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神々の乱心
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神々の乱心の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.27pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全51件 1~20 1/3ページ
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爺さんに買ってあげたら、とても喜んでくれました!最高の本! | ||||
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買わなかったかも。 内容はとても面白くて引き込まれました。 でもラストがどうなったのか清張が亡くなったせいで分からず、消化不良となりました。 推理小説はラストがないと無意味でしょ?とか。 松本清張の作品は好きで良く読んでいましたが、これはちょっと・・・買わなきゃ良かった!と後悔しました。 歴史が好きなので戦前、あり得ただろうと言う設定には満足しました。 ので星二つにしました。 | ||||
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なんにも、利用しませんでした | ||||
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神々の乱心上下を読みましたワクワクし理解ができないところは難度も読み返して読みました、楽しかった、最後にどのような結末となったかわからないので歴史作家の推理を読んで納得しました | ||||
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全く満足しています。 | ||||
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皇太后宮女官が郷里の谷川で謎の入水自殺。彼女が持っていた「三日月と北斗七星」が描かれた「通行証」らしきものの正体は? それを期に相次ぐ他殺死体の発見との関係に挑む県警特高課係長の苦闘。 | ||||
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満州を支配した関東軍による麻薬政策と、そこから日本政界に大量に還流した政治資金。“令和”日本の宗教・皇室・政治のつながりを予見するかのような著者未完の遺作。巻末「編集部註」も興味深い。 | ||||
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近代史の解説が難しい、漢字、人名が煩わしい、清張のかきたいことが 伝わらない。 期待が 大きかった分、外れた。 | ||||
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昭和8年、埼玉県比企郡梅広町に、月辰会という謎の教団があった。埼玉県特高課吉屋謙介は、そこから出てきた宮内省皇后宮職の女官北村幸子を尾行し、東武東上線の梅広駅前で声をかけて尋問する。数日後、彼女は故郷奈良県吉野で入水自殺してしまう。吉屋は月辰会を不敬な野心を持った新興宗教教団と推理し、調査を始める。北村幸子の上司で、幸子が「御霊示」と記された月辰会の封書を届ける先だった深町掌侍こと萩園彰子の謎の存在がうかぶ。彰子の弟萩園泰之は華族次男の親睦団体「華次倶楽部」の幹事を務めながら、幸子の自殺に関心を持ち調べ始める。萩園と吉屋の2人が事件の謎解き役になって筋が進む。元女官の足利千世子。彼女は引退した身でありながら、宮中、特に貞明皇后と通じているらしい。栃木県佐野に住んでいるが、近くの渡良瀬遊水地で死体が上がるなど、謎の殺人事件が連続して起こる。