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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数896

全896件 681~700 35/45ページ

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No.216:
(8pt)

おしどり怪盗夫婦物は少しですが

文庫の裏表紙に書いてあるイントロダクションを読んでみると、さもおしどり怪盗夫婦シリーズを中心に編まれたように感じるがさにあらず、12編中3編しかない。このシリーズは結局犯行は不成功に終わるものばかりで最後にほろりと温かいテイストが流れるのがミソ。
他は異色のショーショート「のりうつる」以外、天藤真氏の独壇場でこれがやはり前作と同じ手法を採っており、最後の最後まで駄作がなかった。

▼以下、ネタバレ感想
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犯罪は二人で―天藤真推理小説全集〈17〉 (創元推理文庫)
天藤真犯罪は二人で についてのレビュー
No.215:
(8pt)

なんとも唸らせられる

今回の天藤作品も粒揃いの傑作ばかりで、嬉しくなる。今回は特に構成に凝った作品が多かったような印象が強いのだが、振り返ってみると実際に構成が凝っていたのは中編の「日曜日は殺しの日」と「死神はコーナーに待つ」のみだった。ということは如何に印象が強かったかという証左になるわけだ。
特にこの2編は所謂倒叙物の体を成しており、大体犯行の目星がついているのだが、それを約100ページ強を費やして何を書くのだろうと思いきや、自明の理だと思われていた事件が他人が探るに連れ、全く予想外の証言や真相が出没し、正に頭の中を揺さぶられる感覚がした。著者の企みは正にそこにあり、読者にストーリーのあるべき方向を示唆させ、先入観を抱かせることで真相を覆い隠してしまう、この効果が物凄かった。

また他の作品も非常によく、ちょっと狙いが浅かったかなと思わせる表題作はともかくとして、今流行の “日常の謎”ものである「父子像」やミステリアスな結末の「背面の悪魔」、ストレートな「女子校生事件」、実に深い余韻を残す「三枚の千円札」など今見てもすぐに内容が思い出せるものばかり。
一番良かったのは、人間の厭らしい部分を描いても後期の長編群のように嫌味な印象を全然感じなかったこと。どこか人間を観る目に以前よりも優しさが感じられ、読後非常に爽やかだった。

天藤作品も残るはあと一冊。う~ん、読みたいやら、読みたくないやら。
背が高くて東大出―天藤真推理小説全集〈16〉 (創元推理文庫)
天藤真背が高くて東大出 についてのレビュー
No.214:
(7pt)

アイデアはなかなか。だがしかし…

プロットは及第点だろう。登山中の事故で瀕死の重傷を負って自信を喪失した登山家がある事件を切っ掛けに困難に立ち向かいその自信を取り戻していくというストーリーに加え、連続殺人鬼、事故の際に身につけた千里眼の能力など、クーンツの味付けが溢れているし、殺人鬼が1人ではなく、2人が同一の犯行を行うというアイデアも秀逸だろう。
さらにマンハッタンのビルを山に見立て、垂直降下するアイデアも主人公の設定と見事に呼応し、素晴らしい。

しかし、どこか響かない。
名作『ウィスパーズ』や『邪教集団トワイライトの襲撃』に見られる何処か神経を泡立たさせる何かがないのだ。有りか無しかといえば有りだが、文庫で十分だというのも事実だ。
マンハッタン魔の北壁 (角川ホラー文庫)
No.213:
(7pt)

セイヤーズ初体験

セイヤーズ初体験である。
本作は当初 “シャーロック・ホームズのライヴァルたち”と銘打った東京創元社の企画物の1つで独自で編んだ短編集であったらしい。それが長年に渡って繰り広げられ、そして今も継続中のセイヤーズ完訳の第一歩となるとは不思議なものである。

正直な感想を云えば、驚きました。島田荘司氏が本格の定義として提唱している「冒頭の怪奇的・幻想的な謎、そして後半の論理的解明」を正に実践しており、こんな本格が過去、西洋にあったのかと再認識させられた次第。ドッペルゲンガーに悪霊憑き、そして首のない馬車とゴシック風味満載である。色々読みこなした現代においてはそれらの結末は想像の範疇で瞠目させられるものではないにしろ、これほどのものがまだあったことが素直に嬉しい。

