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嘘の木
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嘘の木の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.30pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全20件 1~20 1/1ページ
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ファンタジーとサスペンス、それぞれの要素がうまく混ざっていてドキドキしながら読んだ。 本書は博物学が好きな14歳の少女フェイスの視点で描かれていく。 物語の序盤は、なぜ家族が島へ移住することになったのかが分からず、また島で知り合う登場人物の多さや、フェイスの周囲の人間関係を把握するのが大変だった。 それが中盤以降、尊敬する父が不審な死をとげるところから一気におもしろくなってくる。 父の死は事故か殺人か自殺か、父が隠していたことは何か、家族が島へ移住することになった理由、各関係者の利害関係などを調査するため、フェイスが嫁入り前の少女という鎧を脱ぎ捨てて、父の復讐という名目で一心不乱に調査していく展開は読み応えがあった。 19世紀のイギリスでは、女性は結婚するまでは親のすねをかじり続けるだけで、なんらかの職業で身を立てることが難しい時代。 そんな時代に生まれながらも、植物や解剖の勉強が好きで親の前では反抗しない優等生のフェイスが、持ち前の賢さと怒りからの行動力を生かして、他者に嫌がらせをしたり、脅迫したり、嘘をついたりしながら真相に迫っていく姿は鬼気迫る勢いがあった。 また、嘘を養分として成長するという不思議な木の存在も本書の鍵となってくる。 小さな嘘が炎のように広がるとともに成長する木、その木の果実を食べると誰も知らないことを脳内に教えてくれるという謎の現象、それが事件の真実とどう繋がっていくのか。 終盤は様々なピンチを迎えるが、それに立ち向かっていく勇敢な少女の物語は読後感もよかった。 | ||||
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異生物の嘘の木にまつわるファンタジー、SF、サスペンス活劇と、盛りだくさんな要素を詰め込んだ作品。意外な展開が続くストーリーラインもだが、娘が両親への無条件の憧れを卒業して現実を受け入れる、というテーマが面白かった。父親は人々に尊敬される立派な人。母親は美しく守ってあげたい人。意識の上ではそう信じている主人公。でも文章の端端に、そのテーゼとは反対の現実を感じながら必死で否定している健気な娘の心情が垣間見える。最後には娘というより女同士対等の立場で母親を批判的に見るまでに成長する。 同じ作者の「カッコーの歌」が一番のおすすめ。 | ||||
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ある学者が捏造の疑いをかけられ、僻地に隠れ住み・・・というお話。 上記だけだと何だか判りませんが、ある特殊な木を発見した学者がそれが原因で不審な死に方をし、その娘が真相を求めて、独自に捜査し・・・というお話でした。 一応、ジュブナイルという事で、若い人向けらしいですが、ファンタジー風の設定を許容すれば、年齢の高い人が読んでも結構面白い作品ではないかと思いました。 ここで、著者が嘘をネタにした理由を憶測すると、人生の中では時に嘘をつかないといけない場合もあり、単純な二元論で割りきれない複雑な状況もありうる、場合によっては嘘をついた方が慰めになったりする(白い嘘というらしいですが)事もあるという事実を若い人に伝えたかったのではないか、と思いましたがどうでしょうか。 推理小説としての結構も備えており、そういう小説としても楽しめましたし、上記の様なビルドゥィグス・ロマンとしても意義のある作品に思えました。ただ、宮部さん程の感動はしませんでしたが。 ともあれ、読んで損のない高年齢でも読み応えのあるジュブナイルでした。機会があったら是非ご一読を。 | ||||
