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夏の裁断



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【この小説が収録されている参考書籍】
夏の裁断

夏の裁断の評価: 3.16/5点 レビュー 25件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.16pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全25件 1~20 1/2ページ
12>>
No.25:
(1pt)

これが候補作?

これが候補作?本書の著者と本書に高評価をしている読者には申し訳ないが、堅苦しい文体のラノベかと思った。
もっともラノベを読んだことは無いが。

雑誌などの書評やネット記事などで気になった本が有ったらリストアップしている。本書もその一つだが、なぜリストアップしたかは忘れてしまった。
多くはノンフィクションだが、一部叙述トリック系も有る。

だから、著者名に聞き覚えが無く、てっきり叙述トリック系の本と思いながら読み進めた。
ミステリやトリック系は、まんまと騙されたいので特に文章の微妙な部分を気にしないで読むが、なんとなく主人公の名前「千紘」は男性名とも考えられるので、会話の口調から女性と思わせておいて、実は主人公は男性だった、と言うオチかな?とも思ったが、「夏」の章でワンピースや胸の起伏の地の文が出てきて、「やはり女性か?」と思いながら読み進めたが、結局「夏」が終わり、「秋」、「冬」、「春」の章に移り物語の終了を待っても、何のオチも無い、ただただ男のいいなりになってしまう女の話しだった、と言う内容。

読後にAmazonのレビューを読んで、本書が芥川賞の候補作になった事、又吉直樹が推薦している事を知ったが、自分は賞候補作や有名人の推薦本などには興味が無いので、結局何故リストアップしたかが最後までわからないまま、新年一発目の読了としてはつまらない本だったなと言うのが率直な感想。

まだ小学生時分から、主に継父や親戚の叔父・伯父などに性的イタズラをされた経験を持つ人は多いと思う。著名人でも公表している人が居る。

一方、どちらかと言うと地味で真面目そうな女性に、案外性に関して消極的だが開放的(積極的に男にアピールはしないが、誘われると断れないタイプと言う意味)も、案外多い。

結局、主人公の千紘は出会って誘われた人と簡単に性交渉を行う「都合の良い女」なだけで、一応過去の自分を変えるために、トラウマとなっている母親の店の客だった男性の現在の勤務先をネットで見つけ、過去と決別をする為にその地に向かう。

その成長の為の「過去との裁断」と、祖父が残した蔵書をデジタル化する為、本をバラバラにする裁断。
余りにも深みが無さ過ぎて、むしろ「何故この程度の作品が候補作なのだろう?」と思っただけだった。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.24:
(5pt)

純文学を否定した純文学

初見時は素直に、定型的な島本理生作品として――つまり傷を負った主人公の再生物語としてベタに筋を追って読んだ。
ただ、この種の作品にありがちな、女を病ませるDV男がただの関わってはいけない男というだけでなく、男も病んでいるのだと描く所が懐深く、面白く思ったのだが…

今回再読して、島本理生の作家史においてもの凄く重要な作品だったのだと気付かされた。
『夏の裁断』は芥川賞候補になるも又吉と羽田圭介に破れ、著者が純文学を卒業するきっかけとなった作品として有名だが…
この作品には異性へのトラウマや母娘問題といったわかりやすいテーマ以外に、「書くこと」や「本」に関連する言葉が多い。

著者は主人公に「(文学は間口が狭く、)本当に救いたい人を救えない」と明確に語らせていて、芥川賞候補の作品でありながら、自身の手足とも言うべき純文学を否定し、それを「裁断」していくという、とんでもない構造の作品になっている。
そしてこの主人公の思考の転換と「純文学の切断」は、恐らく島本理生本人のパラダイムシフトであり……このことに気づいちゃったら、そりゃあ純文学卒業しちゃうわな…と。
個人的には島本理生の純文学が好きだったからやめてほしくはなかったし、ここで芥川賞を獲れていたら…と以前は思ったものだが、きっと芥川賞を獲れても獲れなくても、純文を卒業してたんだろうな。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.23:
(5pt)

