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absinthe さんのレビュー一覧

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レビュー数8

全8件 1~8 1/1ページ

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No.8: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

銃・病原菌・鉄の感想

面白い本でした。多方面から絶賛されている、言わずと知れた名著です。あまり説明すべきことも無いかとは思うのですが、まずは解説まで。
人類が現在に至るまで、どのように発展を遂げてきたか、現在に至るまでに進歩したかに見える文明と進歩が遅れて見える文明があるが、その差は何なのでしょう。
進歩していないかに見える文明は、人種的な優劣が差をつけたのでしょうか、それともそうではないのでしょうか。
こういった謎を農耕文明への移行期から近現代まで順を追って解説しています。謎を解き明かす過程が特に面白くて、歴史というのはそれ自体がミステリーに満ちていると感心させられた本です。歴史というのは、何々大王が隣国を攻めて滅ぼした、誰それが内政崩壊を引き起こした、何処そこで同盟が成立した、など、勢力の対抗ばかりが強調されがちですが、本書では歴史とはそればかりではないと教えてくれました。

本書に最適な読者は、理系の本は好きだけれども今まであまり歴史に関心が無く、歴史とは事実と年表の暗記にすぎないと思い込んでいたような者でしょう。absintheもそういった一人でした。実は考古学や歴史学は理系のセンスが重要な総合科学なんだと気づかされるその瞬間に、本書の醍醐味があります。まるで、かつて星を継ぐもので感動したような・・・・
・ユーラシア大陸に自生していた特別な稲の話題
・家畜化に適した動物とそうでない動物の違い
・ユーラシア大陸人がすでに克服していた病原体
・大陸の形状
こういった一見無関係な材料が次第により合わさって文明に大きな影響を与えていく過程が丁寧に解説されます。以下のような批判はあるようですが、批判を知ったうえでも面白かったです。他の歴史本を読みなおしてみるきっかけにもなりました。

--注意--
本書には問題も少なくないようです。多くの称賛を浴びながらまた多くの批判にもさらされています。特に歴史を専門とする学者からは冷笑されており、absintheとしては批判を読むたびに複雑な気持ちになります。歴史学者の書物を読むと「鳥類学者ダイアモンド氏は・・・」「生物学者ダイアモンド氏は・・・」と歴史学者で無いことをいつも強調されてしまいます。批判の多くを反芻すると、以下のように読めます。
・まだ判断が到底下せないような問題を断定して解説している
・対象を単純化しすぎている
歴史を専門としない学者が解りやすい歴史をまとめてしまって、専門家としてはやっかみもあるのだろうと思ったのですが、そう単純でも無いようです。
残念ながらabsintheには、歴史に対する素養がなさ過ぎて本書に対する批判のどれとどれが妥当なのかもよくわからないので、単純に推薦して良いものかとの迷いもありますが。

--さらに--
absinthe は新書だけ読了し、まだ文庫版は読んではいないのですが日本に関する記述が増補されているようです。その部分がさらに問題を助長しているという批判がありました。
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
ジャレド・ダイアモンド銃・病原菌・鉄 についてのレビュー
No.7: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

黒い家の感想

怖いです。本当に怖い。読ませ方も秀逸です。
主観ではこれほど恐ろしいことが続くのに、客観的にはあまりにも断片的な証拠しかないので第三者に救いを求めることすらできない。その間に恐怖の方は確実に忍び寄ってくるのです。その恐怖はそこいらの日常にさりげなく溶け込んでしまう様な、あまりに自然で、ありふれていて、それでいて真っ黒ななにか。
今まで確かで確実だと思った地面が実は底なし沼で、少しずつ少しずつ知らないうちに潜っていて、気付いたらもう腰まで漬かっていた。そんな感じのストーリーです。
ホラー好きなら堪らない一冊になるでしょう。まさに情景が迫ってくるような描写力です。

最後まで目が離せません。久々に凄いのを見ました。

本作を読む前は誤解していて、ラヴクラフトのように架空のモンスターやおばけが出るのかと思ってました。でももっと怖いものが出ました。本当の人間です。
うれしい期待はずれでした。



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映像化されているのは知りませんでした。
見る勇気は無いけど。
★本書未読で映像情報も知らない人は、何も情報を集めないでさっさと読んだ方がいいです。
(勘のいい人は映像作品のキャスト一覧を見ただけで、ネタに気付いてしまうかもしれません。)

▼以下、ネタバレ感想
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黒い家 (角川ホラー文庫)
貴志祐介黒い家 についてのレビュー
No.6:
(9pt)

チャールズ・ウォードの奇怪な事件

ラヴクラフト全作品の中でも屈指です。
ここに出てくるギミックは、どれもここに書けません。先入観持たずに読んでくださいです。
アイデアがてんこ盛りで最後まで一気にに読めます。


▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
No.5:
(9pt)

ダニッチの怪

ラヴクラフトの小説でも屈指です。
訳によって、ダニッチの怪とかダンウィッチの怪と呼ばれます。
超常能力を持った薄気味悪い子供に、恐ろしい出生の秘密があって・・・・
そして、大学教授たちがその陰謀を阻止しようと力を合わせて立ち向かっていくというお話です。




