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夏と冬の奏鳴曲



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夏と冬の奏鳴曲の評価: 7.56/10点 レビュー 9件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.56pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

物語のゲシュタルト崩壊

奇作『翼ある闇』でデビューした麻耶雄嵩氏の第2長編が本書。文庫本にして700ページを誇る大著である。当時はとにかく重厚長大な作品が多く刊行され、皆競うように原稿用紙○千枚の超大作と云った文句が帯に踊っていたものである。
更に本書は当時も今も読んだ人が一様に真相にぶっ飛んだと述べていた曰く付きの作品でもある。原著刊行後26年経った今、幸いにしてその“驚愕の真相”を知らないまま、本書を紐解くことができた。

そして読後の今、正直なんと評したらよいか解らない。物語のゲシュタルト崩壊とも云うべき結末に大きな戸惑いを覚えている。
一旦これは整理して受け入れるべきものは受け入れて物語を再構築していかなくてはならないだろう。

まず登場人物から整理していこう。

真宮和音という伝説の女優を崇拝し、和音島で20年前に1年間の共同生活をした6人。
京都の呉服屋の次男、結城孟、貿易商を営む村沢孝久とその妻尚美。元医学生でその後カソリックに帰依して神父となっているパトリク神父。そして使用人の真鍋夫妻の3人で和音島にある洋館和音館を護っている大富豪、水鏡三摩地。尚美の兄で全てを真宮和音に捧げた武藤紀之は20年前に亡くなった真宮和音の後を追って亡くなっている。

そして20年ぶりにその島に集まって行われる真宮和音を偲ぶ会とも云うべき同窓会で和音の命日である8月10日に彼らが作った真宮和音の唯一の主演映画『春と秋の奏鳴曲』を観賞するのがメインイベントである。

それを取材するのが京都の出版社に準社員として勤める如月烏有とアルバイト生で烏有にその出版社を紹介した不登校の高校生舞奈桐璃。ただ舞奈桐璃は彼らが信奉する真宮和音に瓜二つだった。

しかしメインイベントを待たずに館の主、水鏡三摩地が真夏に降り積もった雪の只中で首無死体として館から50メートル離れたテラスで見つかる。しかもそこに至る足跡はない、いわば密室状態だった。そしてその事件が起きた時点で使用人の真鍋夫妻は島に碇泊していた小型ランチで逃亡していなくなる。

更に結城孟も溺死体として見つかり、舞奈桐璃もまた左の眼球を抉られるという被害に遭う。更に村沢尚美もクロゼットの中で喉を切られた遺体として見つかる。

事件が続くにつれ、第三者の存在を、20年前に死んだ真宮和音、もしくは武藤紀之が生きていて復讐をしているのではという疑惑が生まれてくる。

でその真相はと云うと・・・・。

これを素直に受け入れられる読者は果たしてどのくらいいるだろうか?
私は正直認めない。今回はいくらなんでもといった感じは否めない。

これが麻耶氏のミステリなのだ。
豪快な論理的展開を重視するあまり、犯行の現実性や発生の確率の低さなどは全く頓着しない。

この規格外の本格ミステリに通底するテーマは偶像崇拝ということになるだろうか。
ただ1作の主演映画を遺して若くして夭折した女優、真宮和音。彼女に心酔した6人の若者がとある島に渡り、1年間の共同生活をした後、女優の死によってそのコミュニティは解散となるが、20年後に再び同窓会という形で再会する。彼ら及び彼女はこの真宮和音のために1編の主演映画『春と秋の奏鳴曲』を作った仲間たちで、ファン以上に彼女を慕い、そして崇拝していたのだった。

彼らにとって真宮和音は“神”に近い存在、いや“神”そのものだった。
今でもネットでカリスマ性のあるアイドルや女優に対して“神”と呼ぶ風潮があるが、まさにそれと同じようなものだ。というか26年前と今でもさほどこの偶像崇拝という趣向は変わっていないようだ。

ところで麻耶氏はカラスがよほど好きなのだろうか。デビュー作『翼ある闇』の舞台となるのは蒼鴉城と鴉の文字があしらわれており、この如月烏有もその名に烏を冠す。

その後もそのものズバリ『鴉』という長編を著している辺り、どうもカラスは麻耶氏にとって何か特別なモチーフであるようだ。この漆黒の羽根と毛に覆われた闇を司る、どちらかといえば忌み嫌われている鳥を麻耶氏が好む理由を今後麻耶作品を読みながら考えるのも一興かもしれない。

