嘘に抱かれた女
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これは東西ドイツ統一という時代の変換期に、自らの恋愛を翻弄されたなんとも哀しい女の物語だ。 | ||||
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1991年の作です。ずっと積読状態だったのを2022年の今、ふと読んでみました。結論から言うとフリーマントルは相変わらずおもしろく引き込まれました。 作品の舞台は1990年。1989年ベルリンの壁が崩壊、1990年に東西ドイツが統一されNATOへの加入が承認されます。この1年間のソ連側の危機感と統一に向かう西ドイツ政府の動きが背景になっています。 ワルシャワ条約機構という名前が出てきて、そういえばそんなものもあったなという記憶がよみがえってきました。現在、ロシアのウクライナ侵攻が問題になっていますが、旧ソ連=ロシアが今も昔も変わらず、常に自分たちの勢力圏が侵襲されることを恐れていたことが伺われます。 ゴルバチョフが西側との融和を推進し、互いの兵器削減が進みつつある状況で、それを良しとしない軍やKGBが、アメリカが西ドイツ内に配備しているミサイルを強化しようとしているかどうか、西ドイツ側はそれに対してどのような考えを持っているかなどを探るため、それらに深く関わっている官僚の秘書であるエルケにスパイを差し向けることを決定します。 商品説明ではその方が売れると思ったのか、扇情的にセックス・スパイと書いていますが、主人公のオットー・ライマンはむしろ人の心をつかむプロと言った方がいいでしょう。 原題の「Little Grey Mice」はドイツ語では「グラウエン・モイゼ」、文字通り灰色ネズミですが、エスピオナージュの世界では知られた隠語で”政府機関に勤める孤独な独身女性”を指すそうです。 エルケは若い時、妊娠がわかったとたん恋人に捨てられ、その時さずかった自閉症の娘を施設に預けながら、ずっと独身で公務員として地道に働いてきました。その働きが認められ、首相府で最高機密閲覧の権利を得て閣僚たちと連日顔をあわせるような重要な地位に出世します。 物語のはじめには彼女の容姿に関する描写がほとんどなく、なんとなくギスギスした年配女性を思い浮かべていたのですが、あとになるに従って、まだ38歳でむしろ美しいと言っていいほどなのがわかってきます。過去のトラウマと未婚の母というコンプレックスからどこかおどおどした女性、そしてその自信のなさゆえにか、自分の美しさに気づかず優秀さを鼻にかけることもなく、物柔らかな性格なのが好感が持てます。 エリケにつけ入ろうとするライマン、エリケの姉一家やライマンの妻ユッタ、そしてソ連側幹部の様子が淡々と描かれていきます。このままどうなるのかと思っているところ、物語が急展開するのは最後の100ページくらいになってからです。ネタばれするのであまり書けませんが。 旧ソ連の体制や全体主義国家で生きてきた人たちの心情がよくわからないのですが、ライマンはロシア人ではなく元は東ドイツ諜報機関に所属していたスパイでした。東ドイツが消滅したと同時にそのまま引き続きいわば親玉であるKGBの傘下に入るわけですが、どうしてドイツ人である彼がそのままソ連に忠実に働き続けたのか? 話の流れでは、本人はそのことに疑問を持つわけでもなく、つまりはソ連で受けたスパイ教育の影響があり、そして組織内での成功しか考えていなかったということでしょうか。末端のスパイなど上層部からしたらものの数にも入っていないと思うのですが、どうしてこんな非人間的な仕事につこうと思ったのか・・。 30年も前の時代が背景なのでややわかりにくいですが、スパイ小説はやはり東西冷戦テーマの方が生き生きとしているような気がします。久々に読み応えのあるエスピオナージュものでした。 | ||||
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これは東西ドイツ統一という時代の変換期に、自らの恋愛を翻弄されたなんとも哀しい女の物語だ。 仕事は優秀で見た目も美人だが、既に38歳となり結婚適齢期は過ぎてしまったキャリアウーマンであるエルケ・マイヤー。昔付き合った男との間に生まれた自閉症の娘ウルスラを精神病院に預け、毎週日曜日に訪問しては絶望に暮れる日々を送っている。従って結婚願望はおろか、もう長らく男性との火遊びからも遠ざかっている、いわゆる日干し女だ。 独身生活が長いせいで単調な生活の繰り返しに安定を見出している。決まった手順で行動し、いつもの場所に駐車し、いつもの店のいつもの席でいつものメニューを食べ、いつもの時間に出勤する。