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(短編集)

今夜はパラシュート博物館へ



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今夜はパラシュート博物館への評価: 5.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.50pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

どんどん謎を明かさなくなっていく

シリーズ5作ごとの節目に発表される短編集。本書は第3短編集になる。

まず開巻初頭を飾る「どちらかが魔女」は懐かしのS&Mシリーズの1編。
アシモフの黒後家蜘蛛の会を彷彿とさせる気の置けない仲間たちが集まってミステリの集いで語られるある不思議な現象が本書のテーマ。
しかし謎自体は大したことがなく、真相は思った通りだった。そして再会した2人が結婚するというサプライズも予想どおり。本書ではやはり本家のアシモフの短編のように執事の諏訪野が謎解きをする趣向を愉しむべきだろう。しかしこんな謎が解けない萌絵は劣化したのか?

続く「双頭の鷲の旗の下に」もまたS&Mシリーズ延長戦のような短編。
高校の文化祭というのは一種独特の雰囲気があって私もいい思い出がある。授業とは離れてクラスで一つのことに精を出し、普段話さない人とも色々協力し合って夜遅くまで残って創作に励む、その時しか体験できない、そして永遠に心に刻まれるムードがそこにある。本書を読んでまずそれを思い出した。
本作に登場する謎の正体は至極簡単で、これを実に解りやすく絵解きしているところに本作の妙味がある。その現象を実に解りやすく解説してくれて恥ずかしながら私も同じ専門分野にいながらそのメカニズムを初めて根本的に理解することが出来た。
とはいえ、本書の一番の読みどころは文化祭のシーンでも犀川&喜多コンビによる謎解きでもなく、本編で登場しなかった国枝桃子の夫が初登場するところにあるだろう。国枝桃子の意外な姿と素顔が見られるのが実に貴重だ。

そして次の「ぶるぶる人形にうってつけの夜」では小鳥遊練無が登場する。
学校の怪談とは色々あるが、本書ではぶるぶる人形という奇妙な紙人形の話を検証しに、有志が集まって夜の学内を件の人形を求めて闊歩する。実にこれだけで楽しいお話だ。
ぶるぶる人形の正体は実に呆気ないものだが、フランソワの正体に本書の興趣がある。そして本作はS&MシリーズとVシリーズを結ぶミッシング・リンクを仄めかしている点でシリーズ読者には読み逃せない話となっている。

本書で一番ミステリ風味に溢れているのが「ゲームの国」。副題に「名探偵・磯莉卑呂矛の事件簿1」とあるからシリーズ第1作になるのだろうか。
とにかく横溝正史の金田一シリーズのパロディとも云える世界観の中、名探偵を気取る磯莉卑呂矛が事件を快刀乱麻の如き解決すると思いきや、森ミステリにありがちな実に脱力系のオチ。
つまり本書で森氏がやりたかったのはミステリの雰囲気を盛りに盛って、実にミステリらしい解決を行うという物なのだろうか。とにかく壁本的作品であることには間違いない。

次の「私の崖はこの夏のアウトライン」もまた切れ味が悪い。
改行と短いセンテンスで語られる詩的な文章で語られる幻想的な話だが、オチは実にありがち。陳腐なオチを幻想的に糊塗しようとして明らかに失敗している。

次の「卒業文集」はそのタイトルが示す通り、ある小学校の一クラスの卒業文集の文章で構成された作品だ。
林間学校のこと、クラスで飼った兎のこと、遠足で行った遊園地のこと、学習発表会といった学校生活の思い出や学校の先生、音楽家、小説家、数学者、冒険家といった将来の夢について語っているが全てに共通して語られるのは担任の若尾満智子先生の思い出についてだ。そしてなぜ先生がみんなの思っていることが解るのかと不思議がる。そしてみんなが全て満智子先生が大好きだったことが綴られている。
最後に判明する事実を知って思わず読み返すと満智子先生がやってきたことと彼女に鼓舞された行った生徒たちの全てが初読時よりも鮮烈に胸に飛び込んでくる。ある一クラスのそれはチャレンジングで、そして忘れられない強烈な一念だったことが改めて強く印象付けられるのだ。
これが本書におけるベストだ。

「恋之坂ナイトグライド」はまた雰囲気だけの物語だ。
夜を散歩するかのように恋之坂に向かう2人の男女。恋之坂では最近酔っ払いが凍死したようだった。そして恋之坂でのトリップとはビル風によって起きる上昇気流に乗って飛べることだ。でもとあるどこかで飛べる場所がある、そして上昇気流に乗って飛ぶ2人の男女のイメージは近年になって作られたどこかのCMみたいだ。もしかしたらCM製作者に森作品のファンがいて、この作品のイメージを借用したのかもしれない。

