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決壊



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【この小説が収録されている参考書籍】
決壊 上巻
決壊〈下〉 (新潮文庫)

決壊の評価: 3.83/5点 レビュー 75件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.83pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全51件 21~40 2/3ページ
No.31:
(4pt)

人間の幸福に関する考え方が秀逸

エンターテイメントは物語の結末があり、謎解きがあり、最終的にどんなものになったとしても一定のすっきり感をもたらしてくれる。
そういう意味ではこれはバリバリの純文学である。投げかかるだけ投げかけて、なにも解決しない。
最後に残るのはいやーな気分と、現実の救いのなさだったり。生きてくのが嫌になるような変な示唆だったり。
しかしこれも、小説の醍醐味だと思う。時に登場人物が吐く哲学的で難解な言葉の数々は、物語に巧妙にまぶされると意外にグサリとくる。

人間の幸福に関する独白は秀逸。なるほどと思った。
決壊〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:決壊〈下〉 (新潮文庫)より
4101290423
No.30:
(5pt)

物語りに秘められた重層構造

優れた小説が常にそうであるように、本作も互いに入り組んだ重層構造を有している。それをどのレベルで読み取るかは、読む人の知識と知性によるだろう。ではそれはどのような「重なり合い」であろうか。
 先ず表層のレベル1では、猟奇殺人事件が描かれる。ここにはアーチストの壬生が「暴力とは善悪の彼岸ですよ」と評する、悪意に満ちた世界が記される。この次元でおぞましさを感じ、読書を中断してしまう人がいるが、読書の素人だ。
 レベル2もこれに続く。ここで書かれるのはちょっとしたきっかけで崩壊する家族、支えにならない夫婦・親子関係である。
 レベル3は言葉をめぐる問題だ。言葉は全てを表現できない。逆に言葉が人間をがんじがらめにする。人間存在における言語の限界(つまりロゴス中心主義の限界)が示され、そして言葉に代わるものとしての原初的な感覚「触覚」が浮上する。崇が千津を抱きながら思う。「明らかに官能とは別種の喜び…….ここに自分がいてその傍らに別の人がいる。それはなにか救いのように熱を帯びている」。その反対に、良介と佳枝の距離感は二人の間に肉体的接触がなくなった時から始まったと読める。崇と甥の良太もそうだ。まだ幼くて、思うように言葉を操れない良太は、崇と会うたび、彼に抱きつき、背中によじ登る。この身体による存在確認が「理性で凝り固まっている」崇をどれほど安らげたか。良介が死んだ後の崇の喪失感は、もうこの先良太に抱きつかれることのない寂しさで増大する。
 レベル4は分人・全人の問題。現代思想の潮流を知り尽くしている知識人の崇は、ロマン主義的に統一された人間像などは存在しない、人は様々な場において人格を使い分ける、と考える分人主義者だ。それに対し弟の良介は殺される間際まで愛を信ずる全人である。全人と分人の人間存在としての優劣は明らかだ。全人である良介を失った分人の崇に何が残されるのか。崇の自殺はこのレベルで解き明かされなければならない。
 最後のレベル5では、カミユのいう「世界の優しい無関心(『異邦人』)」が言及される。例えこの世がどんなにおぞましい世界であっても、誰もが世界の片隅に居場所が用意されているという実感。良介を失った佳枝は感じる。夫がいないという事実の脆さに反して、「彼の気配を何ひとつ留めていないこの世界は、何と瑞々しく、彼女の周囲に充満していることだろう」。そして佳枝には、亡き夫の遺伝子を受け継いだ、アトピー性の喘息を克服しつつある息子良太がいる。人間がこの忌まわしい世界の中でも代々引き継いできた命の継承。それは他の動物の単なる「生」の継承とは異なる、もっと意識的なものだ。人間存在にとってこれが最大の救いと安らぎでなかったら、他に何があるだろう。
 平野啓一郎は、世界を透視する眼の確かさに関して、村上春樹に次ぐ日本人のノーベル賞候補作家だと私は固く信じている。是非その才能を使い潰さないように祈る。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
410426007X
No.29:
(5pt)

