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マリオネットK さんのレビュー一覧

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レビュー数78

全78件 21~40 2/4ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.58:
(7pt)

ダーウィンが来た!

孤島を舞台にした連続殺人……という点だけ見れば典型的なミステリのパターンなのですが、この作品は、かの『種の起源』『進化論』で有名なチャールズ・ダーウィンが、特異な進化を遂げた生物の住む島、ガラパゴス諸島を訪れた際に実は連続殺人事件が発生していた、という歴史のIFを取り扱った作品です。さらにその事件を解決する探偵役も他ならぬ若き日のダーウィンだという、まさに設定からして興味深い異色のミステリです。
そして、まさにガラパゴス島ならではのトリックも面白いです。(このトリックが先に思いついてこの作品が出来たのでは……などとも思ってしまいます)

連続殺人事件の解決という物語の本筋に加えて、ダーウィン同様実在した人物たちによって繰り広げられる人間ドラマや、ダーウィンが後に発表する進化論とは相反するキリスト教観が事件の根底に絡むなど、盛りだくさんな内容が、300ページ強の長編にしてはやや短い分量でまとめられており、作品の密度が濃く、読んでいて飽きませんでした。
しかし、コンパクトなページ数にまとめられているという点は基本的に私の中では高評価なのですが、この作品に限ってはせっかくの面白い題材が皆中途半端な形になってしまっており、逆に少しもったいない気がしました。
テーマや人物にもう少しページを割いて、もっと掘り下げても良かったのではと感じてしまう作品です。


▼以下、ネタバレ感想
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はじまりの島 (幻冬舎文庫)
柳広司はじまりの島 についてのレビュー
No.57: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

子供だましでもなく、子供を置き去りにもしていない良作ジュブナイル本格ミステリ

「雪」の「孤島」の「館」という狙いすましたような舞台で、「人」が「山」が、そして「島」そのものまでが消失するという特大の謎を、自称名探偵夢水清志郎が解く、これまでの同シリーズよりも「本格」色の強いシリーズ第三弾。
孤島の館でのクローズドサークル作品ですが、死なないミステリなので子供でも安心して読めます。

親切にヒントが随所にちりばめられていることもあり、大人のミステリファンが読めばトリックはすぐにわかりますが、だからと言って大人の観賞には耐えないということはなく、大人は大人で「すでに大体の見当はついているのであとは確信できる材料を待っている探偵役」に感情移入して楽しむことが出来る作品と感じました。
これは作者の意図した所で、子供と大人、別の目線で別の楽しみ方が出来るように作られていた良質のジュブナイルミステリだと思います。

決して説教臭くなく(ここ重要)反戦メッセージが込められていたのも児童作品としてよく出来ているのではないでしょうか。

消える総生島<名探偵夢水清志郎事件ノート> (講談社文庫)
はやみねかおる消える総生島 についてのレビュー
No.56:
(7pt)

面白いしよく出来てると思うけど主人公がちょっと……

愛する男と再婚が決まり、その身に彼の子供を宿し、自身の経営するペンションに集まった常連客たちに祝福され、幸せの中にいる女性。
しかし彼女は21年前のクリスマスイブに、とある家族を襲った強盗殺人事件の共犯者という過去を持っていた。
そしてそんな彼女に、彼女とその家族の命を狙う復讐者からの脅迫の手紙が、惨殺された共犯者の写真を添えられ届く。
果たして脅迫者の正体はクリスマスイブの今夜、ペンションに集まった者の誰なのか……

そんなサスペンス色の強いミステリー作品です。
ページ数は少し多めですが全体にストーリーの流れのテンポが良く、次々判明する新事実が飽きさせず、楽しく読めました。
伏線回収なども巧みで、消化不良に終わった部分もなく、よく出来ていると思います。
今邑さんの作品は全体的にエンタメと割り切ってあえてB級感を漂わせつつも、完成度は高いと感じるものが多く、私の好みというか相性がいいと感じますね。(それだけに若くして亡くなられているのを知り残念です)

ただ、他の方の感想を見ても同じことが言われてますが、いくら自分は直接手をくだしていないとはいえ凶悪犯罪の共犯者である主人公を1ミリも応援する気が起きません。
むしろ罪の意識や後悔よりも、再三「あくまで自分は手を下してない、見てるだけだった」と自己弁護ばかりなのが余計に心証が悪いです。
親しくしていた常連客たちを無差別に片っ端から疑うのもこの女の自己中心的な本性が出ているのを感じてしまい不愉快な気分になります。
この辺がひっかかって高得点をつけきれず7点止まりで。

