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新千年紀末古事記伝 YAMATO



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【この小説が収録されている参考書籍】
新千年紀(ミレニアム)古事記伝YAMATO (ハルキ文庫)

新千年紀末古事記伝 YAMATOの評価: 5.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.50pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(5pt)

歴史を信じちゃいけないよ

『千年紀末古事記伝ONOGORO』に続く、鯨統一郎版古事記伝である。前作では稗田阿礼が巫女の力で感じ取る物語を綴る体裁であったが、続編にあたる本書ではヤマトタケルは“世界”を創るために根源へと遡る。

前作ではコノハナサクヤ姫とニニギとの間に火照命、火遠理命、即ち海幸彦、山幸彦が生まれて、古事記伝は閉じられるが、本書はその続きでこの2人の兄弟の話から始まる。
ちなみにこの山幸彦と海幸彦の話は浦島太郎の原型となったとされる。そこから物語は卑弥呼と邪馬台国の話になり、その後彼女とその仲間イワレビコとイツセノ命兄弟の反乱とナガスネビコとの戦い、そしてイワレビコと卑弥呼が和解し、お互い協力して新しい国を創る。それがヤマトの国の始まりだ。

その後、ヤマトの国の変遷が語られる。ミマキイリヒコは世の中を襲った疫病から蛇神の子を捜し出して国民を救い、眉目秀麗の王イクメイリヒコはその愛妻サホビメを愛するが、サホビメは仲の良い兄サホビコに王を討ち斃すことを頼まれ、兄と夫との愛情の狭間で苦しみ、兄と共にその身を業火に焼かれて死んでいく。イクメイリヒコは遺されたサホビメとの児ホムチワケが成長しても口が利けないことを心配し、博識のタジマモリに頼んで食すれば言葉が喋れるようになると云われている時じくの香の木の実のことを聞く。その実は一方で食すれば時を自由に操る力を得るという人智を超えた霊力も備わる危険性があった。しかしその懸念も取り越し苦労でホムチワケは話すことが出来るようになる。

そしてオオウスとオウスという双子を持つオオタラシヒコの時代では大らかだが、女に目がない兄オオウスと美しい顔立ちをし、剣の達人でもある弟オウスのいずれかに王位を継がせることに悩んでいた王はいつも微笑みを絶やさないオウスを得体のしれない危険な男とみなし、オオウスに継がせることに決めるが、オオウスは自分が妻に迎えようとしていた美人姉妹のエヒメとオトヒメに一目惚れし、父に内緒で自分の妻にしてしまう。それを知ったオオタラシヒコは弟のオウスに何とかするように命令し、兄の許に向かわすが、オオウスは父にその娘たちを返すように云われると断るや否やオウスに首と両手両足を一瞬にして切られてしまう。それを知ったオオタラシヒコは最愛の息子を殺したオウスに決して王位を継がせないよう、無茶な任務を命ずる。

それは無敵の大男と名高いクマソタケルを討つことだった。そしてオオタラシヒコは彼にたった10人の兵を与えて出兵させる。しかしオウスは女装してクマソタケルに近づき、討伐に成功する。その手際に感心したクマソタケルは自分の名前を授け、オウスはヤマトタケルと名前を変える。

ここでようやく冒頭に出てきた主人公ヤマトタケルの登場である。

その後もヤマトタケルは出雲の国の強者イヅモタケルの討伐、東方十二か国の平定を父より命ぜられ、その都度智略と大胆さで切り抜け、次々に任務を果たす。

それだけの功績を成しながらもヤマトタケルは父のオオタラシヒコからは賞賛の言葉が貰えなかった。オオタラシヒコは最愛の長男オオウスを始末したヤマトタケルをどうしても許せなかったのだ。
やがてヤマトタケルは今の三重県に当たる伊吹山に人々を苦しめている荒々しい猪の出現の話を聞いて退治しに出かけるが、猪は今まで国の平定のためとは云え、智略、策略を弄して様々な人を殺してきたヤマトタケルそのものだと述べる。そしてヤマトタケルはかろうじて妻の美夜受姫の助けを借りて猪を退治するが、それまでに吸った瘴気にやられて助からないことを悟り、時を遡る実、時じくの香の木の実を食べ、息を引き取り、白鳥に転生する。

