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フランケンシュタイン 支配



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【この小説が収録されている参考書籍】
フランケンシュタイン支配 (ハヤカワ文庫 NV ク 6-13)

フランケンシュタイン 支配の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

引っ張るねぇ!

クーンツ版フランケン・シュタインシリーズ第2弾。実は最近のクーンツ作品ではとびきりに面白い作品だと感じ、新刊が出るのを愉しみにしていた。

物語は前作からの続き。時系列的にもハーカーの死の直後から始まる。つまり連続ドラマを見ているような構成になっている。

本書では前作のハーカーに当たるようなカースンとマイクルのコンビに敵として立ちはだかるキャラクターとしてはヴィクターが生み出したレプリカントの夫婦の殺し屋ベニーとシンディのラブウェル夫妻が登場する。この2人のキャラクターが出色の出来だ。
ハンサムな夫に美しい妻で常に太陽のような笑顔を浮かべている、所謂アメリカの良心とも云うべきような理想のカップルなのだが、その役割が示すように微笑を浮かべながら殺しを履行するのだ。さらにシンディは培養によって生み出された生物でありながら出産願望が常にある。よくもまあこんなキャラクターを次から次へとクーンツは思い浮かべるものだと感心する。

1話完結で紡がれたオッド・トーマスシリーズと明らかに創作作法が違うが、逆に私はこのシリーズの手法の方が先が読めない展開だけに面白く感じた。

またところどころに挿入される小ネタも面白く、その中の1つに登場人物の口から古今東西の小説の名前が出てくる点が非常に楽しく感じた。

例えば前作で読書好きのヴィクターの妻エリカ4に後妻として登場するエリカ5が秘密の培養室に潜り込むときには少女探偵ナンシー・ドルーのように云いながら、いやノラのように勇ましいと訂正する。
前者は恐らく日本の読者でも知っているだろうが、後者は「?」が点灯することだろう。実は私もピンと来なかった。なんとノラとはハメットの『影なき男』に登場する私立探偵ニック・チャールズの妻なのだ。なんともマニアックな選択だ。既読の私でさえ思い出せなかった。

他にもデュカリオンの相棒である映画館オーナーのジェリー・ビッグズがミステリ好きであり、自身の好みを開陳する。曰く
「刑事が先住民だったり半身不随だったり、強迫神経症だったりする話は好きじゃないんだ。それに探偵が料理上手なのも」
それぞれ該当するシリーズが思いつくのではないだろうか。思わずニヤリとしてしまうシーンだ。

また古典『フランケン・シュタイン』の時代から生きてきたヴィクター。彼が今まで生きてきたことで歴史の裏側で時の権力者に関ってきたことがエピソードとして語られる。

スターリンもその中の1人で、彼が行った大量虐殺はヴィクターが自分の意のままに操れる新人類を生み出すことを見越しての行為だったと記される。こういったアクセントは小説好きの興趣をそそる。

そしてやはりキャラクターの妙味を忘れてはならない。
正直に云って主人公のカースン、マイクルのコンビは存在よりもヴィクターと彼が創造したレプリカントや新人種のキャラが立ちまくっている。彼らはヴィクターにあらかじめ人間を殺してはいけない、命令に背いてはいけないというプログラムが施されており、しかも本書では担わされる役割でアルファ、ベータ、ガンマ、エプシロンといった階級分けがされていることが判明する。彼らが旧人種と呼ぶ人間に成り替わって社会生活を営む者からヴィクターの身の回りの世話や研究所の掃除をするだけの役割の者でダウンロードされる情報量が違うという設定だ。
しかし何といってもヴィクターのプログラムゆえに発生するその特異な思考や性癖が彼らのキャラを際立たせているといっていい。前述した夫婦の殺し屋ラブウェル夫妻はもとより、人間の死体を処理する廃棄処理場長、警備主任など、クーンツの奇想のオンパレードだ。
元々クーンツには物語ごとに狂人やフリークを生み出しては読者をハラハラさせていたが、ここに至ってさらにその枠を大きく振り払って、嬉々として健筆を揮っているかのようだ。

しかしその中のキャラクターでも物語を鍵を握ると思われたヴィクターの実験場ハンズ・オブ・マーシーを抜け出した新人種ランドル6が早くも退場するとは思わなかった。しかも主役のカースンの弟に会いに行くという役割的には重要だっただけに、あっさり殺されたのはなんとも呆気ない。
本書を読むとやはりクーンツは三部部作構想だったようで、ヴィクターとデュカリオンの対決を早々に着けようとしているようなせっかちさを感じた。

本書ではレプリカント、新人種の生みの親ヴィクターの制御が徐々に崩壊し、カタストロフィへ向けて様々な事象が描かれる。
細胞分裂を起こし、異形の存在へ変身する者。
抑えていた旧人種すなわち人間への嫌悪感への箍がはずれ、殺人衝動のままに殺戮を起こそうとする者。
レプリカントである自分の存在に絶望し、死を乞う者。
そして前作ハーカーから分離した存在は創造主ヴィクターへの反逆を促し、殺すよう促す。研究所を制御していたコンピュータはバグを起こし、怪物を世に解き放とうとする。
そしてとうとうヴィクターと対面したデュカリオンはどう彼に対抗するのか。色んな謎や不吉な予感を孕みつつ物語は閉じられた。
一刻も早い次巻の刊行を望む。枯れてもクーンツと思わせる次が気になる作品だ。


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Tetchy
WHOKS60S

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