最後の「素敵な模型屋さん」は模型好きな少年がいつもどこかに自分が作りたい模型の部品が売っている夢のような模型屋が出来ないかと待ち焦がれている話。
ここに登場する少年は森氏自身のことだろう。幼い頃からラジコン飛行機に憧れ、鉄道模型、無線と次々と色んなものに興味を持ち、創作意欲を燃やす。自作のロボット模型を学校に持っていくと先生に親に作ってもらってはいけないと叱られたというエピソードも作者自身の苦い思い出だろう。
そんな彼には彼の願望を叶える模型屋が近くになかった。毎日模型雑誌を読んでは思いを馳せる少年。しかしある日突然家の地下室に模型屋が出来ていた。そこはまさに自分が夢見た全ての部品が揃った模型屋だった。
これは森氏自身の老後の愉しみを含めたお話だろう。
誰しもこのような夢を抱くのではないか。本好きの私は自分の気に入った本、もしくはミステリ専門店を開くのが将来の夢である。これはいつまでも子供である男の願望が詰まったお話だ。


森氏の第3短編集である本書はS&Mシリーズの短編2作で幕が明け、Vシリーズの短編1作がそれに続くという、それまでの短編集とは違った作りになっている。

違った作りというのはそれまではノンシリーズの短編でいきなりシリーズ作とは全く雰囲気の違った森ワールドに誘い、悦に浸ったところにシリーズ短編が挟まれるという箸休め的な存在だったのが、いきなり導入部からシリーズ物、しかも完結したシリーズの2編から始まることでいきなりタイムスリップしたかのような錯覚を覚えさせられる。

それら2編は実にファンサービスに富んだ作品で、『数奇にして模型』で潜烈なイメージを残しながらも1作でしか登場しなかった西之園萌絵の従兄、お姉キャラの大御坊安朋が再登場し、その後のエピソードが語られる。更にシリーズ通して印象的な脇役だった国枝桃子の旦那さんも初お目見えと、今までのシリーズキャラに彩りを与えるような趣向が実に微笑ましい。

もう1作は結婚したとされていながら長らくその私生活が明かされなかった国枝桃子の結婚相手が登場する実に貴重な1編。本作のメインの謎である細かく穿たれた穴の真相も専門的見地から見ても実に解りやすく解説されており、読み応えあるが、それよりも慌てて退散する国枝女史の姿が実にチャーミングであり、国枝ファンは一層好きになるのではないだろうか。

シリーズと云えば本書では新しいシリーズキャラクター磯莉卑呂矛が登場する。名探偵らしく振る舞うことを信条とするキャラで、正直彼の登場する「ゲームの国」では森氏の皮肉たっぷりの真相ゆえに実力は未知数のままだ。特にこの作品はミステリ的興趣をふんだんに盛り込みながら、特に解決にも寄与しないという森氏の意地の悪さが前面に出ており、個人的にはいただけない作品である。本当にシリーズ化するのだろうか?

第1、第2短編集では長編では見られない抒情性が豊かで実に私好みの話が多く、俄然期待値が高まったこの第3短編集の内容はしかし、苦言を呈するようだが明らかにレベルが落ちているとしか思えない。
「ゲームの国」などは森氏のミステリに対するスタンスが前面に出ているとは理解できるが、作品の出来としては単純に雰囲気だけを盛って書き殴ったような出来栄えであると云わざるを得ない。どうも森氏の短編の内容が劣化しているように思えてならない。

というよりも物語のメインの謎よりも聡い読者しか気づかない仕掛けに力点が一層置かれており、ますます森氏独特のミステリ趣味が特化してきている。従って、気づかない読者は置いてけぼりを食らってしまうのだ。

例えば「どちらかが魔女」で犀川が披露する壁画に穿たれた釘の穴の謎の答えは作中で明示されない。これは調べなければわからない。
小鳥遊練無が登場する「ぶるぶる人形にうってつけの夜」の仕掛け(これはスゴイ)、個人的には最も嫌いな「ゲームの国」には各所に隠された仕掛け。だから題名は「ゲームの国」なのだろう。

さらに「恋之坂ナイトグライド」は出逢ったばかりの男女の夜中のランデヴーと見せかけながら、実は…という真相も本作では明かされず、解る人だけがその興趣に気付くことが出来るのだ。

つまり前の2つの短編集と比較してもミステリ色が濃くなっているのが本書の特徴と云えよう。

しかし前の2短編集を読んでいる私にとってミステリよりも情緒が前面に出た短編を求めて臨んでだけに今回は実に物足りない味わいになってしまった。

期待に応えたのが「卒業文集」であり、「素敵な模型屋さん」だ。

「素敵な模型屋さん」は趣味を持つ者が誰しも抱く願望を描いた美しい作品。最後に夢のような模型屋に出くわした少年自身が模型屋の老主人になるところは実に心温まる。

また小学生の作文で構成された実験的な作品である「卒業文集」がなかったら本書の評価はかなり下がっただろう。素朴でかつサプライズに満ちたこの作品の良さが逆に本書の評価を押し上げている。

長編ではミステリのガジェットに特化しながらもトリックに尖鋭化して動機に全く固執せず、いわば長い犯人当てクイズのようになってきている森氏。だからこそ短編に期待したのだが、短編もまた叙述ミステリに先鋭化し、さらに読者にそのトリックを明かさないという変則技に出た森氏。

ミステリ好きの私にとってこのどちらの趣向もあまり好ましく思えない。
次回作からの趣向がどのようになっていくのか。期待しない方がいいのではと思う自分がいる。


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Tetchy
WHOKS60S
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(6pt)

今夜はパラシュート博物館への感想

第3短編集!森ミステリィの結晶体!

ジャム
RXFFIEA1

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