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absinthe さんのレビュー一覧
absintheさんのページへレビュー数3件
全3件 1~3 1/1ページ
※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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14世紀の修道院が舞台の歴史ミステリーです。説明するまでもない有名作品で、古いですが映画化もされていますね。
体裁は少々複雑で、主人公はバスカヴィルのウィリアムと見習修道士メルクのアドソの二人なのですが、ラテン語で書かれたアドソの手記を「私」が現代に訳したものという形で書かれています。修道院で連続殺人事件が起こり、二人が解決していくというミステリー作品です。 歴史ものが嫌いな人には苦痛もあるかもしれません。当時の宗教論争や修道会や教会の名前がこれでもかと出てきます。しかしながら、テーマの求心力がとても強いので細部を読み飛ばしてもついていけなくなることはまずありません。amazonのレビューを見ると、バチカンと教会の関係、当時の歴史的勢力図など頭に入って無いと読めないかのように解説する人もいますが、それほどではありません。ちなみにabsintheはそういった解説に書かれていた内容は全然知りませんでした。 そういう意味で、知識をひけらかしたいという動機見え見えな、うんちくを列挙してばかりで内容の無い凡百の小説とはずいぶん異なっています。 登場人物が多くて覚えるのも大変ですが、読みにくい感じはせず最後まで一気に読めました。「罪と罰」や「星を継ぐもの」と並んでミステリーでは私の生涯ベストに入ります。 著者のウンベルト・エーコは記号論の大家で哲学者です。哲学の中で重大なテーマに、テキストとは何かという論争があります。ウンベルトエーコの生涯の研究テーマだったようで、本書でもその問いかけが随所に見られています。 この哲学上の問題を知っているとより楽しく読めるのです。テーマは哲学ネタや神学論争ばかりでもなく、知識の迷宮と化した現代の大学の在り方や学問の在り方への批判なども見られ、読めば読むほどその奥深さに驚かされます。教会の様子が現代社会の暗喩にもなっているのです。 ここまで読むと、教養の押し売り小説のようにも見えてしまうのですが、押し付けがましくはありません。ページをめくるたびに、厚みのある教養と知識が読者に襲いかかってきますが、若手の教師にありそうな「ここに板書した範囲は来週までに暗記して来い!」みたいなのりはなく、優しい老教授が「覚えられるだけ覚えてきなさい。あまり無理せんでな。」といってくれるような印象です。師弟の師にあたるウィリアムの設定が、人間として丸くなっているからだと思います。彼は若いころは熱血漢だったのに理想に燃えすぎることや偏狭さがどれだけ恐ろしいかを知って、考えを改めてきた者として書かれています。異端審問の恐ろしさを語る彼のセリフにそれが現れています。 absintheが何度か再読した少ない小説のひとつです。私の脳力では残念ながら魅力をうまく紹介しきれません。私に読み切れなかった奥深いテーマがまだまだたくさん眠っていそうです。absintheは偶然に、本書を読む少し前に筒井康隆の「文学部唯野教授」を読んでいたので記号論のテーマにピンときました。記号論やテクストとは何か?というテーマをご存じない方は、「文学部唯野教授」を先に読んでおくことをお勧めします。こちらも楽に読めて勉強になる作品です。他に「ウンベルトエーコの読みと深読み」「ウンベルトエーコの文体練習」など読んでおくとさらに楽しさ倍増と思います。 また、同著者ウンベルトエーコの「フーコーの振り子」もまた楽しい作品で、こちらも記号論といいますか、言及と解釈の問題を扱っています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ミステリー好きで、絶対外せない一冊を上げろと言われたら、本書だと思います。倒叙ものの王道です。
読み終わった直後の感想は、感性のメーターを振り切っているので、どひゃー、というぐらいです。 本当に、どひゃー、となった後、数日して整理すると初めて細部が見えてくる。そんなすごい作品です。どうして、ミステリーのランキングに上がらないのか不思議です。 これを超えるミステリーなんて、世界には片手で数えるしかないんじゃないでしょうか・・・・ 読んだのは今から20年も前なのに、いまだにいろいろ覚えています。 刑事がだんだん外堀を埋めて近づいてくる、そのときの主人公の心理描写がものすごいです。 わずか数日のお話にこのド厚い書籍になるのですから当然なのですが、情景の描写が緻密すぎるほど緻密です。 途中、ある酔っ払い(マルメラードフさん)の、人間とはどんなものか酔っ払いながら語り続けるところが秀逸で、何度も読み返したくなるところがあります。 出始めは飲んだくれである一部の特別な人間を説明したものと思わせながら、全ての人間の怠惰を完全に代弁しているところが好きです。そのあたりの読ませ方はすごいと思います。 最後まで、気を抜けるところがありません。 私は慣れてしまったのですが、難を一つ上げますとロシア人の名前は長くてなかなか覚えにくいことです。 また、知らないとロシア人の習慣に戸惑うこともあるかもしれません。 同じ家族名が男性と女性で、マルメラードフ、マルメラードワ、と変わったり、愛称形といって「ソーニャ」→「ソーネチカ」(日本でいえば、「愛子」→「愛ちゃん」)のように、同じ人物が断りなしに違った名前でよばれることがあります。 (このあたりは、訳者によっては解説してくれるかもしれませんが) ---------------------------------------------------- 注意があります。訳者によっても書籍の評価は変わるのかもしれません。私が(20年ほど前に)読んだのは、江川卓さんの訳ですが、訳者によっても印象が変わってしまうようです。 購入は、他のレビュアーの意見も参考にしてみてください。 |
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書かれてからずいぶん経ってしまった小説なので、最先端の人類学や天文学からは取り残されぎみですが、こういったすぐれた作品というのは、なぜかそういった細かい点は全く気にさせないのですよね。読んだのがすでに今から20年くらい前だったので、科学知識はさらに本書から先に進んでいることでしょう。
完全に文系を突き放した理系小説。 (でも、文系の人にも面白いかも。) 本書に対して人物の造形が甘いとかドラマが無いとか、的外れな批判も目にするのですが、そんなの作者の眼中にないと思います。 本書には、それらはむしろ褒め言葉・・・ ハードSFは、トンデモになってしまうのを避けようとしてブレーキがかかってしまい、荒唐無稽な結論を避けてしまいがちなのですが、本書ではそういったブレーキがかかりません。 壮大で、人類の歴史を覆す驚愕の事実が出てきます。この驚きは今でも忘れることができず、20年間最高の位置に君臨しています。 これを超える喜びは、読書ではもう得られないかもしれないとまで、思います。 学問には、二つの楽しみがあると思います。 考古学で、ある遺物が1万年前のものであると知ったとき、化学である法則が成り立つという事実を知ったとき、ある方程式が成り立つと知ったとき、 (1)その事実に素直に驚く。 (2)そんな事実、どうやって突き止めたんだろうとさらに驚く。突き止めるまでに、どんなドラマがあったのだろう。 本書は(2)の面白さを前面に押し出していると思います。明かされる驚愕の事実も面白いのですが、古生物学、化学、数学、物理学、天文学、人類学を横断して、学者たちがそれを暴いていく過程はもっと面白いのです。 |
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