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absinthe さんのレビュー一覧

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レビュー数16

全16件 1~16 1/1ページ

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No.16:
(7pt)

デセプション・ポイントの感想

歴史×ミステリーが好きだと言っておきながら、ダンブラウンは初めて読みました。「天使と悪魔」や「ダヴィンチコード」は既に映画で見てしまったのでそれ以外と思って探していたら、テーマも好みに合いそうな本作をこのサイトで見つけました。ダンブラウンは、もっと歴史蘊蓄を語るのが大好きといった思い込みをしていましたが、本作は期待とは違っていました。それでも科学空想+政治陰謀といったabsintheの大好きなジャンルでした。

本作は、NASAが北極で科学上の大発見をしたけれども実は発見は捏造で、それは誰が何のために仕組んだのか?という流れで進みます。発見が捏造であるというのはネタバレではありません。冒頭の4ページで読者にばらされています。タイトル自体がデセプション(欺き)ですしね。
NASAの存続を標榜する現職大統領とNASAの分割民営化を訴える上院議員の対立と、捏造を隠ぺいしようとする組織と暴こうとする主人公たちの対立が見ものになっています。最後には実は黒幕が……という大どんでん返しがあって仰天します。(absintheは、すっかり騙されました。少しズルイとは思いましたが。)そしてラストにもう一回ぎゃふんとさせられサービス満点です。
まったく想像で根拠なしに、ダンブラウンという作家はもっと繊細で緻密なのかと思ってましたが、ケレン味たっぷり豪快で大胆な作風で、アクションも冒険ものに引けを取らないくらい面白かったです。ダンブラウンは、むしろジェームズロリンズやクライブカッスラーに近いのですね。

absintheは大満足ですが、アクションより緻密な話が好きな人に向いていません。
悪の陰謀組織と暴こうとする正義の人という単純な勧善懲悪はかろうじて避けています。しかし、賄賂の話や陰謀に加担する人々の描写はやっぱり紋切り型の感がぬぐえません。
政治駆け引きに関する会話は、全体的に底が浅い印象を受けました。NASAをめぐっての討論でテンチがいう「NASAを全廃か存続かの2択で答えなさい」という問いかけは幼稚で、トンデモ論者に典型的によくあるパターンです。「お前、先生が死ねって言ったら死ぬのかよ。」みたいなレベルであまり知性が感じられません。こんな挑発に簡単に乗ってしまうセクストンも情けなく、NASAの諸問題を討論の時にはじめて考えたようにしか見えないのです。ある程度単純化しないとスピード感が損なわれるので致し方ないのですが、良くも悪くも底の深さよりスピードを優先した作品となっています。
発見が捏造であることは既に読者に明かされているので、小説の冒頭から捏造が暴かれるまではだいたい先が読めてしまいます。途中で急展開してから俄然面白くなってきて退屈だったことなど忘れてしまいますが、それ以前に止めてしまう人もいるかもしれないと思うと残念です。

absinthは読み終わるまで知らなかったのですが、本作も映画化されていたようで、確かに映画化しやすい話だなぁとは思いました。absintheはまだ未見です。


▼以下、ネタバレ感想
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デセプション・ポイント〈上〉 (角川文庫)
ダン・ブラウンデセプション・ポイント についてのレビュー
No.15: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