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紹介文を読んでファンタジー、ミステリ、19世紀と、面白要素でいっぱいの児童文学的ミステリを楽しもうと思ったら、期待には応えられないかもしれません。 ことのほか現代的、ジェンダー的なテーマが重くのしかかってくるし、アクが強すぎて好感が持てないキャラクターばかり。なぜかというとエンターテインメントである前に「文学的」な意味で評価の高い作品だから。上記の意味で、私には楽しむことができませんでした。 | ||||
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ほんとの話にちょこっとファンタジー。匙加減が素晴らしいです。 字が小さいけど、内容的には本好きな中学生も楽しめるのでは。アニメーションにできそうな話ですね。 高額なので迷いましたが、書店のレジに出すときには、「これ買っちゃうよ!」と気分が高揚し「ああ、本を買った!」というワクワクがありました。 ずっと気になっていたのですが、手に入れてよかったです。本があれば、好きそうな友だちに譲ることもできますからね。 | ||||
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19世紀後半、ダーウィンの進化論に揺れる英国。牧師であり博物学者である父の世紀の発見「翼ある人類」の化石が捏造だったというスキャンダルから逃れるために、14歳のフェイスは、両親に連れられ、弟とともにヴェイン島に移住する。好奇心の強い彼女は、その捏造が厳格で正直な父の所業とは納得できず、スキャンダルの内容をもっと知りたいと思っていたが、島での父は、人を近づけたがらなかった。父からの依頼で「秘密」を手伝って「植物」を海の洞窟に運び入れた夜、再び出ていった父は、翌朝木に引っかかった形で死亡しているのが確認される。自殺が疑われるため通常の埋葬ができない。検死と審判まで埋葬は待たれることになった。父の手記から、隠した植物が「偽りの木」で、嘘を養分として育ち、つけた実を食すと真の知識を得られると知った彼女は、父の死因を突き止めるためにその木を利用しようと考える。 自分たちの生活を守るためと真実を突き止めたい好奇心から「嘘の木」を利用する少女が、真実と嘘、女性の立場と戦略などに気づいていくミステリー。 *******ここからはネタバレ******* これは文句なしにおもしろかった。秀作です。 「進化論」に揺れる学会と教会で、その両方に所属する厳格で正直な父親が、嘘をつくことによって真実を得ようとする矛盾。 女性は無知だと言いながら「お前がどれだけ賢いか、証明してみせてくれ」と娘に秘密の協力をさせる父親。 そして、無知で非力な女性が、その存在感のなさを利用して周りの男達をあやつる。 フェイスの貶められぶりが実にすごい。 雨の中馬車の荷重が大きすぎて何かを降ろさなければならなくなったとき、弟よりも荷物よりも娘であるフェイスを降ろすことにするとか、弟の子守役を押し付けられるとか、母が、自分の年齢を高く見積もられたくないために娘にわざと子どもの格好をさせ続けるとか、頭蓋骨が小さいから知恵を入れないほうがいいとか、稼げないし名声も上げられないし、持参金は家から出るし、嫁に行かなければ弟の面倒になると言われるし……。ああ、この時代の女性は本当に大変だったんだなぁと思います。こういう人たちの人生の積み重ねのおかげで、フェイスの受ける辛い仕打ちも、過去のものとして受け止められるのでしょうね。 この物語の中で突出しているのは、「嘘の木」の存在感よりも、主人公フェイスの頭の良さです。 この木を利用するに当たり、父のサンダリー師は、自分の名誉を引き換えにしましたが、賢い彼女は、出どころを突き止められず、かつ、人々が勝手に翻弄されるような嘘をつくっています。この賢さが父親にあれば今回の悲劇はなかったでしょうに。 彼女の嘘のおかげで放火や略奪、傷害を負ったミス・ハンターが、最後に彼女たちを助けてくれるところと、彼女が都合よく持っていた手鏡のおかげで嘘の木を焼けたというところだけは、ちょっと出来すぎ感はありますが、読みながら、どんな結末になっても満足できるだろうという安心感がありました。 なんとも完成度の高い作品です。 子どもたちだけでなく、大人の読書にも十分耐えます。 | ||||
