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クリスマスの朝に
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クリスマスの朝にの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.33pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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アリンガムのキャンピオン氏シリーズの第3弾。中編1本と短編1本という構成。これにクリスティの書いたアリンガム追悼文が付く。 中編「今は亡き豚野郎の事件」は、イングランド東部の寒村を舞台にした、謎が謎を呼ぶストーリー。 他の短編と違い、キャンピオン氏の一人称で語られるので、ちょっと雰囲気が変わっている。読み始めてすぐに、これがトリックの一翼なんだきっとそうだ、と思い込んでずっと読んでいたら(クリスティの追悼文が控えているというのも影響ありや?)、どうやら最後の最後でこの会話を言わせるための仕掛けだったらしく、違う意味で椅子からずり落ちそうになった。これはこれでキャンピオンものの味だということでしょう。 個人的には表題作ともなっている「クリスマスの朝に」のほうが好み。キャンピオン氏がやむをえず暴き出すある事実関係は、今の時代にも通じるかもしれない物悲しいいきさつなのだが、しかしものがたりの結末にはちゃんとクリスマスらしい救いのある話になっているのだ。人殺しの話ではなく、こっちを書きたかったんですよね、アリンガムはきっと。 | ||||
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未訳6作と既訳7作の残り13作を残してこれで紹介がお預けとなりそうなのが誠に残念な日本オリジナル短編集「キャンピオン氏の事件簿」第3巻です。本書収録の2編を比べると本来は完成度から見ても初訳中編小説の方を表題作とするべきだろうとは思いますが、日本での刊行時期に合わせて掌編「クリスマスの朝に」の方を選んだのは実にタイムリーですし詩的な雰囲気も漂っていてとても良い選択でしたね。前回のレビューの内容と重なりますが、とにかく私はこのキャンピオン氏のイラストがとても気に入って惚れ込みまして如何にも名探偵らしくニヒルな感じで目が笑っていないのが良いですよね。それから冗談を理解し笑って許して下さる寛大な方も少しはおられるだろうと信じて書きますが、一目見た瞬間にあの関西ではお馴染みの吉本新喜劇のベテラン、チャーリー浜さんを思い浮かべた事を告白します。三年間で3冊が刊行されたこの「キャンピオン氏の事件簿」には作品だけでなく全冊に著者自身のエッセイや本巻のクリスティ女史による追悼文も掲載されておりまして、それによって著者のお人柄や実像にも触れる事ができたのが素晴らしく、本当に稀に見る有意義な企画だったなとお世辞抜きで真剣にそう思いますよね。この良い流れが加速して著者の作品の紹介がさらに進む事を祈りたいですし、それまでは何とか稀少な既訳作を探し出して読破して行きたいと思いますね。 『今は亡き豚野郎(ピッグ)の事件』:小学校の同級生だった憎らしい豚野郎(ピッグ)の病死を新聞で知った名探偵キャンピオン氏は葬儀に出席したが、それから半年後に知人の地方警察本部長レオから殺人事件の捜査に協力を求められて出掛けた彼は死体と対面して心底から驚愕する。意外や意外にも何とそれは半年前に死んだはずのあの憎むべき豚野郎(ピッグ)だったのだ!まず編集者の方々にお願いしたいのが中編小説とは言えこれだけの複雑なストーリーのフーダニット・ミステリーなのですから、今後は登場人物を冒頭に明記して欲しいという点ですね。著者は名探偵キャンピオン氏自身を語り手にして、二転三転する目まぐるしいサスペンス・ストーリーで彼を右往左往させる展開に持って行って片時も落ち着かせずに読者をも翻弄し決して焦点を絞らせませんね。