだほうがおもしろいんです。自分の語りとまわりの人間の行動の齟齬があちこちに見られて、それが美しい語りのなかにあるどこか不気味な雰囲気となって、読み手を不安にさせる。

 本当にすごい作家だ。
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No.2:
(4pt)

イシグロの長編第二作

日系英国人作家、カズオ・イシグロの長編第二作である。

イシグロ本人も認めているが、本作と

『遠い山なみの光』『日の名残り』は同じトーンで貫かれている。

長編第一作「遠い山なみの光」に比べると

同じく日本を舞台にしたというエキゾチックさはさておき

登場人物の内面という意味では更に深化/進化した作品である。

本作は前作と同じく回想を語るという形式で物語が進んでいくが、

大きく違うのは、その語りが記憶の不確かさによって

曖昧になっているのではなく、敢えて改竄された疑いを

読者が常に抱いておかなければいけないという点である。

一方的な回想によって記録/歴史が造られてしまう怖さと

そこまでしなければ生きることがかなわぬ人の哀しさと

一筋縄には読み解けぬ知的刺激に満ちた「文学」である。
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No.1:
(3pt)

語り手を信頼して良いか、という読みの可能性

~様々な面で評価、批評することが出来る作品ですが、今回は時系列の配列に特に注意を払って、ストーリーテラーを信頼できるか、ということを考えました.
主人公である私の過去への遡行と現在の事件と、割と最近(数日前だったり、数年前だったり)といった事件が錯綜して語られます.そして、それぞれの区分がきわめて不明瞭(そういうテクニックで描いて~~います)なので、読み手は『いつの話なのか』ということに注意を払って読む必要があるかもしれません.
自分について起こったこと、あるいは考えたことであっても自分が最もよい解釈者であるとは言えません.例えば都合の良いように解釈したり、悪いことを忘れようと努めたりするからです.
たとえば本作の主人公は名のある画家でありながら戦争犯罪者~~的に祖国の戦争意識を高める作品を描いたと過去を持っています.そして、冷静にそれと対峙するという姿勢を言明しながらそれから逃避しようとしているので、私たち読者には額面通りにかれの言説を受容することはあらかじめ拒まれています.
また、もう一つ例を挙げれば、主人公は功名心や名誉、名声と言ったものに自分は興味を持たないと再三繰り返してい~~ますが、その話題を繰り返し登場させ、自らの傷跡を慰撫するような姿勢も見せています.
読者は主人公の老齢についても意識を払う必要性があります.既に老年に入った彼の語りがどこまで信用できるのか、そのことを念頭において読んでみると、物語を語るということのグロテスクさが全景に現れます.後半に決定打が打たれますが、そこは読んだ時のお楽しみ~~にしてください.記憶とは、いったい何でしょう.人間は語ることにおいて大変エゴセントリックであるといえるかもしれません。~
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