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本作の著者であるフランシス・ハーディングが紡ぐ物語の特徴といえば、独創的かつ伏線が散りばめられている点であろう。 本作も著者の特徴がふんだんに盛り込まれており傑作であった。 ダーヴィンの「種の起源」が発表されて間もないキリスト教国を舞台とし、そこに「嘘の木」という植物を登場させることで本作は唯一無二の物語となっている。 この「嘘の木」の設定が素晴らしい。 詳細は省くがその設定により物語がより複雑になっている。 設定以外にもビジュアル面やその木に携わった者に起こる変化などの些細な描写も見事であった。 しかしあくまでも「嘘の木」は物語のキーアイテムであって、物語の本筋はやはり主人公であるフェイスが父の死の真相を暴くことである。 父の死の真相を暴くために奔走するフェイス。 散りばめられた謎と見事な伏線。 冒頭から滲み出る不穏な雰囲気などダークファンタジーやミステリー好きにはたまらない作品となっている。 個人的に、真相を暴こうとするフェイスが嘘に翻弄されつつも、次第に自らも嘘を利用していく展開がとても印象に残った。 いかに人間が真実に対して盲目的で、自らが信じたいものしか信じないかという人間の愚かさも描かれていた。 上記以外にも本作は女性差別についても焦点を当てている。 ”女たち、女の子たちは姿が見えず、忘れられてばかりのおまけのような存在だ” このような考えが常識として根付いている世界で、女性たちがいかに苦しい思いを強いられているか。 これは現代社会においても解決していない問題である。 女性差別問題はもちろんのこと、常識という蓋で覆い隠されている他の問題点にも疑問を持てるようになりたいと思った。 フェイスの成長を通して一縷の希望の光が垣間見えるのも本作が傑作と評される所以だろう。 ”愛されないという不安の前では、自尊心も、自分が正しいという思いも、自分が何者かという認識も、すべてが無意味だ。” と考えていたフェイスが最後に導き出した答えに感動した。 また、フェイス以外の女性たちが各々のやり方で世界に立ち向かう姿にも胸を打たれた。 ”女は武器をもたされていないから、闘っているようには見えない。でも、闘わないと、滅びるだけなの”という文が示す強さやしたたかさ。 どんな環境に置かれていようと闘うことだけはやめずにいようと思わせてくれる力強さも本作にはある。 主人公の成長物語でもあり歴史ダークファンタジーでもあり、父親の死の謎を解くミステリーでもある本作。 それらが見事に混ざりあっている本作をより多くの人に読んで欲しい。 | ||||
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宮部みゆきさんが随所で絶賛しておられることから、遅ればせながら読了。 自らの信じる道を時代から許されない(だが、目的のため手段を選ばぬ強靭なたくましさも持つ)ヒロイン、頑固で厳格で謎を秘めた学者の父、美しくしたたかで打算的な母、それに癖のありすぎる島の住人たち。読後感は重いが、充実したもの。 ファンタジーの要素を採り入れた時代ミステリーとして読むのが、もっとも相応しいのではないか。 | ||||
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ストーリー自体は文句なしにおもしろい。 主人公の成長物語であり、ファンタジーやミステリーの要素もあり… でも何だか読んでいてモヤモヤする。 ※以下ネタばれあり。 モヤモヤの原因は、主人公になかなか感情移入できなかったから。 父親の死の真相を究明するために奮闘するんだけど、この父親がとにかく嫌なやつ。 母親や主人公にモラハラするし、世間を欺いてその結果家族を窮地に陥れたのに、自分のことしか考えてない。 そして嘘の木を横取りしたという点ではほぼ犯罪者… どうして主人公はこんな父親のために一生懸命になるのか? 最後は父親と決別するのかと思いきやその辺りはあいまい。 はっきり決別してくれたらまだカタルシスがあったのに。 主人公も結構いい性格してる。 噂を流したメイドに仕返しするんだけど、メイドにしてみたら濡れ衣着せられた上に失職したんだから無理もない。 犯人たちに対しても正当防衛とはいえ若干やり過ぎ感ある。 こんな感じで主人公側が絶対的に正しいとは言えないので、読者によって評価が分かれそう。 私はそこまで入り込めませんでした。 周囲の女性も男社会で戦っていると気づき、母親を理解し心が通じ合うラストはよかったです。 | ||||