なお、他所でクローズドサークル作品と紹介されることがありますが、明らかにクローズドサークルの定義は満たしていません。

▼以下、ネタバレ感想
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七人の中にいる (中公文庫)
今邑彩七人の中にいる についてのレビュー
No.55: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

太平洋戦争勃発直前に、極東の国のさらに極東の島で何が起こっていたか

太平洋戦争勃発直前、まさに日本が真珠湾攻撃を仕掛けんがために北海道のさらに北東にある択捉島に艦隊を集結させていた時。
主人公である日系アメリカ人の賢一郎はスパイとして択捉島に潜入していた。
そこで彼は島に住むロシア人混血の孤独な美しい女性と出会い……

読む前から重い、固い、古臭いイメージを勝手に持ってしまい、ちょっと身構えながら読んだのですが、想像していたよりずっと読みやすい話でした。
また、確かに題材やテーマそのものは重いですが話の動きが大きく、キャラクターが活き活きとしているためエンターテイメント性も高い作品と感じます。
しかし、作中で南京大虐殺や朝鮮人の強制連行などにも触れているので、そういうのに拒否反応がある方は要注意です。
(私はこの問題に関しては何がどこまで事実かは判らず、また自分などが言えることは何もないと思っているので、基本的に作品とは切り離して考えています)

今作は日系アメリカ人の主人公、混血の私生児であるヒロイン、故郷を追われた朝鮮人やアイヌ人など帰属意識に悩み、苦しむ人々のドラマでありますが、物語のクライマックスの舞台となる択捉島もまた、当時は日本の領土でありながら現在はロシアの実効支配下にあり今日まで問題を抱えている場所であるということに、皮肉やメッセージを感じてしまいます。

余談ですが、先述の通り主人公の賢一郎はアメリカ人であり、日本に対する思い入れも無ければ、まさに作中で日本へのスパイ行為に来ているわけですが、私は不思議と彼に対して単なる感情移入ではなく「日本人」としての同族意識を感じてこの話を読んでしまいました。
日本人という単一民族はどうしても実際の国籍や生まれ育った土地よりも民族としての血の方を強く意識してしまうのかもしれません。
(実際賢一郎自身も、日本という国に対しては何も感じていなくても、日本人に自分の父親の面影を見てしまったシーンなどにそれが現れていると思います)

▼以下、ネタバレ感想
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エトロフ発緊急電 (新潮文庫)
佐々木譲エトロフ発緊急電 についてのレビュー
No.54: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

40~50ページにトリックとドラマが秘められた、高水準・高密度な短編集

個々の話は完全に独立しており、連作でもなければ、一貫したテーマがあるわけではないのですが
一冊を通して共通する独特の空気を感じる短編集です。
各話40~50ページ程度と短編としても特別長くは無いページ数にそれぞれ深いドラマと意外な結末が隠されており
それぞれを長編にすることも出来たのではないかと思うほどの非常に高水準・高密度な短編集だと思いました。

……ただ、理屈ではそう思うのですが、作品全体に漂う暗めの雰囲気に疲れ、いまいち楽しめなかったり、登場人物たちにあまり共感できなかったため、自分の好みだったかと言うとそれほどでもないです。
全体的に罪を犯した人たちへの同情、共感を誘うような意図の構成・演出を感じたのですが、個人的には「罪は罪でしょ」と思ってしまう部分が多かったです。

以下個別ネタバレ感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)
連城三紀彦夜よ鼠たちのために についてのレビュー
No.53:
(7pt)

シリーズの中では地味な印象だけれど、それゆえに入門にいいかも?