とにかく色んなテーマを孕んだ作品であることは理解できるが混乱が先に立ち、上手く整理が出来ない。

実存主義、偶像崇拝、時空を超えたシンクロニシティ、ドッペルゲンガー、虚像と実像、運命論、因果応報、そんなものがふんだんに盛り込まれていることは頭にあるのだが、作品としてミステリとして考えた場合、これらは破綻しているが幻想小説として読めば本書の理解は更に深まり、また変わってくるだろう。

本書にやたらと取り上げられているキュビスムで描かれた肖像画は時間の連続性をも描いた手法だと語られている。このキュビスムで描かれた真宮和音はしかし書けば書くほど相対して空虚なものがあることを認めざるを得なくなることに気付く。つまり彼らの頭の中にある真宮和音を措定していくうちに彼女が実在しないという空虚さをも措定していくことになると解釈すればいいのだろうか。
従っていつまで経っても彼らの中の真宮和音はまだ完成していかなかった。だから彼らは1年後島を捨て共同生活に終止符を打ったのだ。

しかしそこに舞奈桐璃という彼らの真宮和音を具現化した女性が登場した。それは彼らが肖像画のみに表した存在が3次元で“展開”したのだ。3次元の存在である舞奈桐璃こそ真宮和音であり、それを2次元に“展開” するために彼女が必要だったのだ。

私の解釈は以上の通りになる。正直これが合っているかどうかは解らないし、もっとこのキュビスムについて知り、学ばないと十全に理解したとは云えないだろう。

しかし想像上の理想の女性が実際に現れた時、人はどうするのかというのがそもそも本書が内包するテーマであると思う。
夢で見た女性、常に頭に描いている女性の理想像。それをどうにか具現化するために1年間共同生活を送った彼らが20年後にその存在に出くわした時、どうするだろうか。

やはりそれは独り占めにしよう、他の誰にも触られたくない自分のためだけの唯一無二の存在にしたいと思うのではないか。

ただしかし麻耶氏は最後の最後でこの解釈をも覆す。

また本書の英題は“Parzival”となっており、これはワーグナーの楽劇“パルツィファル”に出てくる英雄の名前だ。“汚れを知らぬ愚か者”の騎士と称される。しかしその純真さと無智ゆえに彼は敵の誘惑を乗り越え、使命を全うする。つまり取り立てて取り柄の無い如月烏有を指しているのだ。

うーん、真と偽のスパイラル。この物語の決着はまだまだ着きそうにない。当分私の頭を悩ませそうだ。
どこかで辻褄を合わそうとするとどこかが合わなくなる。それはこの一見直線的に見えながら歪んでいる本書の舞台和音館そのもののようだ。

麻耶雄嵩、なんという捻くれた作家だ。
正直好きにはなれないが、拒みようのない魅力を孕んでいることも確かだ。
孤高の本格ミステリ作家の作品はまだ2作目。この後の彼の作品はどんな幻惑を施しているのだろうか。楽しみよりも不安が先に立つ作家だ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

難解かつ結末が創造つきません。

久しぶりに再読。やっばり難しい。内容は難解です。解決編を書いて欲しいと思っていましたが未だ実現せず残念です。

コンチャンダ
XMAG8IFU
No.1:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

夏と冬の奏鳴曲の感想

上級者向け。

夏に雪を降らすのはどうかとも思ったが、そんなもんは序の口だった・・・
現実離れとも言える偶然だったり、針の穴を通すようなタイミングだったり・・・
この事件の1つしかない解答、つまり真相は最早「奇跡」である。
謎は数多く投入されるが、大部分が消化される事なく残される。 本来あるべき解決編がないのだ。
恐らく、読了後は狐につままれたような気分になるだろう。

読了後、その真相について仲間と「あーだこーだ」と細っい一本の糸を手繰り寄せるのを楽しむ作品なのだろう。
・・・だったらもう少し短くしてくださいよ(泣
特に烏有と神父の会話はきつかった。
精一杯理解しようとしたけど、私の頭では及ばなかった。
熱意とエネルギーが必要です。
これから読まれる方は、読む前に是非気合いを入れて下さい。

梁山泊
MTNH2G0O

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