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面白かった。カッコーの歌のヴァイオレットと嘘の木の郵便局長は似ている。真実を探求しようとする者にとってこの世は苦痛に満ちているが、その困難故に立ち向かう価値がある。ヴィクトリア朝時代の主人公も現代日本の私たちも、人形の家のノラと変わらない、男性社会が作った檻に閉じ込められている。 細部を丁寧に描写することによって、映像が立ち上る作家の技量に感心しました。映画化してほしい作品。 | ||||
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19世紀ヴィクトリア朝のイギリスが舞台の物語。 主人公フェイスは博物学者の父を崇拝し、自身も博物学に関心を持つ、賢い14歳の女の子。 けれど、この時代女性が知識を持つと疎まれる。社会的にも経済的にも女性の立場は弱く、主人公の忸怩たる思いや、閉塞感で前半を読む時は胸が痛かった。 嘘の木が登場してからは、その重苦しさは変わらないが、主人公の賢さや行動力の高さが本領発揮されて面白い。 嘘の木の禍々しい魅力、謎めいた怪しさ、怖さ、そして事件の真相が気になり、ページをめくる手が止まらなかった。 読後感も良い。最初は子ども向けではないと思ったけど、しっかりと児童文学でした。おすすめです。 | ||||
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主人公の女の子の性格が悪すぎる。冒頭からことある毎にグチグチとネガティブすぎる愚痴がこれでもかと続いて感情移入できない。お父さんにも非があるのに、犯人たちを燃やしたり目をピストルで撃ち抜いたりして引いた。サイコパスだろ | ||||
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面白かったけど、宣伝ほどではなかった。ファンタジー要素は少ない。 | ||||
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1800年代後半の、イギリスが舞台。 著名な博物学者である父の、化石捏造事件をきっかけに、 追い立てられるように一家は島に移住する。 その中で、父が、自殺のような死に方をする。 父の死を疑問に思った娘フェイスが、女性の活動が制限されている社会で、 密かに、探りを入れて行く、、という話。 父が大事に育てていた、”嘘の木”を使って、、。 フェイスがいいですね。知恵を絞って、色々な人を操って、 島の世論を操作し、怪しい人を炙りだしていく過程も。 フェイス自身が、周囲の女性をつまらない、頭の悪い存在と思っていたのが、 男の影に隠れて、意外としたたかで、賢いということも、悟って行く過程も。 おすすめです。 | ||||
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19世紀、少女フェイスは向学心を持ちつつも女性が学ぶということを許さない世の中の慣習に従ってひっそりと過ごしていた。 牧師の父は自然科学に深い興味をもっていたが、スキャンダルにより、一家は、小さな島へと転居することになる。 転居早々に、父が亡くなる。 自殺ではないかと思われるが、状況は謎に満ちており、フェイスはその謎を探り始める。 何もできない小さな女の子と思われていたフェイスが、少しずつ成長し、さまざまな事態を乗り越えていく姿は感動的だ。 女性の社会進出など、現代では当たり前に考えられているが、その時代、女性は男性には劣ると考えられており、宗教的にも女性が社会で活動していくことには大きな壁ばかりだった。 終盤の展開がよかった。 YA小説の枠だけでなく、大人も読んで楽しめる素晴らしい小説だった。 この作家の作品は、本作が初めての日本語訳らしいが、このほかの本も読みたいと思う。 | ||||