ホラーと本格ミステリを見事に融合させる『刀城言耶シリーズ』の第四弾。
今回は山村に古くから伝わる童歌になぞらえて次々と人が殺されていくという、見立て殺人の黄金パターンが用いられた作品です。

ミステリとしての出来という面でも、ストーリーの面白さという面でも決して悪くはないのですが、これまでの同シリーズの作品から特に目新しい面が見られず、正直前作を小粒化させただけという印象です。

しかし『厭魅』や『首無』は度重なる視点の入れ替わりや、終盤の推理のフェイントの連続などが、そこが魅力とはいえ複雑化しすぎなので、良くも悪くもそれらよりは大人しめのこの作品はシリーズ四作目ではあるけれど、むしろ同シリーズの入門には一番なんじゃないかと思いました。



▼以下、ネタバレ感想
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山魔の如き嗤うもの (講談社文庫)
三津田信三山魔の如き嗤うもの についてのレビュー
No.52:
(7pt)

デスゲーム物に通じる所がある短編古典の名作

異端審問によって捕らえられた主人公が入れられた場所は”牢獄”であると同時に”処刑場”でもあった……

牢獄内のさまざまな仕掛けに主人公が命を脅かされる緊迫感のある展開は、現代のデスゲーム作品に通じるものがあり、もう150年以上前に発表された話ですが、現代の読者も退屈させない作品だと思います。



▼以下、ネタバレ感想
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No.51:
(7pt)

このシリーズは「本格」というより、もはや独自のこういうジャンルとして読むべき?

シリーズ第五弾。
最初に読んだのがノベルス版だったので読み終わった後に知ったのですが、前作の『鉄鼠の檻』よりさらにブ厚い、シリーズ最長作品とのこと。
(次作の『塗仏の宴』を二作セットで考えればそちらがさらに長いですが)
真相部分に二作目の『魍魎の匣』に関する内容が含まれているため、ネタバレとまではいかないですが、先にそちらを読むべきでしょう。

前作の『鉄鼠の檻』の舞台が山寺という男の世界を描いていたのの対となっているのかはわかりませんが、今回の舞台はミッション系の女学園や代々女系の一族の屋敷といった華のある舞台です。しかし綺麗な華には棘が……というのもお約束です。

相変わらずこのシリーズはキャラクターが抜群に魅力的です。
今作のメインゲストキャラは女性中心ですが、いずれも「強い」女たちで、対する男性ゲストキャラは全体的に矮小な印象で押されぎみです。
しかし、そんな強い女たちに対しても、レギュラーキャラの京極堂、榎木津、木場はやはり別格の存在感ですね。(この三人は各々別ベクトルで無敵感があります)
特に自分は榎木津が大好きです。もう1000ページぐらい彼がひたすら暴れるだけの話でもいいと思うぐらい。
木場は前作までは正直粗暴すぎる印象であまり好きではなかったんですが、今作で好感度が上がりました。まさに作中で三女の葵が当初は木場の粗野な態度に眉をひそめたけれど、ただ男というだけで威張りたがるような連中とは違う、彼の公平で気取らない態度を見直したのに近い感想です。(まさに正しい意味で「男らしい」んですね木場は)

今作は、ジェンダー論的なテーマとキリスト教関連の薀蓄が特徴ですが、個人的には「男性の女性らしさに憧れる気持ちと、それを否定される苦悩」に触れていた部分が印象的でした。結局人間誰しも男性的な部分と女性的な部分があるわけで、女性を蔑視、軽視することは生物学上の女性だけではなく、男性の中の女性性も否定される問題であるのではないかと考えさせられました。(「女々しい」という言葉は女性を蔑視する言葉であると同時に、実際には男性を攻撃するために使われる言葉だな、などともふと思いました)

ミステリ部分に関しては、真犯人をロジックで導くのは不可能に近いですし、犯行方法も現実的とは思えずあまり評価できないのですが、そもそも前作を読み終えた時点でも感じていたことですが、このシリーズは所謂「本格」の括りで考えて読むものではないというのを改めて思いました。(三作目の『狂骨の夢』あたりは紛れもなく本格だと思いますが)
この世界観やキャラクター、溢れる薀蓄会話などを楽しむ、もはや独立した「こういうジャンル」なのがこの『百鬼夜行シリーズ』ですね。

余談ですがこの作品をモチーフにした『桜花の理』という曲を『陰陽座』という和風へヴィメタルバンドが発表しており、楽曲のレベルも高く、この作品を知っている人ならニヤリと出来る歌詞なので興味がある方は聞いてみてください。

▼以下、ネタバレ感想
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文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)
京極夏彦絡新婦の理 についてのレビュー
No.50: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