SAS/ラオス黄金の三角地帯の感想

SASプリンスマルコシリーズを知らない方は、こちらを参考にどうぞ。
http://osudame.com/novel/N22646

プリンスマルコはCIAの協力者ですが、今回の相手はCIA内部です。世界の阿片の半分を生産すると言われるメコン川流域で麻薬組織と対決しますが、CIA内部に敵がいるのです。(ネタバレではないです、冒頭で読者に明かされます。)
本作のマルコは、アクション控えめで足を棒にして証拠集めに奔走する探偵のような存在です。当時、1970年代のアジアがどんなだったか垣間見ることができます。今回の相手となるCIAの責任者チ・ヴィラールは私欲で動く悪人とは異なり、国家への忠誠心から嫌々ながら麻薬仕事に協力しているのです。対決には哀愁が伴います。調査の依頼人デヴィッド・ワイズは本作以外にも登場するCIAの大物で、ワイズの息子は同じ調査で命を落としています。マルコは1ドルで彼の依頼を引き受けました。
任務の合間に協力者の少女のために結婚式の真似事までしてその両親を安心させようとするマルコ。目の前で死んだほとんど見ず知らずの協力者の亡骸にそっと花を手向けるマルコ。あそこも堅いが義理にも堅い男なのです。
酔っ払いがシャンパンを開け損なってコルクを壊してしまうと「こうやって開けるんだ!」とばかりにボトルの首を吹っ飛ばすマルコ……さすがはフランス作家。

マルコシリーズでは登場する女性が大事です。以下を参考にどうぞ。

★ウボル タイ人少女 
 娘は小さな胸の線をくっきり見せる黒いシャツブラウスを着、少年のような腰、信じられないほどほっそりした胴回りで、人形を思わせた。分厚い唇、小さな鼻、非常に細い目、それらが官能的であると同時に、おびえたような感じにもしていた。
 服を脱がしにかかると、シャツブラウスと黒ズボンの他には、黒いレースのごく小さなパンティしかつけていなかった。マルコはその見事な体に見とれた。小さな、引き締まった乳房、弓型に反った尻、肌はサテンのようにつやつやしている。

★シンシア バーの女主人
 最初、女神カリピュグスさえねたみそうな腰部へと続く、非の打ちどころのない、むしろ逞しいまでの曲線を描く長い脚が見えたきりだった。それらが、どぎつい緑色のパンタロンにぴったり包まれている。次いで、カウンター越しに体を伸ばして氷のかけらを取っていたその若い女は、体をまっすぐにしてドアの方を向いた。
 ひどく長いまつげに陰影をつけられた、いかにも純真そうな青い大きな目に、マルコはショックを受けないわけにはいかなかった。


SAS/ラオス黄金の三角地帯 (創元推理文庫 197-35 プリンス・マルコ・シリーズ)
No.14:
(7pt)

寒い星から帰ってこないスパイ

本書「アフリカの爆弾」に収録されている作品です。
題名だけはジョン・ル・カレの名作のパロディですが、内容は全く関係ありません。
ある会社員が、上司に簡単な仕事を頼まれて寒い星へ出かけなけらばならなくなるのですが、主人公はスパイにあこがれており、上司の指示をすべてスパイ活動をして来いという暗示と解釈し、頓珍漢な冒険が始まります。
ただのうっかり者の勘違い小説とも読めるし、スパイ小説にありがちな、大事なことは明示的に話さずすべて暗示して匂わせるという手法を皮肉った小説とも読めるのですが。
文学部唯野教授で記号論、解釈学、現象学を見事に論じた筒井康隆です。もっと深いでしょう。テクストに対する読みと深読みもテーマです。

アフリカの爆弾 (角川文庫 緑 305-2)
筒井康隆アフリカの爆弾 についてのレビュー
No.13:
(7pt)