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「嘘を養分に育ち、食べた者に真実を見せる実のなる不思議な木」(表紙見返し) ほんとに、そんな木があるの? あるわけない、と半信半疑で読み始めました。 「噓から出た実(まこと)」ということわざを思い出しました。 人を偽るつもりで言ったことが偶然、真実となってしまうことを言うときのことわざです。 この本の「嘘の木」は 「人間が嘘を与えると、その見返りに実をつけて、秘められた真実を伝えるヴィジョンを見せてくれるの」(344頁)とフェイスは言います。 これって、「噓から出た実」じゃん。 主人公で語り手の「わたし」フェイスは、「博物学が好きな十四歳の少女」です。 フェイスの父親は牧師であり博物学者でもあります。 父親は、偽りの化石を海辺にわざと置いた上、偶然を装って、「たまたま真実に行きあたってしまったように」(400頁)無邪気な七歳の娘に発見させたのです。 「その化石は父がつくった偽物だった」(405頁) あった、あった。何年か前、日本でもノーベル賞クラスの大発見をした可愛い顔の若い女性がつくった偽の科学論文事件。 お父さんのような年齢の、やさしく指導してくれた大先生はなぜか自殺してしまいましたが。 さて、この物語では、そんな嘘つきの父親でしたが、娘のフェイスは次第に博物学に興味を示すようになります。 父親と同じ博物学者になろうと決意し、その決意を母親に伝える場面で終わります。 母親はそんな娘のことを「このまま自然科学の道を志すのなら、女の身では一生からかわれ、軽んじられ、ばかにされ、無視されるようになるだろう」(408頁)とただただ心配するだけ。娘は「進化」というものが、父親が感じていたような恐ろしいものではない、といいます。 母親は娘が「なにをいっているのか、ちっともわからない」 読者は想像します。娘のいっていることは、ダーウィンの時代に生きた人々の信仰と科学の真実の問題なのではないのかな、と。 主人公フェイスの名は、英語でFaith(信仰)。科学の真実は、Truth。韻をふんでます。Faith とTruthの間の問題。当時の英国のキリスト教世界では天地を揺るがす大問題だったようです。 この本には、嘘と偽りと真実についていろいろ書かれていて、考えさせられました。 「真実はね、お父さまがわたしたちを見捨てたということなのよ」(322頁)と、母親の真実は悲しい。 「やさしい嘘がある。きみはいまもきれいだよ。愛してる。あなたを許すわ」(345頁) 嘘も方便。 「半分だけの嘘、そして真実があるべき場所につきまとう緊迫した沈黙」(346頁) 黙秘権。 「愛おしくて、胸が苦しくなるような嘘」(395頁) ただただ苦しいです。 なんという人間らしい噓でしょう。愛すべき噓。憎むべき噓。 そして、嘘つきの噓が真実に変わるときの魔法のような感動。ゼロ×ゼロ=∞(無限)という実在の出現のよう。 この本には、嘘の木の他にも、偽りの木(166頁)や知恵の木(389頁)も出て来ます。 偽りの「木に噓をささやきかけ、その噓を世間に広めるのだという答えが返ってきた。噓が重要な事柄であればあるほど、信じる人が多ければ多いほど、大きな実がなるという」(166頁) これって、見る人が多ければ多いほど、投稿者に大きな広告報酬が入って来るというSNSのフェイク・ニュースみたい。 真偽を超えた信仰? 見たいものを見る、信じたいものを信じる。 フェイスの父親の秘密の日記のような書類には、 「インドで情報屋として身を立てていた人物」が「にせの情報を買い手に流して実を育て、ほかの人に実を売ったり、高値がつきそうな秘密を手に入れたりしている」(167頁)オランダ人のことが記されています。 あるある。秘密の植物(かぶ)情報。 「いろいろ問題はあるにせよ、自分の噓が島じゅうを揺るがし、尊大な敵をあわてさせてネコのように争わせていると考えると、心からうれしくなった。誇りと力がみなぎってくる。わたしは噓がうまい……しかもどんどんうまくなっている」(272頁)とフェイス。 「わたしは悪い例になりたいの」(409頁)とフェイス。 だいじょうぶ? あぶないフェイス。 