舞台のスケールは大きいけれど、気軽に手軽に楽しめる作品

ドイツの古城を舞台にしたクローズドサークル作品。
古城ならではの雰囲気や仕掛けが存分に活かされておりエンターテイメント性の高い一冊です。
シリーズの中でもスケールの大きい舞台のためか、映画の『ドラえもん』とか『クレヨンしんちゃん』に通じるような豪華さを感じます。
活発ながら捕らわれのヒロイン役もつとめる晴美、剣や斧を手にして中世の騎士さながら大暴れの石津、頼りないながら〆る所は〆る片山、おなじみのキャラクター達の個性も特に際立つ作品でした。

古城に閉じ込められ、血塗られた連続殺人が起こるというそれだけなら陰惨なストーリーも、赤川氏の手にかかれば相変わらず全編通してユーモアに溢れた明るい作風で安心して読めますし、小中学生にもおすすめですね。
(食事を用意していた使用人が殺された直後、大食漢の石津が「食事はどうなるんでしょう……」と心配するなどはもはやブラックジョーク寸前ですが)

このシリーズで最高傑作と言えば間違いなく一作目の『推理』なんでしょうけど、単純に面白いかどうかで言えば個人的にはこれが一番で、小学生の頃何度か読み返した一冊です。(このたびは20年ぶりぐらいに再読しました)
昔から私はクローズドサークルが好きだったんだと改めて感じましたね。


三毛猫ホームズの騎士道 (角川文庫)
赤川次郎三毛猫ホームズの騎士道 についてのレビュー
No.49: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

本格推理小説の教科書のような良質短編集

主人公は和製『ブラウン神父』とも言うべき、職業はカメラマンの素人探偵、亜愛一郎(「亜」が苗字。学生時代間違いなく出席番号一番だったでしょう)
そんな彼のユニークなキャラクターをはじめ、事件の様子がコミカルに描かれるユーモアミステリーとも言える短編集ですが、内容はれっきとした殺人事件を、トリックを解明したりフーダニットを突き詰め解決していく本格推理小説です。
また一話あたりいずれも40~50ページ程度と殺人事件を取り扱うには短編にしても短めですが、いずれも良質な出来で、さらに話のバリエーションも豊富でこれ一作でちょっとした本格推理の教科書のようです。
短い時間で一話ずつ読めるので、まとまった時間が取れない方にもお勧めですね。

しかし基本的に短編の域を出ておらず、特別感心したり面白いと言うほどのネタはありませんでした。
少し古臭さを感じる部分も多く、現代のミステリ好きが読むと少し物足りないと思うところもあるかもしれません。


一冊通して残った謎
・顔が三角形の老婆は結局何者なのか……(てっきり最後の事件で何かオチがあるのかと思った)
・亜は結局ドジなだけで運動神経は抜群なんでしょうか?

▼以下、ネタバレ感想
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亜愛一郎の狼狽 (創元推理文庫)
泡坂妻夫亜愛一郎の狼狽 についてのレビュー
No.48: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『ヒカルの碁』のように囲碁を知らなくても楽しめる作品ではない

タイトルのまんま囲碁に関わる殺人事件です。
全編にわたって囲碁の薀蓄が溢れているのをはじめ、いろいろな部分で囲碁のルールを理解していないと判らないだろうという所がありました。
冒頭のルール説明の文章からして、ルールを知らない人へのフォローというよりはむしろふるい落とそうとしてんのかと思う判りにくさでした。
私は碁が打てるので(弱いけど)割りと楽しんで読めましたが『ヒカルの碁』のように囲碁を知らない人が読んでも面白いという話ではありません。

純粋にミステリとして見てもそこまで出来が良いとは思いませんが、囲碁を題材にするという独創性を評価してこの点数としました。

主人公(?)のIQ208の天才少年智久が天才でありながら言動は実年齢より幼いぐらいに見えて少し違和感でした。
天才であってもあくまで年相応の子供であるというキャラを前面に押し出したかったのかもしれませんが、あまりにも記号的な「無邪気な可愛い男の子キャラ」を押し出してる感があってちょっと苦手でしたね。
囲碁殺人事件 (講談社文庫)
竹本健治囲碁殺人事件 についてのレビュー
No.47:
(7pt)