読書期間中、第1子誕生と忙しいこともあり、睡魔に負けてほとんど憶えていない短編もあるが、全体的に好印象だった。
ピーター卿の事件簿【新版】 (創元推理文庫)
No.212:
(7pt)

クーンツ要素満載の短編集だが

前作『奇妙な道』とは打って変わってこちらは純粋な短編集。クーンツ得意のモダン・ホラーからファンタジー、幻想小説とその趣向は様々。
全7作の内、最も印象的だったのは最初の「フン族のアッチラ女王」と表題作。特に前者は植物のような宇宙生命体の侵略物語がどう題名に結びつくのかが興味深く、その趣向に1本取られた感じだ(結局、内容的には大したことはないのだが)。後者は家に現れる地下への階段というモチーフが秀逸。つまりこれこそが主人公の心の闇の深さのメタファーとなっており、人の悪意の底知れなさを仄めかして終わるラストも良い。

その他特殊な両手を備えた男の哀しみを描く「オリーの手」、実験で知能を備えた鼠の恐怖を描いた「罠」、異世界から来た熊の私立探偵とその異世界と現世との比較が面白い「ブルーノ」など前述のようにヴァラエティに富んでいるがずば抜けた物がないのも確か。最終巻の『嵐の夜』に期待。
闇へ降りゆく―ストレンジ・ハイウェイズ〈2〉 (扶桑社ミステリー)
No.211:
(7pt)

黒天藤の巻

天藤作品を連続して読む前は、『遠きに目ありて』、『大誘拐』、『鈍い球音』しか読んでないがため、それらに共通する宮部みゆき氏を髣髴させる温かみを彼の作品の特徴だと思っていた。しかし、『善人たちの夜』、『わが師はサタン』までの長編を読破するにあたり、意外にも人間の持つ欲望の意地汚さ、卑しさ、小賢しさを全面に表出させ、女性を凌辱する話も多いことに気付かされた。その傾向は『死角に消えた殺人者』あたりから顕著に見られるようになった。ここに作者の転機があるように思う。

なぜこんな話をするかというとこの短編集がどうもその時代あたりに書かれた片鱗を覗かせるのだ。その特色が表題作の「われら殺人者」から見られる。文庫の裏表紙にかかれた梗概からは天藤お得意の見知らぬ者達が力を合わせ、目的を成すといった奇妙なチームワーク物のように思えたが、意外や意外、何とも泥臭く、後味の悪い結末だった。
最後の2編、「崖下の家」、「悪徳の果て」はもう人間の最も厭らしい部分を見せ付けるような結末で正直、今でも震えが来る。いや、今にして思えばジュブナイル物だろう「幻の呼ぶ声」も結構児童向けにしてはシビアな内容であるから、ここからかもしれない。

結構次作を読むのが怖かったりする。
われら殺人者―天藤真推理小説全集〈14〉 (創元推理文庫)
天藤真われら殺人者 についてのレビュー
No.210:
(7pt)

観てない映画のキャスティングが目に浮かぶ

久々の、本当に久々のレナードである。『ラム・パンチ』以来だから4~5年ぶりか。そしてやはりレナードは面白かった。

とにかく登場人物が洒落ている。活きている。どんどん引きずり込まれる。フォーリーのクールさは映画版のジョージ・クルーニーぴったりだし、キャレンの凛々しさは確かにジェニファー・ロペスだなぁ。本作ではフォーリーは50前、キャレンはどうやら白人という設定みたいだがこのキャスティングは素晴らしいと改めて思った次第。

まあ、観ていない映画の話はこれくらいにして、とにかく車のトランクの中に銀行強盗と女連邦官が一緒に閉じ込められるというワン・アイデアがこれほど面白く働くとは思わなかった。水と油の職業の者同士が恋に落ちるというパターンは山ほどあるが、これほど奇抜でしかも説得力のあるシチュエーションは初めて。ここから織りなされるそれぞれの思いの道行きが大人のムードを醸し出しながらも初々しさを持ち、そして再び出会った時に爆発的な化学反応を起こす、このストーリー・テリングはやはり超一流。スラングを多用し、また地の分に台詞を同化させたレナード・タッチもふんだんに織込まれ酔い痴れました。
ただ2人の恋の盛り上がり方に比べ、結末がドライで呆気なく幕引きになるのが残念。
あとやっぱり『ゲット・ショーティー』の奇跡的な構成が記憶に残っているのでそれを超えられるほどのものがなかったのも物足りなかった。