寒い国から帰ってきたスパイの感想

この作品には、(というかルカレの作品には)美女をはべらせスポーツカーを飛ばし、銃弾を交わしながら悪の大物を追いつめるようなスパイは登場しません。悲しいかな、偏狭で融通のきかない巨大な官僚機構の歯車にすぎないと書かれています。そういった設定は大変にリアルに感じられました。作品には現地スパイへの送金方法、敵の目のくらまし方など多くのスパイ小説なら書かれないような要素が紹介されます。もちろんフィクションなのでしょうが、登場人物にのみにスポットを当てる作品と異なり組織そのものがリアルに描かれるところが面白いのです。
本作は動きに乏しく、走ったり跳んだり格闘したりというのはごくわずかで、大半が会話で成り立っています。嘘か真実か腹を探り合いながらの激しい頭脳戦が見どころになっています。会話の進行はマトリョーシカを開けるようであり、嘘を開けて中を見ると中にもまた嘘があります。チェスとして例えるよりむしろ、ブラフ全開のポーカーでしょう。しかも大胆なイカサマポーカーで、カードが配られる前から仕掛けが始まっているのです。そしてゲームは話者の意図が明らかになるにつれ、さらに緊張感を増していきます。会話だけでこれほどの緊張感を保てるのは凄いものがあり、幾多のスパイものの中にあって決して避けては通れない作品であることは確かです。雨後の筍生え出した凡百のスパイ小説とは異なって、独特の位置を確立したことは確かで価値の高い作品であることは誰もが認めることでしょう。しかし、absinthはこの作品を好きなのかと聞かれると答えるのは難しいです。やはり作品のトーンが重苦しく、わくわくしながら再読できる作品ではないからです。
衝撃のどんでん返しはありますが、これは良くあるように読者をビックリさせようと意図するものではありません。何も信じることは許されない、スパイには確かなものは何もないのだと思い知らせるために用意されています。それにしてもなんというニヒリズムでしょう。任務のためには名誉も外聞も捨てわざわざ恥をさらし、冷徹に貫いてきた作戦の成否が、主人公にわずかばかりに残された最後の人間性によって暗転するのですから。
社会主義は、その崇高な目的のためには個人の犠牲が必要なのだと教えています。そういう恐ろしい教義を民衆に強制する悪の社会主義を倒すためにこそ、正義の民主国家のスパイ組織があるのであって、そしてその崇高な目的のためにはやはり個人の犠牲が必要なのだ……というどうしようもない矛盾。犠牲をやめさせるためには犠牲が必要なのだという矛盾。それが本書のテーマです。こういうテーマを選んだら、ルンルン気分で楽しく読める作品にはなりえないでしょう。
absintheは荒唐無稽と言われても、もう少し華のある作品が好きです。

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)
No.12:
(7pt)

死者のメッセージの感想

刑事コロンボについて
http://osudame.com/novel/N3745

刑事コロンボのシリーズはどれも好きなのですが、その中で本作は「さらば提督」と並んで、absintheが一番好きなお話です。
コロンボが劇中で、いきなり講演をさせられてしまう場面があります。コロンボが刑事としてその人間観について演説するのですが、そのシーンがすごく印象に残ります。
「私は人間が大好きなんですよ。それが凶悪な犯人であったとしても、必ずどこか尊敬できるところがあるんですよ……」
小説やドラマというのは、こういうところが読みどころなのかと感心したものです。淀川長治さんが語った、どんな駄目な映画にも必ず一つ以上勉強になるところがあるんですよを思い出しました。
思い出補正などが明らかにかかっていて、個人的には★10なのですが、良質ミステリーは今では星の数ほどあり、オススメとしてはここで止めておきます。

刑事コロンボ 死者のメッセージ (二見文庫―ザ・ミステリコレクション)
No.11: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

SAS/セーシェル沖暗礁地帯の感想

SAS プリンスマルコのシリーズです。
シリーズの解説はこちらを参考に・・・
http://osudame.com/novel/N22646

創元文庫の扉から引用すると・・・
-------------------------
>>イスラエルが買い入れた「ヒロシマ」型原爆30個分の酸化ウラニウムを積んだ貨物船がインド洋で沈んだ。積み荷を追う各国の特務機関。CIAの特命を受けマルコはセーシェル諸島に。
-------------------------
言いたいことはわかるのですが、創元文庫は方針を誤っています。プリンスマルコシリーズを手にとってレジに向かう人は、上記のようなことを知りたいのではないです。
どういう女が登場するのか。そこがもっと重要です。要チェックポイントは以下を参考にしてください。