満足

なんの問題もないです
満足
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.22:
(2pt)

読むのが苦痛

夏の裁断の章は、柴田さんが、「RED」に出てくる人の焼き直しみたいな印象。
あと、主人公が支離滅裂で読むのが苦痛だった。
秋の章以降はけっこう読みやすくて不思議だと思ったら、夏以外は書き下ろしだからか。
この人、作品によってすごく読みにくい。精神状態が反映されすぎてるのかな…
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.21:
(4pt)

猪俣君の存在意義

技量は言うまでもなく高い。場面転換の思い切り、会話の無駄のなさ、散りばめられた警句じみた文章。
著者以外にこの言葉を紡げる者はいないと思う。

無駄のない質の高い文章は透明感のある世界を読者に現出させる。と同時に、男女の相互理解の難しさ、過去と現在の自分自身の関係(あるいはその断絶)、距離感といった問題を読者に提示する。様々な読みが可能であり、純文学の懐の深さを味わえる作品だと思う。

その一方で、物語の筋だけを追っていくと、千紘に対してストレスが溜まる(特に男性読者は)。

やめておけと心理学の教授が忠告するのに、自身の中で激しい葛藤もないまま柴田にふらふらと近づいていくし、ほとんど気まぐれに猪俣君を呼びつけては気晴らしのように寝る。(ストーカー気質だが)普通の男性寄りの猪俣君が不憫に思えてきて、最後には「教えてあげない」と千紘にはねつけられてしまう。ここで帰らなかった猪俣君はえらい。「このメンヘラが」と心中で罵って帰ってもよさそうなところである。
でも波風を立てない猪俣君のおかげで、千紘は最後に自己完結して小説が終止する。

面倒見のよい猪俣君のおかげで千紘だけでなく小説の崩壊も押しとどめた。彼のおかげでこの作品が成り立っている。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.20:
(3pt)

少女漫画のような

四度の芥川賞候補の後に直木賞を獲る島本理生。本作は女性作家が主人公の小説ですが、どうしても映像として浮かんでくるのが島本先生の姿で、なんか妙に艶かしく感じてしまいました。
筆者はかなり若い頃から文壇で活躍し、その表現の妙は流石といったところですが、純文学の枠に縛られて器用になりすぎてしまった感がありました。主人公は付き合うまでいかない男達と体を重ね合わせることで、若い頃に男に乱暴された記憶を上書きしようとしているような危うい女性です。付き合っているのかどうかわからないながら、流されるまま体を許してしまう女性の心理を上手く捉えていると思いました。
ただ、主人公がある瞬間気が変わって今までと違う行動を起こす場面がいくつかあるのですが、そのスイッチがなぜ切り替わったのかは本人の気まぐれのようで、読者はこの女性作家に振り回されるのではないでしょうか(あくまで男性目線です)。
思わせぶりなひどい男、いつまでも一途な男、少し闇を抱えた男との関係を、作家ならではの観察眼で俯瞰してみているようで、女性には少女マンガを読んでいるように読みやすいかもしれません。出てくる男性がきれい過ぎるようで、恋愛ドラマのようなくささが、男性にはムズムズポイントなのではないでしょうか。その性差を超越できない点が、文才も申し分ない島本先生が芥川賞に見出されなかった理由かもしれません。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.19:
(1pt)