鏡が大きな役割を果たす。三種の神器八咫鏡に擬された鏡と、半月形で裏に稲妻模様が入った凹面鏡という2つの鏡が登場する。1つは盗掘された内行花文鏡であり、いま1つは月辰会会長平田有信が満州から持ち帰った多鈕細文鏡で、神鏡として月辰会地下の「聖暦の間」に安置されている。萩園は幸子が生前、多鈕細文鏡を教団内で見たという話から、月辰会が大正10年に起きた「大連阿片事件」と関係があり、その首謀者はかつて満州にいたのではないかと考える。昭和9年、宮城内にある振天府で起きた昭和天皇誕生祝い会食の献立表くぎ打ちの怪事件が天皇への魘魅(呪詛術)であることをつかんだ萩園は、そこにも月辰会の影を見る。平田は、かつて本名秋元伍一で関東軍特務機関に所属し、大連阿片事件の密偵を務めていた。事件発覚後退職、満州の宗教を調べる旅に出た秋元は、新興宗教「道院」に目を付ける。道院の江森静子の行う降霊乱示の法に魅せられ、静子とともに駆け落ちして日本に戻る。平田有信と改名、埼玉県梅広町で新しい宗教を興す。栃木県、埼玉県で相次ぐ殺人事件を追う吉屋も、自分が常に萩園の後を追っていることに焦りを感じながら、ようやく「大連阿片事件」との関連に気づく。萩園が月辰会に潜入させた幸子の兄友一の報告で、畠田専六元憲兵司令官をはじめとした陸軍将官らが教団内で「神宝」と称された偽の神刀を拝観していることを知った萩園は、月辰会を宮中に接近させようとしている平田の野望に気づき、慄然とする。月辰会に入会しながら宮中に仕える女官や元女官の動きが克明に描かれ、その向こうに、宮中でいまだ大きな権力を握っている貞明皇后の存在が暗に示される。月辰会の内部でも、表向きは男性の平田が教祖として主導権を執っているように見えながら、実はそうではなく、シャーマンで斎王台と呼ばれる静子が真の力を持ってる。斎王台の静子が風邪をこじらせ、斎女と呼ばれた娘の美代子が代わって乱示を行っているとき、突然静子が地下の「聖暦の間」にやってくる……「お、斎王台さま」と声を上げる平田。静子は美代子に、自分が見ている前でもう一度神占いをやってみなさいという。母の異様な姿に恐れをなす美代子。取りなそうとする平田を、静子は一喝。「ここではわたしが斎王台。絶対の権威です。美代子もあんたもわたしの家来じゃ。そこに坐って助手らしい代役をしている若い男は何者か知れぬが、ここを出て行っておくれ」こう命令されると、平田も逆らえない。静子は自分が乱示をやってみせるといい、神のお告げである文字を棒で砂盆に書き始める。静子が文字を書く。平田がそれを紙に写し取る。美代子は静子の文字を棒でなぞる。静子は美代子を自分の跡継ぎにしようと考えているのだが、ここでは「下手くそ。愚か者。御神鏡さまに恥しい!」と美代子をののしる。美代子に近づくと、その手から棒を取り上げた。砂が散った。あっと云うまもなかった。「婀呀」静子は叫ぶなり、力をこめて棒を二つにへし折った。T字の頭が裂けた。静子は無言で平田の手をつかむなり、引っ立てた。強い力だ。平田はよろめいた。そして平田は静子の部屋に連れて行かれ「脱ぎなさい」と命じられ、脱いだ祭服を静子にハサミで切り刻まれる。そして布団に押さえ込まれ、美代子への嫉妬に狂った静子にされるがままとなる。教祖という表向きの権力者と違うところに権力がある。こうした関係を、ある意味、宮中の似姿として描いたのではないか。……平田白身は、静子による魘魅、呪いの力で昭和天皇を排除することを考えていたのであろう。実際には、静子は逆に平田に対する憎しみが高まり、呪いをそちらに向けてしまった。最後まで、静子は平田を上回る力を持ち続けたことになる。『神々の乱心』の意味。神々とは、昭和天皇につながる神々ということ。神話時代のアマテラス、孫のニニギ、さらにその曾孫にあたる神武天皇からずっと続いて昭和天皇まで至っているという主張が、万世一系の思想体系である。それを担保しているのが、アマテラスから受け継がれてきたとされる三種の神器にほかならない。そこに神々から伝わる神器をそろえて、秩父宮を天皇にまつり上げようとする勢力がいる。