■スポンサードリンク


(短編集)

神聖喜劇



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

神聖喜劇の評価: 4.51/5点 レビュー 59件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.51pt


■スポンサードリンク


Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全4件 1~4 1/1ページ
No.4:
(3pt)

ストーリーらしきものがようやく見えた

さてようやく最終巻。第六巻は「第八部 永劫の章」。
 一人の新兵が「殺人の前科者(正確には「障害致死」で本人の責任は軽いとさ
れ、執行猶予中)で」、「その上に生まれが生まれ(被差別部落出身)とこうくり
ゃ…”不祥事”がおこると、とかくたいていの奴等がその”生まれの悪い前科者
”の冬木に、目を付けて犯人(銃剣の鞘の意図的損傷)に仕立てたがる」。

 差別意識丸出しの上官達は、この冬木を追い詰めていく。勿論証拠などどこに
もない。そうしてなんと「投票箱」によって冬木を犯人と確定しようとする。一
種のリンチであろう。

 主人公は信頼できる者と冬木を誘い、話をし、この事件の真実を見つけようと
した。二晩かけて三人はようやく「真の犯人」らしき者を推定する。この後の流
れはいささか冗漫であるが「推理もの」としてもなかなか面白い。

 論理でもって上官に立ち向かっても、冬木が犯人であるということは論理的に
無理があるとしても、冬木が犯人でると押し通す上官。
 ここに至って主人公は冬木に、「軍隊内務書」の定めによる「上申」をするよ
うにすすめる。
「自己ニ対スル他人ノ取扱不条理ナルト考フルトキハ徐ニ順序ヲ経テ之ヲ事件関
係者ノ直上所属隊長ニ上申スルハ妨ゲナシ」。

 また「投票」は、「犯罪ノ嫌疑者ヲ互選投票シ又ハ私ニ懲戒糾問スル等ノ行為
アルベカラズ」という規定を主人公は主張する。
 だがその所属長は詭弁を弄し、なかなか今までの対応を不正義とは認めない。
しかし事態が重大となるのを防ぐべく、急速に事件の犯人捜しは終わりを遂げる。
 結構迫力のあるストーリーで、本書一番の盛り上がりではないだろうか。

 上記事件とは別に、部隊を離れてい犯民家の庭先にあったするめを持ち去った、
いつもイジメの対象になっている他の新兵を、上官達はまたも難癖をつける。
 些細なミスにわざと「死刑相当」と怒鳴りつけ、新兵を怯えさせる。ここでの
主人公の武器は、やはり「知識」であった。「陸軍刑法」によって、このような
行動を批判する。
 
 結局この騒ぎでも主人公は「重営倉三日」となった。理由は「陸軍軍人ニシテ
其ノ本分に背キ」。
 上官の陰湿な嫌がらせは続き、主人公はすさまじいリンチをくらう。これは上
官の方が細かなどうでもとれるような規定を悪用したことによる。主人公らしか
らぬミスだろう。

 さらに謎めいた事件が続く。悪質極まる上官は行方不明となる。見つけ出され
陸軍拘禁所送りとなった。その「逢い引き」の相手の女性は入水を遂げた。

 ここで唐突に物語は終わる。
 わずか三ヶ月ばかりの教育応召。その間の出来事を細かに描写して、大西巨人
はようやく筆を置く。

 小説の漫画化を手がけた岩田和博は、本書を「戦後文学の最高傑作」と手放し
で褒めるが、どうなのだろうか。まあ小説自体を読んでいないのでどうにも言え
ないのだが、ここまで持ちあげても事実(さほど読まれているわけでもなかろう)
はそこまで評価が高いわけでもない。

 ほぼ十年という長い時間を」かけて大西巨人と連絡を取りながら、この企画を
完成させたとある。途中で、「自費出版も視野におきながら」だったらしい。
「漫画化にあたり私の心がけた事は、文章は限りなく原作の意に忠実に」であっ
た。
「原作未読の方々に小説『神聖喜劇』の必読を願う…原作はまさに大自然の大河
の流れであり、本書はせいぜい田に引く川」とある。