食事中に愛車が傷つけられていないか不安で周囲を確認し、何もないことで安堵する。これら一連の“儀式”を重んじ、そこに安心を覚える、半ば強迫観念に縛られたような性格の持ち主である。 そんな彼女に目を付けたKGBが放ったセックス・スパイ(昨今ではもはやハニー・トラップでこの存在が珍しくなくなってきたが。ちなみに男性のセックス・スパイは“カラス”と呼ばれ、女性のそれは“ツバメ”と呼ぶらしい)オットー・ライマンはかつて東ドイツへのスパイ作戦で成功を収めたリーダー、ユッタ・ヘーンの部下であり、そして現在は夫で結婚後もKGBで働いている。かつての部下と上司の関係から妻ユッタはオットーに対して常に精神的優位性を示し、夫が服従することを好んでいる。オットーはそれに表向きはそのことに不満を示していないが、時折公私に亘って妻が見知らぬことを知ることで優位に立つことに喜びを感じている。 KGBの狙いはベルリンの壁が崩壊した後の東西ドイツ統一に向けてドイツ側、とりわけ西ドイツの中枢であるボン政府が社会主義側だった東ドイツとどのように協調していくのかを探ることだった。特にNATOとワルシャワ条約機構との結合を試みて新たなる政治的脅威になるのかが焦点であった。 特に物語の中盤以降、ソ連側がオットーに渡した3ページ以上に亘る膨大な調査内容のリストは―真実かどうかわからないが―当時のソ連がかつて第二次大戦で猛威を奮ったドイツの復活をいかに恐れていたかを示唆している。 一流のスパイとして女性を籠絡させる術を知り尽くしたオットー・ライマンの内面心理描写は女性心理、いや女性に限らずあらゆる人の心理を自由に操る術が豊富に織り込まれている。じっくり対象を観察し、あらかじめイメージを作り上げ、そのイメージがするであろう振る舞いや受け答えを想定し、対応する。そして自分が望む方向に導くのだ。 今なら一流のメンタリストといったところか。 そんな駆け引きをしてようやくオットーがセックス・スパイの本領を発揮するのが物語も半分を過ぎた375ページ辺りだ。なかなかに長い前戯ではないか。 また面白いのはそれまで男に縁がなく、平日は仕事と自宅の往復、土曜日は姉とのランチ、日曜日は自閉症の娘への訪問と一つたりとも違うことなく、同じことの繰り返しだった灰色のエルケの日常がオットーとの出逢いを境に好転していくことだ。 “あげまん”という言葉は知っているがオットー・ライマンはその逆の“あげちん”である(本当にこんな俗語があるらしい)。 しかし恋愛を武器にした諜報活動は物語が始まった時から誰かが傷つく結末になるのは約束されていた。 相思相愛でありながら政府の最高機密に携わっていた孤独な女性と、一流のセックス・スパイでありながら恋に落ちてしまった男。このハーレクインロマンス的な設定も皮肉屋フリーマントルが描くと現実の厳しさと運命の皮肉さがたっぷり盛り込まれた、なんとも苦さの残る話へと料理される。だからこそ悲恋の物語が今なお書かれ、尽きることがないのだろう。 | ||||
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昔にこの作者の本を買った事があるのですが、すぐに挫折してしまったので、また読めるかな?と思ったのですけど(-_-;) この本は平成7年に発行されたものです。 私はそれまでフリーマントルさんは故人だと思っていました。 だってヒッチコックの映画とかになってませんでした? この10年の間もご健在なのかは調べてないのですが・・・ さてさて、本題。 ストーリーはKGB情報員のオットー・ライマンが、西ドイツ首相府事務次官付き個人秘書であるエルケ・マイヤーに取り入り機密情報を入手するというスパイものです。 今は無きソビエト連邦や統一直前のドイツなどが出てきて政治的な話が中心となるので、そのあたりが私は読んでてもピンと来なくてなかなか進みませんでした。 しかし読み終わってみると「恋愛小説やん!」と思いました。 過去に男性との辛い経験があったエルケはオットーと知り合うまでは二度と間違いは起こすまいと本当に真面目に仕事だけに打ち込んでいたのだけど、オットーを愛するようになって少しずつ変わってきてやっと幸せになれるのかと思いました。 オットーもだんだんとエルケをスパイの対象としてではなく愛し始めるのだけど・・・ 最後にはちょっとどんでん返しがあり、そういうことだったのかと思うんだけど、もっと自分から歩み寄ったら良かったのにと思わずにいられませんでした。 2人共背負ってるものが重すぎたのか、臆病になりすぎていたのか、あと少しだったのにと思いました。 | ||||
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