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別れを告げに来た男



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別れを告げに来た男の評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

三つ子の魂百までのデビュー作

フリーマントルのデビュー作である本書はイギリスに亡命してきたソ連の宇宙科学者を尋問する聴取官の物語だ。

その主人公の聴取官エィドリアン・ドッズは決して魅力的な人物として描かれていない。

外見は痩せ気味のこれといって特徴のない男で35歳にして妻に愛想を尽かされた挙句、レズビアンの彼女の許に逃げられ、毎日のワイシャツとスーツのアイロンがけも儘ならず、しわくちゃのままに着用して秘書の眉を顰めさせ、その年配の秘書には手玉に取られ、遅刻や早退を思うが儘にされており、さらには完全に禿げ上がった頭髪を気にして周囲の人のみならず街ですれ違う人々のカツラを見破ることに専心しているという、およそ読者の共感を得られにくいキャラクターだ。

しかしこの男が尋問者として亡命者の前に立つと他に比肩する者がいないほどの洞察力と判断力を発揮する。12ヶ国語を話し、亡命者の専門とする分野の知識も身に着け、安易に会話の主導権を握らせない。

しかしアメリカ政府から早く2人の宇宙技術者を渡すよう圧力をかけられているイギリス政府内ではイギリス首相エベッツの巧みな話術に翻弄され、自らの地位を危うくしてしまう。

このうだつは上がらないが、仕事をすれば切れ者でありながら、自分の仕事に対する実力へのプライドが高いがゆえに、常に他者との駆け引きを重んじて自身の地位の安泰と出世のためにあらゆることを利用しようとする上層部からの受けが悪いエィドリアンの姿はどこか我々サラリーマンに通ずるところがある。

しかし我々日本人のサラリーマンと違うのはもはや最後通牒が突きつけられる段になっても自らの正当性を主張し、上司であれ首相であれ、反撃して説き伏せさせようとする根性だ。
1973年の作ではあり、当時の日本のサラリーマン社会には詳しくはないのだが、このエィドリアンの抵抗は当時も驚きだったのではないだろうか。

そして最新作『魂をなくした男』で終結した三部作でも描かれていたのはロシアのKGB高官の亡命劇なのだから、文体、プロットともフリーマントルは変わっていないことに気付かされた。

更には『魂をなくした男』でも亡命を目の前にぶら下げた人参として亡命先の国から逆に情報を得ようとする実に狡猾なロシアのブラフを驚愕のサプライズと共に読者の前に示してくれたが、デビュー作の本書でも旧ソ連一流のブラフを見せてくれる。

まさに想定の斜め上を行くソ連の描いたプランの恐ろしさと巧みさ。家族を大事に思うパーヴェルの性格を利用して、恐らくは家族を人質に強要されたのだろうが、それを微塵とも感じさせないパーヴェルの狡猾さ。

第1章から各章の終わりに挟まれる委員長カガノフを中心としたソ連の秘密委員会の怪しげな会話、真意が読めないパーヴェルの行動などの本当の意味が最後になって明かされる辺りに新人作家でありながら既にデビュー当時からミステリマインドを持った作家だったことが解る。

しかし三つ子の魂百までとはよく云ったもので、この主人公を主体にしたメインストーリーが繰り広げる中で章の終わりにインタールードのように挿入されるソ連の秘密委員会たちによる謎めいた会議の様子は本書ではサプライズのために実に有機的に機能しているが、これはフリーマントル作品ではお馴染みの構成で既に本書においてフリーマントルのスタイルとして確立されているのに驚いた。

さらにはチャーリー・マフィンシリーズを筆頭に描かれるイギリス人への痛烈なる皮肉。
上にも書いたが常にロシア人は物事の深淵を透徹した視野で物事を考え、イギリス人は目の前に駆引きに終始して、物事の本質を見極められないというイギリス政府蔑視の姿勢が既に本作で確立されているのには苦笑してしまった。

重ねて云えば先にも述べたように最新作『魂をなくした男』とデビュー作の本書が奇妙に題材が酷似していることもその裏付けだと云えるだろう。
そう考えれば自分の禿げ頭にコンプレックスを抱いてカツラ愛用者を見破ろうとしている奇妙な性格のエィドリアン・ドッズは危機を感知すると幅広な形の足が痛むチャーリー・マフィンの原型だったのかもしれない。

また本書は題名がいい。
原題は“Goodbye To An Old Friend”でこれが最後の1行として現れ、実に切ない余韻を残す。
そして邦題は『~した男』とフリーマントル翻訳作品の題名のフォーマットを踏襲しながら原題を活かし、読後にその真意に気付かされる、ミステリのお手本のような翻訳だ。

ただデビュー作ということもあってか、本書は珍しく皮肉屋のフリーマントルらしくなくサプライズと深い余韻を重視したエンディングになっている。正直に云えばいつもこのような形で終わればいいのにと思うのだが。

さて冒頭にも書いたが、本書はフリーマントルが37歳の時に「デイリー・メイル」紙の外報部長時代の頃に通勤中の車内で書いた物で、これが好評を以て迎えられた、フリーマントルの作家活動のきっかけとなった作品である。こういう物語を通勤中に書くことも凄いが(多分多少誇張も入っているだろうが)、37歳で部長職に就いていることだ。
日本の会社では一流の新聞社では恐らく考えられないことだが、実力主義のイギリスではこのような人事もあり得るのだろうが、現代の大作家は勤め人としても凄かったということか。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:
(7pt)

最後に唸りました

ずうっと淡々と話が進んでいきましたが最後で驚かされました。

わたろう
0BCEGGR4

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