昭和8年、皇太子が生まれたが、月辰会は血統よりも神器をもっている方を正統とした南朝正統論を踏襲する形で、本物の神器は秩父宮がもっていると称し、昭和天皇から皇太子へと継承される皇位を否定しようとした。つまり「乱心」を起こした。秩父宮と貞明皇后が非常に親しいことは、濠によって隔てられた別世界であり、普通に生活していれば見えない。清張氏が提示しているのは、別の側面。皇室の人たちの間にも確執があり、それが、ときには皇位継承にまで関わってくるような問題をいう。そうしたことを目に見える形で書くこと。女性が持っている権力性を書くこと。『神々の乱心』から、大正天皇が亡くなったあとに残った皇后が、皇太后としてその後も君臨している昭和初期の宮中の実態が見えてくる。清張氏以前、こんなことを指摘した人は誰もいない。物語では、斎王台静子が、月辰会の「聖暦の間」で絶大な権力をふるっている。その姿は古代的で、シャーマンであるとともに権力者でもある古代天皇を彷彿させる。清張氏は、よく似た構造が昭和の宮中にもあったのではないか、人に見えない宮中の奥で、女性が権力をもつ構造が生きているのではないかということを示唆している。物語の終盤で、吉屋は栃木県と埼玉県の殺人事件の捜査が暗礁に乗り上げ、萩園は月辰会にスパイとして送り込んだ北村友一との連絡が途絶え、情報がなくなる。2人の謎解きが行き詰まったまま、平田が斎王台静子に対し、自らの野望を打ち明ける場面の途中で物語は未完で終わる。平田は時機を見て、月辰会が持っている三種の神器こそ本物の三種の神器だと発表するつもりと言う。大丈夫なのかと問う静子に対し、平田は「おれには目算がある」と応じる。平田の目算とは何なのか。物語はこのあと、どのような結末を迎える予定だったのか?。ここまでの展開と「編集部註」にある構想から、一つの筋を考えてみる。それは、二二六事件をモデルとするクーデターが起きるという筋書。女官を退職してすぐに月辰会に入信した足利千世子は、貞明皇后に月辰会への入信を働きかける。静子の「お諭し」をもとに、秩父宮をツクヨミに擬する教義を平田がつくり、法華宗を信奉している貞明皇后を改宗させる。同時に、月辰会内部で権力交代が起こる。平田のはからいで、静子に代わって美代子が斎王台となり、友一が助手になる。静子は狂乱するものの、かえって霊能力が高まる。美代子の乱示により、決起の「お諭し」が下される。足利千世子が住んでいる佐野の喜連庵が中心となり、月辰会の神器を崇拝する元憲兵司令官畠田専六グループによるクーデターが起こる。宮城を襲撃し、昭和天皇を孤立させる間に、平田は神器を奉じて大宮御所に潜入。そして、大宮御所を訪れた秩父宮に神器を献上し、新たな天皇として即位させようとする。その瞬間、雷が響いて平田に当たり、クーデターは失敗に終わる。平田が美代子に興味を持っていると思い込み、嫉妬に燃える静子の魘魅は、昭和天皇ではなく、平田に向けられていた。平田は、静子による魘魅、すなわち呪いの力で昭和天皇を排除することを考えていたのであろう。しかし、静子は逆に平田に対する憎しみが高まり、呪いをそちらに向けてしまった。最後まで、静子は平田を上回る力を持ち続けた。「編集部註」によると、清張氏は物語の結末について、担当編集者の藤井康栄氏と「教祖は最後は死ぬ。劇的なクライマックスを作ろう。シャッポと雷とどっちがいい?」「それはだんぜん稲妻ですよ」「そうだなそうしよう」。宮中の派閥抗争を利用して野望に手をかけた平田が、悪天候をついて皇太后の居所大宮御所に入ろうとしたとき、稲妻が閃く。皇宮警察に取り押さえられる。やがて来る平田の死。月辰会は壊滅へと向かう。清張氏の見事な構成力、学識に感服。謎解きを絡めて味付けしているが、主役は月辰会の狂乱を通して描かれる「呪力で昭和天皇排除」計画の挫折。旧満州と昭和初期日本の風物+相次ぐ殺人+解けない謎+古代史学=昭和史のみならず古代史にも精通した清張氏ならではの輻輳した求め難い興奮と緊張の機会をいただいて感激。入手できたのは、1997年初版本。文字の大きさは、文庫本と同じで小さいが、余白が適度にあって、手に馴染み好ましい。