これは携帯小説です

この小説の読了までの必要時間は、50分もいりません。読み直さないと分からないような複雑な表現・描写が一切ないからです。そういう意味で、携帯小説とか読んでた女子高生向けの本だと思って読めば満足できるかもしれません。
しかし、この作者の作品『ナラタージュ』と同様に女主人公の思考回路が解せません。
『ナラタージュ』では先生の代わりの男を女主人公は「私は確かに好きだった」と言っていましたが、読者にも男を好いている描写は一切見られなかったし、そこから完全に彼女の考えていることが分からなくなりました。
当作も同様、例えばそれほど強引でもない猪俣が急に来たことがなぜ「どうせ断れない」のか理解できないし、また女主人公の「トラウマ」も、正直そんな大したことかと思うようなことをしつこいほど仰々しく表現しているのも共感できませんでした。
結局PTSD然とした女性を描きたかったのかなと思います。むろん、性格に問題のある母や本の虫なのに凡人の祖父など、意味付けをしようと思えばできますが、それ以上の作品の深みは全く感じられません。
これが芥川賞を受賞することになっていたとしたら……私が芥川なら泣きます。まぁ同じ芥川賞を受賞した綿矢りさの『蹴りたい背中』や金原ひとみの『蛇にピアス』も女主人公であり、分かりやすい文章でつづられていますが、候補作止まりだった当作と違い主人公の心情描写がパキッとしていて読んでいて不快感はありません。この心情描写の不足は、読者に読了後の悪印象を確実に与えます。
多分あともう一回読んでもこの作品に対する印象は変わらないでしょう。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.18:
(1pt)

島本作品あるある

ヒロインが脆弱というか病みすぎ
もちろん過去にあった出来事が関係しているのですがなんだかなぁ……という感じです
実際にこういったことは多々あるのでしょうがいまひとつそれが描き切れていない、書き切れていない作品
過去の出来事はねっとりした気持ち悪さがあり、それを払拭しきれていない読後感のもやもや
カタルシスを感じられる訳でもなくスッキリしません
どう説明したらいいのやら?
おすすめできませんね
教授がいい人ってことくらいしか見どころないです
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.17:
(2pt)

難解で困惑

これほど島本作品を難解だと感じたのは初めて。
気に入らないとか好きじゃないとかでなく、彼女にしては言葉が少ないのではないだろうか?
何度もトライしてるんだけど、途中で止まってしまう。
又吉直樹さんがオススメしてましたが、あれほどの感性で本好きじゃないと面白さがわからないのかな・・
軽い気持ちで手を出すともやもやだけが残る。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.16:
(4pt)

面白いわけではないが

非常に短く、読みやすい。島本理生らしい吸い込みやすく、無駄の少ない文体だった。
読み進めるうちに不安を煽られるところが読み手を選ぶかもしれない。個人的にはホラー映画を観ているときのような、「もうそっちに行ったらダメだよ、危ないよ」というハラハラした気持ちで読んだ。
「取り戻したいものは過去にしかない」という反面で、過去なんてものは当人にすら現実か否か判然としないものだという曖昧感がよかった。
面白い!と手放しには言えないけれど、考えさせられるものはあった。
この作家にはそろそろ芥川賞を取ってほしいなぁ。

島本理生さんの食の描写が好きなので、今回はそれが少なめで残念でしたw
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.15:
(3pt)

オジサンにはちょっとぬるかった

主人公の女性が少しメンヘラなので、メンヘラじゃない人には
何でそうなっちゃうの?と言いたくなるような展開がいくつもあって
特にオジさんである自分にはちょっと付いていけないというか
理解に苦しむというか、ゆえに途中から早読みになってしまいました。
又吉直樹さんが推薦してたので読んでみましたが、やはり女性向けかな。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.14:
(4pt)

トラウマの意味

カタルシスがあった。
本作では、主人公の女性が性的なトラウマを抱えている。
トラウマというものは忘れられたらどんなにいいものか、と思う。
今後をプラスに変える原動力になれたら、とも思う。
忘れたいと思えば思うほど、
原動力にしたいと思えば思うほど、
トラウマの意味を考えてしまう。
意味を考えれば考えるほど、
その深みに嵌まっていってしまう。
その解消の引き出し方にどこかあっけなさも感じたが、
読ませる物語力と、読みやすさがあった。
島本さんの作品は今回が初だったが、他の作品も読んでみたいと思った。
書くことに対してとても器用な方なんだなという印象を受けた。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.13:
(3pt)

