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一年でいちばん暗い夕暮れに



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一年でいちばん暗い夕暮れにの評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)
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愛犬の死を乗り越えるために書かれた作品か?

クーンツの犬好きは非常に有名だが、とうとう犬をテーマに小説を著したのが本書。
犬を前面に押し出した作品では既に『ウォッチャーズ』という大傑作があるが、本書ではもっと犬と人間との関わり合いについて書かれている。何しろ主人公はエイミー・レッドウィングといい、<ゴールデン・ハート>というドッグ・レスキューを経営しているのだ。
このドッグ・レスキューとは、その名のとおり、ペット虐待が日常化している家庭などで育てられている犬を買い取ったり、繁殖犬として劣悪な環境で育てられ、生殖機能を酷使され、人間の愛情すら受け付けられなくなった犬を保護したりする職業だ。このような仕事が実在するのか、はたまた犬好きのクーンツの生み出した願望の産物なのか、寡聞にして知らないが、とにかく犬に対する愛情なくては出来ない仕事である。

そして今回の目玉はニッキーという名のゴールデン・レトリーバーの存在。逢うもの全てが魅了され、どこか普通とは違う特別な犬だと悟らされる犬だ。
またも例に出して悪いが、『ウォッチャーズ』のアインシュタインを彷彿させる犬キャラだ。そういえばアインシュタインも同じ犬種ではなかったっけ?

そして昨今のクーンツ作品に顕著に見られる裏テーマが幼児虐待だ。『ドラゴン・ティアーズ』で“狂気の90年代”を謳ってから、彼は一貫してこの虐待を扱っているように思う。
今回は幼児のみならず、犬に対する虐待を大きく取り上げ、声高らかに反論する。今回も“仔豚(ピギー)”と呼ばれる母親から虐待を受ける少女が現れる。彼女はダウン症で、母親は娘のせいで幸せが摑めないのだと逆恨みをぶつけて虐待を重ねるのだ。

そんな物語は実に緩慢に流れる。ドッグ・レスキューのエイミーとその恋人ブライアン、そして何か人智を超えた力を感じるゴールデン・レトリーバーのニッキーの話を軸に、ハローとムーンガールという不気味なカップル、そしてエイミーの過去を探る探偵の話が交互に語られる。そしてそれらはやがて一点に収束する。

しかし最近のクーンツ作品にありがちなエピソードを幾層にも積み重ねる語り口からはどうも最初にこのプロットありきとは感じられず、筆の赴くままに物語を書いていった結果、こうなったという印象が強い。
特にそれが顕著に感じられるのは、謎めいた存在を醸し出すゴールデン・レトリーバーのニッキーの謎が最後まで明かされないところ。

しかし本書の冒頭の献辞には、恐らくクーンツ自身が飼っていたであろうガーダ(解説の香山二三郎氏は瀬名氏による『オッド・トーマスの受難』を引用し、トリクシーが犬の名であるとしている)という名の犬―しかもゴールデン・レトリーバーのようだ―への感謝の気持ちが綴られており、どうやらその犬も既にあの世へと行ってしまったようだ。
そして虐待された少女ピギーことホープがニッキーのことを“永遠に光り輝くもの”と呼ぶことからも、これはガーダへ捧げる物語だったのだろう。エイミーが犬と暮した日々の追憶は作者のそれが重なっているに違いない。彼にとってガーダはニッキーであり、だからこそニッキーの謎については触れなかったのかもしれない。
犬を飼っている人にはこの気持ちが解るだろう、そう、クーンツは云っているようにも取れる。

本書の題名は原題をそのまま訳したものである。この「一年でいちばん暗い夕暮れ」とは実は登場人物たちが抱える闇を指しているのではなく、クーンツが経験したガーダを喪ったその日の夕暮れを指しているのではないか。
消化不良感がどうしても残る作品だが、愛犬を亡くしたクーンツを思うと、これは彼が哀しみを乗越えるのに書かねばならなかった作品だと好意的に解釈すれば、それもまた許せるというものだ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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