上巻、月と星の霊紋からケイズ買いまで、大連阿片事件と遊水地の他殺体を主に状況説明を積み重ねて盛り上げてゆく。401ページ。下巻、味から月辰会の犯罪で、横穴墓の白骨から殺人事件の謎が深まり、危機情報、銃器商の追跡で殺人の謎解き、月辰会の犯罪でクーデター計画へ迫る場面で未完に終わる、編集部註でその後の予測。380ページ。読解かなり困難なるも、物語の筋は、特高吉屋と彰子弟萩園の謎解き役により、あらかた分かり易く解説される。解けぬ謎を残したまま、御所で大暴れして皇宮警察に取り押さえられ、やがて来る平田の死で終結となる。清張氏の大労作に畏敬を表し、5星。写真:「神々の乱心=上、下巻」表装。「月辰会」紋章。 | ||||
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昭和8年、埼玉県比企郡梅広町に、月辰会という謎の教団があった。埼玉県特高課吉屋謙介は、そこから出てきた宮内省皇后宮職の女官北村幸子を尾行し、東武東上線の梅広駅前で声をかけて尋問する。数日後、彼女は故郷奈良県吉野で入水自殺してしまう。吉屋は月辰会を不敬な野心を持った新興宗教教団と推理し、調査を始める。北村幸子の上司で、幸子が「御霊示」と記された月辰会の封書を届ける先だった深町掌侍こと萩園彰子の謎の存在がうかぶ。彰子の弟萩園泰之は華族次男の親睦団体「華次倶楽部」の幹事を務めながら、幸子の自殺に関心を持ち調べ始める。萩園と吉屋の2人が事件の謎解き役になって筋が進む。元女官の足利千世子。彼女は引退した身でありながら、宮中、特に貞明皇后と通じているらしい。栃木県佐野に住んでいるが、近くの渡良瀬遊水地で死体が上がるなど、謎の殺人事件が連続して起こる。鏡が大きな役割を果たす。三種の神器八咫鏡に擬された鏡と、半月形で裏に稲妻模様が入った凹面鏡という2つの鏡が登場する。1つは盗掘された内行花文鏡であり、いま1つは月辰会会長平田有信が満州から持ち帰った多鈕細文鏡で、神鏡として月辰会地下の「聖暦の間」に安置されている。萩園は幸子が生前、多鈕細文鏡を教団内で見たという話から、月辰会が大正10年に起きた「大連阿片事件」と関係があり、その首謀者はかつて満州にいたのではないかと考える。昭和9年、宮城内にある振天府で起きた昭和天皇誕生祝い会食の献立表くぎ打ちの怪事件が天皇への魘魅(呪詛術)であることをつかんだ萩園は、そこにも月辰会の影を見る。平田は、かつて本名秋元伍一で関東軍特務機関に所属し、大連阿片事件の密偵を務めていた。事件発覚後退職、満州の宗教を調べる旅に出た秋元は、新興宗教「道院」に目を付ける。道院の江森静子の行う降霊乱示の法に魅せられ、静子とともに駆け落ちして日本に戻る。平田有信と改名、埼玉県梅広町で新しい宗教を興す。栃木県、埼玉県で相次ぐ殺人事件を追う吉屋も、自分が常に萩園の後を追っていることに焦りを感じながら、ようやく「大連阿片事件」との関連に気づく。萩園が月辰会に潜入させた幸子の兄友一の報告で、畠田専六元憲兵司令官をはじめとした陸軍将官らが教団内で「神宝」と称された偽の神刀を拝観していることを知った萩園は、月辰会を宮中に接近させようとしている平田の野望に気づき、慄然とする。月辰会に入会しながら宮中に仕える女官や元女官の動きが克明に描かれ、その向こうに、宮中でいまだ大きな権力を握っている貞明皇后の存在が暗に示される。月辰会の内部でも、表向きは男性の平田が教祖として主導権を執っているように見えながら、実はそうではなく、シャーマンで斎王台と呼ばれる静子が真の力を持ってる。斎王台の静子が風邪をこじらせ、斎女と呼ばれた娘の美代子が代わって乱示を行っているとき、突然静子が地下の「聖暦の間」にやってくる……「お、斎王台さま」と声を上げる平田。静子は美代子に、自分が見ている前でもう一度神占いをやってみなさいという。母の異様な姿に恐れをなす美代子。取りなそうとする平田を、静子は一喝。「ここではわたしが斎王台。絶対の権威です。美代子もあんたもわたしの家来じゃ。