彼女にとっての「救い」、「求めているもの」がわからなかった

どうにもこうにもこういう男はいかん。
これから一緒に仕事をしたい女性の胸に初対面で触れる軽さとか、たま~に「おまえ」って呼ぶあざとさとか(*`・з・)ムッ
でも「危険」「正しくない」・・・そうわかっていても惹かれてしまうのが女の矛盾。
柴田のやり口を嫌悪するか、意識しちゃうか・・・どっちにしても激しく気にしちゃうのも女の性。
主人公の過去に性的な傷がある云々は置いといて、 同じ女としてこの理性に抗えない本能をわかる?といわれれば、「わかる」・・・かな?
そこが女の弱いとこ、ダメなとこ。

柴田と千紘がそれぞれに抱える深い闇をもう少し掘り下げてほしかった。
特に柴田。この悪魔を形作るものがきちんと描かれてないからこそ、
このザワッとする気味の悪い不安定さを生みだしているのかもしれないけど、なんだか物足りない。
千紘が子供のころに大人に傷つけられた出来事にしてもはっきりしたことは何もわからず、モヤッとしたものが残ります。

蒸し暑い夏のさなかにただひたすら自炊を繰り返す千紘の姿は、まるで己そのものを切り刻んでいるかのようにも思え、読んでいて痛々しい。
千紘の求めているものがなんなのか結局わからず、きっとこの人はまたこんな暗くて苦しい恋を繰り返すんだと思います。
彼女にとっての「救い」とはなんなんだろう?

しかし島本理生はどうしてこんな作品ばかり書くようになったのかな~。ここまで続くと、もう心配になるレベルでメンヘラ臭ハンパない。
本が切り刻まれる場面にしたって、こんなのはどんな作家でもつらいもの。よく書けたものです。
ただただ読んでいて息苦しい。
でも、それでも私はきっと島本理生の作品を読み続けるだろうな。そうさせる力はある作家なのです。だから目が離せません。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.12:
(5pt)

女って

本来Amazonで買っていない本(書店で購入済み)にレビューを書くのはあまりしないのだが、何故本作が芥川賞を受賞しなかったのか不思議でしかたなかったのでここで吐いてみる。

多分この作品を批判するのは男性なのかなぁと思う。主人公が男に対して弱い部分があり、一回は拒否したものの後日あった時何故か惹かれる。
女ってこういうものなんです。急にキスされると拒否するけれども、一旦離れてまたあった時、よくよく考えれば悪くなかったかも…とそんな程度になる。
島本さんは凄く上手にこの矛盾した気持ちを書いていて、物語に簡単に入り込めた。凄く良かった。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.11:
(3pt)

著者が見つめるべき病み=闇は、違う場所にあるのではないだろうか。

文章も構成も巧い。しかし二、三歩足りない。
技巧に溺れてしまい、人物の内面への掘り下げが甘くなってしまった。

芥川賞を受賞した「火花」と比べると、明らかに完成度は優る。ところが、人物を描ききろうとする心意気が足りない。著者が描ききれる安全地帯で書いてしまって、踏み込んでいない。もっと先の、もっと深い部分に挑む力があると思うのに。

(「火花」を絶賛しているのではありません。あの作品も受賞にはすこし足りない部分があったと思っています)

島本理生の作品を初めて読んだのだけれども、もしかすると著者は題材選びを誤っているのではないだろうか? この作品は心ではなく、頭で書いている。この著者が見つめるべき病み=闇は、違う場所にあるのではないだろうか。あるいは、もっと先のもっと暗い闇なのかもしれない。

評価は3.5以上4未満。
著者の才能に期待して、厳しく☆☆☆としました。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.10:
(3pt)

読み終えてから気付いたが

芥川賞候補の本だったのね…。芥川賞は自分の読書嗜好とは系統が別なので、興味がない。ので、知らなかったが、「らしい」感じ。つまり、面倒臭く、自分にとっては「面白い」とは言えない本。
柴田にやられて不快な事を猪俣相手に自分もやらかしてる事には気づいてないのかこのヒロイン。というのが読後の感想。
「本を切る」に対しての感覚だけはすごく共感。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.9:
(5pt)