性格の悪い人間の方が、外から見ている分には面白い

とある美女の殺人事件について、フリーライターが友人の女性の口コミを口切りに、事件と時を同じくして行方をくらませている容疑者最有力候補の女性について独自に取材調査を行い、自身のSNSや雑誌記事に取材情報を多分な誇張・歪曲表現を用いて発信していく様子が描かれる、リアルかつ異色なミステリです。

多くの人の視点で事件が語られますが、視点ごとに事件の印象や形がコロコロと変ってしまうという構成や
人間の醜さ、いやらしさが存分に出ているけれど、それが不快感よりは話を面白くする絶妙のスパイス(むしろメインディッシュ?)になっている作風など
この作品も彼女の作品「らしさ」が存分に出ていました。

文章だけでなく、SNSのやりとりやゴシップ雑誌の記事が資料として組み込まれているという手法が斬新かつ妙なリアリティを産んでいて面白かったですが、SMSや記事の部分は全部巻末にまとめられて、章の終わりごとに参照ページが書かれると言う形式だったため、どういう順番に読めばいいのかちょっと混乱しました。
実際の所私のように、章の終わりごとにその都度資料に飛んで読んでもいいし、最後にまとめて読むのでもいいし、極論読まなくても大丈夫っぽいですが、章の終わりごとに挿入するのではダメだったんでしょうかね?

真相そのものは面白かったですがラストはやや尻すぼみな印象でした。


▼以下、ネタバレ感想
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白ゆき姫殺人事件
湊かなえ白ゆき姫殺人事件 についてのレビュー
No.46: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

まさに「おそロシア」

スターリン体制時代のソ連を舞台とした、国家安保捜査官が主役の物語。

実在した連続児童殺人犯である「アンドレイ・チカチーロ」をモデルとした殺人鬼がソ連全土を舞台に次々と子供を殺害するのを主人公が追うストーリーとなりますが、それはあくまで物語の一面に過ぎず、主人公の本当の敵や脅威は殺人鬼よりもむしろ、彼自身が忠誠を誓ったはずの国家体制そのものというのがこの話の最大の特徴だと思います。
国民の誰もが、それこそ昨日までは取り締まる側であるはずだった安保官までもがいつあらぬ疑いをかけられ、処刑されたり強制収容所送りになってもおかしくないという、この時代のソ連の恐ろしさが存分に描かれている作品です。

すごく重そうな内容であることに加え、海外翻訳物、さらに上下巻で700ページ越え、と読みにくそうさの数え役満状態に身構えてしまいましたが、いざ読んで見ると近年の作品と言うこともあり、内容は想像以上にハードなものの、読みやすかったです。
物語のどこを切り取っても緊迫感があって非常に先が気になり、あらゆる面で悲惨・陰惨・凄惨を極めるストーリーでありながらも、とても面白く読めました。
残酷なシーンそのものが苦手な人は別として、決してドストエフスキーの作品みたいに「読みにくそう・難しそう」と身構える必要はありません。

前半部分はとにかく残酷ながらもすごく惹きつけられるストーリーで、関心させられる作品だったのですが、物語の最大の転機となる、これまで保身と出世のために”国”というよりも”体制”に対して忠誠を誓い、スターリン体制の手先となってきた主人公が、自分自身の矜持や本当の意味で自分の生まれ育った”国”のために、”体制”に反旗を翻すように個人で殺人鬼の正体を追うことになった場面あたりから、正直首をかしげたくなる展開になってきました。

また、前半はあらゆる面が主人公への逆境となり、まさに超ハードモードなのに対し、逆に後半になると主人公とヒロインの置かれた過酷な状況そのものは変らないものの、不自然なレベルで全てが主人公にとって上手くいく、ご都合主義全開になってしまったのが残念です。

前半は文句なしに面白くて9点。後半は一気に薄っぺらいただの娯楽作品になり下がった気がして5点。
平均してこの点数という感想です。(後半を酷評してますが、後半も「面白い」ことには変らないんですよ)


▼以下、ネタバレ感想
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チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
トム・ロブ・スミスチャイルド44 についてのレビュー
No.45: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

医療の現場という特殊な舞台設定ながら中身は紛れも無い「本格ミステリ」

とある大学付属病院が誇る、優秀な外科医・桐生を中心に、成功率六割という難易度の高いバチスタ手術を二十例以上連続で成功させてきた、栄光の「チーム・バチスタ」
しかし、状況は突如一転し、三件の術中死が相次いで発生するようになり、その真相を探るという医療ミステリ。
映画化などもされた有名作ですね。