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ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)
No.4:
(9pt)

宇宙からの色

読んだのはもうずいぶん昔で、細部は忘れてしまいましたが。
ある長閑な丘陵地帯に隕石が落ちまして、有名な大学教授にもそれがなんだかわかりません。
隕石が落ちた周辺は奇怪なことが起こります。だんだん植物の色が失われて灰色に染まり始め、しかも動物もなんだか奇形になって・・・何があったのでしょう?
というお話です。謎が謎のままのところも含めて、とても面白いです。

最近、Jヴァンダミアの「全滅領域」を読んだのですが、真っ先に本作品を連想しました。

ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
No.3:
(9pt)

狂気の山脈にて

ラヴクラフトの全話の中でも屈指です。
南極大陸に向かった探検隊は、謎の生物の痕跡を地層に見つけるのですが、どうもそれは生物学の常識を覆すものなのです。
こういう展開ではお約束ですが、そうこうしているうちに、別れた分隊との連絡がつかなくなってしまいます。
さてそのモンスターともいえる生物の痕跡と行方不明は関連があるのでしょうかそれとも・・・

ラヴクラフトは自然科学に造詣が深かったのか、地層に含まれる生物の痕跡を調べていくあたりの描写はとても面白いかったです。


ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
No.2: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

鷲は舞い降りたの感想

チャーチル暗殺を命じられたドイツ軍特殊工作部隊のお話です。でも、設定だけ見て凡百の戦争冒険アクションと混同してはいけません。

シュタイナー中佐(主人公は)ユダヤ人少女を助けたばかりに上官と対立し、反逆者の罪を追わされます。この過程からして格好よく、上官に投げつけるセリフもきっちり心に残っています。長いものに巻かれることができず、人間としての誇りにこだわる硬骨漢なのです。
これだけ読むと単細胞の熱血漢を連想するかもしれませんが、彼の行動は万全の準備をしたチェスプレーヤーの如く、常に冷静です。
冷静沈着にして豪胆。古き良き騎士道精神を残した冷徹な熱血漢という感じです。
懲罰として自殺に等しい作戦を命じられた主人公は、限られた時間で絶望的な状況を克服しなければなりません。主人公に絶対の信頼を寄せ、彼のためなら命を捨てることも厭わない忠実な部下たちが献身的にサポートします。その関係もまた感動的です。これだけ壮大な設定を与えられながら、アクションはむしろ控えめでケレン味はなく質実剛健な仕上がりです。

とにかく主人公と周辺の登場人物がみなカッコイイのです。
読んでから20年も経つのに人物の印象が鮮明です。
限られた時間の中で、登場人物たちはみなぎりぎりの選択をします。彼らが見せる各瞬間の選択がどれもこれも背景を連想させて、人物にとてつもない厚みを与えています。

結末は悲しいです。でも本書に他の結末はありえなかったでしょう。

映画にもなりましたが、映画の方はイマイチでした。

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戦争アクションで、殺した敵兵の服をちょいと拝借して・・というくだりを軽く扱いすぎている小説も散見されますが、重大な陸戦条約違反です。
本書は、その重大さがきちんと描かれていますが、そういった細部の扱いが甘い小説は、本書の後に読むと全部物足りなくなってしまいます。


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鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)
ジャック・ヒギンズ鷲は舞い降りた についてのレビュー
No.1:
(9pt)

解読! アルキメデス写本の感想

ノンフィクションなので、ミステリーに推薦するのは筋違いかもしれませんが。
書店では、歴史に分類されそうにも思いますが、どちらかというと理系向きの本かもしれません。
解読されるアルキメデスの書物は数学の本ですし、テクノロジーの話題も多いです。文系の人にも絶対に面白いだろうと思います。

写本の多くは写字生が練習がわりに過去の名著を書きうつすことで行われたようです。ある修道僧?が、おそらくギリシャ語の練習がわりにと書き写したと思われる練習帳の一つが見つかったのだそうです。当時、羊皮紙というのは大変に高価なものであったがために、消しては新しく上書きされていくのが普通らしいのですが、なんと別の内容が書かれていたはずの羊皮紙をよく見ると、以前に書きうつされて消されてしまったアルキメデスの写本の跡が浮かび上がっていたらしいのです。
たちまち過去の練習帳に高価な値がつき、最先端のテクノロジーが導入されて解読が始まります。この導入部だけでも、すでに凡百のミステリーを凌駕しています。
解読には、最新機器のほか担当者たちのたゆまぬ努力が積み上げられていきます。暴かれていく書物の内容も面白ければ、解析に用いられるテクノロジーも面白いです。
そして、輪をかけて面白いのはこの写本が生き残ってきた数奇な運命です。ナチスの手によって焼かれそうになるものの、それをどうやって切り抜けてきたのか、そういった歴史の偶然の面白さまで味わえます。まさに一冊で数冊分の読み応えです。
星の数が9なのは、本書がノンフィクションであって、みなさんの期待するミステリーではないからですが、私の主観では10の価値があります。

導入ばかりおもしろそうで内容空虚なミステリーを、何冊も読まされてがっかりしてきた方にぜひ。
偽物では味わえない本物のミステリーをぜひどうぞ。

解読! アルキメデス写本