ともあれ、レナード作品の翻訳再開は非常に嬉しいし、どんどん読みたい。どうか作品紹介が今後も続きますように。
アウト・オブ・サイト (角川文庫)
No.209:
(7pt)

ハードボイルドも書けるのか!

上手いなぁ!たまにはハードボイルド物も書けばいいのに・・・。センスあるよ~!
戦場の夜想曲(ノクターン) (徳間文庫)
田中芳樹戦場の夜想曲(ノクターン) についてのレビュー
No.208:
(8pt)

ああ、哀しいねぇ、哀しいねぇ

ラストはこの上なく切ない。この胸に残る気持ちはちょっと長引きそうだ。
ダレカガナカニイル… (講談社文庫)
井上夢人ダレカガナカニイル… についてのレビュー
No.207:
(8pt)

しっとりと来ます

負けました。このような気持ちにさせられるなんて。
題名もいい。
春になれば君は (角川文庫―角川ミステリーコンペティション)
香納諒一無限遠(春になれば君は) についてのレビュー
No.206:
(7pt)

安心して下さい

ミステリー色はさほど濃くなかったが十分楽しめた。安心して読める作品。
流星航路 (徳間文庫)
田中芳樹流星航路 についてのレビュー
No.205:
(7pt)

安定感はあるのだが…

各短編のクオリティは低くないものの、突出したものがないと感じる。次回に期待します。
異形博覧会 (角川ホラー文庫―怪奇幻想短編集)
井上雅彦異形博覧会 についてのレビュー
No.204:
(7pt)

こんな作品も書いてます。

良い!と云える佳作。相変らずのアイロニックな文体が躍動している。
白夜の弔鐘 (徳間文庫)
田中芳樹白夜の弔鐘 についてのレビュー
No.203:
(7pt)

ドイルの面目躍如

最後の三冊目にしてやっと通常の読物として満足できるものが揃い、ほっとした。
「革の漏斗」、「サノクス令夫人」以外はどれも標準点である。特に最後の「ブラジル猫」は友人を地下墓地に巧みに迷い込ませた「新しい地下墓地」のパターンを応用し、ひっくり返させ、更に夫人の振舞いにダブル・ミーニングを持たせてアクセントをつけている。
異形物の「大空の恐怖」、「青の洞窟の怪」は『ロスト・ワールド』の作者である面がよく出ており、物語作家ドイルの面目を保った感がある。

これでドイルの作品は最後になるが、全般的な感想を云えば、世評の高い『バスカービル家の犬』、『緋色の研究』や短編「まだらの紐」、「銀星号事件」などよりもあまり巷間の口に上らない『恐怖の谷』の方が読物としてレベル的にも断然面白かったのが非常に印象に残った。やはりホームズ譚は世の中に紹介されすぎなのだろう、世評高いものはもはや手垢が付きすぎた感があり、新鮮味に欠ける。
そしてまた『緋色の研究』や『四つの署名』、『恐怖の谷』に挿入される犯人判明後の挿話がすこぶる面白かったのも新たな発見であった。この挿話では文体から既に別人と化しており、本質的にこの作者が何を書きたかったのかをあからさまに示しているようだ。

最後に最も残念だったのが悪訳の多い事。日本語で読みたいのだよ、私は。21世紀でもあるし、改訳するのが潮時でしょう。
ドイル傑作集 3(恐怖編) (新潮文庫 ト 3-13)
No.202:
(7pt)