医療の現場という特殊な舞台・状況設定であり、現在の大学付属病院や手術の現場体制の問題に切り込んでいる社会派ミステリの側面も持つものの、探偵役・ワトソン役が存在し、フーダニットを突き詰める形式は紛れも無い本格ミステリであると思います。

作者の海藤氏が現役の勤務医ということで、医療現場に関する知識、リアリティ、説得力は言うまでもないですが、主役の田口は医者でありながら外科手術は門外漢であり読者目線に立ってくれるため、特に医療知識は必要とせずに読めます。
また、内容は最初もっと硬くて重い話と言う先入観があったのですが、キャラクターや会話にはコミカルな部分も多くて読みやすく、いい意味で裏切られました。
それでも前半部分はやや退屈だったのですが、後半に探偵役であり、真の主役である白鳥が登場してからは一気に話に活気が出てきました。
この白鳥の強烈なキャラクターは人によっては拒否反応が起きそうですが個人的には好きです(あくまで読者という外から目線で、実際にはお近づきになりたくないですが…)

▼以下、ネタバレ感想
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新装版 チーム・バチスタの栄光 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
海堂尊チーム・バチスタの栄光 についてのレビュー
No.44: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

自分もグラス片手に読みたくなる一冊

「仏陀が悟りを開いたのはいつ?」「邪馬台国があったのはどこ?」「聖徳太子とは何者?」「信長はなぜ打たれた?」「明治維新が起きたのは何故?」「キリストはなぜ蘇った?」
バーのカウンター席にて行われる歴史の謎の議論……という形式の連作短編で、「死なないミステリ」どころか「事件すら起こらないミステリ」そもそもこれをミステリと呼んでいいのかさえ微妙です。

誰もが知っている一般常識ながら、謎の残るこれらの議題に、これまでにない「な、なんだってー!」といいたくなる新解釈が提示され、突拍子も無い意見であるのに、どこか説得力があり、納得してしまいそうになります。より詳しい知識のある人なら「いや違う!」と反論したくなる部分も多いのでしょうが、この物語はあくまで「飲みの席」での会話だということを念頭において、自分のグラス片手に楽しむのがいいのかもしれません。

以下個別ネタバレ感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)
鯨統一郎邪馬台国はどこですか? についてのレビュー
No.43:
(7pt)

いろんなジャンルがごった煮のシリーズの異色&問題作

『金田一耕助シリーズ』ですが、耕助の出番は少なく、今回主役となるのは音禰という、絶世の美貌を持つ女性です。
設定的には『八つ墓村』と『犬神家の一族』という同シリーズの二大有名作を足したようなストーリーですが、全体を通して見ると本格ミステリというよりはラブロマンス&サスペンス小説といった印象の作品でした。
また半分官能小説と言ってもいいような、かなりエロティックな話でもあり、箱入り娘として育てられてきた主人公の美女が殺人事件に巻き込まれると同時にこれまでの生活で決して経験することのなかった、淫靡な世界に否応なしに触れることになっていく展開にも目が離せません。

いずれも一癖も二癖もある女たちと、その女たちにはそれぞれやはり一筋縄ではいかない男たちが背後に控え、遺産絡みの命がけの駆け引きを演じていく物語は、今でいうチームバトルロイヤル作品の様相も呈しており、この点で見るとすごく時代を先取りしていると言えるかもしれません。

しかしはっきり言って設定にも展開にもかなり無理があって粗が目立つ作品です。
まず遺産額が「百億円」ってやりすぎでしょう。正直「横溝先生、小学生じゃないんですから……」と思ってしまいました。
現代でも文字通りケタ違いの大金ですが、この作品の発表当時の貨幣価値だとさらにその10~30倍くらいでしょう?
スケールの大きさよりも逆に安っぽさを感じるだけでなく、そんな莫大な額だったら逆に取り分のために殺人犯す奴はいないだろ……と思ってしまいます。

他にも細かいところでツッコミどころはいっぱいあり、ミステリ作品として見るとお世辞にも出来がいいとは言えないと思いますが、単純に娯楽作品として見るなら個人的には面白かったですね。



