告白
評判
告白の評価:
4.48/5点 レビュー 176件。 D ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全350件 181〜200 10/18ページ
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4.48/5点 レビュー 176件。 D ランク
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小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
本書は「河内十人切り」と呼ばれている、明治時代に大阪地方で実際に起こった大量殺人事件をもとに書かれている。「河内十人切り」とは、城戸熊太郎という男が舎弟の谷弥五郎と共に起こした殺人事件であり、理由は、熊太郎の妻の浮気の発覚、さらに、妻の浮気相手の兄に貸していた金を返してくれなかったという、短くまとめてしまうとなんとも短絡的な熊太郎の恨みから、熊太郎が妻と妻の母、そして、妻の浮気相手である松永寅吉の親族もろとも谷弥五郎と共に皆殺しにした猟奇的な事件である。
町田康は800ページにわたって主人公である熊太郎の生涯、つまり、熊太郎がこの世に生を受けてから殺人事件を起こして自害するまでを克明に独特の響きのある河内言葉を使って描写する。その河内言葉には読んでいて心地の良い乾いたリズムとメロディーがあり、物語が横脇に逸れぬよう韻律を整えるように河内言葉が投入されていて、河内言葉の諧謔的な響きが当時河内に生きていた人々の息遣いとなって見事なほど本書に色彩を与えている。
いきなり個人的な見解を申し出て恐縮ではあるが、本書は現代小説の中でも最高峰なのではないか。今まで読んできた小説を思い出しても、本書ほどの感動を得られた本は思い出せない。ただ単に私の読書量の問題であるといわれればそれまでだが、それにしても、この重厚な読後感は後遺症の如くいまだに尾を引いているのである。近所のカフェで本書を読んでいたのであるが、あまりに強い読後感に打ちひしがれてそのままどこかへ行きたくなってしまった。
熊太郎は幼少時代、何をするにしても両親に褒められて育てられた。しかし、両親の愛情によって植えつけられた熊太郎の優越感は、近所の子供たちが誰でも出来るコマ回しを熊太郎ひとりが出来なかったことを馬鹿にされ、熊太郎はその場でみっともないほど大泣きし、その幻想的優越感は友人を通じて外界を知ることではやくも崩れ去った。それから熊太郎は、失敗を恐れるあまり何事にも本気を出さないでのらりくらりと生きようとする。
農業に従事する父親や友人を横目に自らは正業につかず、博打や墓泥棒などをして生活をする熊太郎。真面目にならなければと焦り、朝早く起きて畑仕事に勤しんだりもするが、今まで畑仕事などやったことがない熊太郎が畑仕事をいきなり出来るわけがなく、気味の悪いほど膨らんだ自我も合わさり早々にしてまた元の生活に戻る熊太郎。思惑とは裏腹に、賭博場で喧嘩に巻き込まれたところを熊太郎によって助けられたと勘違いした谷弥五郎とともに、小心と純粋さをひた隠しながら、肩で風を切るようにして生きる熊太郎。
そのような不器用な熊太郎が、妻となる縫と出会い、そして極悪ともいえる松永一家との出会いによって破滅へ向かって突き進んでゆく後半部分の熊太郎の心理描写は奇跡的ともいえる克明さで書かれてある。まるで落語を聞いているかのような陽気な気分にさせる河内言葉で書かれてはあるが、松永一家によって嵌められて、生き場を喪い鬼と化した熊太郎の怨恨は、見事に私へ憑依した。
最期、町田康はたった六文字の言葉を自害寸前の熊太郎に吐かせることで、その一言に城戸熊太郎の全生涯を負わせる。あまりにも重く、あまりにも切なく、あまりにも悲哀で満たされた、この物語の世界に深く深く入り込んだ読者にはとても辛い言葉である。しかし、だからこそ読者の心にこの熊太郎の言葉が突き刺さるのであり、読者の心にこの言葉がいつまでも留まり続けるのである。
生意気を言わせてもらえれば、私は今まで小説に対して大きな不全感があった。世の中で面白いといわれている村上春樹を読んでもまったく性に合わず、ずっと小説の持つ官能性を掴めないでいた。その大いなる私の不全感は、本書の巨大な読後感によって瞬く間に鳴りをひそめた。
本書は私にとって圧倒的である。本書を超える小説を、私はこの先読めることができるのであろうか。