火の路
- 古代史ミステリ (7)
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文春文庫/松本清張 著『火の路(下)』のレビュー。 本文庫は、「松本清張記念館監修・長編ミステリー傑作選」と銘打つ新装版である。 この下巻は、主人公・高須通子がイランのテヘラン空港に降り立ったところから始まる。 本作の新聞連載が開始された昭和48年を起点とすると、この物語はイラン革命(1978年/昭和53年)が始まる5年前あたりが舞台となる。 周知の通り、革命前のイランはパーレビ国王の元での親米政権だった。 したがって、本作で描かれるイラン各地や人々の様子も、イスラム教的な雰囲気は少ない。 通子が空港で待ち合わせをした、通訳を務めるテヘラン大学の女子学生シミンの姿も「言葉は英語で、黒眼の大きな・・・はっきりとした顔だちで、花模様のワンピースだが、裾はミニに近かった」という描写になっている。 現在のイランでは、満9歳以上の女性は外国人・異教徒であっても公共の場所ではヘジャブとよばれる頭髪を隠すためのスカーフと、身体の線を隠すためのコートの着用が義務付けられている(外務省・海外安全ホームページより)ので、隔世の感がある。 また本作では、日本人の女性が一人(と女性通訳)で見知らぬ土地を平気で旅するし、イランの僻地で日本の商社マンが商魂たくましく汗をかいている様子も描かれている。 とりあえずは平和で、物騒な雰囲気は見て取れない。 そういう点で本作は、革命前のイランを多少なりとも伝える物語でもある。 そのイランが現在(2024年4月)、イスラエルとの危険なやり取りをしている。 遺跡を巡る観光旅行どころか、貴重な歴史的遺物が失われる危機も迫っている。。。 さて、上巻のレビューで俺は、本作のキモは高須通子(≒松本清張)による論考だと述べたが、もう一つ、歴史研究における封建的な学界の姿や、遺物売買の実態をあぶり出しているという点も重要だ。 若き研究者・高須通子は広い視野や先進性を持つがゆえに、保守的な教授や先輩たちに煙たがれる。 彼女は、大学の教授等を頂点とするピラミッド体制の底辺にいた。 松本清張の自伝『半生の記』でもうかがい知れるが、彼は権威や権力にあぐらをかいている連中を憎む。 作家であると同時に在野の研究者やジャーナリスト的側面も持つ彼は、学閥や権威は学問の発展や進歩の妨げにしかならないと信じており、その信念が今回“作品という形での論文”を書かせた。 なお、この“論文”の間違っている部分については、本下巻の「解説」で森浩一氏が指摘している。 この事は重要で、文春文庫編集部の誠意が感じられるし、この事が清張を貶めるものではもちろんない。 権威(松本清張自身が文学界の重鎮だった)への忖度は、清張が最も憎むところだったからである。 そしてこれも上巻のレビューで述べたが、歴史、とりわけ古代史は、遺物や史料の発見等により、塗り替えられたり修正されたりすることはよくある事。 清張もそんなことは知悉していたはずで、本作執筆時点で清張が推論(あるいは確信)していた事であっても、将来その推論が間違っていると指摘される可能性もあるかもしれないという事は、頭にあったに違いない。 彼が主張したかったのは、“権威や権力に寝そべらずに、または間違いを恐れずに、新たな地平を拓け”という事だったろう。 ミステリー作品というくくりなので、本作では事件も殺人もキッチリ起きる。 「論文が中心でミステリー部分は付け足し」と評されることが多い本作だが、俺はそうは思わない。 高須通子の苦悩や海津信六の哀しみはよく描かれているし、それを描くことで、主題である清張の古代史論考と学界批判がこれでもかと読者に提示されるのである。 彼女・彼らが物語の終幕へ至る路は、火を崇めるゾロアスター教が長い年月と距離を経て我が国へと伝わり、神道や仏教や慣習へと習合されていった路とも重なる。 この火は埋火(うずみび)のように我々の歴史に残っているのだろう。 彼女・彼らが灯した小さな火は、やがて大きな真実をあぶりだしてゆくかもしれない。。。 | ||||