 画を描いた「のぞゑのぶひさ」は、「2005年、ほぼ十年前から描き始めた
小説『神聖喜劇』…の最後のページの作画を終え」た。「主人公東堂が『一匹の
犬』から『一人の人間』に戻る。…読者に感動を与える」。

 大西巨人は、「あくまでもフィクションである点を踏まえて言えば、『神聖喜劇』
に書かれたかなりの部分は実際の”何か”」であり、事実にかなり近いことを書
き下ろしたのであろうか。
「私は、日本軍隊について(ひいては日本国家全体について)、『累々たる無責任
の体系』、厖大な責任不存在の機構」と集団の特異性を述べる。これは大西巨人
も書いているように丸山真男の言と同じである。

 ただ繁雑で妙に細かいことをほじくり出す、トリビアリズムそのものの本書は、
この最終章でいくばくかのまとまりを見せている。
「あとがき」や「エッセイ」を読まなければ理解しにくいカ所が実に多い。
 ゆっくり一ヶ月くらかけて、事実関係を確認しつつ読む(見る)のがいいだろ
うが、根気のない私にはさっと目を通すしかなかった。

 読後感は悪くなく、「大団円」という言葉がよく似合う。

 ただ、万人向けではなく、読み手を選びすぎる「観念が事実に先行する物語」。
神聖喜劇〈第6巻〉Amazon書評・レビュー:神聖喜劇〈第6巻〉より
4344012747
No.3:
(3pt)

読み手を選びすぎではないか

大西巨人(敬称略 以下同じ)の「神聖喜劇」は名前だけは知っていたが、何
せ大部(5巻本)であり、手にとっても読み通すことはできないだろうと諦めて
いた。
 だがAmazonをのぞいている時に、漫画化されていることを知り、この機会に
漫画ででも(失礼な言い方です すみません)読ま(見な)ければ、おそらく読
むことはないだろうと、とにかく眼を通すことにした。

本では5巻だが、この漫画は六巻本。
第一巻「第一部 絶海の章」   第二巻「第二部 混沌の章」
第三巻「第三部 運命の章 ・ 第四部 伝承の章」
第四巻「第五部 雑草の章 ・ 第六部 迷宮の章」
第五巻「第七部 連環の章」
第六巻「第八部 永劫の章」

 各巻末には大西巨人のエッセイ。「解題」は各巻で異なる人が担当。
第一巻のエッセイでは、大西巨人がいかにして漫画化を承諾したのかが述べら
れている。申し出があった際にはすぐに承諾したようだ。

 ただ、「映画化の計画を聞かされた時と同じように、<無謀な企てをする無謀
な人たちだな>」と思ったことが記されている。
「漫画『神聖喜劇』は小説だから、私の実体験とイコールではありません」。と
あるが、来歴を確かめた限りではほぼ実体験といってもいいのではないか。
大西巨人は、どうにも舟橋聖一が嫌いなようで、舟橋をこき下ろしている。舟橋
の「後付けの反戦行動」が気にくわない様子。

 画風はどことなく水木しげるを思い出される。劇画調のタッチでであり、トー
ンはほとんで使用せず、大部分が手書きの線で書き込んでいる。実に丁寧な画で
あり、一つ一つの画は「綺麗」だ。タッチはまるで違うが、大友克洋の画を思い
出した。

 召集された主人公=東堂太郎の旧日本軍での召集兵の教育場面から始まる。実
に下品な上官=大前田文七。
主人公は、「軍部と戦争とを嫌悪していたにもかかわらず、私個人についてそれ
らを回避したいとは、もはや考えなかった。…この時代の私の”思想”は相当に
複雑微妙であった」。「私…の思想は…世界は真剣に生きるに値しない・本来一切
は無意味であり空虚でさり壊滅すべきである」。何とニヒリスティックな言葉か。