「人との違和感や距離感はどこからくるのか」

人間関係における「違和感」や「距離感」を感じるということは、どういうことなのか。
その壁を取り除いたり、低くすることは可能であろうか。どうすれば可能なのか、を問うて
いる。文字や言葉は信頼できるのだろうか。相手の心になかなか届かない、気持ちが通じな
い淋しさ。メッセージが理解してもらえない焦燥感。
 「プレーボーイの編集者・柴田さんへ、恋ごごろを一方的に寄せていた三十歳の女流作家
が、見事失恋した」という、作家 萱野千紘の単純な恋愛物語ではない。

 ひと夏の鎌倉を舞台に物語が進展していく。千紘は母から、亡くなった祖父の家で一万冊
と云われる蔵書の「自炊」(デジタル化)の、裁断を依頼される。柴田さんとは、二年前に
知り合い、二か月前に父が亡くなった頃まで交際していた。
 裁断中に千紘を訪ねて鎌倉に来る友人でもあり、イラストレーターである猪俣君と逢って
いる時も、この二年間の柴田さんとの甘い思い出が浮かんでくる。
この思い出話が時系列的でなく、読者は混乱するが、千紘のその時の感情に合わせて思い出
すので仕方がない。

  読者は千紘に感情移入し、柴田さんとの逢引は危険であり、無意味だよと教えたくなる。
男とはこんなもんだとアドバイスしたくなる。千紘も次第に柴田さんの言葉や行動が
徐々に信じられなくなっていく。千紘が相談にのってもらい適切な助言を求めるのは、恩師
の大学教授(心理学)である。 柴田さんとの交際は、「そこにはなに一つ意味なんてなかっ
た。とっくに全部忘れてるよ。やったほうは」、「卸し金で身を削るような献身はもうやめ
ようよ」と、自分の違和感を大事にするように諭される。教授との会話は、著者のテーマで
あり人生論でもあろう。
そして、柴田さんとの会話録音と過去のいきさつをまとめた手紙を会社に投函する。怖い
女の一面を覗かせる。そこまで復讐するのか。男の自業自得かな。

 著者は、主人公を取り巻く人間たちとの、「違和感」、「距離感」と、それに付随する
「吐き気」(作品中に何か所も登場する言葉)を感じる「言語」や「会話」のもどかしさを
描写したかったのであろう。
「好き」だとか「生きてください」の言葉の信頼感はあるのだろうか。相手に心底届いてい
るであろうか。 蔵書が多い祖父はこれだけ読んだのに普通の人間だった。「なんだ、本っ
て」という活字への不信感。

かたや、物語の本筋とは無関係そうだが、千紘の履く「サンダル」が深刻な場面で、滑稽
な登場の仕方でユーモアを醸し出す。
 夏の鎌倉で自分の書いた小説(「文字」)を裁断し、返らない過去も裁断し、新しく生ま
れ変わろうとしている自分がそこにいる。

 信頼できない男に近づいて苦い経験をした体験談とも読めるし、母親と娘の葛藤物語でも
あるし、一女性の精神的な成長話とも読める。様々な読み筋がある。
文章は、清冽で繊細で想像力豊かな描写が多い。珠玉の文章を味わえる。

  千紘の「サンダル」はどんなデザインだったのだろうか。気にかかるところ。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.8:
(4pt)

夏の日に主人公は過去を清算するように…

島本さんの作品は『ナラタージュ』を最初に読みました。この作品は、文學界に掲載されていて、島本さんの名前を見つけ、読みました。作品自体、長くはないですから、登場人物は自ずと限られるのは、小説を多少書いた経験のある者なら理解できます。嫌な男、精神に問題のある男を描いていることも、現代の社会に投げかけている問題の一つでしょうか…。主人公の女性は、そのぬかるみにはまり込んでいくが、何とか持ち直して終わりとなります。心理学的なものがきちんとしていないと、やはり他の作品は読みづらいのですが、島本さんは、ある程度そちらの方面も学んでらっしゃることが、ふとした一節にも現れている気がしました。『七緒のために』あたりから、これは発達障害をテーマにしているのかな?と感じるようになりました。何はともあれ、次回こそは芥川賞を是非!!
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.7:
(1pt)

