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ドラゴン・ティアーズ



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ドラゴン・ティアーズの評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(8pt)

90年代の狂気は今なお続いている

カリフォルニアの法執行機関共同特別プロジェクトに勤める警官ハリー・ライオンとコニー・ガリヴァーの二人は巡回中に立ち寄ったハンバーガー・ショップで銃を乱射する無差別殺人犯と遭遇し、混戦の末、射殺する。
サミー・シャムローはかつてロサンジェルスの広告代理店に勤務していたが、今は無一文の浮浪者に身を落としていた。サミーは夜毎訪れる怪物“ラットマン”に怯えていた。巨躯の浮浪者の身なりをしたそいつは人智を超えた力でサミーをいたぶり、またそれに喜びを覚えていたのだ。
ジャネット・マーコは暴力を振るう夫を殺害し、アリゾナの砂漠へ葬った後、ラグナ・ビーチで息子のダニーと野良犬ウーファーの2人と1匹で1台のダッジを塒にしたその日暮らしの浮浪生活を送っていた。そしてその家族も巨躯の警官に夜毎悩まされていた。その警官はいつも親しげに近づくが、いつもジャネットたちをいたぶろうと怪物に変形するのだった。
一方、養護施設で暮らすジェニファーには、恐れる存在があった。それは彼女の息子だった。周りの看護婦は立派な人物だと褒め称えるが、彼女にはおぞましい存在でしかなかった。ジェニファーが両目を無くしたのも彼が原因だった。
そしてハリーの前に1人の浮浪者が現れる。「夜明けまでにお前は死ぬ」と云い残し、爆発を起こして消えてしまう。そしてそれはハリー、そしてコニーにとって悪夢の始まりだった。

なんともまあ、クーンツはとんでもない恐怖を考え出したものだ。
最初は身長2メートルを超える巨大な浮浪者。そいつが忽然と現れ、抗いようの無い膂力で獲物を嬲り殺す。もちろん銃も効かない。
その後は無数の蛇の大群。どさどさっと部屋中を埋め尽くすその有様は、想像するだに恐ろしい。
そして手に汗握る<一時停止>のゲーム。時間の流れをものすごく緩慢にし、ハリーとコニーだけを獲物に命を賭けた鬼ごっこが始まるのである。

今回のクーンツは怖かった。時間も停められるとあってはもうどうしようもないでしょう!!こういったアイデアはホントよく思いつくなあと感心する。
そして90年代以降のクーンツの作品に特徴的に見られるのがこの“時間”を使った能力者が出てくること。それは今回のように実際に時間を停めるだけでなく、催眠術を使って、時間を忘れさせる恐怖、次元の歪みに入り込んで、実世界の時間軸とは違う世界を出入りする能力など、ヴァリエーションは様々だ。クーンツは時間を操る事こそが一番の恐怖であるという結論に行き着いたのかもしれない。
あと演出の上手さも光る。いろいろあるが、今回は特に冒頭の無差別殺人鬼を捕らえるシーンでのエルヴィス・プレスリーの題名で犯人との交渉を行うシーンが面白かった。こういう遊び心が小説を彩る事をよく解っているなぁ。

題名の“ドラゴン・ティアーズ”は中国の格言から来ている。
「ときに人生はドラゴンの涙のように苦きもの。しかしドラゴンの涙が苦いか甘いか、それはその人の舌しだい」
本当にこういう格言があるのかどうか寡聞にして知らないが、“ドラゴンの涙”=“人生の試練”という暗喩である。しかし“人生の試練”にしては今回はとてつもなくばかでかい試練だし、意味合いとしては苦難か。ちょっと内容とマッチしていないような気がするが。

そして本作の影の主役が犬のウーファー。犬好きのクーンツがまさに犬の気持ちになって第一人称で語るそれは、なかなか面白い。一種、着地不可能と思われた本作がどうにか無事に着陸できたのも、このウーファーの御蔭だ。物語の設定としてはギリギリOKとしよう。

今回の作品の底流を流れるのが“狂気の90年代”というテーマ。それはかつて悪とされていた事が今では正義ともなってしまう理不尽さのことである。恐らく訴訟大国アメリカの、「裁判は正しい者が勝つのではなく、勝った者が正しいのだ」という風潮、そして価値観が多様化した現在、誰もが自分を可愛く思い、妻、恋人、我が子や両親も自分の幸せのためには犠牲するという考えに警鐘を鳴らしている。
本作にはコニーの口を通して信じられない犯罪―ベビーシッターの不都合で自分の誕生日パーティに行けなくなりそうな主婦が自らの子供を殺して嬉々として出かける、船乗りの妻が夫の出航を遅らせるためにわざと娘に怪我をさせる、etc―が語られるが、巻末の筆者の言葉によると全て実話だそうである。2006年の今、“狂気の90年代”はもう彼方にあるが、その狂気はまだ続いている。


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