初期の短編集はまだまだだが、大作家の片鱗もあり

雑誌に投稿して佳作入選を果たした表題作に代表されるように初期の短編においてはミステリ色よりもオチのついた小噺といった方が適切な作品が多い。「なんとなんと」、「鷹と鳶」、「夫婦悪日」などは正にそれで「犯罪講師」に至ってはコントですらある。
本格的なミステリと云えるのは「塔の家の三人の女」、「穴物語」、「誓いの週末(これは秀逸)」の三篇だけだろう。
「声は死と共に」は天藤作品らしからぬ暗い作品でなんとも後味が悪く、結末も歯切れが悪かった。

先に出版された『遠きに目ありて』レベルの秀作がないのはまだ油の乗り切る前の初期作品であるから仕方ないが、最後の「誓いの週末」にその片鱗が窺えるのが収穫だった(ある意味、これはチェスタトンだよなぁ!!)。
親友記―天藤真推理小説全集〈12〉 (創元推理文庫)
天藤真親友記 についてのレビュー
No.201:
(7pt)

別名義だからこその違和感か

天藤真がオカルト!?というミスマッチのせいか、読み始めはなかなかノレなかったが、アスタロトから南郷講師へ主人公グループの指導者が替わる辺りからなんとかテンポよく読み進められた次第。ストーリーはその後も二転三転し、なかなか先を読ませなかったのだが、最後は、意外というわけでもなく、こちらの思ったとおりの犯人に落ち着いた。

しかし、『善人たちの夜』の時もそうだったが、いまいち主人公には共感できなかった。こちらが天藤作品に求めているのが主人公達が孤軍奮闘する爽快感であるように位置付けられている事が大きいのだろう。無論それは『大誘拐』や『殺しへの招待』などの天藤真の代表作が備えているテイストに他ならないからだ。
だから最後の田のぬけぬけとした女たらしぶりなどは読書の興趣を殺がれるし、何とも味わいの悪い読後感が残る以外何物でもない。
しかも女性名義で発表した作品という割にはセックスに関する叙述が多く、ろくでもない人間が多く出てくるのも気になった。もしかしたら天藤作品というレーベルとは作者自身も違和感があったのかもしれない。

わが師はサタン―天藤真推理小説全集〈11〉 (創元推理文庫)
天藤真わが師はサタン についてのレビュー
No.200:
(7pt)

この設定はズルい

以前から云っているが、数あるクーンツ作品を傑作・駄作で分類する時、ポイントになるのは物語に使われる超常現象に対し、登場人物や設定において、ある特別な区別をされた際に何故彼(彼女)は他のみんなと違うのかというのがはっきり明示されているか否かが挙げられる。前者は『ファントム』、『ウィスパーズ』、『雷鳴の館』等、後者は『殺人プログラミング』、『闇の殺戮』等である。勿論後者についても読者を全く飽きさせない展開でぐいぐい引っ張っていくがいかんせん理由付けの部分が弱いと興醒めで魅力はそこで半減してしまう。
さて今回はどうだったかというとまずは及第点。悪くない。

本書に収められた2作の内、本書のほとんどを占める表題作は父親の葬儀のため、数十年振りに戻った故郷でいきなり20年前にタイムスリップする、それは現在の自分の人生を運命付ける正に人生の岐路の時であった、主人公は自分の理想とする新たな人生を取り戻そうとするという男の再生譚。今回の私なりの焦点は何故主人公がいきなり20年前に戻ったのかというのは実は主眼ではなかった。これは物語の設定として違和感なく入り込めた。
では何かというと事ある毎に、特に主人公が失敗する場面からいきなりリセットされ、失敗する前に引き戻されるという設定。それが1度のみならず2度、3度と繰り返される辺りに不満があった。クーンツの作品は結局ハッピー・エンドで終わるというのが通説だが、これはいくらなんでも酷すぎると思った。
しかし作者はそこに何ともロマンティックな理由を設けており、正直思わず微笑んだ。こういう手を使う所が、何ともクーンツの人生を反映しているような気がして憎めない。

もう1作の短編「ハロウィーンの訪問者」は他愛のない話で恐らくこれは児童向けの説教小説だろう。怪物を出すあたり、クーンツらしいといえばそうだが。

今回は以上よりやや傑作よりだと思うが小説としては小粒であることは否めない。次に期待。

奇妙な道―ストレンジ・ハイウェイズ〈1〉 (扶桑社ミステリー)
No.199:
(7pt)

