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漂流街



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【この小説が収録されている参考書籍】
漂流街
漂流街 (徳間文庫)
漂流街: 〈新装版〉 (徳間文庫)

漂流街の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

どす黒い暴力の連鎖

『不夜城』で衝撃のデビューを果たした元書評家坂東齢人氏こと馳星周氏。本書は彼の4作目に当たる作品。
今回も主人公のマーリオは日系3世のブラジル人で純粋な日本人ではない。鹿児島から移住してきた祖父太一の許で育てられ、厳しい教育と家督制度を叩き込まれ、そして激情家の太一の血を色濃く受け継いだ彼は日本人ともブラジル人ともどっちつかずの風貌、そして時折卑下したかのように呼ばれる“あいのこ”という言葉にどす黒い憎悪を抱き、押え切れない暴力的衝動を常に抱えている。

彼が行く所には屍の山が築かれ、そして彼に関わった人間は押しなべて不幸になる。胸に抱えたどす黒い憎悪、欲望が次第に肥大し、理性で押え切れなくなっていく。
彼の憎悪の根源は日本人なのに日本人として認められない血の呪いと彼を育てた日本人移民の祖父太一の存在だ。

彼の祖父佐伯太一は鹿児島からブラジルに移り、昔ながらの厳格な家長制度を重んじる男。彼が家族の全てであり、彼に従わない者は家族ではないという性格の持ち主。だから彼に歯向かう者には容赦はしない。そうやってマーリオの母と父は死に至った。
暴力は暴力を生む。これは昨今定説になっているがマーリオは祖父を憎むがゆえ、また彼もまた祖父と同じ性格になっていった。マーリオの行き着く先は闇。これはそんな真っ黒な物語。

そのマーリオが地獄への道行きを辿るきっかけが大金とヤク。それが本書のメインストーリー。
鬱屈した日常に嫌気が差したマーリオがひょんなことから漏れ聞いた関西のやくざと中国マフィアとのデカい取引の金を強奪し、あらゆる追手から逃げるというものなのだが、この強奪に至るまでが非常に長い。取引の情報を手に入れるのが49ページとストーリーの中でも非常に早い段階なのにもかかわらず、実際に実行に至るのは470ページあたりなのだ。

この間色んなしがらみに拘束されるマーリオの日常が描かれる。とにかく長い。
マーリオが犯罪に至るまでの心理を描くためなのかもしれないが、ストーリーには必要のない殺人やブラジルが日本に負けた腹いせに六本木のバーで勝利に浮かれる日本人サポーターたちを襲撃するシーンがあったりととにかく寄り道が多い。

しかしそれが退屈かと云われれば、そうではないと認めざるを得ない。文庫本にして770ページ弱の厚みを一気に読ませる求心力を持っている。
とにかく全編に亘って語られる内容は金とドラッグ、セックスと暴力の連続。憎悪と怒りの応酬だ。誰もがギラギラしており、誰かを利用しようと手ぐすね引いて待っている。

残忍かつ凶暴な性格で兄貴分すらコケにして憚らない伏見。恨みは絶対に忘れない中国人マフィアのコウ。その体と美貌を武器にして世間を上手く渡り、マーリオを虜にしていくデリヘル嬢のケイ。マーリオと同じブラジル移民であり、東京に住む外国人と強固なネットワークを持つリカルド。元極道で銃の密売でしのぎを削っている山田。荒んでいるマーリオの心や外国人たちの心を安らがせる歌声を持つ盲目の少女カーラ。他にもデリヘルクラブの社長有坂、極上のプロポーションを持つコロンビア娼婦のルシアなど一癖も二癖もある人物が己の欲望のため、または他者の企みに巻き込まれて翻弄され、入り乱れる。

この暗黒の群像劇を描く馳氏の筆致はものすごい熱量で読者の眼前に言葉を畳み掛け、叩き付ける。
いつの間にか時間を忘れ、ふと顔を挙げると大きく息を吐く自分に気付く。掌は汗をかいているのに指先は冷たくなっている。そんな魔力を秘めている。

だからこそ最後の物語の収束の仕方に不満が残る。

全てが上手くいくと見せかけ、やはり世の中そんなに甘くはないと思い知らせることがノワールなのか?
“あいのこ”と呼ばれることを嫌悪し、そのたびに心にどす黒い憎悪をもたげさせながらもどうにか自制し、生きてきたマーリオの最期に全く美学がない。
こういうと「美学を求めるなら他の小説を読んでくれ。こちとらそんな小説は書きたくないんでね」と恐らく馳氏はそう嘯くことだろう。しかしやはりそこまでの物語と心をつかんで離さない文章があるだけに勿体なさを感じるのだ。

しかしこれもまた物語。しかし私が『不夜城』を読んだ時の違和感や不快感は本書でもまだ解消されなかった。
果たして私は馳氏のよき読者になれるのか。今後彼の作品を読むことで試してみよう。


▼以下、ネタバレ感想

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