しかしヤマトタケル退場後もその後も子々孫々の物語が綴られていく。今の韓国に当たる新羅と百済を攻めていった後の神功皇后となるオオナガタラシ姫の話、後の応神天皇となるホムダワケのエピソード、現在日本最大の古墳として教科書にも記載されている仁徳天皇となるオホサザキが美しく、身体つきも見事でなおかつ聡明なイワノ姫という妻を持ちながらも漁色家で浮気性で妻の目を盗んでは各地の女や女官に手を出していたという話、その息子イザホワケノ王と兄の座を虎視眈々と狙うスミノエとの戦いの話、等々、後のヤマト時代の天皇となる人物たちのエピソードが語られていく。

歴代の大王たちがなんとも本能の赴くままに振る舞うことよ。
前作では男と女の交合いこそが国創りだと云わんばかりにセックスに明け暮れるという話が多かったが、本書は神々から人間に登場人物が変わっただけあって、神々よりも理性はあるため、自重する面も見られるが、それでも妻がありながらも美しく若い女性、また熟れた肢体を持った女性を見ると見境なく交合う話が出てくる。
東に行っては美しい娘に永遠の契りを誓いつつも西に行ってまたも美しい女性に出会えば后として迎えるとうそぶく。男のだらしなさが横溢している。更には自分こそが一番強いことを証明するため、各地の強者たちと戦い合う。それは身内も同様で王の兄の座を虎視眈々と狙って討ち斃そうとする兄弟げんかも繰り返される。
昔から男は欲望のままに生きる子供っぽい生き物であるのだと殊更に感じる一方、昔の女性の一途さに感銘した。

はっきり云えばそれら歴代の統治者たちの物語にミステリの要素は全くない。前作ではアマテラスと交合うために天の岩屋戸に籠ったスサノヲがアマテラスの背中に短剣を突き立てて殺害しながらも密室の中から忽然と消える密室殺人が盛り込まれていたが、本書ではそんな要素も全くない。せいぜいヤマトタケルが各地の強者を成敗するのに智略や奸計を用いたくらいだ。

従って単純に古事記の解説本のように読んでいたが最後になって本書の意図が判明する。

前作の復習になるが本書の内容は現在伝えられている古事記のそれと微妙に異なる点がある。本書に記載された物語について私はさほど詳しくないのでどこまでが嘘で真実かが解らないのだが、その旨を問い質すと、この世は邪悪な意志を持ったヤマトタケルによって創られた世界だからそのまま真実を書くと邪悪なものになってしまうので太安万侶によって稗田阿礼が口伝えした話を少し改変したものであるというのが本書でも改めて述べられている。

しかし本書ではさらに続きがあり、あるオチ(あえて真相とは云わない)が明かされる。

このオチを是と取るか否と取るかは読者次第。ただ本書における鯨氏の意図は理解できる。

歴史とはずっと研究が続き、その都度生じる新たな発見で内容が改変されていく学問である。従って100人の学者がいれば100通りのの解釈が生まれる。鯨氏はこの歴史の曖昧さ、あやふやさこそがそれぞれの読者が学んできた歴史という先入観を利用してひっくり返すことをミステリの要素としていたのだ。
デビュー作の『邪馬台国はどこですか?』はまさにそれをストレートに描いたもので、本書は逆に古事記のガイドブックのように読ませて、それぞれが知っている古事記との微妙な差異を盛り込むことでミステリとしたのだ。

ただ正直に云って本書は古事記をもとにした黎明期の日本の統治者たちのエピソードを綴り、それをヤマトタケルが造った世界であるという一つの軸で連なりを見せる連作短編集として読むのが正解だろう。
私は1つの長編、そしてミステリとして読んでいたため、どんどん変遷していく時の治世者たちのエピソードの連続に、果たしてどこに謎があるのだろうと首を傾げながら読んだため、読中は作者の意図を汲み取るのに実に理解に苦しんだ。

もしかしたら本書の妙味とはこれを読んで古事記の内容が解ったと思ってはならない、古事記とは異なる点が多々あるからそれは自分で調べなさいと読者に調べて知ることの歓びを与えることなのだろう。だからこそ巻末に記載された参考文献一覧に、「本文読了後にご確認ください」と作者が注釈を入れているのだろう。

解らないことは自分で調べよう、じゃないと嘘をそのまま鵜呑みにするよ。
それが今まで4冊の鯨作品を読んできて感じたこの作者の意図であり、警告であると思うのである。


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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

新千年紀末古事記伝 YAMATOの感想

鯨流の古事記ONOGOROの続編です。前作を読んでから読みましょう。
一応、仕掛けらしきものはありますがミステリーとは言えないでしょう。
なんとなく古事記を知りたい方がなんとなく知った気になれる・・・そんな小説です。


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mkaw11
HAAP6CBX

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