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ウォータースライドをのぼれ



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【この小説が収録されている参考書籍】
ウォータースライドをのぼれ (創元推理文庫)

ウォータースライドをのぼれの評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(8pt)

極彩色な面々と女たちの共闘と

ニール・ケアリーシリーズ第4弾。
聞くところによると実質的なシリーズ最終作との事で、次の『砂漠で溺れるわけにはいかない』はおまけのような作品らしい。しかし逆に私は読後の今、この愛すべき人々との別れが実に惜しくてならなく、おまけの1作とはいえ、もう一度この仲間たちと逢えるのがなんとも嬉しい。

さて今回もグレアムの訪問とニールの後悔で幕を開けるが、前3作と違うのはニールの許には愛すべき存在カレンがいること。そして任務も今まではロンドンに中国、ネヴァダ州の山奥と移動に移動を重ねてきたが、今回は前作の舞台だった“孤独の高み”に仕事が舞い込んでくるという設定。したがって登場人物も3作目と重なる人物が多く、お馴染みの顔ぶれが出揃う。物語に挟まれる彼らとのやり取りにニールが彼の地に溶け込み、もはや村の住民の1人として認知されていることに気付かされる。
とうとうニールは安住の地を見つけたのだ。

しかしそんな安息の日々も長くは続かず、ポリーを巡って元FBIで渦中のキャンディ・ランディスに惚れてしまっている私立探偵チャック・ホワイティングに、謎の殺し屋“プレーオフ”、さらに元凄腕の探偵で今は極度のアル中で落ちぶれた生活を送っているウォルター・ウィザースが絡んでくる。さらにジャック・ランディスには悪徳建設業者の隠元豆ジョーイが付きまとっている。
やはり父親代わりのグレアムはまたしても災厄の天使であったわけだ。

本作は定点で繰り広げられる物語と異色な展開であるに加えて、今まで若くナイーヴな探偵ニールを中心にした“男”の物語であったのだが、今回はレイプの告発をした有名人の秘書とカレンの存在、そしてその2人に加わるその有名人の妻キャンディ3人が主導で展開する“女たち”の物語であるように感じた。

まずポリー・パジェットのインパクトが強烈。よくもまあ、訳者の東江氏はこんな読みにくい田舎訛りの文章を案出したものだ。原文がどのように書かれているのか非常に興味をそそる、それほど痛快な仕事だ(なにしろ“ちんちん”の田舎訛り訳語が「でっちぼ」なんだから参る。しかしつくづく金玉系が好きだねぇ、原作者もしくは訳者は)。
この一見脳足りんの尻軽女の風貌で教養の欠片さえも感じさせないポリーに教育を施し、裁判で衆人の同情を惹く人間に育てる過程は映画『マイ・フェア・レディ』、『プリティ・ウーマン』を思わせる。

さらにそのポリーが心に純粋な塊を持っており、次第にカレンの見方が変わっていくのに加え、夫の浮気に憤懣やるかたないキャンディの懐の深さに感服。特にポリーの妊娠が発覚してから敵同士であるべき存在キャンディが共に赤ん坊の名前を考えている様子など、男たちが想像できない女性たちの同族意識ともいうべき不思議な心理構造を見せる展開はまさに女たちの物語というべきシーンだろう。

こんな先の読めない展開と三文悪党どものジャムセッションとも云うべき、題名のとおりウォータースライドを滑るが如く二転三転するストーリー展開はクライムノヴェルの巨匠エルモア・レナードの作品を思い起こさせる。
そしてその本家に勝るとも劣らない痛快な展開が待ち受けている。

エンタテインメント小説を紡ぎ出していたウィンズロウがTVというショービジネス界のスキャンダルとまさにエンタテインメントど真ん中の題材を描いた本作には斯界に蠢く巨額の浮利と思惑が交錯し、それぞれが自縄自縛状態に陥っていることを如実に描く。特にTVで幸せなアメリカ夫婦の象徴という虚像を担ってきた当事者ジャック・ランディスの有名税ともいうべき不自由な暮らしぶりなど考えさせられるものがある。

また逆に虚栄を売っているこの界を揶揄したギャグも盛り込まれている。特にニールが適当にでっち上げたポルノ映画のシリーズが一人歩きし、隠れ蓑として作った偽名が逆に注目を集めるくだりなどは実に面白い。

とにかく本作は前3作に比べると、危機一髪のドキドキハラハラ感よりもスラップスティックコメディ的な予想の斜め上を行く展開が実に面白く、何度も声を上げて笑ってしまった(特に伝説の殺し屋“プレーオフ”の末路が実に悲惨ながら笑ってしまう)。
したがって今までこのシリーズの売りでもあった若き探偵ニールのナイーヴさはほとんど出てこなくなっており、逆に恋人のカレンが正義感を振り回し、ニールの役割を果たしているようだ。しかし私は前作でニールは一皮向け、一人の男として成長したように捉えていたので全く違和感はなかった。

しかしもう残り1冊になってしまったのか。面白い小説というのは本当にクイクイ読めて時間が経つのが早く感じてしまう。残り1作品、物量的には最も薄いがするめを噛みしめるように読み、じっくり味わいたい。

Tetchy
WHOKS60S

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