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顔をなくした男



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顔をなくした男の評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)

シリーズ読者ならではの愉悦はあるものの、堂々巡りです

前作『片腕をなくした男』で身元が割れたチャーリーは保護プログラムの保護下でMI5の監視下に置かれ軟禁状態での生活をしている状態。つまり工作員としてほぼ引退に近い状態で暮らしている。
そんな最中に降って沸いたのが長年のナターリヤとの関係が知られるという事実。

そんなチャーリーとロシアのロシア情報機関の№2と目される人物の亡命の手助けを中心に対内情報機関であるMI5と対外情報機関であるMI6がお互いの優位性を巡って手練手管を尽くした画策が繰り広げられる。

お互いが協力の握手を右手でしている裏では左手にナイフを持って寝首をかこうと手ぐすね引いているやり取りが延々繰り広げられる。それはいつもながら高度なディベート合戦と智謀を尽くした暗闘なのだが、MI5部長オーブリー・スミスとMI6部長ジェラルド・モンズフォードがお互いの地位とプライドを守らんがために虚勢を張りあう姿と相俟って非常に稚拙に滑稽に映るから面白い。

今回のチャーリーはロシアの長年にわたる壮大な作戦を台無しにした張本人として指名手配されている身。そんな彼がやらなければならないのがロシアに住むナターリアとサーシャの身の安全。ロシアにチャーリーとの関係を知られる前に彼女たちをイギリスに亡命させなければならない。このあくまで私的な任務と敵からそして味方から自分の身を守らなければならないという薄氷の上を渡るような状態。

本書のメインストーリーはMI6が企むロシア情報機関の№2であるマキシム・ラドツィッチの亡命とMI5が支援するチャーリーの妻子の亡命という2つの亡命を成功させることだ。しかし物語で語られるのは冒頭にも書いたMI5とMI6の稚拙な意地の張り合い、権力闘争に終始する。
とにかく事あることに対立する二人。尊大でエゴイストなモンズフォードに表情を変えないながらもモンズフォードに対抗意識を燃やすスミス。彼らの責任の擦り付け合いがこの物語の大半を示しており、しまいには退屈さえ覚えてしまった。

前作の感想にも書いたが、この2作では物語の核心に迫るわけではなく、その周辺の事情や政治的駆引きを重視しており、なかなか進まないのだ。語られるのは亡命を今か今かと待ち侘びているラドツィッチの不満であり、とにかく仲間うちから離れ、スタンドプレイに走るチャーリーの姿である。この繰り返しは何とも辛い。
諜報活動が慎重に慎重を重ね、あらゆるケーススタディを成した上で行われるのは重々承知しているものの、それと物語とはまた別の話。読者は次から次へめまぐるしく変わる展開を読みたいのだ。従って今回の話は全体としては小粒。

作中、チャーリーがMI5部長オーブリー・スミス、同次長ジェイン・アンバーサム、MI6部長ジェラルド・モンズフォードから尋問を受ける際、ナターリヤとの関係の一部始終を語るシーンがあるが、これはまさに今までのシリーズの良き復習となった。この内容を懐かしいと読める読者がどれほどいることか。
そして私はそれを懐かしいと思える読者であることに喜びを覚えた。そしてこれはまた作者フリーマントルが本当にこのシリーズに決着を付けようとしている証左でもある。

さて謎は謎として残されたまま、本書は幕を閉じる。
長きに亘ったシリーズの行く末がようやく決まる。それを心して待とう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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