★イリヤ・イナリ フィンランド女 ルポライター
 アーモンド形の目をしており、錆色のアイシャドウをつけていた。彼女は見るからに、その道の経験は深いようだった。顔には皺が全くなく18歳くらいにも見えた。胸はかたく張りつめ、たるんではいなかった。二本の長い焼けた足の肌理のこまかい肌の下では筋肉の動きが良く見て取れた。仕草にも自信が満ちている。ただの性的魅力という以上のものが、彼女からは伝わってくるのだ。彼女の腰つきを見ていると、どんなお堅い人物でもいい加減おかしな気分にさせられるに違いない。

★ロンダ オーストラリア女 チャーター船の船員
 薔薇色がかったランニングから、こぼれ落ちそうな胸は、尻同様、この世のものとは思えなかった。縮れた赤毛が、角ばった顔を枠どっており、その顔は少々長すぎて、おまけに大きな近眼の眼鏡を掛けているときた。残念だ。こんな女神みたいな体の上に、こんな顔がのっているとは。

カーアクションあり、お色気あり、それから海中を探検するシーンもあって飽きません。
それからちょっとグロい拷問シーンもあります。


▼以下、ネタバレ感想
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SAS/セーシェル沖暗礁地帯 (創元推理文庫 197-1 プリンス・マルコ・シリーズ)
No.10: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

追撃の森の感想

Jディーバーは初めて読んだのですが、やはり多作の人気作家だけあって人物の描写はうまいです。
ぼんやり読んでいてもどのセリフが誰の言葉かすぐ分かるくらい上手にかき分けています。だから読むのに苦痛は無く、スラスラすすんでいきます。
ストーリーは大まかに言って、2人の女が森の中を逃げ回って2人の凶悪犯人が追いかけるというもので、全体の7~8割が題名どおりの森の中の追撃です。
逃げる方も追う方も相手を目くらましするためにトリックを掛けて欺きます。この知恵比べも面白いのですが、さらに面白いのは人物の描写です。
逃げる二人も追う二人もそれぞれが異なるタイプの凸凹コンビで、追跡劇だけでなくコンビの中の対立も起こって、単調になりそうな話を2転3転させて全く飽きさせません。
どの人物も魅力たっぷり、読者は逃げる方も追う方も知らず知らずに応援していることでしょう。おしまいにはドンデン返しもあるのですが、それより面白いのは連続して起こる小さなどんでん返しの方です。劇場で見せるような大掛かりなマジックではなくて、器用な手品師がテーブルで見せる鮮やかな連続技みたいな逸品です。

逃げる主人公ブリンは、頭が良く強い女なのに生き方が不器用で、私生活はへたくそと言っていいでしょう。もどかしくて応援したくなってしまいます。
追いかける極悪人ハートのセリフも大好きです。測るのは2回。切るのは1回。
完璧主義者が一人いると、話が引き締まりますね。


ところで、人物がせっかくリアルで魅力的だったのに、ストーリーが強引に人物を引っ張りまわしたため、全体でリアリティが壊れてしまっています。
どんでん返しの後には、それなら解るというところも出てくる半面、逆に余計に不自然なところもちらほらと。


▼以下、ネタバレ感想
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追撃の森 (文春文庫)
ジェフリー・ディーヴァー追撃の森 についてのレビュー
No.9:
(7pt)

クトゥルフの呼び声

これをラヴクラフト代表作に挙げる人も多いと思われます。
他の小説よりもスケールが大きく、また本当にラヴクラフトらしい作品でもあります。



▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
No.8: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ループの感想