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文春文庫/松本清張 著『火の路(上)』のレビュー。 本文庫は、「松本清張記念館監修・長編ミステリー傑作選」と銘打つ新装版である。 俺がこの作品・・・・「ファンが選ぶ清張作品ベスト30」や「私が推す!清張の長編トップ20」などには決して選ばれないであろう・・・・本作を読もうと思ったきっかけは、当レビューから2年ほど前に放送されたNHKの番組『新日本風土記』だった。 そこでは没後30年を迎えた松本清張が特集されており、作品を生み出すために日本の各所を取材する清張と、取材対象者たちとのふれあう姿が映像に残されていた。 とりわけ本作『火の路(みち)』の執筆にあたって、在野の研究者・藪田嘉一郎(やぶた かいちろう/1905~1976)氏と交わされた書簡は印象的だった。 実はこの番組の中で、本作で主人公ら(≒清張)が主張したことの一部は、現在では否定されていることも明かされていた。 本作のキモが清張の論考の開示であることを思うと、現在では通用しない古臭い作品という烙印を押されかねないわけだが、俺は逆に、読みたいと思った。 歴史、とりわけ古代史は、遺物や史料の発見等により、塗り替えられたり修正されたりすることはよくある事だ。 しかしそれは、先人たちが重ねた研究が無駄だったということを意味しないし、最新の成果でさえ今後どう変わるかも分からない。 それまでの研究の上に、現在考えられる“最適解”があるというだけある。 清張の主張も、その最適解へと進む過程で必要なルートのひとつだったのだ。 俺は、その過程を読みたいと思ったし、飛鳥からイランという横の広がりと、現在から古墳時代へという時間の広がりをも描く壮大な設定も魅力的だった。 確かに高須通子の“論考”部分は、小説にはそぐわないような微に入り細を穿つような内容で、一般にはなかなか読みこなせないだろう。 俺もそうだったが、何とかついてゆけるように(イメージがつかめるように)、物語の舞台や登場する遺物、実在の人物等についてネットや他の図本でその画像や説明を見ながら読み進めた。 画像といえば、本作には小説では珍しく、写真や図が比較的豊富に載っている。 この上巻では以下の図表が載っている。 ・酒船石(P13) ・猿石(P35) ・飛鳥周辺地図P49) ・益田岩船(P79) ・石造須弥山立面図(P237) ・亀石(P243) ・二面石(P259) さて、本作において高いハードルとされる“論考”については、海津信六(イメージモデルは上記の藪田嘉一郎氏)との往復書簡や会話という形で、要点をコンパクトにまとめてあるので、そこまで不安になる必要はないし、字句ひとつひとつにこだわり過ぎると先に進めなくなる。 我々読者が驚くべき点は、“高須清張”の博覧強記ぶりである。 他の大量の作品も書きながら、いつこのような勉強をしているのか。 日本書紀から万葉集、中国の古文献まで、流行作家とは思えないほどの文献の渉猟や実調査をして書いていることが分かる。 この上巻は、高須通子がイランへ旅立つところで終わる。 彼女も個人的には色々な事情を抱えていた。 しかし学問的推論を確かめるために、何かを超えるために、彼女はイランの首都テヘランへ一人向かう。 本作の新聞連載が開始された昭和48年を起点とすると、それはイラン革命(1978年/昭和53年)が始まる5年前のことだった。。。 | ||||
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酒船石遺跡などを訪れる前に、この本を読んでみてください。 「こういう説もあるのか」という予習があるだけで、現地での推理力や臨場感がはるかに増して楽しめることと思います。 しかもこの作品は、今や昔の1970年代頃のものだとのこと。調査の進んだ現代とは歴史学問に関する水準も異なりますが、それであってもストーリーの展開はわくわくして読めました。 文章のわかりやすさや筋立ての構想力などでさすがは評判の松本清張だと思えた反面、遺跡を主題にしていたはずの話は後半からはミステリー(殺人事件)の話のまとめに急ぎ足で収束されていたことが拙速でやや気になりました。 松本清張氏が書きたかったことが済んだ途端に当人にとってこの作品の意義は終わってしまった、ということが素人読者の目にも伝わってしまうあたりが惜しい点です。 | ||||
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作家はイランへ飛んだ主人公・通子に、飛鳥の酒舟石は7世紀のイランからの帰化人が用いた“麻薬施設”であるとする大胆な仮説を語らせる。ここから斉明天皇と拝火教との関係がミステリアスに展開。 | ||||
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1960年代のサイケブームで密かに流行した幻覚を呼ぶハッシッシ(ハシーシュ=インド大麻)は、アサシン(刺客)の語源。それが原因となった傷害事件を起点にイラン拝火教へとブッ飛ぶ清張の創造力。 | ||||
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