中二病作家のメンヘラ小説

芥川賞候補落選作。読後感は男に都合のいいメンヘラ女の話という感じ。作家の千紘は知り合いの作家の授賞式に出席し、酔った編集者の柴田に抱きつかれ胸を触られる。千紘は頬を引っぱたく。ここまではいいのだが、後日にエッセイを依頼され承諾し、映画の試写室で再会したふたりは飲みにいく。「素敵だよね。モテるでしょう」とキスされ「意外とエロいんですね」「俺とやりたい?」「はい」……、語りは死去した祖父の蔵書を千紘が裁断しながら柴田や自分の過去を追想する形式になっており、その祖父の家に友人のイラストレーターの猪俣君が訪ねて来てはセックスをする。千紘は過去にトラウマがあり暴力的な男に逆らえない。それを気遣う猪俣君……、

女性読者は、男に都合のいい軽率な千紘に嫌悪感を持つのか、それともそんな状況ならそうなると同情するのか、よくわからないが、私は献身的な猪俣君に好感を持っていただけに最後の千紘の被害妄想のオチにはガッカリしたし、磯野さんが実在するか千紘すらわからないと語られても、千紘自身がわからないことを読者がわかるはずもないだろうし、結局はトラウマ自体が思春期に異性への好意を無にされただけの単に異性にモテモテのかわいいきれいでやさしいプライド高き私(千紘)の自慢話というメンヘラ小説になっている。

これが純文学といわれてもなぁ……、(笑)
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240
No.6:
(3pt)

メンヘラ処方箋。

芸人さんが書いた小説が芥川賞を貰って話題になる一方、「候補作の中では実はこの小説がダントツで、こちらが賞を貰えばよかった」などと言う人もいるので試しに読んでみたが、引き込まれるものも圧倒されるものも何も無い。今どきの日本の純文学のスケールの小ささとつまらなさに唖然とした。
どこにでもいるような自分勝手な男性編集者に翻弄され、思考の迷宮に追い込まれていく精神的に未熟な女性作家の愚痴のようなモノローグが延々と続く小説で、10年ほど前に自ら命を絶った女性編集者のネットでの日記と書評を合わせた「八本脚の蝶」(ポプラ社)とよく似ている。作中での主人公に対する教授(精神科?)の分析「人の分析はわりに得意なのに、自分のことになると極端に憶病なんだよなあ」、主人公を翻弄する編集者についての分析「本能的に人をコントロールするのが得意な人間はいるんだよ」(P.73~74)、「八本脚の蝶」の著者と周辺との関係にそのまま当てはまる。「あなたが守らなきゃいけないと思い込んで背負ったものは不要なものばかりで、本当のあなたを殺し、得体の知れない不快感だけを残して去っていった。」(P.115)、「誰にも自分を明け渡さないこと。選別されたり否定される感覚を抱かせる相手は、あなたにとって対等じゃない。自分にとって心地よいものだけを掴むこと」(P.117)、こうした教授(専門家)の示唆で主人公はなんとか迷宮から脱するわけだが、「八本脚の蝶」の著者などは周辺の哲学好きなオジサンたちの善意のアドバイス(考え方のヒント)に導かれ、さらなる思考の迷路にはまり込んでいったんだから痛々しい。哲学などというものは、所詮は「健常者の頭の体操」にすぎない。心の病(頭の病)の患者に体操させても病が治るはずがない。というわけで、これは「病人に必要なのは医学だ」と云う、いわば当たり前のことが結論の小説である。
夏の裁断Amazon書評・レビュー:夏の裁断より
4163903240

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