面白い。
びっくりしました。「リング」「らせん」という2作品の続編なのですが、前2作とまったくことなる作風なのに深い関係があるという。この手があったかとうならざるえません。作風は完全に前2作と異なっています。
これまでが、ホラー風、ミステリー風、と続いてきたのに本作はSFでした。
(★それでもSFとしては破たんしています。登場するコンピュータが能力強すぎです。しかし、それはこの作品の魅力と無関係です。)
しかもテンポもアイデアもよくて、冒険ものに移行しつつ最後には意外な展開もみせてくれます。
前2作は恐怖から逃れることが目的であったのに対して、本作では主人公の進行方向に自らの目標が見えるのが良いです。
それでいて、最後にまた意外な展開まであります。
ケレン味たっぷり、アイデアたっぷり、いいんじゃないでしょうか。
リングやらせんは好きになれなかったけれど、ループを読んだことが無いという人で、SFが好きな人は、騙されたと思って読んでみては?
本小説は、面白い遊園地を与えてくれて、詳細は遊んでたしかめてね、と言われて遊びまくって十分に満喫してきた気分になれました。

---------
他のレビューを見てやはりと思ったのですが・・・・
どうも「リング」や「らせん」の世界観が好きな人は、どうも本作を低評価にするようです。まぁしょうがないとは思います。続きとして読みたい方は避けた方がいいでしょうね。
良くも悪くも、前二作の世界観は完全に壊され、しかも無かったことにされています。


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ループ (角川ホラー文庫)
鈴木光司ループ についてのレビュー
No.7:
(7pt)

THE ROSWELL 封印された異星人の遺言 タイラー・ロックの冒険3の感想

タイラーロックシリーズと、シグマフォースシリーズはどちらも大好きで、いつも発売日に入手しています。
今回も純粋に面白かったです。また、後半ホロっとさせられもしました。
タイラーロックシリーズは、なんとなくシグマフォースシリーズの2番煎じのように脳内整理されていましたが、なかなかどうして面白くなってきました。
少なくとも全3作の中では一番です。
著者は技術オタクのようで、最先端のテクノロジーに造詣が深いようです。毎回、新しい技術(しかもだいたいが実在のテクノロジー)がてんこ盛りで飽きさせません。

クライマックスはとてもよかった。こういう小説にありがちで、クライマックスで二手に分かれて、カットバックでそれぞれのアクションがあるけれどどちらの見せ場も良かった。
期待以上でした。満足です。こういう作家が、日本にも現れるといいのだけれども。



▼以下、ネタバレ感想
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THE ROSWELL 封印された異星人の遺言 下 タイラー・ロックの冒険3 (竹書房文庫)
No.6:
(7pt)

特殊防諜班 連続誘拐の感想

いまならジェームズロリンズや、クライブカッスラーが書きそうな娯楽作品を、こんな時代に日本で書いていた人がいたとは。しかも、現代の感覚で読んでも面白い。
娯楽作品として、現実離れはしていても、荒唐無稽に振り切る寸前でうまく止めており、そのバランス感覚が面白いです。
著者が空手の高段位者ということもあって、格闘シーンもかっこいいです。

少し時代を感じさせるなぁと思うのは一点、携帯電話さえあれば済むところで登場人物がいつも電話ボックスに駆け込むところ。それもまたおもしろいですが。

特殊防諜班 連続誘拐 (講談社文庫)
今野敏特殊防諜班 連続誘拐 についてのレビュー
No.5:
(7pt)

聖ウラジーミルの十字架の感想

歴史ミステリー+アクションの王道というと、インディ―ジョーンズのような冒険家が主人公になりがちですが、本書ではそれが、くたびれた元反体制活動家で、今はただの飲んだくれという設定です。それが、失われたロシアの十字架をめぐって陰謀に巻き込まれていくとなると、冒険家となって宝物をめぐって敵と戦い・・・という風に単純に行きそうなのですが、そういうわけでもないのです。
単純なトレジャーハンター物を期待して購入しましたが、良い意味で裏切られました。

著者が書こうとした意図が半ばで解ると、ずいぶんと奇妙に見えたそれぞれ人物の設定は、どれも深く設計された完成度の高い作品だったことが分かります。
登場人物の設定は、それぞれ「ある国のある集団」のわかりやすい隠喩となっており、物語は国際情勢とその歴史を人間の生い立ちで隠喩しながら進行します。
シリアスな設定の「ヘタリア」みたいなものです。話を面白くようとして設定を少しでも変更すると全部が壊れてしまうといえるほど、ガラス細工のような精密さで書かれています。
しかもアクションや手に汗握る緊迫のシーンもそれなりに用意され、サービス満点です。