読書のあり方が変わりました

あるがままの出来事をあるがまま直視できない人間が居るのだと痛感、自分もその一人であると。
それは勿論 物事の本質を見極める事とは全く別に。
登場人物がありふれていると感じたならおそらくそれは読み手の都合であり、仮にそうでないなら この世の多くは一見つまらないそれでいて一人一人にとってはかけ代えのない時間を生きているのだと思う。
一人一人のある部分共感し 最期まで特定の人物に感情移入することなく読了。
非日常やジェットコースターのようなストーリーを期待し、自分の人生を平凡だと信じて疑わない人にとってはつまらないのかもしれないと思った。
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No.28:
(4pt)

21世紀文学

平野啓一郎を読むのは2作目です。消費されるのではない、咀嚼して呑み込むのに骨が折れるうえ消化しきれないものがいつまでも残るような文学です。現代日本を背景として描かれるのは、文学的主題としてはあまりにも普遍的な「悪」。物語の奥行きと叙述の肌理の細かさとは不均衡に荒削りなところを感じて当初は戸惑いましたが、月刊誌の連載として書かれたことを知って納得しました。遡及的に修正できないという形式もむしろこの物語にはふさわしく、結果としてこれでよかったのだと思います。できれば物語世界にその都度同期するように、連載として読みたかったと思いました。現代をきちんと書こうとする作家に出会えたこと、その誠実さに、救われる思いがしています。その誠実さが、「決壊」で垣間見せた深淵をさらに抉ってみせる決壊後の物語を可能にしてくれることを心から願っています。
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No.27:
(5pt)

なぜ、人を殺してはいけないのか

それは、礼儀だから。

違う考え方、肉体をもつ人間が共に生きるために用意されているのが、この世界であるかぎり、相手と共存をはかる、それが礼儀だ。
礼儀が死んだのなら、もう殺人は正当化されるだろう。

神の名のもとに、正義の名のもとに国家的に日々繰り返される殺人、それが戦争である。あれが容認されている限り、個人の殺人事件がなくなるわけない。国家や大人のまやかしに否を唱えるある種の決壊なのだから。

悲しい現実であるが、これを打破するためには、個人が自分自身を裁き、治められる資質をもつしかないのではないだろうか?
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4101290423
No.26:
(4pt)

突きつけられた現実、その先は…?

読後感は、今まで読んだ本の中でかなり上位に入る後味の悪さでした。

といってもつまらないとか読んで損したとかという言う意味ではなくて、全編を通して、なんの希望も、その糸口らしきものさえ見つけられなかったからだと思います。
難しく、咀嚼するのに時間がかかる文章ではありましたが内容は引き付けるものだったし、妙にリアルな展開の先を早く知りたくて、下巻はぶっ続けで読んでしまいましたから、面白いことは面白かったのです。
でも自分はどこかで、そういった希望の類が用意されていることを無意識に期待していたのかもしれません。
おそらく筆者は意図してなんの希望も残さないようにしたのだと思いますが。
あまりの救いのなさに、絶望感だけが残ります。

何となく友人に最近読んで面白かった本としておすすめするのは憚られる。
でもこの本に出会ったことが何の意味もないことだとは思えない、そういう感じがします。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
410426007X
No.25:
(4pt)

目から鱗

自分の中で、もやもやしていたものが、明確にされたような気がします。現代社会が抱える問題を、うまく理路整然と言語化出来ていると感じました。難しすぎて理解不能なところもありましたが……。
 器用で何でも出来てしまう、頭が良すぎて何でも分かってしまう兄の崇。それ故に陥った人生の溝。弟である良介の存在は、ある意味、崇にとって希望だったのかもしれません。
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4101290423
No.24:
(5pt)

