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スカイ・クロラ



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スカイ・クロラの評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

読んでるこちらもなんだか浮いているような感じ

飛行機好きの森氏がとうとうパイロットを題材にした作品を描いたのが本書。シリーズ物となっており、短編集を含む5作が発表されている。

何処とも知れない、しかし世界のどこかであることは間違いない場所でいつの頃なのかも解らない時代を舞台にいつも以上に仄めかしが多い文章で、世界観を理解する説明めいた文章はなく、主人公カンナミ・ユーヒチの一人称叙述で物語は断片的に淡々と進んでいく。

その内容はまさに空を飛んでいるかのように掴みどころがない。
それぞれが何か秘密を抱えているようだが、カンナミ・ユーヒチの一人称叙述で進むこの作品では全てが雲を掴んでいるかのようになかなか手応えが感じられない。それは主人公のカンナミをはじめ各登場人物たちがあまり人に関心を持たない性格だからだ。
戦時下の前線にいるパイロットや整備士などにとって今いる仲間はいつ死んでもおかしくない、つまり今日は逢えても明日は逢えるか解らない境遇であるため、他人と距離を置き、ほどほどに付き合う程度の人間関係を構築しないからだろう。だからカンナミが色々質問しても「それを知って何になる?」と云わんばかりに沈黙で応える。
しかし日数が経つと次第に打ち解けて断片的に自分のことや他人のこと、そして過去のことが断片的に語られていく。
まあ、現代の人間関係と非常に似通っていてある意味リアルでもあるのだが。

そんな独特の浮遊感を持ちながら進む作品はしかし、カンナミたちが飛行機に乗って空を飛ぶとたちまち澄み渡る空の青さと雲の白さとそして眩しい太陽の日差しの下で自由闊達に躍動する飛行機たちの姿とカンナミ・ユーヒチが機体と一体になって空を飛ぶ描写が瑞々しいほど色鮮やかに浮かび上がる。そして敵と相見える空中戦ではコンマ秒単位に研ぎ澄まされた時間と空間把握能力が研ぎ澄まされた皮膚感覚を通じて語られる。
それは人の生き死にを扱っているのになんとも美しく、空中でのオペラを奏でているようだ。飛行機乗りでしか表現できないようなこの解放感と無敵感をなぜ森氏がこれほどまでに鮮やかに描写できるのか、不思議でならない。

また飛行機の設備に関する詳細な説明や整備士の笹倉が話す種々の改造の件などは森氏が欣喜雀躍しながら書いているのが目に浮かぶぐらい微に入り細を穿っている。

淡々と進む物語は随所にそんな美しい飛行戦をアクセントに挟みながら、カンナミ・ユーヒチの日常と彼の仲間たちの日常、そして変化が語られ、そして徐々に物語が形を表していく。

カンナミの前任者クリタ・ジンロウは果たして本当に上司の草薙水素が殺したのか?
カンナミ、そして草薙が属するキルドレとは一体何なのか?

飛行機乗りの一人湯田川が任務中に行方不明になり、メンバーは他の基地に合流し、合同作戦に参加した三ツ矢碧とその仲間鯉目新技、彩雅が加わり、元の基地へと戻っていく。そこで初めてカンナミが赴任した基地が兎離洲という土地にあることが判明する。そして物語の終盤にようやくキルドレの正体が明かされる。

キルドレ、それは永遠に生きる存在。遺伝子制御剤の開発の途中で突然生まれた存在。そんないつ終わるかもしれない生にもはや記憶などは必要なく、そこには終わりなき日常を生きるだけの日々は浮遊感を抱えているだけだ。
死なない彼らは飛行機乗りとして戦場に駆り出される。それは永遠に続く生をどうにか終わらせるために。
彼らは何と戦っているのかも知らない。しかし目の前に敵があり、それが彼らが飛ぶ理由だ。空にいる時だけ生を感じることが出来るからこそ死と隣り合わせの世界で生きるために敵を殺しながら、死に憧れつつも生き長らえる矛盾を抱えて彼らは今日も空を飛ぶ。

南国の僻地で生活していた頃に読んだ私にとって、この変わり映えのない日常を生きる彼らの物語を読むには実に最適だった。
月曜日が始まったかと思うといつの間にか金曜日を迎え、そして土曜日になり一週間が終る。1日の休みを経てまた月曜日が始まるが、さしてテレビ番組を見るわけでなく、また塀に囲まれた中で暮らすだけの毎日ではどこかに行くことさえも許されない。
朝起きて仕事をして帰って日本から持ってきた録画を観て、読書をし、ウェブ鑑賞した後は床に就き、そしてまた朝が始まるだけの日常。そんな同じことの繰り返しを生きる私の生活と彼らの生活は非常に似通ったものを感じた。

この奇妙な世界での飛行機乗りたちの物語はまだ序章といったところだろう。
途中でカンナミたちの同僚となったエースを自負する三ツ矢碧は果たしてキルドレなのか?
かつて草薙の上司であった凄腕の敵パイロット黒豹との対決は?
などまだまだ語られるべき話は残っている。

地面から5センチほど宙に浮いたような感覚で読み進めた本書だったが、最後になってどうにかその世界へと着陸することが叶った。
森氏が開いた新たな物語世界。次作からじっくり読み進めていくことにしよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

スカイ・クロラの感想

本格飛行機小説。森さんらしい詩的な表現が多く、一気に読めた。これが時系列でシリーズの最後らしいので理解するためにも2作目以降も読みたいと思う。ただ、この1作だけでもミステリではないけれど森さんらしい美しい小説だなあと感じた。映画もまだ観ていないけど、、シリーズ全作読んでから観ようかな。飛行機に詳しくないので、特に空中戦を映画で観てみたいと思った。


ジャム
RXFFIEA1

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