ウクライナとロシアの関係を知っているともっと面白いと思いますが、知らなくても楽しむには問題ありません。

ニュースを通してみるウクライナとロシアは、力で圧倒する貪欲な強者ロシアと圧倒されるウクライナという図式が強調されてしまいます。
本書の中では、昔堅気で民族の誇りを取り戻そうとするウクライナ人の夫と、未練を捨て切れず復縁したいロシア人妻になぞらえており、民族の感情としては領土拡大欲などという一言では説明のつかぬご当地の事情がよくわかります。


聖ウラジーミルの十字架 (新潮文庫)
No.4: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

シャングリラ病原体の感想

パニック×ミステリー×歴史 というジャンルに目のない私としては、外せない作品です。シグマフォースシリーズの愛読者なら外してはいけない逸品だと信じて読みましたが・・・
人類史や考古学の重箱の隅マニアには面白くもないストーリーですが、新たな視点を提供してくれました。
ここでは、政治的駆け引きに主眼が置かれています。登場人物の行動を束縛するのは、すべてが当事者各国の国益です。「シグマフォースシリーズ」を期待していましたが、どちらかというと、「レッドオクトーバーを追え」(潜水艦アクションと思わせて、実は政治問題を扱った秀逸な長編大作)の政治的駆け引きを増大させた作品です。

期待とは違っていましたが、失望は無く、大いに勉強させられました。

シャングリラ病原体〈上〉 (新潮文庫)
No.3: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

邪馬台国はどこですか?の感想

ただただ呆れて、そして面白い。
小説は人を楽しませなくてはならないです。
考えさせたり、反省させたり、そういうための小説というのは本来は邪道ですよね。
そんな開き直りが聞こえてきそうです。

でもまぁ、嫌う人もいるかもしれませんね。

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)
鯨統一郎邪馬台国はどこですか? についてのレビュー
No.2: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

笑わない数学者の感想

森博嗣さんの小説で最初に読みました。森さんの小説では一番好きです。
全てがFになるでデビューしたそうですが、書いたのはこちらが先のようです。
だから荒削りなところがあるのでしょうか、でもそういったところまで込みで好きな作品です。この小説を記憶に残し、特徴づける何か独特の雰囲気があります。
登場人物に数学者がいて、それがいい雰囲気だしています。

本作の途中で、数学の問題が出てきます。殺人の方と違って難しいです。とっかかりはつかめたのですが、最後までたどり着く前に力尽きました・・・

殺人のトリックの方は単純で簡単で、困ったことに殺人が起こる前にトリックに気付いてしまいました・・・・
そのこと自体は、本作の価値を下げる気がしませんが。
本作は、最後まで明かされない一つの重大な謎が残ってしまいます。
それは読んでのお楽しみ・・・

笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)
森博嗣笑わない数学者 についてのレビュー
No.1:
(7pt)

早く続きが読みたい

全滅領域の続編です。
前作で実体が分からなかった監視機構と呼ばれる団体を内部から描写します。(題名通り)
新しい登場人物<コントロール>が話を引っ張りはじめます。そよ風の吹く何気ない風景がこんなにも恐ろしいのか、こういう視点のホラーもありなのかと勉強させられました。

登場人物は、ちょっと謎を抱えすぎ。
次作でどこまで謎を解き明かしてくれるんでしょう?
この作者のスタイルだと、結局最後まで謎を明かす気はないのじゃないかな。

パズルの断片の用に、短いシーンを張り合わせて途中まで見せかけた絵と異なる絵を完成させていく、そんな感じです。



▼以下、ネタバレ感想
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監視機構 (サザーン・リーチ2)
ジェフ・ヴァンダミア監視機構 についてのレビュー