これは私たちが生きる世界そのものだ

「お台場で自爆テロ」という設定は過激過ぎて現実味が薄いかもしれませんが,「中学生による殺人」や「センセーショナルなマスコミ報道」「警察の横暴」など,今の社会に対してある意味問題提起しまくる作品なので,小説でありながら妙に考えさせられてしまいます。

そして何より印象に残るのが,「沢野家の悲劇」。あまりに切ない。

小説に「ハッピーエンド」や「救い」を求める人は,本書を読まない方がいいと思います。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
410426007X
No.23:
(4pt)

現代社会の邪悪で醜い面を上手に表している

この作品は残虐で気持ち悪い描写が多く、しかも登場人物が皆とてつもなく不幸になるので、読んでいて暗く絶望的な気分にさせられる。それは、作者による《幸福の追求を強制する社会》への攻撃であると言えよう。その意味で、《悪魔》は作者の一面である。

また、詳細な記述により現実感を強く出している。下巻に頻出するTV番組と2ちゃんねるのパロディは、良く出来ていて感心させられた。

しかし、私はそれが良い作品の条件とは思わない。芸術とは、美しい表現を目指すべきものではないか。この小説は、現代社会の邪悪で醜い面を上手に表しているものの、それを超えるような希望・理想・善意を欠いている。勿論、現実を見ればこの世界が改善されるとは思えない。しかし、これはフィクションであり、読者は何らかの感動を求めているのだ。

《悪魔》が自爆テロを行うのは、勿論、この前年の9・11の影響だろう。そして友哉の殺人は、下巻末の参考文献によれば、神戸の酒鬼薔薇事件のパロディだと分かる。だから、この作品の事件にはオリジナリティは感じられず、規模や世界への影響はアルカイダの方がずっと大きく、猟奇性も現実の殺人の方が強い。よってこの作品にオリジナリティを求めるとすれば、それは《悪魔》の殺人理論になるだろう。《誰もが幸せになるための努力を強制される社会》はたしかに恐ろしく不公平であり、そこから《離脱》するというのは魅力的である。しかし、それがなぜ無差別に他者を殺すことにつながるのか、それが語られていない。作中でも一言で《共滅主義》と表されているのだが、一言で表せることを、「幸福のファシズム」や「レースからの離脱」がどうのこうのと引き延ばしていたに過ぎないのではないか。

また、物語の始めから、崇は自殺を強く意識しているのだが、彼がなぜそこまで追い詰められたのか説明されていない。これだけの長編なのに、そのような重要なプロローグが無いのは気になった。
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410426007X
No.22:
(5pt)

現代日本にドストエフスキーを投げ込んだら…

他の方も書いているが読みながらタイトルのようなことを考えていた。

この作者の本を最初に読んだのは「日蝕」だったが、大学在学中に執筆されたと聞いて驚愕した覚えがある。
ただ妙に難しい文章を書く人だという印象が強く(その後の「葬送」もそう)しばらく敬遠していたが、今回この作品を立ち読みしたところ面白そうだったので購入してみた。

ネタバレになるので中身の話を書くのはやめるが、とにかく次へ次へと読ませる迫力がすごい(どんどんページをめくりたくなる)小説で、こういう本も書けるんだと作家の印象が大きく(好ましい方に)変わった。
また発行時期から考えると、この作品を書いた時の作者の年齢はどう計算しても30そこそこ。その年齢でこれほど家族の内実(特にいくつかの夫婦)に迫る描写ができることに再び驚愕。
何度か読み返さないと分からない部分も多く、読むのが苦痛になるほど残酷な部分もあり、読者を選ぶ本だと思うが、それでもこの本は21世紀の日本文学の中で重要な位置を占めると思う。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
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No.21:
(4pt)

