星降り山荘の殺人
評判
星降り山荘の殺人の評価:
6.62/10点 レビュー 29件。 A ランク
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全10件 1〜10 1/1ページ
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星降り山荘の殺人の評価:
6.62/10点 レビュー 29件。 A ランク
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小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
倉知淳氏の数ある作品の中でも名作と呼ばれている本書はいわゆる典型的な“嵐の山荘物”である。
山奥にある買収されたコテージ村に体験宿泊しに来た9人の男女のうち1人に犠牲者が生まれる。警察を呼ぼうにも記録的な猛吹雪で町へ下りる道路は雪崩で寸断され、しかも電話は引かれておらず、携帯電話も所持していない―この辺りは本書が1996年の作品であることを流石に意識させられる―。完全に外部との連絡が断たれた状態の中、第2の殺人が起きる。
そして雪の中に立つ左右2つの道沿いに5つずつ建てられたコテージ。最初の殺人はそのうちの1つで起きるが、足跡は宿泊客の物と犯人と思しき人物が往復した物のみ。そしてなぜかコテージの裏には宇宙人が舞い降りてきたかのようなミステリーサークルのような同心円状の痕跡が雪上に残されている。
更に第2の殺人では被害者は予め誰かが侵入して来たら解るようにドアに糸を張ってもう一方の端をやかんに結び付けて、ドアが開くと糸でやかんが引っ張られて落ち、騒音と共に目覚めるという工作をしながらも殺害されてしまう。ドアの糸は遺体発見者たちによって切られるまでそこにあり、従って犯人は糸を切らずに侵入した可能性がある。
このように実にオーソドックスな本格ミステリである。まさに新本格のお手本のような本格ミステリだ。
更に登場する面々も実にオーソドックスなキャラクター付がなされている。
本書の物語進行役を務めるのは杉下和夫で本書の主人公である。彼は広告会社に勤めるサラリーマンで上司を殴って会社が抱えるタレントのマネージャーを務める部署に異動になるという、マンガやドラマでありがちな流れからタレントの星園詩郎のマネージャー見習い、つまり付き人になった男だ。
そして彼が付き人を務めるタレントの星園詩郎の職業はスターウォッチャーという実にいかがわしい物で、ギリシャ人を髣髴させる彫の深い顔と均整の取れた長身でお茶の間の女性たちのアイドル的存在として人気急上昇の、いわばタレント文化人だ。勿論その名前は芸名で本名は桶谷留吉と実に老人めいているのは秘密である。
最初は星園の、女性たちの視線を意識したいちいち気障な素振りと物云いが気に入らず、一方的に彼を嫌っていた杉下だったが、彼が9年前の大学卒業する年に生まれ故郷の岡山県の片田舎の村で起きた独り暮らしの老人の密室殺人の謎を解き明かすための資金を集まる目的でタレント活動を行っていることを明かされると協力的になる。
この2人が本書の舞台である渡河里岳コテージ村で起きる連続殺人事件の捜査に挑む。
またコテージ村に集まった面々はそこを買収した不動産会社社長の岩岸豪造にその片腕財野政高。
彼らが宣伝のために星園詩郎と同様に集めた人々は売れっ子女流作家の草吹あかねとその秘書の早沢麻子、そしてUFO研究家の嵯峨島一輝に一般人代表(?)の女子大生2人、小平ユミに大日向美樹子ら総勢7名がコテージ村で体験宿泊をする。
本書の最たる特徴は各章の冒頭に作者からの注意書きが付されていることだ。そこにはミステリを解く上でのヒントが書かれている。
例えば冒頭では「探偵役と助手は犯人ではない」と明言されており、更には「不自然なトリックは使われていない」とほとんど推理の幅を狭めるような核心を突いたものまで登場する。
つまり本書はミスディレクションを極力排した形で物語が展開するのだ。
この究極的なまでにフェアである本書はその反面、究極的なまでにミスディレクションに満ちていた本格ミステリだった。
いやはやすっかり騙されてしまった。久々に犯人が明かされた時に「えっ!?」と声を挙げてしまった。そして作者の周到な仕掛けに初めて気づかされ、驚かされるのだ。
してやられた、と。
作者は実に用意周到にミスディレクションを張り巡らせている。
しかしなんという犯人だ。これまでのミステリで最も卑劣な探偵役かつ犯人ではなかろうか。
とにもかくにもまだ本格ミステリにはこのような手が残っていたのかと素直に驚かされ、感心した次第だ。
そしてこの手法は本書唯一無二の物ではないか。もうこの手は誰も使えないのではないか。
実にフェアで独創的かつ斬新な本格ミステリであった。これは確かに末永く読まれるべき本格ミステリである。
本当に普通の本格ミステリなのである、読んでいる最中は。
しかし「普通である事が一番難しい」とはよく別の意味で使われるが、本書もある意味普通であるがゆえに真相を暴くには難しいミステリであろう。
綺麗に騙され、そしてスカッとする、本格ミステリならではのカタルシスを感じさせる作品であった。
▼以下、ネタバレ感想