そこに坐って助手らしい代役をしている若い男は何者か知れぬが、ここを出て行っておくれ」こう命令されると、平田も逆らえない。静子は自分が乱示をやってみせるといい、神のお告げである文字を棒で砂盆に書き始める。静子が文字を書く。平田がそれを紙に写し取る。美代子は静子の文字を棒でなぞる。静子は美代子を自分の跡継ぎにしようと考えているのだが、ここでは「下手くそ。愚か者。御神鏡さまに恥しい!」と美代子をののしる。美代子に近づくと、その手から棒を取り上げた。砂が散った。あっと云うまもなかった。「婀呀」静子は叫ぶなり、力をこめて棒を二つにへし折った。T字の頭が裂けた。静子は無言で平田の手をつかむなり、引っ立てた。強い力だ。平田はよろめいた。そして平田は静子の部屋に連れて行かれ「脱ぎなさい」と命じられ、脱いだ祭服を静子にハサミで切り刻まれる。そして布団に押さえ込まれ、美代子への嫉妬に狂った静子にされるがままとなる。教祖という表向きの権力者と違うところに権力がある。こうした関係を、ある意味、宮中の似姿として描いたのではないか。……平田白身は、静子による魘魅、呪いの力で昭和天皇を排除することを考えていたのであろう。実際には、静子は逆に平田に対する憎しみが高まり、呪いをそちらに向けてしまった。最後まで、静子は平田を上回る力を持ち続けたことになる。『神々の乱心』の意味。神々とは、昭和天皇につながる神々ということ。神話時代のアマテラス、孫のニニギ、さらにその曾孫にあたる神武天皇からずっと続いて昭和天皇まで至っているという主張が、万世一系の思想体系である。それを担保しているのが、アマテラスから受け継がれてきたとされる三種の神器にほかならない。そこに神々から伝わる神器をそろえて、秩父宮を天皇にまつり上げようとする勢力がいる。昭和8年、皇太子が生まれたが、月辰会は血統よりも神器をもっている方を正統とした南朝正統論を踏襲する形で、本物の神器は秩父宮がもっていると称し、昭和天皇から皇太子へと継承される皇位を否定しようとした。つまり「乱心」を起こした。秩父宮と貞明皇后が非常に親しいことは、濠によって隔てられた別世界であり、普通に生活していれば見えない。清張氏が提示しているのは、別の側面。皇室の人たちの間にも確執があり、それが、ときには皇位継承にまで関わってくるような問題をいう。そうしたことを目に見える形で書くこと。女性が持っている権力性を書くこと。『神々の乱心』から、大正天皇が亡くなったあとに残った皇后が、皇太后としてその後も君臨している昭和初期の宮中の実態が見えてくる。清張氏以前、こんなことを指摘した人は誰もいない。物語では、斎王台静子が、月辰会の「聖暦の間」で絶大な権力をふるっている。その姿は古代的で、シャーマンであるとともに権力者でもある古代天皇を彷彿させる。清張氏は、よく似た構造が昭和の宮中にもあったのではないか、人に見えない宮中の奥で、女性が権力をもつ構造が生きているのではないかということを示唆している。物語の終盤で、吉屋は栃木県と埼玉県の殺人事件の捜査が暗礁に乗り上げ、萩園は月辰会にスパイとして送り込んだ北村友一との連絡が途絶え、情報がなくなる。2人の謎解きが行き詰まったまま、平田が斎王台静子に対し、自らの野望を打ち明ける場面の途中で物語は未完で終わる。平田は時機を見て、月辰会が持っている三種の神器こそ本物の三種の神器だと発表するつもりと言う。大丈夫なのかと問う静子に対し、平田は「おれには目算がある」と応じる。平田の目算とは何なのか。物語はこのあと、どのような結末を迎える予定だったのか?。ここまでの展開と「編集部註」にある構想から、一つの筋を考えてみる。それは、二二六事件をモデルとするクーデターが起きるという筋書。女官を退職してすぐに月辰会に入信した足利千世子は、貞明皇后に月辰会への入信を働きかける。静子の「お諭し」をもとに、秩父宮をツクヨミに擬する教義を平田がつくり、法華宗を信奉している貞明皇后を改宗させる。同時に、月辰会内部で権力交代が起こる。平田のはからいで、静子に代わって美代子が斎王台となり、友一が助手になる。静子は狂乱するものの、かえって霊能力が高まる。