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偽りの名画



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偽りの名画の評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
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No.1:
(8pt)

絵画の蘊蓄満載!

アーロン・エルキンズはスケルトン探偵ギデオン・オリヴァーシリーズが有名だが、実はもう1つシリーズ物がある。美術館学芸員クリス・ノーグレンシリーズである。
一方は骨の鑑定家、もう一方は学芸員と全く毛色の違う2つのシリーズだが、双方比べても質が同じであるのはこの作家のすごいところ。このシリーズでは美術に関する専門的な知識、トリビアがふんだんに盛り込まれ、知的好奇心をくすぐる内容が横溢している。

クリスはベルリンに出張している上司に呼び出され急遽彼の地に飛ぶことに。ベルリンの美術館で開催される「ナチ略奪名画展」の作品の中に贋作が含まれており、それを見つけ出すようにというのが出張の目的だった。調査の中、しかしその上司は殺されてしまい、クリスも事件の渦中に引きずり込まれてしまう。

西洋美術に第2次大戦中のナチスの美術品強奪が絡むのはミステリの題材としては非常に魅力的であるのだろう。そしてシリーズ第1作目としてこの歴史的事実と贋作という美術ミステリには無くてはならない題材を絡めたのは作者のシリーズに対する創作意欲と固定ファンを掴むための宣伝効果双方によるものだと思う。
で、このシリーズで主人公を務めるクリスは全くギデオンとは違うキャラクター。ギデオンが妻ジュリーといつも仲睦まじいのに対し、クリスは妻と離婚寸前という情けないキャラクター。しかも人使いの荒い上司へのグチも云う。が、なぜか女性にモテるという面白いキャラクターであり、非常に人間くさくて私は好きな主人公だ。
で、このクリスが殺人犯捜しと贋作探しに孤軍奮闘する。エルキンズのミステリは真っ当なミステリなので、云わずもがな見事クリスはこの2つの事件を解決するのだが、こういう普通の男が見事目的を達成するところは爽快感すら漂う。

真相は、なかなか面白い。特に贋作発見についてクリスのインスピレーションは逆説的であり、思わず「ほお・・・」と声を出してしまった。この相矛盾するエゴによる動機は美術収集家だけのみならず、あらゆる収集家に共通する思いだろう。
以前『ゼロ 神の手を持つ男』という漫画を愛読しており、それがこの作品と非常にダブった。どちらも美術を扱う作品であり、作品に散りばめられた薀蓄も重複するところが結構あり、非常に楽しく読めた。ただ『ゼロ』で頻繁に登場する「炭素14法」が全く出てこなかったところに疑問。使われた塗料、キャンパスが当時のものであるか、その中に含まれた炭素14の崩壊率から年代を推定するこの方法は現代の真贋鑑定に必ずといって採用されるものだと思っていたが。単にエルキンズが知らなかったんだろうか?

まあ、それはさておきギデオン・オリヴァーシリーズに続いて本書もハヤカワ・ミステリ文庫で復刊されており、私同様ファンがいることが確認され、嬉しく思った。
ちなみに本作で取り上げられる絵画の中には数年前日本でも絵画展が大々的に開かれたフェルメールがあり、物語でも重要なファクターとなっている。フェルメールに興味のある方はそれだけでも本書を読む事をお勧めしたい。

Tetchy
WHOKS60S

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