「もしかすると、わたしの”幽霊“は噓の木に養分を与える以上のことをしたのかもしれない。殺人者を震えあがらせたのかもしれない」(275頁)とフェイス。 うわー! いよいよ、この物語はミステリー・サスペンスの盛り上がりに突入していきます。 そして最後は、洞窟の中の「嘘の木はあとかたもなく消え去った。炎にのみこまれ、黒焦げの洞窟の壁と独特のにおいだけが残った」(400頁) 「噓はもういや」(409頁)とフェイスはいいます。「わたしは逃げ隠れしたくない」 「すべてが変わりうるのだ。すべてがよくなりうるのだ。すべてがよくなりつつある。少しずつ少しずつ、目には見えないほどゆっくりとでも。そう考えると強い気持ちになれる」(409頁)とフェイスは母親に自分の決意を伝えます。こうして、この長い物語は終わります。 主人公を取り囲む女性たちの間で、十四歳の少女は「真実」に直面し、ポジティブに成長してゆく物語です。良い本です。噓ではなく。 | ||||
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「嘘の木」を使って少女は何ができるのか。 最後まで嘘の力で成し遂げた先にあるものは、新しい次代における女性の姿。 一気に読めます。3000円の価値はあるでしょう。すぐに情景が浮かぶ表現も秀逸。 | ||||
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ダーヴィンの進化論が脅威をもたらしている時代。フェイスたち家族は著名な博物学者である父親サンダリー師とともにヴィエン島へと移住する。サンダリーの発見した翼のある人類の化石が捏造だとの非難を避けるために。 情報は島まで届き、島民の態度は一変する中、サンダリーが自殺する。が、その死に疑問を抱いたフェイスは調査を開始する。彼女が見つけ出したのは、父親が携えてきた「嘘の木」。それは、人間の嘘を養分にして、嘘を与えた人が知りたい真実を教える木だった。 フェイスは真実を知るために、島民を恐怖に陥れるような嘘を与え始める。 と書けば、ダークファンタジー+ミステリーだし、実際そうでもあるのだけれど、この物語の根幹は、女が置かれている立ち位置をあらわにすることにある。 サンダリーはご多分に漏れず男性至上主義者であり、娘のフェイスにいくら千絵と知識と技術があってもそれを一切認めようとはしない人物だ。にもかかわらず、フェイスは彼を慕う。そこにしか彼女を活かす道がないかのように。母親のマートルはフェイスから見れば、お高くとまっているし、父親が亡くなってからすぐに有力者たちをつきあい始めるし、受け入れがたいのだが、それは夫を自殺で失えば、何もかも失ってしまう当時の女の立場を踏まえて、子どもたちを守るための行動である。そして……。 結局、女たちにとって、嘘の木とは、男性社会そのものなのだ。 ラスト、母親を理解したフェイスは、自分の将来に関してこう言う。「悪い例になりたいの」。 素晴らしい、終わり方だ。 | ||||
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偶然手にした本ですが、ぐんぐん引き込まれ、どんでん返しもあって、一気読み。 | ||||
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YA向けだそうだが、大人にも充分堪能できる内容である。時代は19世紀末、ダーウィンが「種の起源」を発表してまだまもなく、世界は宗教と科学の狭間で未だ混沌としている。嘘を養分として育ち、果実を実らす、嘘の木。その実を食べたものは、ついた嘘に関わることの真実を幻視するという。14歳の少女は、父親の謎の死を解く為に、その嘘の木を使うことを決心する。嘘の木とは何をもたらすものなのか?登場人物は、誰もが善悪で割り切れない複雑さをもっている。ミステリーとしても秀逸だし、ひとつの文学作品としても立派に通用する秀作。ブッカー賞と並ぶ、コスタ賞受賞も頷ける質の高さを誇っている。翻訳も素晴らしく、この著者の他の作品も是非読んでみたいと思わせる。 | ||||
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