美代子の乱示により、決起の「お諭し」が下される。足利千世子が住んでいる佐野の喜連庵が中心となり、月辰会の神器を崇拝する元憲兵司令官畠田専六グループによるクーデターが起こる。宮城を襲撃し、昭和天皇を孤立させる間に、平田は神器を奉じて大宮御所に潜入。そして、大宮御所を訪れた秩父宮に神器を献上し、新たな天皇として即位させようとする。その瞬間、雷が響いて平田に当たり、クーデターは失敗に終わる。平田が美代子に興味を持っていると思い込み、嫉妬に燃える静子の魘魅は、昭和天皇ではなく、平田に向けられていた。平田は、静子による魘魅、すなわち呪いの力で昭和天皇を排除することを考えていたのであろう。しかし、静子は逆に平田に対する憎しみが高まり、呪いをそちらに向けてしまった。最後まで、静子は平田を上回る力を持ち続けた。「編集部註」によると、清張氏は物語の結末について、担当編集者の藤井康栄氏と「教祖は最後は死ぬ。劇的なクライマックスを作ろう。シャッポと雷とどっちがいい?」「それはだんぜん稲妻ですよ」「そうだなそうしよう」。宮中の派閥抗争を利用して野望に手をかけた平田が、悪天候をついて皇太后の居所大宮御所に入ろうとしたとき、稲妻が閃く。皇宮警察に取り押さえられる。やがて来る平田の死。月辰会は壊滅へと向かう。清張氏の見事な構成力、学識に感服。謎解きを絡めて味付けしているが、主役は月辰会の狂乱を通して描かれる「呪力で昭和天皇排除」計画の挫折。旧満州と昭和初期日本の風物+相次ぐ殺人+解けない謎+古代史学=昭和史のみならず古代史にも精通した清張氏ならではの輻輳した求め難い興奮と緊張の機会をいただいて感激。入手できたのは、1997年初版本。文字の大きさは、文庫本と同じで小さいが、余白が適度にあって、手に馴染み好ましい。上巻、月と星の霊紋からケイズ買いまで、大連阿片事件と遊水地の他殺体を主に状況説明を積み重ねて盛り上げてゆく。401ページ。下巻、味から月辰会の犯罪で、横穴墓の白骨から殺人事件の謎が深まり、危機情報、銃器商の追跡で殺人の謎解き、月辰会の犯罪でクーデター計画へ迫る場面で未完に終わる、編集部註でその後の予測。380ページ。読解かなり困難なるも、物語の筋は、特高吉屋と彰子弟萩園の謎解き役により、あらかた分かり易く解説される。解けぬ謎を残したまま、御所で大暴れして皇宮警察に取り押さえられ、やがて来る平田の死で終結となる。清張氏の大労作に畏敬を表し、5星。写真:「神々の乱心=上、下巻」表装。「月辰会」紋章。 | ||||
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NHKで松本清張の番組を放映していて、この本を知りました。事実を推し量り、小説として、膨らます。この時代にどのような事件があったのかをネットで調べながら、その推理力に感服して読みました。未完とはいえ、下巻とたのしみです。 | ||||
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本日着きました。特に気になる点もなく大丈夫でした。 有難う御座います。 | ||||
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美本 | ||||
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状態が良いが、やはり未完成なだけあって結末がないのが残念である。それがいいのかもしれないが。 | ||||