何とも苦い味わい。

ミステリというよりもシチュエーション・コメディと云った方が妥当のような至極真っ当な物語。

危篤の床に就く親父のために偽装結婚を画策した所、思惑から外れて事は意外な方向に向かい、やがてそれぞれの本性が見え隠れしだし、最後は・・・と、何処に意外性を求めたらいいのか解らない物語で設定に凝る天藤にしては本当にオーソドックス。寧ろストーリーは単なる意匠で、描きたかったのは田舎の大地主の息子との結婚生活奮闘記のような日々苦闘する主人公二人の姿と非の打ちようがないほどの善人の弥左衛門とそれらを取り巻く気のおけない親戚どもの様子だろう。作者自身これを愉しんで書いているような節も散見する。


▼以下、ネタバレ感想
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善人たちの夜―天藤真推理小説全集〈10〉 (創元推理文庫)
天藤真善人たちの夜 についてのレビュー
No.198:
(7pt)

天藤印なのになんかそぐわない。

冒頭の、関係のない4人の転落死、その事件を解決すべく結成される遺族会、そして一癖も二癖もあるいかがわしいそのメンバー、結末直前のどんでん返し、そして4人が同乗して死に至った経緯のコミカルさ、これらを取り出してみると正に天藤ワールドのエッセンスが詰まっているのだが、どこか空虚な感じが残っており、充実感がない。それは主人公令子の行動と共にストーリーが語られることにあると思うのだ。

今回の主人公は決して読者の共感を得る存在ではないだろう。勝ち気で考え方に偏りがあり、しかも厚顔無恥な所もあり、移り気が激しい。この移り気の激しい令子の行動がまた短絡的で探偵ごっこの域を出てないために、徒に時を費やしている印象が非常に強かった。
また、死んだ母親が令子の導き手として頻繁に出てくるのはどうしたことだろうか?こういう寓話めいた構成は今までの天藤作品には全く見られなかったのに今回に限って何故このような手法を取り入れたのだろうか?作者も年を取り、ある意味、独特の死生観を持つに至ったのだろうか。これが結末にも演出として使われていたのは逆効果で、温かい余韻を持たせようという作者の魂胆が見え、私にはあざとく感じたのである。

まあたまにはこういうのもあるんでしょうな。
死角に消えた殺人者―天藤真推理小説全集〈8〉 (創元推理文庫)
天藤真死角に消えた殺人者 についてのレビュー
No.197:
(7pt)

傑作になり損ねました。

前回のシンプルな設定とは全く逆のジェットコースター的逃亡劇でとにかく先の読めない話だった。

『遠きに目ありて』の中の1編にもあったが晴耕雨読の生活をしていた事も一因だろうがなによりも山中の風景や場面を描かせると天藤真は無類に巧い。行間から土の匂いや草いきれ、田舎の生活臭が立ち上ってくるのである。山中における逃亡者と追跡者との一進一退の攻防はコミカルながらも真に迫っており、リアルである。

そして今回もまた人物設定が特異で、学生期のトラウマから女嫌いになったヒッピー青年と、同じく学生時代のトラウマから男嫌いになった赤軍派女性を逃亡のカップルに仕上げる辺り、心憎い。こういった設定では常に逃亡者同士のラヴロマンスが付き物だが、その一歩手前にそれぞれ異性に対する意識の革命があり、あくまでプラトニックな所が初々しい。涼風が心に吹くような爽やかな印象を与えてくれ、9割ほど読んだ時点では9~10星のはずだったのだが、最後の真相及び結末がどうにも消化不良。これは自分の好みの問題なのだろうが、こういう内容のものに真相に政治的陰謀などが絡むと何ともしらけてしまうのだ。更に最後のぼやけた様な終わり方もちょっとガッカリ。天藤作品にしてはちょっと凝り過ぎのような気がしてなんとも勿体無い気持ちで一杯なのだ。
炎の背景―天藤真推理小説全集〈7〉 (創元推理文庫)
天藤真炎の背景 についてのレビュー