フィクションです。ですが、本当の話かと錯覚してしまいそうになります。

あらすじ

「悪魔」によって人生を狂わされた人々が壊れていく様が描かれます。

感想

「自分のやりたいことをやる」
「人にされたら嫌なことは人にやらない」
という2つをバランスさせ続けることが、
現代社会では、全うな人の生き方でしょう。

でも、この物語の「悪魔」の、
そんな全うな生き方から離脱しちゃえよ!
というメッセージは、
一定数の人に共感をもたらすのではないかと感じました。

物語のTVの討論番組の中で、
「なんで人を殺してはいけないのか」と問うあの学生に、
腑に落ちる答えを用意できる人は多くないのではないでしょうか。

私は自信がありません。

救いようのない物語を読み終えて、私は少し混乱しています。

しかし、無理に前向きになってみると、
自分の中の闇を見つめることで、
他人の中を闇を感じることができ、
そこに光を当てることもできるのではないか、と考えました。
決壊〈下〉 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:決壊〈下〉 (新潮文庫)より
4101290423
No.20:
(4pt)

フィクションです。ですが、本当の話かと錯覚してしまいそうになります。

感想

登場人物のいろんなところに共感できてしまうので、
物語にスッと入り込んだ感じです。

崇やその友人との会話は難解で、
そこはついていくのがやっとなんですが。。。

智哉は「悪魔」に簡単にコントロールされてしまった感じもしますが、
智哉が学校や家庭で置かれていた環境や、「悪魔」と対峙した状況を考えると、
無理もないかなと思い直しました。

「悪魔」が簡単にコントロールできる人物として、
智哉を選んだということもできるわけで、そう考えると納得です。

すなわち、これはフィクションですが、
実際に起こりえる話ってことになります。おー恐っ。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
410426007X
No.19:
(5pt)

インテリの決壊- 古いテーマだけど

講談社のSYに勧められて読了。ブンガクとしてははっきり言って古臭い。インテリが生きる目的を見つけられずに狂っていくという筋書きは、明治時代からある。たとえば、『それから』によく似ていると思う。結末とか特に。代助を狂わせたのは三千代との恋愛だったが、崇を狂わせたのは無差別犯罪だった。恋愛もこの殺人も、(文字通り)無差別で非論理的だというところで似ている。明治時代の昔から、小説の主人公たちは非論理的出来事に弱い。

クラシック関係の人が読んだら怒るだろうなあ。「これは一体何なのだろう?」って、ラジオから流れるクラシック音楽に対する崇の疑問だが、一般読者の「ブンガク」に対する疑問と重なる。ブンガクも所詮、ちんどん屋に毛が生えたような作家たちと、馬の尻から伸びた毛のような批評家とかの戯言に過ぎないものなのかもしれない。平野啓一郎は、その辺自覚してこんな挑発的な書き方しているように思える。ただのナイーブな人じゃないのだろう。

エンターテイメントとしてははっきし言ってとてもおもしろいし、久々にブンガクって何だろうって考えるきっかけになった。結末が気に食わないんだが、印象度を加味して五つ☆。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
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No.18:
(5pt)

素晴らしき現代(日本)の写実

想像や未来の予知などと言うよりは、明らかに現状を写実したものに近い。初めに素晴らしいと言ったように私自身はこの事を高く評価したいが、それでも同時にこの小説に欠点があるとすればその写実性になるだろうとも言わねばならないと思う。つまりそれは写実以上のものではない、現代日本に蔓延する病理とそれに対して実際にある悲鳴や批判、戸惑いやさらには共感、支持など、そういう実際にあるものだけをよく描いた、という「だけ」という言い方も恐らく全くの不可能ではないだろう、という事だ。その場合、本作の極めて優れた長所や意義はそのままケチをつける理由にもなる。実際本作で語られることは極めて切実で我々の身に、いや心に迫ってくるが、「なぜ人を殺してはいけないか」という問いを初めとして、どれもこれも殆どがどこかで聞いた事ある事ばかりである。小難しい言葉で飾られた思想のごときものも実質は同じであり、結局のところそれは今の時代の状況、現代人の抱える思いや言葉を代弁し語り、時代精神をそのまま描いただけなのである。本作のそういう時代精神・時代状況の写実は専ら殺人事件や犯罪をめぐる諸問題や諸言説を対象としている。責任能力や精神病の問題から警察の取調べの問題まで現代日本で騒がれる犯罪関係、法律関係のあらゆる問題が本作内には凝縮され扱われていると言えよう。それは私としては高く評価できる極めて意義ある事に思えた。
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No.17:
(5pt)

現実から目をそらすな!