真相については独創的ではないものの欺瞞と不可能興味トリックを巧みに配して既存のアイディアを再生する見事な職人芸を披露されていますね。少しだけ惜しいなと思えるのは苦労をしてまで死体を盗んでおきながら簡単に見つかる場所に捨ててしまった犯人の工夫の無さくらいですね。それからもし旧友ウィベットの職業が事前に書かれていたならば(でもそうだったとしても決して真相には気づかなかったでしょうね)完全なフェア・プレイでしたね。それから本編を読むと短編では十分にうかがい知れなかった著者の人物造形の巧みさが強く実感できましたね。ご主人にタメ口を叩く友人みたいな従僕のラッグを初めとして、誰もが一癖も二癖もある海千山千の役者揃いで意外な真犯人を含めて個性的なキャラの魅力を存分に楽しめましたね。最後に今回名探偵キャンピオン氏は危ない犯人と死闘を繰り広げる事になり圧巻の名推理で事件の全貌を暴き出す面目躍如の天晴れな大活躍でしたが、ラストでは二組のカップルの引き立て役になってしまったのをラッグから指摘されてお気の毒に少々お冠でご機嫌斜めでしたね。 『クリスマスの朝に』:前作から十数年後のクリスマスに再び同地を訪れたキャンピオン氏が丁度その朝に起きたばかりの地元警察を悩ませる難事件に挑んであっさりと解決に導くのだった。本編は前巻収録作「見えないドア」のトリックの広い意味でのヴァリエーションと言って良いシンプルな内容ではありますが、著者は犯罪事件やミステリーを書く事に力点を置いている訳ではなくて、全く人づき合いがなさそうでお気の毒で哀れみを誘う高齢の未亡人の老女にクリスマスの朝に訪れた「ささやかな奇跡」を描く事だったのでしょうね。他の作家だったら考えついても多分書かないだろうなと思える些細な錯覚トリックをさらりと使って見せるテクニックには逆に新鮮なサプライズを感じましたし、まさに大らかで心優しい著者の人徳の為せる技だなと思いますよね。 『マージェリー・アリンガムを偲んで』アガサ・クリスティ著:改めて調べて見ますとクリスティ女史は著者よりも14歳年上でしかも寿命としても23年も長生きされたとの事ですね。クリスティ女史が後輩である著者とその作品を「おみごと!」と大絶賛されているのは、きっと基本的に自分とよく似たタイプの作風・作家だと理解していたからだろうと思いますし、亡くなった後とは言えやっぱり作家が同業者の言わばライバル(商売敵)を素直に褒め称える姿勢は本当に清々しくて気持ち良いですよね。クリスティ女史の忠告に従ってこれから私も著者の長編作品を多彩なキャラクターの味わいに注目しながら読んで見たいなと思いますね。 | ||||
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アルバート・キャンピオン探偵譚を日本独自に編んだ第三集だが、今回は短めの長編といって良い文量の「今は亡き豚野郎(ピッグ)の事件」と、掌編の表題作、そしてクリスティによるアリンガム追悼文を収録した変則的な内容となっている。 卑劣ないじめっ子だった少年時代の学友の不可解な死の謎を描いた「今は亡き豚野郎の事件」は解説でも触れられている通り、ウッドハウス作品を思わせ、キリル・ボンフィオリのモルデカイ物に登場する従僕ジョックの原型であるような召使ラッグとのやりとりで始まる導入部から快調に読ませる。事件の構造は容易に察しがつくが、アリンガム作品には珍しく死体消失やアリバイトリックなど本格的な謎解きの興味も横溢している。しかし何よりユーモアたっぷりで余裕綽々、悠然とした筆致に英国探偵小説のエッセンスを見る思いがする。 「クリスマスの朝に」は「今は亡き豚野郎の事件」の十数年後、同じ村を舞台とした作品。アリンガムは短い紙数で鮮やかな印象を残す物語を生むことに長けているが、その典型のようなクリスマスストーリーで、暖かみあるラストにはホロリとさせられる。 追悼文を寄せたクリスティも同じ気持ちだったに違いない、何とも穏やかでゆったりとした心地にさせてくれる小説世界は誠に珍重すべきものだ。 | ||||
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