 ある言葉を言おうとしない主人公に、意地を張って生きた大西の意気を見る。
あまりにも主人公が「格好良すぎて」本当かなとも思ったが。
一瞬で全てを記憶してしまう主人公。

 第一巻では(でも)軍隊内での生活と、学生時代の特高の尋問(勿論暴力を行
使しての尋問)や旧制高校(現 九大)内部での思想調査の様子が、交互に語ら
れる。
 第二インターナショナルの「スツットガルト(シュトゥットガルト大会(1907
年)決議」が出てきて、知識のない私にはいちいち調べる必要があった。

 主人公も特高や学生部の教授も実に多弁であり、主人公の人離れした記憶の良
さも随所に出てくる。これが煩いと感じる人も多いだろう。私も少々喋りすぎの
主人公等に辟易した。

 台詞は長く、よくこれだけマルクス主義に関わる問題を漫画という形式で展開
しえたなと感心した。コミンテルン、社会ファシズム論、人民戦線戦術、ディミ
トロフ、ローザ・ルクセンブルク、等々。ただトロツキーの名前は出てこなかっ
た。

 神聖喜劇の初出は「25年間書き継いだ」らしいので、初出は1955年ころ
か。1955年は、スターリン批判の前年であり、まだスターリニズムへの本格
的批判がない年代。日本でもようやく「日本トロッキスト聯盟(正式名称)」が
1957年に結成されている。
 どうにも大西のトロツキーへの評価がないのが歯がゆい。

 大学(高校)在学中の学生指導教授(おそらく現在の学生部の教授か)との延
々とした話が続く。あまりにも饒舌で、これは読む人によっては「自分の主義主
張を述べているだけか」とも感じられてしまうだろう。
 この漫画(の第一巻だけ読了)を読んで(見て)、つくづく小説に手を出さな
くてよかったと思う次第。

 とにかく、理解するのに時間がかかります。
 これは読み手を選ぶ。
神聖喜劇 (第1巻)Amazon書評・レビュー:神聖喜劇 (第1巻)より
4344011635
No.2:
(3pt)

う〜ん、やはり中途半端な出来、、、。

4〜5巻の陰鬱な展開に、読み続けるのが苦痛であったが、あと1巻という励みだけで読了した。
 確かにラストに大前田軍曹が一波乱やってはくれます。ただそれも、軍隊ではさもありなんという、陳腐と言っていいような、事件である。
 やはり全巻を通じて描かれる世界が狭すぎて、ここから文学的感動を得るのは、非常に困難ではなかろうか。岩田和博氏のあとがきにある「戦後文学の最高傑作」という評価はどう考えても自画自賛の過当評価としか思えない。
 物語の変化があるぶんだけ、4〜5巻よりは見せ場は多いと思う。しかし、その見せ場も軍隊内のいじめや差別をめぐる陰鬱なもの。せめて最後に大前田が、テロってくれればある程度のカタルシスを味わえたかも知れぬが、それも無い。
 かけた労力と時間の割りには感動の度合いは低かったような気のするマンガである。
神聖喜劇〈第6巻〉Amazon書評・レビュー:神聖喜劇〈第6巻〉より
4344012747
No.1:
(3pt)

第1巻より動きは少ない

この第2巻では舞台は全て兵舎の中であり、第1巻のような主人公=東堂の回想シーンも殆ど無く、上官や古兵らの屁理屈(?)による新兵いびりが延々と続き、更には身体・知的障害に対する差別や部落差別の要素も加わり、読んでいて気分が暗くなってきた。
 第1巻でも感じた事だが、主人公の東堂太郎の設定がかなりスーパーマン的過ぎて、あまり感情移入できないし、やや荒唐無稽でもある。もう少し人間的弱みを持った現実的人物造形にすれば、作品の完成度も増したのではないかと惜しまれる。
神聖喜劇 (第2巻)Amazon書評・レビュー:神聖喜劇 (第2巻)より
4344011643

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!