▼以下、ネタバレ感想
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三つ首塔 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
横溝正史三つ首塔 についてのレビュー
No.42:
(7pt)

もう一回乗りたくなるジェットコースター・ミステリ

嵐の中の閉ざされた別荘に集う人々、という定番のシチュエーションのミステリですが、定番と言えるのはそこだけ。
次々と予想外の展開が待ち受け、息をつく暇もない、謳い文句の通りのまさにジェットコースター・ミステリです。
西澤氏お得意の非現実的なSF設定こそ出てこないものの、あまりにハチャメチャな展開のせいで、もはやSF作品レベル。
このジェットコースターにもう一回すぐにでも乗りたくなるか、「二度と乗るかボケ!」と思うかは人それぞれでしょう。


▼以下、ネタバレ感想
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殺意の集う夜 (講談社文庫)
西澤保彦殺意の集う夜 についてのレビュー
No.41: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

読み応え抜群の大作「館ミステリ」

龍の彫像のある中庭を縁側状の廊下が囲むようにして多数の部屋が連なるという、特殊構造の元・旅館、「龍臥亭」を舞台に繰り広げられる連続殺人事件。
館ものの超長編『暗黒館』『人狼城』には流石に及ばぬものの、それらに準ずるぐらいの分量を持つ大作です。

横溝御代の有名作『八つ墓村』同様、有名な「津山30人殺し」がモチーフとして扱われていますが、この作品に関してはもはやモチーフというよりは、事実上あの事件そのものを取り扱った社会派ミステリの側面もあるかもしれません。
(事実作者の島田氏は実在のあの事件を正しい形で知ってほしいという主張をあとがきでもされています)

そしてこの作品の最大の特徴は『御手洗潔シリーズ』でありながら、御手洗潔は外国におり、最後まで登場せず、事件の渦中にいるワトソンくん役の石岡くんに対して一度だけ、短いごく簡単なヒントと激励の手紙を送るだけという完全に石岡が主役であり探偵役という物語です。
次々と人が殺され、そのたびに謎が増えていく事件に、読者も石岡本人も「こんなの御手洗じゃなきゃ無理だろ~」と思ってしまう中、それでも手紙の御手洗の言葉を契機として、少しずつ石岡は自覚と自信が芽生えていきます。

普段は頼りない石岡和己というキャラをみんなが見直すことになると同時に、手紙の中の言葉だけでも御手洗潔というキャラの存在感と影響力の大きさを改めて感じる一作です。




▼以下、ネタバレ感想
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龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)
島田荘司龍臥亭事件 についてのレビュー
No.40:
(7pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

心も身体も「異形」である人々のお話

「フリークス」=異形・奇形などを指す単語ですが、この作品は決して比喩ではなく、タイトルどおりそんなフリークスたちが多数出演するお話。
著者である綾辻氏の処女作を含めた、三つの短編(中編?)で構成されています。
個々の話に繋がりは無いですが、精神病棟の患者の記録という共通の形式がとられており、まさに心も身体も異形となった人々の物語です……

いずれも読後感が良いとは言えず、グロ要素も強めの悪趣味な話で賛否両論ありそうですが、私は三作とも好きですね。
ホラーと本格要素が絡み合い、叙述トリックまで仕組まれているまさに「綾辻行人」という作家の魅力が凝縮されている一冊だと感じました。

以下、個別ネタバレ感想です

▼以下、ネタバレ感想
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フリークス (角川文庫)
綾辻行人フリークス についてのレビュー

No.39:

ZOO〈1〉 (集英社文庫)

ZOO

乙一

No.39:
(7pt)

分類不能!それゆえに最もこの作者を象徴している短編集

天才というよりは「奇才」という形容が似合う乙一氏。
そんな彼「らしさ」が最も出ている作品だと思います。

ホラー、SF、本格ミステリ……
とことん救えない話から、少し泣かせる話、はたまたシュールな世界観やブラックユーモアまで
非常に引き出しが広いのに、どこか一貫している独特の作風。
まさにそんな乙一ワールドが広がる短編集で、とりあえず彼の作品を最初に勧めるなら自分はコレだと思いますね。

以下個別、ネタバレ感想です。



▼以下、ネタバレ感想
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ZOO〈1〉 (集英社文庫)
乙一ZOO についてのレビュー