読み終えて30分くらい放心してしまった。
未成年の犯罪、家庭内の犯罪、家族の崩壊、ネット社会の闇…、ある事件を通して現代性を描ききっている。
そして考えたくもないが、家族というものが、その言葉だけで力を持っていた時代は終わった、その言葉が何かを繋ぎとめているというのは幻想に過ぎないと、喉元に突きつけてくるかのような救いようのない結末をもって、じゃあどうすれば?の前に、まずはこんな時代だという現実を正しく認識しろと言わんばかりだ。
「ホテルルワンダ」という映画の中に、「(難民や内戦をニュース映像で見て)可哀想ね、と言いながら食事を続ける(先進国の人々)」という意味のセリフがあるが、この本は、読後未成年や家族間の犯罪などのニュースを見ると、食事が続けられなくなる位の威力を持っている。
その種の犯罪が、自分の住む町で起こったと考えられる位、その恐ろしさが皮膚感覚に迫ってくる。
少年の母親の描写も秀逸。
親子関係…特に女親と息子の間には、多かれ少なかれこういう面があると思う。
だからこそ、この描写が一番恐ろしかった。
人に勧めにくいが、現実に起こっていることを描ききっていること、文学的に極めて高度な構築力があること、現実を直視するという意味で、覚悟をして読んで欲しい。
自分より若い人が、これを書いたということにも、ショックを受ける。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
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No.16:
(5pt)

現代小説のあるべき姿

純文学が日本の現在を描くことは、ありそうであまりない。ネット社会の現実取り込もうとするとアホらしい小説になってしまいがちなところ、さすが平野啓一郎!ジジイ作家はたぶん理解が及ばないところもわかった上で、知的レベルが高く、読むに値する、馬鹿馬鹿しくない作品になっている。

エンタメ/ミステリとして見るとそもそものプロットにも強引な展開にも難があり過ぎ、エンタメ寄りの物語にしてしまったため、純文学としても?なことになってしまっているものの、この野心作はかなりの成功を収めたと言っていいのではなかろうか。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
410426007X
No.15:
(4pt)

コインロッカー・ベイビーズを彷彿とさせる純文学

多くの方の評にあるのが、その時代の先取り。いじめ・引きこもり・無差別殺人など、この作品を追うかのように現代は進んでいる。シンクロニシティという言葉が非常に合う。本屋によってはミステリーかのように売っているところもあるが、純粋な純文学。作者もその派手なプロフィールばかりが取り上げられているが、その筆力は圧倒的である。家族の姿をさりげない言葉で描写し、心の不安も時代の不安も書いている。ただし「悪魔」の演説は、時代の闇を示すものであるが、まだ不足であった。共感するところが少ない。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
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No.14:
(5pt)