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1997年刊の単行本第二刷で読了、 もし復刊されるなら人名・地名索引、関連各所の組織図、そして日満の地図を付属すべきと思う、 読者の利便と著者の思考反芻のための繰り返し部分も推敲余地ありと思うし、登場人物ならびに情報量が膨大な作品であり、読者の利便を考慮すればぜひ索引等を付けるべきと考える、 下巻は第三章でいったん舞台が満州に飛ぶ、 それも舞台移動と同時に時間も一世代遡って当時が語られる、 以後、連続殺人事件解決に向けた情報がふんだんに読者に提供されるために物語りは大団円に向けた勢いを増してゆく、 巨大なクライマックスを予感させながら未完のピリオドを見るのはなかなか切ないものがある、 以下蛇足、 連続殺人に付随する何らかの政治的陰謀も下巻後半で姿を現し始め、「神々の乱心」が殺人事件を端緒としたミステリを装いながらも、実は政治スリラー的クライマックスを迎えるだろうことも読了以前に容易に推察できる、 もし完結すれば、おそらく515・226と続いた軍部内共産主義者によるクーデター計画とは(一部の人員が重複するのだろうが)別系統の宮廷内派閥掌握によるクーデターが直前に露見し、特高による一斉検挙と、大本教弾圧にならった月辰会神殿の破壊棄却がダイナミックに描写されたのだと思う、 上巻読了時には映像化には向かないだろうと思ったが、もし上記のようなクライマックスなら、やはり本作も松本清張作品らしく実は映像化に向いているのだと思う、 清張は本書の最後まで特高刑事を愛情深く丁寧に描写している、 つまり特高警察には大義があるという姿勢が長編を通じて揺らいでいないことに21世紀のわれわれは注目しなければならないと思う、 特高に大義を認めているから華族層の一部が共産主義かぶれした史実も著者は冷徹に批判している、 同じく、現在でも大日本帝国と帝国陸軍批判を目的として語られることがある満州国のアヘン政策も、ここで著者は満州国ならびに周辺に日本進出以前から蔓延していたアヘン吸引習慣の廃止に向けた当然の政策としてまったく批判的に語っていない、 当時世界最大の事業体のひとつであった帝国陸軍だから、アヘン利権に群がる貪欲な有象無象によって現役軍人・官僚を交えて繰り広げられた政治スキャンダルのワンノブとして冷静に語っていることも同じく注目すべきである、 上巻に続いて満州で仕入れた神懸りする女を基礎とした新興宗教創業も詳しく語られる、 道教系統のいわゆるシャーマン・シャーマニズムが満州において北方系のシャーマニズムと混交し、大正・昭和前期の不穏な時代を生きる日本人の一部を引き付けてゆく様も詳しく描写されてゆく、 ここで清張の筆致はきわめて重厚であり、同じシャーマンを語りながらも本書には幼稚なアニメーション系統でネタにされるようなシャーマンは登場しない、 人には、特に女子には、体質として憑依しやすいキャラクタが実在し、行為としての憑依が使いようによっては宗教上の商売道具化する胡散臭さを冷静に描写してしまう、 以上の二点、憑依を認めながらもそこに商売が絡む胡散臭さ、そして特高警察を悪人扱いしない冷静な歴史評価が、じつは晩年の伊丹十三が感じていたと思われる思考と瓜二つに近い事実からわれわれは何を読み取ればいいのか? 興味深い偶然だと思う、 そして、515・226事件も、おそらく未完部分で描かれただろうクーデターでも同じだが、大日本帝国憲法下の日本において、特に英邁な昭和天皇が現役の昭和前期には、どれほどの政治的混乱を引き起こそうとも軍事的クーデターは失敗するしかなかったのである、 もし未完部分の最終ページに、1938年(昭和13年)、近衛文麿の首相就任による国家総動員法成立によって日本は事実上の準社会主義国家として完成した、軍事優先を偽装した準社会主義化による世の中の暗黒は昭和20年8月15日まで続いた、と松本清張は書けたかどうか、 本書に記されたとおり、昭和初期の華族層の一部が共産主義にかぶれてしまいスキャンダル化したことは史実、 近衛文麿は生涯にわたり隠れ共産主義者として生き、戦後GHQの逮捕直前に自殺する、 GHQの追求に持ちこたえられない実は虚弱なボンボンとしての正体を隠すための自殺だろうが、近衛の自殺前後の不明朗な人の動きは、同じく当時の隠れ共産党員により意を含められた暗殺に近い自殺だった可能性はまだ否定できない(結論は今後の研究に持ち越されている)、 著者の特高刑事に対する愛ある描写から、そんな妄想を抱きながら読了した、 | ||||