ドストエフスキー的興奮で、寝食忘れて読む

凄い。
 ドストエフスキー没して百年余。ネットや映像等のメディア内では、誰もがラスコーリニコフになりうると同時に、誰もがラスコーリニコフを裁く判事となりうるし、イヴァン・カラマーゾフに殺人を示唆されたというスメルジャコフになりうる。そしてこの小説においては、スメルジャコフ的遺伝子をもち、スメルジャコフ的成育環境にあった者たちの復讐とも言うべき事態が起こる。
 この小説の凄さは、ドストエフスキー的な対話を軸に、ネットやメディアに溢れる言説を本物そっくりに活写し、かつ登場人物ひとりひとりの血を、体温を、リアルに濃密に伝えてくることだ。
 残虐な連続殺人に対して、メディアの新情報を今か今かと待ち、残虐な事実を知るたびに、やり場のない怒りを紋切型の喋りでしか表現できないもどかしさに腹立つ、という状況は、まるで現実そのもので、犯人の少年や家族の言葉は雑誌やテレビというメディアを通して、実在の事件そのものだ。そこに生身の少年がリアルに描かれることで、コメンテーターや教育者の正義の言説の空疎さが浮き彫りになってしまう。
 殊に沢野一家の悲劇は、前半のリアルな一家団欒の描写を経て、痛ましく胸に迫り、はからずも平成のスタヴローギンとなってしまう沢野崇の造形は真に魅力的だ。
 かなり前に同じ作者の「高瀬川」のレビューで「リアルな細部はおもしろいけど、急にエラソーな作者がカオ出すと興ざめ」と書いたけれど、平野啓一郎がここまでの構築力を持つに至るとは……不明を恥じる。ドストエフスキー以来のドストエフスキー的興奮で、寝食忘れて読んでしまった。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
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No.13:
(5pt)

大江健三郎以来の純文学継承者!

主人公をとりまく日常を描写した幕開けから既に不穏な雰囲気。どんな事件が起きているという訳でもないのに、登場人物たちが生活の中で感じている不安は、読者である我々が今現在抱えているもやもやしたものと同様であり、その分析力、および筆力に脱帽である。。
 人物描写がカテゴライズされすぎというきらいはあるが、ケータイやネット問題、雇用や生活不安、教育、政治等現代社会が抱える負の要素をうまく一人一人に背負わせて交互に語らせる展開はスリリングであり、読み手のページを繰る手を休ませない。
 特に、絶対に好きになれないだろうエリート公務員でモテ度も高い「崇」は作者の代弁者のようでだ。論理の肥大化した「悪魔」と徐々にシンクロしてきて同一人物か?と思わせ、ミステリー要素も抜群である。
 大江健三郎が神話的、土着的であるのに対し、作者は現代的で都市的という違いはあるが、その小説の作法というか、文学に対する姿勢は非常に近しいものがあるように感じる。
 デビュー10年にして、ようやく私は作者の作家としての才能を骨の髄まで感じている。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
410426007X
No.12:
(4pt)

難解ながら、文明批評小説の力作

吉田修一が『悪人』を書いたように、同じ純文学系の平野啓一郎が「殺人事件」をモチーフにした小説を書いた、というのでミステリーファンの私としては初めて彼の作品を手にとって読んでみた。しかし、ボリューム満点の本書は、いささか難解だった。

 上巻の終わりのほうになってやっと事件が起こる。2002年10月、全国各地で次々と男性のバラバラ死体が発見される。それぞれの遺体には社会からの“離脱”を呼びかける犯行声明が付けられていた。やがて被害者は宇部市に住む平凡な会社員と判明し、前代未聞の広域死体遺棄事件に発展する。

 京都府警の捜査本部は、被害者の兄のエリート国家公務員を容疑者として逮捕する。だが、彼は断じて口を割らない。やがて鳥取市で起きた少年犯罪から意外な犯人が浮上し、さらに東京で連続2件の爆弾テロ事件が勃発して、事件はまったく予想外の悲劇的・絶望的な結末を迎える。

 こうした社会派ミステリーの枠組みを縦軸に、作者はネット社会の闇、いじめ、不登校、ひきこもり、家族崩壊、報道被害といった現代の抱える社会問題を横軸として物語に取り込んでいる。そして各地の方言で語る個性的な登場人物たちが、生々しくも壮大な思想ドラマを展開する。

おりしも、東京・秋葉原の無差別殺人や八王子駅ビルの書店でのアルバイト女子学生殺人という衝撃的な事件が続けて起きた。犯人はいずれも「誰でもいいから殺したかった」と供述したという。いったいなぜ、こんな無気味な事件が続くのか。“通り魔”はどこから私たちのところへやってくるのか。
 本書は、現代社会が直面するこの難問に真正面から取り組んだ、文明批評小説の力作である。
決壊 上巻Amazon書評・レビュー:決壊 上巻より
410426007X

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