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著者晩年の作品ということもあってか文章が安定しており、とても読みやすい、 全盛期の口述筆記作品のような読んでいてはなはだしい煩わしさを感じる繰り返しがない点も読みやすさに貢献している、 ただし作者の癖だろうし、ミステリ風味なので読者側の事実確認を容易にするためもあってか、省略してもよい文章はかなりの量であるが、 で、単行本で読んだが、登場人物紹介の一覧を付けるべきと思う、 もちろん未完の本作は”オチがない、伏線が回収されていない”と物語にクレームするタイプの読者はぜったいに読んではいけない書籍である、 物語は昭和十年前後を舞台に、515から226、満州国建国そしてかつての大本教弾圧などおどろおどろしい事象を巧妙にパッチワークした一種の探偵小説、 著者が選択した歴史事象以上に当時の歴史を知っている読者には、とくに目新しさのようなものはないかと思うが、それを補って本書の娯楽性を高めているのが、調査の行き届いた当時を活写した風俗小説としての面白さだ、 この点は荷風断腸亭に通じる興趣だと思う、 主人公の一人は特別高等警察の刑事である、 共産党系イデオロギ評価では必ず極悪人として登場する特高の組織も刑事もここでは著者はそれなりの愛情を持って造形している、 松本清張がさまざまなデータ提供を日本共産党から得ていたことはいまでは史実だが、もともと何のイデオロギも信じていなかっただろう清張が晩年にいたり主人公に特高刑事を選ぶ妙のようなものも感じしまった、 | ||||
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清張先生の筆は、流れるように進む。 それでいて、骨太✨ | ||||
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かなり構想の大きな作品なのに、終盤あまりに簡単に種明かしして完結を急いだ感がある。著者は生前編集部に「連載はあと十回も要らないよ」と言っていたそうだ。著者は平成4年4月脳出血で倒れるが、その後肝臓がんであることがわかって8月に死去する。実際は倒れる数か月前から体調が思わしくなく、かなり無理をして執筆を続けていたのではないか? 月辰会が当時の軍部や右翼に深く食い込んで、日本の運命を左右するくらいまで話を広げて欲しかった。 | ||||
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97年2月発行の2刷、なのに、何と、活版印刷されたもの。文春に問い合わせたら、まだその頃は凸版印刷では活版を使う時があったという。僕にとってはこの活字のでこぼこ感は涙が出るほど懐かしく嬉しい。内容は、もう圧巻というしかないほど、昭和の軍国主義時代の人間像が俯瞰されていて、細かい事実も、興味津々。日本の暗黒部が、ただし、さらっとした印象を残すように、淡々と描かれる。人名、お香、服装、皇室の慣習、もうこれでもかとばかりに、細密画のような描写が続く。それに僕は酔っている。良いなあ清張は。粗製濫造のミステリーとは大違い。 | ||||
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これほどすばらしい装丁、印字、の本を読んだことがない。しかも、何と、古本。活字が、でこぼこして、昔、こうした活版の本を読んでいたなあと、懐かしく思う反面、こういう文化財の本がどの印刷屋も作らなくなってしまったと聞いた。30年くらい前に、印刷屋はみんな、鉛の、あの3センチくらいの、印字を捨てたのだそうだ。今は、プレミアムとか行って名刺にこの印刷法を売りにしているところがあると聞いたけど、清張のこの上下本は、宝物だよ。内容も、未完に終わってしまったものの、清張の博覧強記ぶりが躍動していて、読んでて着ることがない。脱帽。 | ||||
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